世界フィギュア19 女子シングル1

女子シングルはオリンピックチャンピオンのザギトワが優勝、日本勢は4位5位6位という、それはそれですごいような気がするんですけど、でも、「まけた」と最後につぶやく結果となりました

 

 

さて、採点表からいろいろ見ていきたいわけですが、今回は、ジャッジごとの採点、というものを見てみたいと思います

ジャッジにもいろいろあるのですが、今回はGOE(Grade of Execution:加点減点とPCS(演技構成点)を決めるジャッジの採点を見てみます。

GOEとPCSを決めるジャッジは同じジャッジです。人数は大会ごとに異なりますが、世界選手権レベルの大会では9人います。大陸選手権、グランプリシリーズあたりまでは9人です。チャレンジャーシリーズ格の大会になると7人なことが多いですし、国内のローカル大会、インターハイなどだと5人になります

回転不足やスピンステップのレベルの判定、減点の判定などは、別の審判が判定します

 

ジャッジはショートとフリーでだいぶ入れ替わりますが、同じ人がやることもあります。今回の女子シングルでは9人中5人がショートもフリーも担当して入れ後の4人は入れ変わった、という形でした。

GOEとPCSを決めるジャッジは、技の判定はしませんが、判定された技に対しての加点減点を決め、さらに演技構成点を決めることができるので、実質的に、このジャッジはこの選手に対して何点という点数をつけた、というのを計算することができます。今大会の上位10選手に対して、ショート、フリー、それぞれで、各ジャッジが何点つけた、というのを見てみました。

  J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9
Alina ZAGITOVA 83.54 82.79 80.73 83.94 81.09 82.71 81.62 83.23 78.69
Kaori SAKAMOTO 75.38 77.63 78.10 74.70 77.76 80.03 78.19 74.19 74.45
Elizabet TURSYNBAEVA 78.30 77.94 71.95 74.81 76.98 76.20 76.52 74.18 74.98
Evgenia MEDVEDEVA 73.80 75.21 72.84 76.87 74.86 75.68 74.40 72.57 72.58
Eunsoo LIM 72.81 72.74 70.54 71.53 74.43 75.36 72.75 72.69 73.27
Mariah BELL 69.33 72.94 71.02 72.50 71.44 71.66 71.46 69.71 71.22
Rika KIHIRA 70.33 76.06 70.46 69.21 70.29 71.47 72.08 71.34 68.56
Satoko MIYAHARA 66.48 72.72 71.94 67.49 69.35 73.94 70.98 70.74 71.45
Sofia SAMODUROVA 72.19 70.70 70.77 73.21 69.31 65.64 67.30 73.19 69.32
Bradie TENNELL 70.91 69.03 71.84 70.52 67.72 69.98 68.04 70.02 66.10

まずはショートプログラム
こうしてみるとジャッジごとのばらつきがかなり大きいのが分かります。ショート1位のザギトワ選手は、公式スコアは82.08でしたが、J9は78.69と80点を下回るスコアとしてみています。2位の坂本選手はJ6は80.03と80点に乗っていたとみていますし、J3ザギトワ選手と2.63ポイント差であり差はそれほど大きくはない、という見立てでした。まずはショートプログラム。平均は9人の平均、公式は最終的な公式スコアです

また、紀平選手、宮原選手はジャッジ毎の点差が激しくなっています。紀平選手は最大で76.06をつけたジャッジがいる一方で、68.56と60点台のジャッジもいます。宮原選手も最大が73.94に対して最低は66.48。この二人は最大と最小で7.5程度も差があります。

  J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9 平均
Alina ZAGITOVA 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
Kaori SAKAMOTO 3 3 2 4 2 2 2 2 3 2
Elizabet TURSYNBAEVA 2 2 4 3 3 3 3 3 2 3
Evgenia MEDVEDEVA 4 5 3 2 4 4 4 6 5 4
Eunsoo LIM 5 7 9 7 5 5 5 5 4 5
Mariah BELL 9 6 7 6 6 7 7 10 7 6
Rika KIHIRA 8 4 10 9 7 8 6 7 9 7
Satoko MIYAHARA 10 8 5 10 8 6 8 8 6 8
Sofia SAMODUROVA 6 9 8 5 9 10 10 4 8 9
Bradie TENNELL 7 10 6 8 10 9 9 9 10 10

ジャッジ毎の順位を見たのが上記の表です。これは上位10人だけで見た順位なのでこうなっていますが、11位以下の選手も比較に入れるとさらに下の順位になる選手も出てきます。

