全日本選手権19 男子シングルプレビュー

 前回女子シングルのプレビューをしましたので、今回は男子シングルになります。

グランプリシリーズに出場した6人と、ジュニアグランプリファイナルに出場したジュニアの2人、合わせて8人を中心にみていきます。

今シーズン、国際試合はジュニアグランプリシリーズにチャレンジャーシリーズ、さらにグランプリシリーズがあってファイナル、という流れ出来ました。上記8選手はほとんどが3試合、羽生選手のみ4試合出場しています。ジャパンオープンはフリーのみなので除きます。

チャレンジャーシリーズとグランプリシリーズ、ファイナルまで含めて、延べ281選手が滑った記録から、平均と分散を取り、それを元に、各選手の偏差値を計算させました。総合スコアの他に、ジャンプの基礎点、ジャンプの加点、スピン(基礎点+加点)、ステップ(基礎点+加点 コレオ含む)、PCSの六項目で偏差値を求め、レーダーチャートで表示させます。

なお、ジュニアの二人は、プログラムにコレオシークエンスがないので、そこは補正を加えています。ショートフリーのステップのGOEの平均に0.5を掛けた値(コレオはGOE1あたり0.5の加点)をステップのGOEに、コレオシークエンスの基礎点分の3点をステップの基礎点に加えた上で、偏差値計算しています。ただし、合計点は補正していません。

また、ジュニアの二人は、自分が母集団に含まれていない、チャレンジャーシリーズやグランプリシリーズの試合の平均や分散を元に偏差値計算するのは本当はおかしいのですが、全体の比較のために、そういった形の計算にしています。

 

宇野昌磨

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
CS Finlandia Trophy 1 255.23 92.28 162.95
GP Internationaux de France 8 215.84 79.05 136.79
GP Rostelecom Cup 4 252.24 87.29 164.95

 

宇野昌磨スケート偏差値

 

昨年優勝で4連覇目を目指す宇野昌磨選手ですが、今シーズンは不調です。フランス杯はひどい出来でした。とはいえ、後の二戦は250点には乗っています。255.23というシーズンベストは、日本人選手の中では羽生選手に次いで2番目。結局、不調でもその位置にはいるわけです。

レーダーチャートは本質的にはバランス型なようなのですけど、フランス杯のジャンプのGOEはひどいですね・・・。そこに目を瞑れば基本的にはバランス型。本来、あんまり穴はないんじゃないかと思われます。

どこまで本調子に戻っているんでしょうか、というあたりがきっとポイント。

今シーズンまで四回転サルコウは一度も決まっていないし、四回転のフリップも成功率が低かったりするのですが、どこまでの構成で試合に出てくるでしょう。

 

田中刑事

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
CS US International 1 249.96 88.76 161.20
GP Skate Canada 3 250.02 80.11 169.91
GP Cup of China 5 233.62 74.64 158.98

 

田中刑事スケート偏差値

昨シーズン2位の高橋大輔選手は、今シーズン国際試合の出場無し、どころか国内の試合も出ておらず、データが何もありませんので飛ばします。

田中選手は三年連続で表彰台に乗っていて昨シーズンは3位。今シーズンのベストは250.02と250点に乗せています。ちょっと気になるのは、ショートプログラムのスコアが下降気味なこと。今シーズンはジュニアがかなり強いので、70点台前半だと最終グループに入れない可能性もあります。グランプリ2戦ではショートで四回転が不発で三回転になっているのですが、全日本ではしっかり入れられるかどうか。

レーダーチャートは、なんでしょうこれ、試合によってバラバラです。USインターナショナルではジャンプの基礎点が高かったもののGOEは得られず、一方でステップは伸びました。スケートカナダはジャンプは基礎点はいらないけれど加点は伸びてPCSもよかった。中国杯は全体的に悪い・・・。全部そろえばかなりの高得点が期待できるのだけど・・・、というのが今シーズンの出来なようです。

田中選手の四回転は基本的にサルコウが入っていたのですが、今シーズンは積極的にトーループも入れて、二種類入れてショートフリー合計で4本飛びたい、という構成に見えます。ただ、まだ四回転トーループが今シーズン加点までついたものがありません。サルコウはそこそこ決まってくるのですけれど。ショートフリーで四本の四回転が入れば、世界でも上位で勝負できるのですけれど、今回世界選手権の出場圏内に確実に入るには、サルコウのみで2本ないしは3本にしておいた方が確率高いように見えるのですけれど、さて、どんな構成でくるでしょう

 

 ●友野一希

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
CS Lombardia Trophy 7 203.08 61.69 141.39
GP Skate America 5 229.72 75.01 154.71
GP Rostelecom Cup 8 237.54 80.98 156.56

 

友野一希スケート偏差値

昨年四位の友野選手は初の表彰台を目指す、という立ち位置です。

今シーズンはシーズンベストが237.54 あまり伸びていませんが、ショートもフリーも試合ごとにスコアを伸ばしてきています。

レーダーチャートは左よりですかね。ロステレコム杯ではジャンプのGOEもそこそこ出て偏差値50代後半くらいにはなっていましたが、それでもPCSやステップの方が偏差値的には高く出ます。最近はステップレベル4を並べることが出来て、GOEも結構つくので、ロステレコム杯ではポイントにして14.93 偏差値67.67という高評価を得ました。これより上は今シーズン、羽生結弦、ネイサンチェン、ケビンエイモズ、ジェイソンブラウン、といった世界的にも評価の定まった4人の選手のみ。羽生選手のファイナルのスコアよりも高く、日本人選手では2番目の位置です。

今シーズンはショートで四回転二本、フリーも二本、という構成を組んでいますが、まだ不発です。冒頭の四回転トーループがしっかり決まらない。元々飛んでいたサルコウも確率的には半々程度なこともあり、そこで点が取れないのでトータルスコアもまだ伸びてきていない、という構図があります。国際試合3試合、ショートフリー合計6回のステップがすべてレベル4なのは、日本人選手では友野選手のみ。ただ、スピンでレベル4をあまり取れないのでジャンプ以外のベースが高い、と言えないのがちょっと痛いのですが、四回転四本入れば表彰台のチャンスは十分ありそうです。

 

 ●島田高志郎

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
CS Nebelhorn Trophy 2 214.98 74.32 140.66
GP Skate America 10 216.22 72.12 144.10
GP NHK Trophy 9 213.65 75.98 137.67

 

島田高志郎スケート偏差値

昨年はジュニア枠ながら5位に入った島田高志郎選手。今シーズンは苦しんでいてベストスコアは216.22です。グランプリ2戦、ランキングポイントが取れなかったの痛かったです。トータルスコアが210点台だと、グランプリシリーズとチャレンジャーシリーズも併せての全体の平均点付近となってしまいます。

レーダーチャートは、何とも言い難いですがしいて言えば下に伸びている感じでしょうか。

スケートアメリカのスピンは偏差値60に乗っていて、今シーズンこれより高いスコアがあるのは日本人選手だと羽生選手、宇野選手に鍵山選手の三人までです。スピンで点を取るあたりはランビエール門下生な感じは出ています

今シーズン、何が厳しいって四回転がまだ決まっていないこと。ショートフリーで四回転トーループ1本づつなのですが、着氷したのも1回だけ。その1回もGOEマイナスなので、しっかりした四回転がまだ飛べていません。四回転が決まれば、四大陸枠争いくらいには入ってこられるんじゃないかと思うのですが、一本も決まらないとちょっと厳しい、という現実があります。

 

 

 ●鍵山優真

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
JGP JGP Courchevel 1 234.87 80.61 154.26
JGP JGP Baltic Cup 2 245.35 84.72 160.63
JGPF JGP Final 4 227.09 71.19 155.90

鍵山優真スケート偏差値

昨年6位の鍵山優真選手は今シーズンもジュニアです。シーズンベストは245.35 昨シーズンならジュニアのシーズンのというか歴代の最高得点に当たるスコアですが、今シーズンだとそのスコアを出してもその試合で優勝もできない、というハイレベルなジュニア勢です。ファイナルも惜しかった。

