グランプリファイナル21 男子シングル展望のはずだったもの

やっぱりやらないのね、ということになりました2021年のグランプリファイナル。残念ですが仕方ないでしょう。それにしてもこの、ほぼ沈静化した状態の日本で中止になるというこのタイミングの悪さ。逆にもう少し時間があれば、重症化リスクが低いタイプなようなので問題なし、とかなる可能性もあったのですが、そんなことを見極める時間もないタイミングでした。

ただまあ、実は一番中止にしてもいろいろなところへの影響が少ないのってグランプリファイナルなような気もします。この大会が今シーズンの最大の目標です、という選手はいないわけで。逆にグランプリシリーズくらいだと、下位の選手にとってはこれに出られたことが今シーズン最大の喜び、だったりしますし、世界選手権やオリンピックはそこが目標になる大会。四大陸やヨーロッパ選手権もオリンピックなどに選ばれなかった選手にとってはそこが最大の舞台です。一方で、ファイナルは、基本的には世界選手権以上の大会を目指すレベルの選手たちにとっては通過点でしかなかったりしますし、そういうレベルの選手しかたどり着けない舞台でもある。結果的にシーズン最後に代替大会が開かれた場合は、ナショナル選手権でオリンピックなどに落選した選手にとっては、恨みを晴らす大事な機会になるのだろうと思いますが、シーズン中盤のファイナルは、中盤の山場ではあっても誰にとっても目的地ではないので、今の時点では、しかたない、と言うだけで終わるかと思います。結果的に、人生でこの試合が一番大きな舞台だったはずなのに、みたいなことになる選手も後から振り返ると出るかもしれませんが(フロミフ選手とか)

さて、入国停止問題は全日本選手権も大きく影響を受けるわけですが、日本国籍なら帰ってこられますかね。そちらが結構気になるわけですが、今回はそれは置いておいて、中途半端に女子だけやったファイナルの展望を、無くなっちゃったけど男子もやっておきます。なくなるのにやってどうする、というのもあるかもしれませんが、このレベルの選手たちの力関係、というのを見ておくだけでも意味はあるかな(個人的に面白い)と思っています。

 

○グランプリ2戦のスコア

Event Name Total SP FS
Canada Nathan CHEN 307.18 106.72 200.46
America Vincent ZHOU 295.56 97.43 198.13
NHK Shoma UNO 290.15 102.58 187.57
France Yuma KAGIYAMA 286.41 100.64 185.77
Torino Yuma KAGIYAMA 278.02 80.53 197.49
Torino Mikhail KOLYADA 273.55 92.30 181.25
America Shoma UNO 270.68 89.07 181.61
America Nathan CHEN 269.37 82.89 186.48
Rostelecom Mikhail KOLYADA 264.64 84.48 180.16
France Jason BROWN 264.20 89.39 174.81
NHK Vincent ZHOU 260.69 99.51 161.18
Canada Jason BROWN 259.55 94.00 165.55

エントリー6選手のグランプリ2試合の結果です。

300点超えは一人だけ。ネイサンチェン選手。ショートもフリーも今シーズンの全選手の中で最高スコアです。ちゃんと滑ったらたぶん負けないのでしょう。

2試合滑って悪い方のスコアで争った場合トップになるのは鍵山優真選手になります。こういう場合普通は安定感がある、となるのですが、そういう感じではなかったですね実際の試合では。

その二人の間にスコアがあるのがヴィンセントジョウ選手と宇野昌磨選手。二人ともノーミスの滑りというわけでもなかったですが上位に来るスコアは出してきました。

順当にいけばこの四人で表彰台争い、という雰囲気になっています。

ショートで100点超えがあるのは3人。ただ、99.51のヴィンセントジョウ選手もほぼ100点ですしショートで100点出しても表彰台に乗れないコースもあり得るメンバーでした。

フリーはネイサンチェン選手が唯一の200点超えで、190点台が二人、宇野選手とコリヤダ選手は180点台です。宇野選手はまだフリーを今シーズンしっかり滑り切れてはいない、と見てよいのでしょうか。

余談ですが、ワリエワ選手はスケートカナダロステレコム杯の2試合に出ましたが、そのままのスコアで男子に混ざっていた場合、2位と1位で28ポイント獲得して、男子の中で普通にファイナル進出している計算でした。

 

○ファイナルエントリー6名の要素別スコア

Event Name Total PCS J Base J GOE Spin Step
Canada CHEN 307.18 139.21 107.78 18.82 25.83 15.54
America ZHOU 295.56 130.59 115.50 11.26 23.56 14.65
NHK UNO 290.15 136.61 97.21 19.22 24.27 12.84
France KAGIYAMA 286.41 135.42 97.18 14.98 25.55 13.28
Torino KAGIYAMA 278.02 131.54 95.27 12.36 25.58 13.27
Torino KOLYADA 273.55 131.23 100.82 2.52 26.12 13.86
America UNO 270.68 133.14 95.26 5.00 22.65 14.63
America CHEN 269.37 134.15 97.55 -2.61 25.54 15.74
Rostelecom KOLYADA 264.64 132.92 97.04 -3.75 25.81 14.62
France BROWN 264.20 139.04 76.87 6.10 25.38 16.81
NHK ZHOU 260.69 128.88 93.16 -0.42 24.43 14.64
Canada BROWN 259.55 136.41 75.66 5.40 26.22 16.86

