NHK杯 大快挙

グランプリシリーズ、4戦目、NHK杯です。ある程度は想像の範囲内という展開ではありましたが、実際にそれが起こるとやはり驚くという、なかなか素晴らしい試合でした。

 

○女子シングル

Pl Name Nation Total SP FS
1 Kaori SAKAMOTO JPN 231.88 78.93 152.95
2 Mone CHIBA JPN 212.54 71.69 140.85
3 Yuna AOKI JPN 195.07 69.78 125.29
4 Alysa LIU USA 190.75 65.03 125.72
5 Bradie TENNELL USA 190.25 62.05 128.20
6 Lara Naki GUTMANN ITA 180.28 61.51 118.77
7 Seoyeong WI KOR 173.77 61.43 112.34
8 Olga MIKUTINA AUT 169.93 60.94 108.99
9 Lindsay THORNGREN USA 169.03 54.79 114.24
10 Niina PETROKINA EST 165.84 52.98 112.86
11 Ekaterina KURAKOVA POL 157.14 56.46 100.68
12 Yelim KIM KOR 152.84 51.32 101.52

坂本花織選手がスーパースコアで優勝しました。3シーズンぶり3回目の230点超え。滑る前の時点ではショートもフリーもちょっとしくじると危ない、というシチュエーションで回ってきましたが、実際滑ると圧勝でした。

2位には千葉百音選手。グランプリシリーズ初表彰台です。昨季のグランプリシリーズは散々でしたが、年末の全日本以降、ここ1年順調に点を出しています。

青木祐奈選手も初表彰台の3位です。ショート3位から、フリーも力を発揮できれば表彰台、ダメだと届かない、しっかり際どいプレッシャー掛る状況で回ってきましたが、パーソナルベスト更新で表彰台を確保しました。

4位はアリサリウ選手。復帰後3戦190点前後のスコアが続いています。フリーの125.72は復帰後の最高スコアです。グランプリ2戦は6位と4位で終了。アメリカ勢のシニアの中でシーズンベスト順位は5位。代表争いは微妙な立ち位置ですが、全米選手権で勝負をかけることになります。

5位もアメリカからブレイディテネル選手。今期3戦、190点台を続けています。グランプリシリーズ2戦は5位2回で終了。アメリカ勢のシニアの中でシーズンベスト順位は6位。B級の上海トロフィーではもう少し高いスコアを出しているものの、やはり代表争いでは微妙な立ち位置で全米選手権へ進んでいくことになります。

ララナキグッドマン選手が6位に入りました。グランプリシリーズは過去3回出場。11位、9位、7位と順位を上げてきて、今回6位とさらに最高位更新です。じわじわとスコアを上げてきていて、今期初めてISU公認大会で180点を突破。この試合で2回目の180点台となります。次戦、フィンランディア杯にエントリーしています。

 

○坂本花織選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 2A   3.30   1.51 4.81 4.556
2 3Lz   5.90   1.85 7.75 3.222
3 2A+1Eu+3S   8.10   1.84 9.94 4.222
4 CCoSp4   3.50   0.90 4.40 2.667
5 3F+3T   9.50   1.82 11.32 3.333
6 StSq3   3.30   1.23 4.53 3.556
7 FSSp4   3.00   0.73 3.73 2.444
8 3Lz+2T   7.92 x 1.43 9.35 2.556
9 ChSq1   3.00   1.86 4.86 3.778
10 3F< 4.66 x -0.24 4.42 -0.667
11 3Lo   5.39 x 1.75 7.14 3.444
12 FCCoSp4   3.50   1.00 4.50 2.889
  TES   61.07   15.68 76.75  

爆加点たくさんついていますが、後半のフリップはアンダーローテーション取られました。基礎点は61.07 ルッツ1本構成の昨シーズンまでのノーミス基礎点の方が結果的に高い状態です。フリップ回転しっかり足りていれば1.17基礎点上がって62.24 ステップレベル4だと62.84の基礎点になります。