レーダーチャートは下に伸びた形になっています。ジュニアなのでPCSはまだ伸びない。ジュニアなのでショートに四回転は入らず、フリーに二本だけの構成なのでジャンプの基礎点も低くはないですがそれほど伸びず偏差値50台後半にとどまっています。一方で、出来栄えが問われるステップスピン、さらに出来栄えそのもののジャンプGOEは高評価。レーダーチャートの面積が小さいように見えますが、これ、軸の一番上偏差値80ですからね。そうなると全体が下に縮まらざるを得ない。ジュニアグランプリの2戦目でジャンプのGOEが偏差値にして73.6なんてところまで行ってしまったため、軸が伸びてしまいました。

ベストスコアは245.35点ですが、全日本はシニアルールでフリーにコレオシークエンスが入ることで単純計算で250点ほどにまではなります。さらに、ショートで四回転が飛べますので、その分も加味すると250点台後半までは今のままで出せる計算になります。

全日本ジュニアで優勝している鍵山選手は、実は全日本選手権で懸かっているものが特にない、という立場です。全日本ジュニア優勝者は世界ジュニアの出場権がもらえますので。失うものが本当に何もないので攻めた構成で挑むことができます。表彰台に乗る可能性も十分にありそうです。

年齢的には四大陸出られないこともないのですけど、1月半ばにユースオリンピックもすでに入っているので、シニアのミニマムスコアを取りに行く時間的余裕もなさそうですし、そのコースはなしかな。

 

 ●山本草

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
CS US International 2 240.11 82.88 157.23
CS Finlandia Trophy 2 223.24 92.81 130.43
GP NHK Trophy 6 226.27 74.88 151.39

山本草太スケート偏差値

昨年は9位だった山本草太選手。

今シーズンはチャレンジャーシリーズ2戦にグランプリシリーズ1戦、とこなしてきています。グランプリシリーズのエントリーがNHK杯以外のところなら、NHK杯が地元枠で回ってきての2試合になったのではないかと思ったりもするのですが、結局1試合。チャレンジャーシリーズを昨年同様2試合回って、ランキングポイントを得よう、としている感じも見えるので、来年は2試合入るといいのですけれど。

シーズンベストスコアは240.11  昨シーズン後半に250点台を出してますので、それと比べるとまだ低めなスコアです。フィンランディア杯でショート92.81を出しているので、フリーもそろえば250点に乗せられるところだったのですけれど、この試合だけフリーは130点台と当たらず。ショート92.81は今シーズンの日本人選手では羽生選手に次いで2番目ですので、全日本ではフリー最終グループ後半、何なら最終滑走、という目もあるかもしれません。

レーダーチャートは、一定しませんがバランス型に近いのでしょうか。滑りに定評のある選手なのですが、意外と左サイドが伸びてません。ステップは基本レベル3で、レベル4が取れないこともありあまり伸びていません。PCSも意外と出ていない。スピンもレベル4が集まっているわけでもない。ということで滑りの印象ほど点が出ない傾向があるようです。

今シーズン、ジャンプは、ショートで4回転2本、フリーで3本の5本構成を組もうとしているように見えます。5本まで入ると、それより多いのは羽生選手宇野選手だけ、となる構成。実際に決まったのは3試合とも3本にとどまっています。3本入れば十分高得点になるはずなのですが、決まらなかった2本が2回転になってしまいがちなので、2回転が2本となると基礎点の減り方が極端なんですよね。その辺を、回転不足だけど降りている、というくらいにまで持ってこられると表彰台も見えてくるくらいのところにいます。

 

 ●佐藤駿

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
JGP JGP LakePlacid 1 217.12 79.19 137.93
JGP JGP Croatia 3 219.69 78.41 141.28
JGPF JGP Final 1 255.11 77.25 177.86

佐藤駿スケート偏差値

昨シーズン12位だった佐藤駿選手、今年はジュニアグランプリファイナル優勝の肩書を持って全日本に挑みます。

シーズンベストスコアは255.11 これは羽生選手宇野選手に次ぐ3番目のスコアです。フリー177.86に至っては羽生選手に次ぐ2番目。ファイナルのスコアはそれほどまでのスコアでした。

レーダーチャートは完全な左寄り。ジュニアグランプリシリーズは四回転が不発でスコアが今一つ伸びませんでしたが、ファイナルは四回転のルッツまで入れての3本構成を完璧に決めてハイスコアを出しました。ジャンプのGOE偏差値は驚愕の76.13 これを上回るのは、もう、ネイサンチェン選手と羽生結弦選手しかいません。

フリーはこの構成のまま行くとして、ショートプログラムはどうするでしょう。四回転禁止なジュニア構成と比べると、四回転二本を足すことができるのですが、それをやるかどうか。しかもルッツ入りで。そこまでやると、理論的には275点くらいまでは伸ばせるんですけれど、ちょっと難易度高すぎますかね。でも見てみたい。

 

 ●羽生結弦

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
CS Autumn Classic 1 279.05 98.38 180.67
GP Skate Canada 1 322.59 109.60 212.99
GP NHK Trophy 1 305.05 109.34 195.71
GPF Grand Prix Final 2 291.43 97.43 194.00

 

羽生結弦スケート偏差値

羽生選手の全日本選手権出場は4年ぶりです。インフルエンザ、ケガ、ケガ、でしたかね。全日本で最後に負けたのは2011年。あとは勝つかお休みかです。

シーズンベストスコア322.59は別格。ショートもフリーも日本人選手の中ではとびぬけたトップです。

レーダーチャートも偏差値軸が90まであります。ジャンプのGOEを稼ぎすぎているので右寄りになってますが、PCSなんかは上限が決まっているからこうなっているのであって、ジャンプ偏重と呼ぶのはちょっとナンセンスな感じになります。

スケートカナダではトータルスコアが偏差値80.54 ジャンプGOE偏差値87.44 3シグマの上をいく、というもはや異常値扱いなスコアです。

そんな羽生選手でも、オータムクラシックはショートフリーで回転不足4つありGOEがあまり得られない、なんてことはありました。

どういうモチベーションでこの大会に臨むのでしょうか羽生選手は・・・。

 

 

日本人男子シングルスケート偏差値

最後に、各選手の合計点が一番いいスコアの時のレーダーチャートを重ねてみました。

羽生選手の緑は全項目で一番外に出ています。かすっているのは、友野選手のステップくらいですかね。ジャンプGOEはジュニアの二人がだいぶ外側に来ています。

 


 

全日本選手権19 女子シングルプレビュー

 

全日本選手権の季節が今年もやってきました。

今回は、女子シングルのプレビューです。

 

グランプリシリーズに出場した8選手を中心にみていきます。今シーズン、国際試合はチャレンジャーシリーズからグランプリファイナルまで、ほとんどの選手は3戦、紀平選手のみ4戦、白岩選手は2戦しています。ジャパンオープンはフリーしかありませんでしたので除きます。

チャレンジャーシリーズとグランプリシリーズ、ファイナルまで含めて、延べ281選手が滑った記録から、平均と分散を取り、それを元に、各選手の偏差値を計算させました。総合スコアの他に、ジャンプの基礎点、ジャンプの加点、スピン(基礎点+加点)、ステップ(基礎点+加点 コレオ含む)、PCSの六項目で偏差値を求め、レーダーチャートで表示させます。

 

 ●坂本花織

Grade Event Pl Total SP FS
CS Nepela Memorial 2 194.42 59.97 134.45
GP Skate America 4 202.47 73.25 129.22
GP Internationaux de France 4 199.24 64.08 135.16

 

坂本花織スケート偏差値


昨年優勝で連覇を目指す坂本選手は、今シーズン3戦して、まだ200点台は1試合だけ。ファイナルまで進んだ昨シーズンと比べるとやや不調、というシーズン前半でした。

ショートの最高点はスケートアメリカの73.25 これは悪くないのですが、フリーは一番良くてもフランス杯の135.16にとどまっていて、まだ140点台がありません。