男子は女子と違って、何をとっても一人の人に勝てない、というような構図にはなっていません。

PCSはネイサンチェン選手の139.21がトップですが、ジェイソンブラウン選手の139.04もそれに匹敵しますし、2試合足してみるとジェイソンブラウン選手の方が上です。ヴィンセントジョウ選手はこの中でPCSは一番落ちる方になります。

ジャンプの基礎点はヴィンセントジョウ選手がトップ。ただ、悪い方の試合では90点台前半にまで落ち込み、いい時と悪い時の差が激しいです。日本勢は二人ともジャンプの基礎点が100点に達していません。また四回転がほとんど入らないジェイソンブラウン選手は、やはりどうしてもここで大きくスコアに差がつきます。

ジャンプのGOEは宇野選手のNHK杯がトップスコアでした。ネイサンチェン選手のいい方の試合が2番目で、鍵山優真選手の2試合がそれに続きます。2試合足したGOEでは鍵山選手がトップになります。基礎点の高いヴィンセントジョウ選手はその下。悪い方の試合ではマイナススコアになっていました。

スピンはジェイソンブラウン選手のスケートカナダが26.22でトップ。トリノのコリヤダ選手が26.12で2番目。ジャンプの上位とは全く逆の選手が上の方に来ます。

ステップ系要素はジェイソンブラウン選手の2試合が16点台後半で群を抜いています。ネイサンチェン選手が2番目。鍵山選手はここがちょっと弱いですかね、2試合とも13点台でした。宇野選手のNHK杯もそうですが、レベルをちゃんと取れないとスコアがどうしても伸びてきません。

 

○フリーのいい点の方の時の構成

  CHEN ZHOU UNO KAGIYAMA KOLYADA BROWN
1 4S 4Lz 4Lo 4S 4S 4S
2 3Lz 4F! 4S 3Lz 4T+3T 3A+2T
3 4F+3T 4Sq 4T+2T 4T+3T 3A+2T 3Aq
4 3Lo 4Tq 3A 3A+1Eu+3S 3Lo CCoSp4
5 CCSp3 ChSq1 FCSp4 CSSp4 CCSp4 2Lo
6 StSq3 4Sq+3T ChSq1 StSq3 ChSq1 3F+3T
7 3A 3A+1Eu+3S 2F 4T 4T 3Lz!+1Eu+1S
8 4T+1Eu+3F FCSp4 4T 3F+3Lo 3A ChSq1
9 4T+2T CSSp3 3A+1Eu+3F 3A 3Lz+1Eu+3S 3F
10 CCoSp4 3A+2T FCCoSp4 ChSq1 StSq4 FCCoSp4
11 ChSq1 StSq4 CCoSp4V CCoSp4 FSSp4 StSq4
12 FCCoSp4 CCoSp4 StSq3 FCCoSp4 CCoSp4 CCSp4
  89.31 97.50 82.24 88.87 85.22 69.56

フリーの基礎点はヴィンセントジョウ選手がトップで97.50あります。4回転4種類5本にトリプルアクセル2本。これがしっかり並ぶとやはり高い基礎点です。ついでに言えばコンビネーションはすべて1.1倍ボーナスタイムにつぎ込まれているというのもあります。

ネイサンチェン選手は4回転3種類4本の時のスコアがシーズンベストでした。トリプルアクセルが1本だけ。エンジン全開ではない構成ですがこれでもヴィンセントジョウ選手との基礎点差8.19は出来栄え差とPCS差で逆転していきます。

鍵山選手が3番目。四回転2種類3本のトリプルアクセル2本構成でセカンドループ付き。これでネイサンチェン選手の省エネ構成くらいになら基礎点が匹敵出来ています。

宇野選手は4回転4種類5本の失敗4本構成で82.24 フリップが4回転で入れば91点台でした。ついでにコンビネーションも一つ入っていないですし、セカンド3回転無いですし、スピンステップのレベルも取りこぼしています。完成形はまだこれからというところ

コリヤダ選手は四回転2種類3本構成。2種類3本勢の標準完成形というような構成でしょうか。セカンドループが付けられる選手は鍵山選手並みになるはずです。

ジェイソンブラウン選手、ついに4回転を回転まわり切って着氷しました。ただ、それ以外のジャンプで2回転や1回転になって基礎点差下がって70点に乗っていません。ノーミスなら75点台までは来る構成です。

 

ショート9日、フリー11日予定だった男子シングルですが中止。ISUの表記ではpostponedなので、まだ中止ではなく延期の扱いです。延期でも実施されれば、グランプリファイナルに出場した、という実績は付くので、そういう意味ではやらせてあげたいですけれど、選手たちの今の気分としては、中止も延期もあまりかわらなく、それぞれ、ナショナル選手権~オリンピックへ目が向いているでしょうか。

女子と違って男子は、高確率でこのファイナルのメンバーはオリンピックでもその姿を見られるのではないかと思われます。