度のジャッジもザギトワ選手1位というのは一致していますが、2位に坂本選手を持ってきたのは5人であり、3人はトゥルシンバエワ、1人はメドベージェワが2位と見ていました。紀平選手は一番良く見れば4位である一方、悪く見ると10位扱いです。紀平選手を10位と見た同じジャッジは宮原選手を5位と最も押していますが、複数のジャッジから宮原選手は10位と見られています。

9人のジャッジの平均スコアは最終的な順位と一致していますので、ジャッジ毎の採点の偏り、というのは最終的には解消された形にはなっているのですが、ことほど左様に、ジャッジ毎の点数というのはバラバラなわけです

  J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9
Alina ZAGITOVA 149.93 156.55 161.32 153.57 162.25 155.40 155.46 152.26 153.71
Rika KIHIRA 145.83 156.19 156.78 151.75 151.54 152.03 151.55 150.23 157.23
Evgenia MEDVEDEVA 142.25 151.76 152.90 153.85 145.56 150.07 147.67 147.07 154.40
Elizabet TURSYNBAEVA 143.86 157.25 144.65 145.09 153.47 149.42 147.01 146.48 152.52
Kaori SAKAMOTO 146.36 148.27 147.46 154.02 141.32 146.02 144.30 142.10 144.83
Satoko MIYAHARA 145.79 150.50 145.37 154.97 142.26 142.26 141.07 142.28 146.25
Bradie TENNELL 138.27 141.88 146.62 145.94 148.00 148.32 140.02 145.27 142.52
Sofia SAMODUROVA 132.57 141.39 136.01 140.03 143.49 133.62 136.53 137.04 141.03
Mariah BELL 132.15 138.94 136.00 137.13 126.96 136.94 139.60 136.65 147.70
Eunsoo LIM 128.82 132.56 135.00 132.49 130.35 133.26 129.54 135.35 135.03

 次の表は、フリーの上位10人のジャッジ毎のスコアを見たものです。実際には、転倒の減点1は、GOEやPCSをつけるジャッジとは別のジャッジが付けているので、上記の採点のJ1からJ9の中には入ってこない部分なのですが、話がややこしくなるので、J1からJ9に記している点数には減点分も加味しています。

フリーでもザギトワ選手が1位で155.42というスコアが出ていましたが、ジャッジ9人の採点は割れていて、最も高い点をつけたJ3は161.32という160点を超える高スコアをつけました。一方、J1は149.93と150点に届いていない、という見立てです。公式スコアで150点を超えたのは2位の紀平選手までですが、ジャッジごとの採点を見ると、6位の宮原選手までは、150点以上の点数である、と見なしたジャッジが存在しています。

ジャッジ毎の点差が極めて大きく出たのがフリー9位のマライアベル選手。最高点をつけたのはJ9で147.70ありますが、最低点のJ5では126.96しかなく、その差は20.74という極めて大きなものです。逆に10位のイムウンス選手は、最大と最低で6.53点差と、それほど大きな差が出ませんでした。この二人以外は10~14点くらいの差がジャッジ毎に出ています。おおよそ全体の点数の1割弱のぶれがジャッジ毎に出ているわけです

 

  J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9 平均
Alina ZAGITOVA 1 2 1 4 1 1 1 1 3 1
Rika KIHIRA 3 3 2 5 3 2 2 2 1 2
Evgenia MEDVEDEVA 6 4 3 3 5 3 3 3 2 3
Elizabet TURSYNBAEVA 5 1 7 7 2 4 4 4 4 4
Kaori SAKAMOTO 2 6 4 2 8 6 5 7 7 5
Satoko MIYAHARA 4 5 6 1 7 7 6 6 6 6
Bradie TENNELL 7 7 5 6 4 5 7 5 8 7
Sofia SAMODUROVA 8 8 8 8 6 9 9 8 9 8
Mariah BELL 9 9 9 9 10 8 8 9 5 9
Eunsoo LIM 10 10 10 10 9 10 10 10 10 10

ジャッジ毎に着けた点数の順位を出すとこんな感じ。ザギトワ選手を1位としたのは6人です。残りは紀平選手やトゥルシンバエワ選手に着けたりしています。一番面白いのはJ4 一位は宮原知子、二位坂本花織、三位メドベージェワ、四位ザギトワ、という並びです。このJ4が日本人だったりしたら物議をかもすところですが、実際にはスロベニア人です。まあ、日本人選手が特別好き、というわけではなく、坂本選手のPCSに76.80相当の点数、9.75が2つに9.50を3つというお化けスコアをつけた一方で、紀平選手のPCSは68.00でジャッジ9人中8番目の点数だったりします。