得点は三試合でいい時と悪い時で8点ほどしか変わらないのですが、中身はだいぶ変わっているようです。ジャンプの基礎点が一番高かったのはフランス杯なのですが、加点が全然取れず、という形。一方、基礎点低かったスケートアメリカは加点をしっかりとれました。加点が取れなかった試合は転倒の大幅減点が痛く、加点が取れている試合は転倒はないけれど3回転予定のジャンプが2回転になるのが目立った、というものです。

そこがしっかり合わされば、すぐに210点くらいにまでは届くのですが、全日本では果たしてどうでしょうか。

チャートの形としては左側偏重で、ステップPCSで点を取る形です。左側は比較的表現面で評価される選手が伸びる要素。ジュニア時代のイメージとは一新していますが、本意ではおそらくないのでしょう。ジャンプの基礎点が偏差値60を超えない、というのは意外な姿です。

また、スピンの偏差値は50台前半。まだ今シーズンはスピンのレベル4がショートフリーで6つそろった試合がありません。昨年のような競った試合になると、こういうところの1点2点が効いてくるということもあるかもしれません

一方、力を入れているというのをよく聞くステップは高評価。グランプリ2試合では60台後半の偏差値になっています。レベル4をしっかり並べていました。

昨シーズンは、世界選手権222.83、国別対抗戦では223.65と220点台前半までのスコアは出すことが出来ていますので、本調子に戻っていれば連覇のチャンスもあると思われるのですが、果たしてどうなるでしょう?

 

 ●紀平梨花

Grade Event Pl Total SP FS
CS Autumn Classic 1 224.16 78.18 145.98
GP Skate Canada 2 230.33 81.35 148.98
GP NHK Trophy 2 231.84 79.89 151.95
GPF Grand Prix Final 4 216.47 70.71 145.76

 

紀平梨花スケート偏差値

紀平選手は唯一国際試合を4戦こなしています。グランプリ2戦は230点台に乗せ、一番悪い時でも216.47 このスコアは、他の選手の一番いいスコアを上回っているものであり、今大会の優勝候補最右翼であることは間違いないと言えそうです。

チャートはバランス型なのですが、ファイナルはいろいろありまして、ジャンプの加点が全然得られなかった、という構図がありました。NHK杯ではジャンプ加点の偏差値が75.20で振り切れているんですけどね。

紀平選手の中で見ると、スピンは60台前半の偏差値になっていてやや弱い部分ではあります。ただ、それでも、日本勢の中ではトップ。順当にいけば国内ではだれも太刀打ちできない、という水準に今シーズンはなってきました。

紀平選手の勝敗のポイントは、勝ちにいくかどうか、というところになって来るのではないかと思います。勝ちに行くなら四回転は不要ですので、トリプルアクセル3本コースでいい。一方で、先を見据えて四回転投入、となった場合には、ファイナルの時のような流れになる可能性もありそうです。ファイナルでは四回転は転倒したけれどあとはよくまとめた、ということになっていますが、実際には、紀平選手ない比較で見ても、四回転以外の部分の加点は小さめでした。細かいところでやはり四回転の影響はあったようですので、そこにさらに焦りのようなものも加わって、もうひと崩れすると、全日本初優勝、というものが遠のく可能性もあるかもしれません。個人的には、そのリスクはあっても表彰台から落ちるリスクはほぼないと思うので、四回転は先を見据えて入れておいた方がいい、と思いますが、初優勝というタイトルを優先する考え方もあるとは思います。

 

宮原知子

Grade Event Pl Total SP FS
CS US International 1 204.30 74.16 130.14
GP Cup of China 2 211.18 68.91 142.27
GP Rostelecom Cup 4 192.42 63.09 129.33

 

宮原知子スケート偏差値


昨年三位の宮原選手は二年ぶり5回目の優勝を目指します。

今シーズン、悪いながらも200点は二度超えていますが、ロステレコム杯で国際試合連続200点試合が15試合で途切れることになりました。

シーズンベストは211.18 ショートフリーの一番いいスコアを合わせれば216.43となり、ファイナルの紀平選手のスコアに匹敵します。

レーダーチャートは完全な左寄りスタイル。表現面で評価される選手の傾向です。ステップは日本人選手中のトップ評価というだけでなく、USインターナショナルの偏差値71.91は今シーズンの全選手中最高です。

その辺はさすがなのですが、昨シーズン盤石だったスピンが今シーズン今一つ点が取れていません。昨シーズンは国際試合前後試合、30回あったスピン要素すべてでレベル4だったのですが、今シーズンはすでに二つ、レベル3がありました。特に、世界最高とも評される、昨シーズンは全選手全要素中ただ一人のGOE満点を出したレイバックスピンで、ロステレコム杯ショートプログラムではレベル3と取りこぼし。あまりない姿なので心配です。

また、やはりジャンプが泣き所になってしまっています。中国杯ではショートで二つフリーで三つ、合計五つの回転不足。ロステレコム杯ではショートで2回転になるのが一つに、フリーは5つの回転不足。逆に言うと、それだけ回転不足があるのに中国杯では210点台の表彰台、というのはすごいこととも言え、回転不足の修正さえできれば220点台半ばまでは届く、という計算もあります。ジャンプの矯正がどこまで進んでいるかがカギ、なのでしょうか。

一方、回転不足が積み重なり、スピンのレベルの取りこぼしなんかがあると、190点台にまで落ち込む、というのがロステレコム杯で出てしまっていますので、この水準まで下がってくると、表彰台から落ちる危険性もあります。

 

樋口新葉

Grade Event Pl Total SP FS
CS Lombardia Trophy 8 164.37 52.33 112.04
GP Skate America 6 181.32 71.76 109.56
GP Internationaux de France 6 174.12 64.78 109.34

 

樋口新葉スケート偏差値

昨シーズン4位の三原舞依選手は欠場ですので、次は昨シーズン5位の樋口新葉選手。

シーズンベストスコアが181.32と伸びていません。このスコアはグランプリ組8人の中で6番目です。フリーのシーズンベストが112.04 なかなかうまくいっていません

レーダーチャートはやや左よりでしょうか。ジュニアから上がってきた段階ではジャンプが得意、という選手だったのですが、今はジャンプがうまくいかず苦しんでいるようです。

スコア的に唯一良かったのはスケートアメリカショートプログラム。71.76が出せれば、全日本でもフリーで勝負、というくらいにはなるスコアですし、この71.76の時もスピンでレベル2が一つ、レベル3が一つ、と取りこぼしがあるので、パーフェクトに滑った時の到達点はまださらに上、というのがありえます。

全日本でトリプルアクセル投入、というのはシーズン序盤の流れを見ているとなさそうですが、実際どうなんでしょう、最近の調整具合は。トリプルアクセルの練習が他のバランスを崩してしまっている側面もあるようなのですけれど。昨シーズン、結果的に5位でしたが、シーズン序盤の不調具合と比べると、かなりいい点数を出していました。全日本には割と合わせてくる選手だと思いますので、しっかり合わせてくれば表彰台チャンスはあるし、四大陸枠を争う有力選手であることは間違いないですので、一発当てる姿を見たいなあ、と思います。

 

●山下真瑚

Grade Event Pl Total SP FS
CS Nepela Memorial 6 163.54 55.99 107.55
GP Skate America 12 142.40 46.21 96.19
GP NHK Trophy 5 189.25 65.70 123.55

 

山下真瑚スケート偏差値

 

昨シーズン6位の山下真瑚選手。今シーズン序盤はどうなることかと思いましたが、NHK杯では元気な姿を見せてくれました。シーズンベストスコアは189.25 グランプリ組8人の中では5番目です。ショートフリー共に、グランプリ2戦目のNHK杯がシーズンベスト。この流れで全日本に入ってくれば上位に絡むチャンスもあるんでしょうか。

レーダーチャートは右寄り。ジャンプ型です。NHK杯のジャンプ基礎点の偏差値58.62は今シーズンの坂本花織選手、宮原知子選手のジャンプ基礎点偏差値を上回ります。一方、スピンステップは、いい試合でも偏差値が50を少し超えたくらいのところにいます。

スピンステップがこの水準で、ジャンプがしっかり決まったNHK杯、というのはいまの山下選手のほぼベストな出来かと思いますので、さらに上で勝負、というのは今シーズンは少し難しいのかもしれません。

190点台のスコアだと表彰台は上がだいぶ落ちてこないと少し厳しいでしょうか。ただ、四大陸枠争いの4番手は十分狙える水準かと思います。

 

 ●横井ゆは菜

Grade Event Pl Total SP FS
CS Finlandia Trophy 3 191.90 65.09 126.81
GP Rostelecom Cup 6 182.68 56.51 126.17
GP NHK Trophy 4 189.54 62.67 126.87

 

横井ゆは菜スケート偏差値

昨年はショート6位で最終グループに入り、フリーも6位、総合7位に入った横井選手。今シーズンのベストスコア191.90は、今回の全日本出場選手中4番手です。一番悪くても182.64と180点台にまとめています。まあ、ちょっと、国内の試合では点数的にこの辺よりだいぶ落ちるものもあるのですけれど・・・。

ジュニア時代は海外での試合は弱く、国内なら点が出る、という選手だったのですが、今シーズンは海外でも目だって悪いというところはないです。ただ、ショートで失敗してフリーで頑張る、というのがグランプリ2戦で続きましたが、これは昨シーズンのジュニア時代と同じ構図なようには見えます。

レーダーチャート的にはバランス型に近いでしょうか。全大会の全要素区分において、偏差値50を下回るものがありません。大きな欠点弱点はない、ということを示しています。

ジュニア時代から表現力に定評がある、という扱いの選手でしたが、今のところPCSは、ジュニア上がり1年目ですね、という扱いなこともあるのかあまり伸びていません。また、ステップで高いか点を得るようなこともなく、偏差値的に一番高くなっているのは、フィンランディア杯でのジャンプのGOE。これだけが唯一偏差値65を超えています。

今シーズン、大崩れがないのは、ジャンプの回転不足が少ない、というのが一つ理由として挙げられそうです。3試合で回転不足扱いになったのは、フィンランディア杯ショートプログラム冒頭の三回転-三回転の二つ目、のみです。他は、3回転したいのに2回転にしてしまった、というのが実は結構ありますが、そういう、抜けはあっても、回転不足は少ない。

一方で、スピンステップ含め、全体的に上位と比べると加点が小さい、というのが現状あります。GOEで+5を付けたジャッジは、3大会で19×3の全57要素中、ダブルアクセルで3回あっただけでした。+4もあまり付きません。そのあたりの一つ一つの要素の出来、という部分で上位3強とは差がある、というのが今シーズン3大会の結果から見えることです。

シーズンベストは4番目ですし、国内大会では200点を出していますので、国内大会である全日本選手権では、表彰台のチャンスもありますが、今の力関係からすると、四番手の四大陸枠を争う最上位、というところにいる、というように見えます。

 

 ●白岩優奈

Grade Event Pl Total SP FS
GP Internationaux de France 9 161.71 63.12 98.59
GP Rostelecom Cup 10 170.03 60.57 109.46

 

白岩優奈スケート偏差値

 

白岩選手は昨シーズン9位。全日本はジュニアデビュー年の5位が最高です。

今シーズンの国際試合出場はまだ二試合。体調が優れないようで、出来はまだ暇一つという感じです。体力的な問題にもなるのでしょうか、ショートは基礎力があるので多少崩れても60点台に踏みとどまるのですが、フリーで100点前後に終わってしまって総合点が伸びない、という二試合でした。

レーダーチャートは左より。表現面で定評のある選手の形状ですが、実際には、シニアである程度評価されたことがあってPCSはある程度の水準まで高まった選手が、ジャンプのミスが出るとこうなる、というチャート形状でもあります。

ジュニア時代はポンポンジャンプを決めてくる選手、という印象で、フリーでは最初の要素3つでコンビネーション二つを含めて、五種類のジャンプすべて決めてくる、という、とにかく跳びまくる選手だったのですが、最近ちょっと元気がないでかすね。

まずは体調の回復が最優先でしょうか。力のある選手なはずなので、万全な状態で挑めれば一発チャンスはあると思うのですけれど

 

 ●本田真凛

Grade Event Pl Total SP FS
CS Nebelhorn Trophy 5 174.01 58.08 115.93
GP Skate Canada 6 179.26 59.20 120.06
GP Cup of China 7 168.09 61.73 106.36

 

本田真凛スケート偏差値

本田真凛選手は昨年は15位でした。全日本最高位はジュニア二年目のシーズンの4位があります。

今シーズンは三試合でベストスコアは179.26と180点にまだ届いていません。

ショートは少しづつ点を伸ばして中国杯では61.73と60点台まで乗せました。フリーは、交通事故に見舞われたスケートカナダが実は一番高い120.06を出しています。スケートカナダのフリーは構成を落としているはずですので、今の状態だと、構成を落として角度を上げた方が点が出る、というように見えます。スケートカナダはジャンプのGOEは偏差値60を超えてきていました。

レーダーチャートは完全な左寄り。構成落としたスケートカナダより、ケガの影響はほとんど消えていた中国杯の方が、回転不足が目立ったことでジャンプは点が出ませんでしたが、スピンステップPCSは高いスコアが出ています。

その二つの両立、すなわち、構成落として完成度で勝負、ケガの影響は消えてるし、戦略で臨めば190点あたりまで出す力は十分にある計算になるのですが、その点数だと表彰台は争えない。未来を目指すなら挑戦プログラムで、となって、完成度で不安がある。さあ、どうする? というのが今の立場なのでしょうか。

本田家はどうもルッツが苦手で、兄の太一選手も、フリーで単独フリップにしていたり、妹の望結選手もまだほとんどトリプルルッツは飛べません。という中で真凛選手も、実は今シーズンルッツが飛べていないのですが、そこまで入れてノーミスすれば、基礎PCSが170点台の選手としては極めて高いので、上位で戦える可能性があります。

 

 

女子シングルスケート偏差値

 

最後に、各選手の合計点が一番いいスコアの時のレーダーチャートを重ねてみました。

紀平選手の水色が目立って外側にあるのがわかります。左側では宮原選手の黄色、坂本選手の赤も割と目立っているでしょうか。

 

 

日本人選手女子シングルのSPとFS

各選手の今シーズンの国際試合のショートとフリーを記します。ひし形はチャレンジャーシリーズ、丸はグランプリシリーズ、星はグランプリファイナルです。

 

日本女子シングルの技術点演技構成点

これは、技術点と演技構成点のプロット差

ショートフリーよりも、こちらで見た方が各選手のばらつきは小さめです。ショートがいい時フリーがいい時、というのは時によって分かれても、技術点と演技構成点の取り方は結局同じ人が滑るなら割と似てくる、ということなのでしょうか。

 

紀平選手が一人抜けていて、坂本選手宮原選手まで含めた三強もやはり抜けていて、四番手以下混戦、というのがグランプリシリーズまでの戦績から見える状況ですが、実際滑ってどうなるでしょうか?