 

 

さて、今回、ショートフリー各9人のジャッジのうち、5人はどちらも判定していた、と述べました。この5人のつけた合計スコアというのを見てみます。

 

  J1-5 J2-4 J5-2 J7-7 J9-1 最小 最大
Alina ZAGITOVA 245.79 236.36 237.64 237.08 228.62 228.62 245.79 17.17
Elizabet TURSYNBAEVA 231.77 223.03 234.23 223.53 218.84 218.84 234.23 15.39
Evgenia MEDVEDEVA 219.36 229.06 226.62 222.07 214.83 214.83 229.06 14.23
Rika KIHIRA 220.87 226.81 225.48 222.63 213.39 213.39 226.81 13.42
Kaori SAKAMOTO 216.70 231.65 226.03 222.49 220.81 216.70 231.65 14.95
Satoko MIYAHARA 208.74 227.69 219.85 212.05 217.24 208.74 227.69 18.95
Bradie TENNELL 218.91 214.97 209.60 208.06 204.37 204.37 218.91 14.54
Sofia SAMODUROVA 215.68 210.73 210.70 203.83 201.89 201.89 215.68 13.79
Mariah BELL 196.29 210.07 210.38 211.06 203.37 196.29 211.06 14.77
Eunsoo LIM 202.16 204.23 205.99 201.29 201.09 201.09 205.99 4.90

ジャッジナンバーのJ1-5というのは、最初の数字がショートプログラムのジャッジ番号、あとの数字はフリーのジャッジ番号です

こうしてみると5人のジャッジのスコアのばらばらさが目立ちます。優勝したザギトワ選手は最高点をつけたJ1-5は240点をはるかに上回る245.79と見なしていますが、最低点をつけたJ9-1では228.62で230点を下回ります。たった5人しかいないジャッジの間で17.17ポイントも差が出ました。点差最大は宮原選手で18.95もあります。繰り返しますが、たった5人の中でこれだけ大きな差が出ているわけです

 

 

  J1-5 J2-4 J5-2 J7-7 J9-1
Alina ZAGITOVA 1 1 1 1 1
Elizabet TURSYNBAEVA 2 6 2 2 3
Evgenia MEDVEDEVA 4 3 3 5 5
Rika KIHIRA 3 5 5 3 6
Kaori SAKAMOTO 6 2 4 4 2
Satoko MIYAHARA 8 4 6 6 4
Bradie TENNELL 5 7 9 8 7
Sofia SAMODUROVA 7 8 7 9 9
Mariah BELL 10 9 8 7 8
Eunsoo LIM 9 10 10 10 10

5人のつけた点数から順位を見てみると、さすがにザギトワ選手が1位になっていない採点はありませんでした。しかしながら2位以下はかなり混沌としていて、実際の2位のトゥルシンバエワ選手が2位になっている採点は5人中3人だけです。実際の順位が5位だった坂本選手に5人中2人のジャッジが2位の点数をつけています。紀平選手も3位でつけたジャッジが2人。実際の順位の2位から5位は点数的にはかなりの僅差だったわけですが、こうしてみるとジャッジ毎の見立てもかなり割れていたわけです。また、宮原選手はどのジャッジも3位以内に入ってくる点数はつけていませんが、紀平選手より上、とつけたジャッジは二人います。

 

ジャッジは9人いて、各項目で最高点最低点は切られて計算されますので、一人のジャッジの影響により点数が全然違う、ということはありません。実際今大会でも、ジャッジ9人の平均点順位と実際の順位は一致しました。ただ、世に多数いる中でどのジャッジがこの試合で席に着くか、というのは影響してくると言わざるを得ないでしょう。たかだか5人の中で点数が15点前後、各選手、幅が出るわけですから、違うジャッジだったら数点の差は逆転してしまうわけです

 

今回、2位から5位は極めて僅差でした。日本人選手が表彰台に乗れなかった敗因は? トリプルアクセルが決まらなかったから? トリプルフリップが抜けてしまったから? トリプルルッツの不安定さと全日本に続いてトリプルフリップからの三連続がしっかり決まらなかったから? 選手がそう考えて反省して改善して次の試合に臨もうとするのはそれでいいと思うのですが、実際には、もう、今回のジャッジがこういう人選だったから、という運によるもの、という部分がかなり大きな要素を占める差でしかない、という風に、数字上は見えます。