 

以上、全日本フィギュア19の女子シングルプレビューでした

 

グランプリファイナル19 男子シングル

グランプリファイナル、今年の男子シングルはネイサンチェン選手の圧勝でした。

前回の女子シングルに続いて、今回は男子シングル、ファイナルの結果を振り返ります。

 

Pl

Name

Nation

Total

SP TSS

FS TSS

1

Nathan CHEN

USA

335.30

110.38

224.92

2

Yuzuru HANYU

JPN

291.43

97.43

194.00

3

Kevin AYMOZ

FRA

275.63

96.71

178.92

4

Alexander SAMARIN

RUS

248.83

81.32

167.51

5

Boyang JIN

CHN

241.44

80.67

160.77

6

Dmitri ALIEV

RUS

220.04

88.78

131.26

 

全体のスコアはこんな感じ。ネイサンチェン選手と羽生選手の差の方が、羽生選手とケビンエイモズ選手の差よりも大きくなっています。印象ではそういう感じではなかったんですけどね。採点としての点差はそうなっています。

 

以下、ファイナル出場6選手の、グランプリシリーズ2戦の結果を交えながら見ていきます。

散布図が並びますが、○はグランプリシリーズ2戦の結果で、◇がファイナルの結果です。各選手、色で分けられています。

 

 ●ショート/フリー スコア

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まずは、ショートプログラムとフリーの点の入り方

ネイサンチェン選手はグランプリ2戦と比べて、ショートフリー共にはるかに高い点数を出しました。一方、羽生選手は、ショートフリー共にグランプリ2戦と比べて点数は下がってしまっています。今回の点差は大きかったですが、グランプリシリーズで高得点を出したスケートカナダのスコアは322.59 ファイナルのネイサンチェン選手との差は12.71ほどになります。それでも4回転ジャンプ1本分差があると見るか、たったそれだけの差になると見るか。

抜けてる二人の下の三位表彰台争いも激戦かな、と思っていましたが、ケビンエイモズ選手だけが、ショートフリー共にシリーズ2戦より高いスコアを出して表彰台に乗りました。他の三人はグランプリシリーズの方がスコアが高い、という結果です。やはりファイナルで結果を出すには、シリーズ2戦よりも高いスコアが必要になってきます。

 

 ●技術点/演技構成点

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次はショートフリー合わせての技術点と演技構成点

ネイサンチェン選手のTESが飛びぬけています。羽生選手はPCSはそれほど遜色ありません。2.06というわずかな差なのですが、TESで41.81という大差がついています。

三位に入ったケビンエイモズ選手はPCS寄りな選手のイメージですが、結果的にTESもPCSも全体三番手でした。四回転を並べる選手たちが今一つな中、ジャンプもしっかり決めたため、4位以下と総合点で大差がついていますし、4位以下の選手たちのグランプリシリーズのスコアを総合はもちろん技術点でも超えることができました。今シーズン、これより上のスコアは、ネイサンチェン選手と羽生選手の二人しかいません。この出来なら、世界選手権の表彰台争いもできるのですが、ファイナルで3位になった選手は、意外とそのシーズンの世界選手権、あるいはオリンピックで結果が出ない、という傾向もあったりします。

 

 

 ●ジャンプ-減点/演技構成点+スピン+ステップ

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これは、ジャンプで得た得点から減点分を引いたものを横軸に取り、演技構成点にスピンとステップの得点までを足したものを縦軸に取ったものです。

羽生選手とネイサンチェン選手は、ジャンプだけで40.74の差がついた、という結果になりました。一方で、羽生選手とエイモズ選手は、ジャンプの点差が7.15と意外に僅差です。

羽生選手のフリーの構成はとてつもないもので、やはり体力的には厳しかったようで、最後のジャンプ3つが予定通りいきませんでした。3連続の三つ目のトリプルフリップは回転不足。コンビネーションの二つ目のトーループが2回転に。そして最後のトリプルアクセルシークエンスがシングルアクセル単独に。この三つで基礎点だけで18点近く下がったいますし、加点も得られなかったので、パーフェクトにできた時と比べて25点ほど低かった計算になります。

それでも3位の選手よりはっきり上のスコアになるのをすごいと見るか、フリー完璧でも総合ではネイサンチェン選手に全然届かなかったのねと見るか。成功したジャンプのGOEもネイサンチェン選手の方が上に行っていたので、今の段階では出来栄えでも羽生選手の方が負けている、という現状はあります。

 

 ●ジャンプ 基礎点と加点

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続いて、ジャンプ要素。横軸は加点の獲得度合いであり、縦軸は基礎点です。

基礎点も加点もネイサンチェン選手が当たり前に一番高いです。羽生選手は基礎点で見るとボーヤンジン選手とあまり変わりません。ボーヤンジン選手は、ジャンプがうまくいかずにGOEはトータルでマイナスですが、回転不足はショートの1本だけで、あとは周りきっての転倒、というようなものが多かったため、基礎点は高く残りました。

表彰台に乗ったエイモズ選手は、ショートフリーで4回転合計3本。本数は一番少なく、そのうちの一本も回転不足があったので、基礎点はそれほど高いわけではないのですが加点はかなり得ていました。グランプリ2戦は、ジャンプは危なっかしくてGOEはプラスマイナス0付近になっていたところから、今回は加点を12.64と大きく得ていました。

 

 ●スピンの基礎点と加点

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スピンもわずかながらネイサンチェン選手が基礎点加点ともにトップです。羽生選手がどちらも二番目で、エイモズ選手が加点で3番目。5選手がすべてレベル4を並べる、というハイレベルな中で、アリエフ選手はスピンがしっかり決められませんでした。元々スピンではあまり点が取れない選手でしたが、今回はいつにもましてうまくいかず、という形になっています。

 

 ●ステップの基礎点と加点

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ステップはレベル4をそろえたのがエイモズ選手だけ。加点も高めで合計もエイモズ選手がトップでした。加点だけ見ればネイサンチェン選手がトップ。羽生選手はどの要素を取ってもネイサンチェン選手に勝てなかった、ということになります。

 

 

今回は、ネイサンチェン選手の強さがとにかく目立つ試合でしたが、三位に入ったケビンエイモズ選手の、各要素での出来栄えの高さ、というのも、要素別のいろいろなものを見ていくと浮かび上がってくるものではありました。

羽生選手は、結局、すべての要素でネイサンチェン選手に負けてしまっていたという現実は確かにあったのですが、シーズン中盤の通過点として考えれば、フリーのあの構成があれくらいできた、というのは一つの収穫だったのだろうと思います。再戦は世界選手権なのか、あるいは、二人して四大陸選手権に出てくる、という構図があるか。ないかな。羽生選手は今回は出るんじゃないかという気がしたりもしますが、ネイサンチェン選手が出てきそうな気は・・・、しないですかね。

 

以上、グランプリファイナルの振り返りでした。

 

 

グランプリファイナル19 女子シングル

グランプリファイナル、今年の女子シングルはエテリ三人衆表彰台そろい踏みという、絵にかいたような展開で幕を閉じました。今回は、そのグランプリファイナル、女子シングルを振り返ります。

 

 

Pl Name Nation Total SP TSS FS TSS
1 Alena KOSTORNAIA RUS 247.59 85.45 162.14
2 Anna SHCHERBAKOVA RUS 240.92 78.27 162.65
3 Alexandra TRUSOVA RUS 233.18 71.45 161.73
4 Rika KIHIRA JPN 216.47 70.71 145.76
5 Bradie TENNELL USA 212.18 72.20 139.98
6 Alina ZAGITOVA RUS 205.23 79.60 125.63

順位、得点はこうなっています。この結果をいろいろと分解し、以下に各種散布図で表したものを用意しました。6選手のグランプリシリーズ2戦と、ファイナル、合わせて三試合分のスコアが反映されています。

各選手のグランプリシリーズ2戦は○、グランプリファイナルの成績を◇で表しています。

 

 ●ショートプログラム/フリー スコア

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まずは、ショートプログラムとフリーの点の入り方

優勝したコストルナヤ選手、2位に入ったシェルバコワ選手は、ショートフリー共にグランプリシリーズよりも高い点を出しました。一方、3位のトゥルソワ選手はショートで点が伸びず、4位の紀平選手はショートもフリーもグランプリシリーズ2戦より点を落としてしまっています。

ザギトワ選手は、2本そろわないなあ、という感じですね。グランプリシリーズではフリーで150点を超すスコアを出す試合もありましたので、ファイナルもショートの高得点にそのフリーがセットでついてくれば表彰台まではあったのですが、結果はああいうことになりました。

 

 ●技術点/演技構成点

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 ショートフリー合わせての技術点と演技構成点

やはり優勝したコストルナヤ選手、二位のシェルバコワ選手は、グランプリ2戦より技術点も演技構成点も向上させることが出来ています。

紀平選手、ザギトワ選手は、技術点も演技構成点もグランプリ2戦よりファイナルの方が悪かった、という構図です。それでもザギトワ選手は演技構成点は2番目の高さではありました。

コストルナヤ選手は技術点も演技構成点もトップです。トゥルソワ選手は技術点が3番手で演技構成点が6番目、ということで優勝争いには絡めませんでした。

 

 ●ジャンプ+減点/PCS+スピンステップ

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これは、ジャンプで得た得点から減点分を引いたものを横軸に取り、演技構成点にスピンとステップの得点までを足したものを縦軸に取ったものです。

トゥルソワ選手は、グランプリシリーズの一番いい試合よりは、ジャンプで取る点を減らしましたが、それでも全体トップは保ちました。コストルナヤ選手が二番目

シェルバコワ選手が演技構成点、スピン、ステップといった、ジャンプ以外で得た得点がザギトワ選手と匹敵するところまで来ていますし、紀平選手を凌駕しました。高難度ジャンプを飛べたことが上位二人の勝因であり、四回転が入らなかったことが紀平選手の敗因、みたいなことになっていますが、実態として、ジャンプ以外の要素だけの合計を見ても、紀平選手は今回、コストルナヤ選手だけでなく、シェルバコワ選手にも負けていたという現実があります。

 

 ●ジャンプと加点

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続いて、ジャンプ要素。横軸は加点の獲得度合いであり、縦軸は基礎点です。

加点を一番得ていたのは圧倒的にコストルナヤ選手でした。基礎点では紀平選手とほぼ変わらないのですが、GOEで20点以上の差がついています。紀平選手は、ルッツなしを四回転サルコウで基礎点としてはコストルナヤ選手との差は補えたのですが、全体的に質が良くなく、GOEは最下位でした。四回転サルコウに転倒したから、というだけの理由でもなく、ほかのジャンプもグランプリシリーズ2戦と比べて出来栄えが悪かったです。基礎点でシェルバコワ選手、トゥルソワ選手に劣っても、加点は上に行く、というのが勝つための最低条件であり、シリーズ2戦では、その面ではしっかり点が出ていたのですが、今回はそこで差がついてしまいました

ザギトワ選手は、回転不足が目立ったこともあり、基礎点がテネル選手よりも下となって最下位になっています。ジャンプの基礎点段階でシェルバコワ選手、トゥルソワ選手と比べて30点低い、ということになるのはやはり苦しいです

 

●スピンと加点

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スピンは今回、シェルバコワ選手が最高点でした。ザギトワ選手が2番手でコストルナヤ選手は3番手です。

紀平選手が実はスピンが伸びず全体最下位。今回はレベルの取り損ねもあり基礎点からシリーズ2戦より低くなっていますが、加点は、シリーズの2戦を見ても上位と差があります。シリーズの振り返りの時にも見ましたが、このレベルで戦うときには、スピンは紀平選手の弱点です。今回のファイナルでは、スピンで得た得点がシェルバコワ選手より3.1点低くなっていました。コストルナヤ選手と比べても1.50負けています。

 

 ●ステップと加点

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ここでいうステップにはコレオシークエンスを含めます。

ステップが今回シェルバコワ選手が最高点だったことが、実は一番の驚きだったりしました。シェルバコワ選手はシリーズ2戦で、この上位6名の中ではステップのスコアは最下位でした。レベル4を取るのもたまにしかない、という選手だったのですが、今回はショートフリー共にレベル4であり、かつ、加点も大きく得ていました。彼女が240点まで到達したのは、ここ数週間でのスピンとステップのレベルアップ、ということが非常に大きく効いていて、この直近だけ見るとジャンプよりもそちらの影響が大きいです。

コストルナヤ選手は今回ステップでレベルの取りこぼしがありました。ただ、それでも、加点だけ見れば全体最高点です。こういう取りこぼしがまだある、というところを見ると、まだ得点の加増は可能、という見方もできます。四回転無しでも250点までは可能と見てよさそうです。

紀平選手、テネル選手、ザギトワ選手もきっちりレベル4は揃えましたが、シリーズの一番いい出来にはそれぞれ及ばなかったようです。

トゥルソワ選手はレベル4がとれず、ステップの得点は他の5人からだいぶ離されました。トゥルソワ選手はスピン4位、ステップ6位でPCSも6位ですから、ジャンプへの依存度がやはり極めて高い選手といえます。

 

 

 

サビカ SEAGamesで表彰台に

インドネシアのスケート少女サビカ

フィギュアスケート後進国インドネシアから世界を目指しているけれど、世界ジュニアのミニマムスコアを取ることもできず、ジュニアグランプリシリーズに出場するのがやっと、というのがこれまでの現実でした

一応、インドネシアという国のトップではあるけれど、国際舞台では存在感はなく、したがって、国の中でも特に注目を浴びることもない、という存在でした。

 

東南アジアでは2年に1回、大変盛り上がる総合競技大会が行われます。東南アジア競技会:SEA Gamesです。世界的にはスポーツ全般にわたって、あまり競技力のある地域ではない東南アジアですが、だからこそ、東南アジアだけの競技会は非常に盛り上がるようです。

このSEA Gamesにインドネシアの代表として出場したサビカは、見事3位表彰台、銅メダルを獲得しました。

 

大会の性質から、グランプリシリーズなどと違い、スコアシートがなかなか出てこないので詳細は分からないのですが、ショート32.62 フリー68.18 総合100.80のスコアで3位に入っています。

優勝はシンガポールのクロエ選手。スコアは152.67

チャレンジャーシリーズあたりには出てくる選手で、以前は四大陸選手権にも出場していました。四大陸のミニマムスコアくらいまでは調子が良いと取れるけれど、世界選手権には届かない、という水準の選手です。日本なら全日本にまでは進んでくるかな、というくらいの位置。

東南アジアの水準というのはそれくらいといえばそれくらいではありますが、それでも、サビカは国際競技会で立派に表彰台に乗りました。国の代表としてしっかり結果を出した、ということになります。

 

 

表彰式の動画がありました。

何の変哲もない表彰式の映像です。そんなただの表彰式の映像が、アップして数日で、視聴回数15万回を超えています。フリーの通しの動画もあって、そちらは22万回を超える再生回数になっています。

サビカの今シーズンのジュニアグランプリシリーズの演技もyoutubeにはISUからアップされていますが、視聴回数はショートが3000回、フリーで2000回といったところです。SEA Gamesというのが、いかにこの地域の人たちにとって大きなイベントであるかがわかります。東南アジア地域に、フィギュアスケートのファン、というのがそこまでの規模でいる、とは考えにくいですからね。

サビカの演技はこの辺から。時折見切れてしまう、というあたりが撮影者のレベルもトップレベルと比べてだいぶあれな感じもします。彼女の演技はいつ見ても、ジャンプはまだまだなのですが、スピンになった瞬間に日本のジュニアのトップくらいのレベルにいきなり変わるんですよね。

演技冒頭がトリプルサルコウなのですが、回転は微妙に見えますが何とか降りました。次のダブルアクセルで転倒がありましたが、以降コンビネーションを三つすべて入れることもできて、パーソナルベスト相当のスコアとなりました。シニアルールで滑ったのは初めてなはずなので、ベストも何もないのですが、とにかく総合100点に初めて乗りました。

滑走順は最後から三人目で、得点が出てトップ。その時点で表彰台確定。得点発表の直後にはキスアンドクライで泣きじゃくっていました。4位は89.38なので、結果的に10点以上の差はあったのですが、今シーズンのジュニアグランプリシリーズでフリー59.88だった彼女にとっては、点が出るまで安心できるような差はありませんでした。

これまでは国際舞台で戦う、といっても最初から勝敗という面では圏外、というところにいた彼女ですから、このSEA Gamesというのはこれまでの人生で最高の舞台であり、最もプレッシャーがかかる場面であったはずです。そんな中で、ベストな演技が出来たことは、本当に素晴らしいと思います。

 

そんなビッグイベントで、彼女は国の代表として結果を出しました。

現地のウェブサイトでも大きく写真入りで、多数取り上げられています。

まだまだ世界のトップとは遠い遠い距離はありますが、国の代表としてメダルを取って帰ってきた、というのは彼女のスケーター人生の中で大きな成果であることは間違いありません。安藤美姫さん、おめでとうくらいつぶやいてほしいんですけど、特にコメントなくて、たぶん把握してませんね。

 

希望としては、これをきっかけに、ジャカルタでスポンサー的なものがついてくれたらと思います。彼女はインドネシアレベルで見れば、これまでの何の実績のない選手とは違う立場になりました。SEA Gamesのメダリスト、という実績を持つ選手です。そして、フィギュアスケートという競技は見栄えもします。高校生年代から世界で活躍できるからか、日本では塾のCMや広告で使われたりしていますね。現在なら紀平梨花選手、昔は村上佳菜子さんが、「こいつ、俺と同じ高校生なんだよな」とテレビ見ながら言われてるという絵柄の塾CMに出ていたでしょうか。インドネシアの進学塾のCM? そんなのあるかわかりませんけど、別に塾じゃなくていいんですけど、とにかく、金銭的な支援を得られるきっかけに、これがなってくれたらと思います。

SEA Gamesは地域大会なのでISUのベストスコアにはカウントされない大会なはずです。また、そもそもシニアルールでの試合ですので、ジュニアの大会のミニマムスコアにカウントはされません。ただ、トリプルサルコウを回転不足っぽいながらも降りるところまでは来ているので、あとは今回転倒したダブルアクセルも着氷して、ミスなく滑ることができれば、世界ジュニアのミニマムスコアが見えるところまで来ました。彼女の場合は今シーズンの国際大会への派遣がおそらくこれで終わりなので、世界ジュニアのチャンスはまた来シーズンになってしまうと思われますが、来シーズンこそ、届きそうなところまで来ました。

                                                

なお、同じチームのリズキーは男子シングルで出場しショート38.78 フリー76.70 トータル115.48の6位に終わりました。彼も初の100点突破となりました。ショートもフリーもベストスコア。フリーはシニアルールでコレオが加わる分点が伸びるのは当たり前にも見えますが、コレオ分除いて考えても従来のスコアをはるかに上回ります。

フリーの動画はこの辺から

三回転が3本とダブルアクセル2本飛んで転倒無し。三回転は見切れていてわかりにくい部分もありましたが、二つは回転不足かな。それでもTES33.38 PCS43.32 スピンで点が取れないので、世界ジュニアのミニマムスコア42.00がまだ遠い、という現実があります。

男子シングルの優勝は、グランプリシリーズにも出場していたマレーシアのジュリアンジージェーイー選手が202.62と、一人200点に乗せて圧勝でした。

 

 

以上、SEA Gamesのサビカとリズキーでした。

 

サビカ選手、おめでとうございます。

 

グランプリシリーズ19 男子シングル 全体感

今回は今シーズンのグランプリシリーズの全体感を眺めてみます。

女子シングルが終わりましたので、今度は男子シングルです

 

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まずは、技術点と演技構成点の取り方です。

右上の4点とそれ以外、に分けられるように見えます。統計的には右上の四点は異常値、と言いたくなるようなとびぬけ方してますが、羽生結弦選手とネイサンチェン選手の二人分です。

総合点数が低い選手は、PCSの方が点が出て、総合点数が高い選手はTESの方が点が出る、という傾向がありそうです。まあ、PCSの上限値は150点なので、150点超える技術点合計をたたき出す羽生選手、ネイサンチェン選手からしたら、PCSの方が高く出る余地はないわけですけれど

PCS寄りかTESよりかは、総合得点240点あたりの位置にあるでしょうか

 

女子シングルと違い、数か国の寡占、という状態にはなっておらず、上二人以外はOthersに含まれるようないくつかの国からも高めな点数を出してくる選手がいます。

 

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ショートとフリーの得点比較です。ショート×2=フリー、というラインに近いところに来る選手が比較的多いです。

ショートで90点を超えだすと、フリーがショートの2倍というのは厳しくなってくるようです。

ショートで点を出すのは、日米露の三カ国が多いでしょうか。ただ、カナダのキーガンメッシング選手が96点台、フランスのケビンエイモズ選手も91点台、といったあたりもあり、男子シングルの方が上位選手の所属国はばらけています。

ボリュームゾーンはショートで70点台、フリーは150点前後、といったところでしょうか。

 

 

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延べ70選手のスコアをヒストグラムで表したものがこれです。

240.00のように、ぴたりの数値は上(240~250)に分類されます。

210点台がピークで、その後右肩下がりになり260点台まではそれなりに人がいます。その上が20点分誰もいなくて、290点以上にぱらぱらと延べ4人分、という構図です。

女子シングルで、トゥルソワ選手が強い強い言われ、ほかにもロシアのジュニア上がり3人が強い、圧倒的に強い、と言われてますが、紀平選手との差はせいぜい10点です。その下も20数点差のところにはいます。それと比べて男子シングルは、320点台を出した羽生選手の下には、ネイサンチェン選手はいるものの、その下は60点の差がついています。格差という点では女子シングルより男子シングルの方がひどいです。

 

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ショートフリー合わせての技術点がどの程度のところに各選手いるのか、というものです

100~120点のところに半分以上の選手がいます。140点以上は延べ5人。140.53のぎりぎり140点台がロシアのサマリン選手で、その上は158点台二つのネイサンチェン選手と、160以上を二つ出した羽生結弦選手です。やはり二人が突出している、という構図。正規分布と異常値二人、という感じでしょうか。

こういうこと言うのもなんですが、トゥルソワ選手が141.16を持ってまして、それを超えている男子シングルの選手は、羽生結弦選手とネイサンチェン選手の二人しかいない、という現実があります。

 

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PCSは105点当たりから130点あたりまではまんべんなくばらけています。135点を超えていくのは、結局羽生結弦選手、ネイサンチェン選手の二人だったりしますけれど。130点台前半には、ジェイソンブラウン選手が二つと、宇野選手、ケビンエイモズ選手が一つづつあります。

 

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ジャンプの基礎点とGOEの関係を見たもの

女子は、基礎点とGOEには相関があり、基礎点高い方がGOEも伸びるという構図でしたが、男子はそうでもなく、異常値な二人を除くと、基礎点は高かろうが低かろうがGOEは取れる人もいれば取れない人もいる、といった感じです。日本人選手なんかは、羽生選手以外の点を見ると、基礎点高いとGOEが下がる、みたいな近似曲線が引けそうに見えます。

ジャンプで稼げる加点は10点超えるとすごい、というレベルなんですね。そんななか20点を超えるひともいまして・・・

GOEの最低は-21.37を出した、フランス杯での宇野選手です。なかなかここまでマイナス取るのも難しいのですけど、根性で回転は回り切ったうえで転ぶものが多いので、GOEとしての減点が大きい、という構図があるようです。

 

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スピンはレベル4をそろえる力がある人は加点も大きい、という絵柄が見えます。スピンの最高点の緑は、ネイサンチェン選手ではなくジェイソンブラウン選手です。加点が合計7点を超えたのは二つともジェイソンブラウン選手になります。加点は6点台ですが、基礎点19.9とトップに並んでいる二つは、カナダのサドフスキー選手です。スピンは、2強以外の選手もトップに出てきます。

スピンはレベル4を並べて基礎点合計19点台を出す選手の中で、加点の幅が意外とあるんだな、とも感じられます。同じレベル4を並べても、加点4点5点差がついてくるようです。まあ、ジャンプのGOEほどではないですけれど。

 

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ステップはコレオシークエンスを含みますが、基礎点の満点は10.8です。GOE満点は6.3になります。

ステップをショートフリー共にレベル4をそろえたのは12例でした。女子の16例より少なくなっています。ただ、加点は大きく、女子にはいなかった5点以上の加点をもらっている選手が複数います。羽生結弦選手、ネイサンチェン選手、当然のようにいますが、ジェイソンブラウン選手もいます。また、重なってしまっていて水色が見えなくなっていますが、ケビンエイモズ選手も基礎点10.8に加点5.17を得た試合があります。

赤は、3点を超える加点が得られていないんですね。これは、女子シングルでも似たような傾向があったのですが、ロシア勢はステップ系要素で加点があまり得られていません。点を取るためにはジャンプ、というスタンスで入っていくと、要素数が少なく得られる点数の少ないステップには力が入らない、という側面がどうしてもあるでしょうか。

 

今回は、グランプリシリーズの全体感を散布図とヒストグラムで記してみました。

圧倒的に強い羽生チェン二選手ですが、スピンとステップなら他の選手も絡んでこられるんだなあ、というのが見て取れました

グランプリシリーズ19 女子シングル 全体感

今回は今シーズンのグランプリシリーズの全体感を眺めてみます。

 

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まずは、技術点と演技構成点の取り方です。ショートとフリー合計しての値になります。

高得点領域にはほとんど日米露しかいないんだな、というのが見て取れます。韓国の紫でTES100点以上にある二つはトリプルアクセル持ちで表彰台にも乗ったユヨン選手です。

 

パッと見て、二つのクラスターに分けられる感じがしますね。それも、TES、PCSどちらも高い右上クラスターと、どちらも低い左下クラスターという分類です。右上に入るのはロシアから6人、アメリカから2人、日本から3人、韓国から1人といったところ。この12人が表彰台を争った、と言ってよいでしょうか。12人のうち坂本花織選手は4位が2回で表彰台に乗ってませんが、争っていた、には含めてよいでしょう。

名前で並べると、トゥルソワ、コストルナヤ、シェルバコワ、ザギトワ、メドベージェワ、トゥクタミシェワ、紀平梨花宮原知子、坂本花織、マライアベル、ブレイディテネル、ユヨンで12選手です。いま世界選手権やれば、ロシアから3人として9位まではこの中で争う、という形になります。グランプリシリーズ欠場のトゥルシンバエワ選手が加われたとして上位10人はほぼ確定という感じがします。ただ、日米韓は、自国のナショナル選手権で下位の選手に負けて、ここに名前を連ねた選手が代表になれない、という線はあるので、その場合はまた少し違う展開になるとは思いますけれど

 

四か国以外は全員左下クラスターになります。四か国以外の最高点はアゼルバイジャンのリャボワ選手で187.77 ロステレコム杯で5位でした。各大会で上位6位までに入れた日露米韓以外のはリャボワ選手のみです。日露米韓の寡占状態がちょっと極端すぎる感じになってきています

 

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ショートとフリーの得点比較です。ショート×2=フリー、というラインに近いところに来る選手が比較的多いです。

そこから外れるのは、トリプルアクセル装備組は、ショートで70点後半から80点台まで出すけれど、フリーでその2倍はなかなか出ませんね、という形です。紀平選手の2回と、ユヨン選手、コストルナヤ選手の、ショートで成功した回はこれに当たります。

また、ロシア勢はフリーに寄る選手が多めです。この辺はファイナル進出者だけ並べた時の話と同様です

一方で、ショートで60点台に乗せてくるのだけど、フリーで120点に届かない、という選手の一群がいます。ジャンプ三つまで、というかジャンプ二つとダブルアクセルまで、ならそれなりにこなしてくるけれど、ジャンプ要素7回はこなしきれない、というあたりの力量と見るのがいいのでしょうか。このあたりの選手の一群がいるので、グランプリシリーズでは、上位選手もちょっとショートで失敗すると、フリーには意外と早い順番で滑らないといけない、という事態になったりします。

 

 

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延べ71選手のスコアをヒストグラムで表したものがこれです。

240.00のように、ぴたりの数値は上(240~250)に分類されます。

160点台がピークになっているスコアが低い側と、210点台にピークがあるスコアが高い側と二分されているように見えます。

 

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ショートフリー合わせての技術点がどの程度のところに各選手いるのか、というものです

技術点は80点台がピークです。トップ選手はフリーだけでも技術点を80点近く、トリプルアクセル以上があれば80点以上出してきますので、ショートフリー合計で80点台だと、上位では勝負できない感じです。

合計100点以上は延べ23例。120点以上が9例。120点というのは、ショート40点フリー80点で届く点数なので、トリプルアクセル以上がないとかなり苦しいです。ルッツループプラス加点もりもりでザギトワ選手が届かせることもありますが、本シリーズではそこまではとどかず、ジュニア上がりのエテリ三人衆と紀平梨花選手にユヨン選手の1回を足して9例でした。

 

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PCSはやや二分傾向はありますでしょうか。

PCSは上限があり、ショート40点フリー80点合計120点が満点です。

100点超えるところには19例とそれなりの数ありました。6大会で19例ですから表彰台に乗るにはこれくらいほしい、という水準です。

110点に達しているのはロステレコム杯のメドベージェワ選手ただ1例だけでした。

105点を超えているのは、紀平選手、ザギトワ選手、メドベージェワ選手の各2回づつと、宮原選手、コストルナヤ選手が1回づつありました。105点は、35+70まで出ないと取れませんので、表現面で定評のある選手しか届かない水準になっています

 

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ジャンプの基礎点とGOEの関係を見たもの

ちょっと意外な部分もあったのですが、ジャンプの基礎点が高い選手の方がGOEも高くなる、という傾向があります。基礎点とGOEに相関がある。これ、全部成功した場合は確かにそうで、基礎点の高いジャンプの方が同じGOEでも得られる加点が大きいというルールになっているわけですから。ただ、高難易度ジャンプは確率が低く、GOE-5の転倒が生じやすい、というのがあるはずなのですが、女子シングルの場合はそんなの関係なく、単純に、基礎点の高いジャンプを飛ぶ選手の方が加点をよく稼ぐ、という風になってきています。

高難易度ジャンプを飛ぶ選手の失敗待ち、という戦略は通用しにくいと言えそうです

基礎点70点以上の構成が入るとGOEは+5以上稼ぐんですね・・・。

まあ、回転不足が入ると基礎点から下がる、というのもあるので、そういう意味では基礎点が高い選手は加点も稼げている、というのはある種正しいのかもしれませんが、強いものはより強く、のような、なんというか一抹の寂しさも感じたりはします

 

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スピンは、上位四か国以外でもレベル4を並べて基礎点19点を超える選手はいます。ただ、加点が少ない。加点が取れるのはやはり上位国なのですが、日本勢は米露と比べて加点があまり伸びていませんね。唯一基礎点19点をスピンで超えた日本人選手は意外にも横井ゆは菜選手だったりしますが、加点は2.96しか入らず、合計点はあまり伸びていません。スピンで6点を超える加点を得ている日本人選手は、紀平選手と宮原選手の二人です。

 

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ステップはコレオシークエンスを含みますが、基礎点の満点は10.8です。GOE満点は6.3になります。

ステップショートフリー共にレベル4で基礎点合計10.8を取っているのは日米露参加国の選手だけで延べ16例です。レベル4を二つ揃えるのはグランプリレベルの選手でも全体で2割ちょっとにしかなりません。スピンでショートフリー6つレベル4をそろえるよりもハードルは高くなっているようです。

加点最高はメドベージェワ選手の4.87で宮原知子選手の4.83が続きます。

上位四か国以外の選手は、基本的にステップレベル4が取れません。レベル3二つだと基礎点は9.6になります。

日米の選手は、少なくともレベル3二つまでは取ってくる感じですが、ロシアの選手はレベル2が入ってくる選手も目立ちます。ステップは、ジャンプはもちろんスピンよりも得点比率は低いのですが、とにかく勝つことを目指す、というスタイルが目立つロシア勢からすると、全体の中で力の掛け方が下がる要素になっている、ということがあったりするのでしょうか。それでも、本当のトップ選手はしっかりレベル4をもちろんとってきていますけれど。

 

 

今回は、グランプリシリーズの全体感を散布図とヒストグラムで記してみました。

日米露ばかりが目立つなあ、というのが、各散布図を見ていると、強く感じられる全体感でした。