今期はショートフリーで3本のルッツを飛ぶ構成で3試合来ていますが、エッジの!を取られたのは1つ、回転でqを取られたのもその同じジャンプの1つだけで、かなりいい評価を受けています。グランプリ2戦の6本はマークが1つもつかず、平均GOEは+2.370と高評価、今大会のフリーの単独のルッツは平均GOE+3.222を得ています。一方で得意なはずのフリップがスケートカナダでは転倒ありアンダーローテーションあり、セカンドジャンプの回転不足ありとうまくいかず、今大会もフリーの単独ジャンプがアンダーローテーションとなりました。もしかしたら練習時間含め、フリップに注ぐ力が少し削られてしまっている部分があるかもしれません。

いきなり金髪で現れた今シーズンはかなり驚きましたが、やっと金髪に納得した試合でもあったように感じました。確かにこのプログラムは金髪でないといけない。シカゴだからといえばシカゴだからなわけですが、ただ滑るだけなら、安直に金髪にしたのね、で終わってしまいかねないのですけど、そうではなくてこのプログラムでこの出来だからこそ、金髪とマッチしていて、非常に納得感を得られました。

これでグランプリシリーズは4連勝で通算6勝目です。通常シリーズ6勝は歴代6位になります。現役ではとびぬけて最多。上にいる5人は往年の名選手、という方々ばかりです。グランプリファイナル出場は4回目予定。過去に複数回優勝した経験のある選手は5人だけ。歴代の名選手と並ぶことを目指す試合となります。

 

○千葉百音選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 3Fq+3T q 9.50   0.30 9.80 0.444
2 3S   4.30   0.98 5.28 2.222
3 3Lo   4.90   1.12 6.02 2.222
4 2A   3.30   0.71 4.01 2.111
5 ChSq1   3.00   1.50 4.50 2.889
6 FCCoSp4   3.50   0.70 4.20 1.889
7 3Lz+2A+SEQ   10.12 x 1.77 11.89 2.889
8 3Lz!<+2T+2Lo !|< 8.49 x -0.87 7.62 -1.889
9 3Fq q 5.83 x -0.30 5.53 -0.556
10 StSq3   3.30   0.99 4.29 3.000
11 LSp4   2.70   1.08 3.78 4.000
12 CCoSp4   3.50   1.20 4.70 3.444
  TES   62.44   9.18 71.62  

ミスらしいミスはなかったように見えつつ、フリップに2つともqが付き、3連続のルッツは踏切に!が付いてアンダーローテーションもつきました。それでも技術点70点超え。PCSと合わせて140点超えのハイスコア。滑り終わった時点では、ちょっとミスしたら負ける、というプレッシャーを最終滑走坂本選手に与えられる状況を作り出しました。

2回飛ぶジャンプはルッツとフリップ。ルッツのアンダーローテーションを基礎点満額取れれば1.30基礎点上がって63.74になります。ステップをレベル4に出来れば64.34です。4大陸選手権に勝った時はその基礎点でした。つまり、昨シーズンからジャンプスピンの基本的な構成は変わっていません。ただ、前半の単独ジャンプの順番や、後半のコンビネーションの組み合わせは入れ替わりがあります。

昨シーズンは喘息で苦しんでいたようですが、それを抜けて全日本以降は大崩れすることが無くなりました。今期はネーベルホルン杯で193.37があっての今回の212点です。シーズンベストは日本人2位になり、2試合平均スコアも2位で、まだ次戦があります。ルッツフリップでマークが乱れ飛ぶ問題は今回も解決していませんが、単独ジャンプで+2平均を超える評価を受け、高PCSなことも相まって210点台まで届いています。

4回転を練習中、ということですが、それが入れば鬼に金棒、百音に4回転。2Aを3連続で使って4Tが2Loの代替に実質なった場合は70点に基礎点が達します。

昨季は驚きの全日本2位でしたが、今期は普通にその位置にいるべき選手として、2年連続の世界選手権代表を争うことになるわけですが、その前にまず、次戦は一週空いて中国杯です。ファイナルを争う試合ですが、非常に激戦。初戦優勝のアンバーグレン選手に、初戦2位の渡辺倫果選手、3位の住吉りをん選手、4位にキムチェヨン選手とキミ―レポンド選手がいます。特に、渡辺選手、住吉選手との直接対決はファイナル権争いと同時に、ワールド代表争い誰が優位に立つか、の争いでもあり非常に重要な試合となりそうです。2位以内で自力ファイナルです。普通はこれだけ強い2位を持っていると、2戦目は3位でもファイナルへ進めるのですが、5戦目の吉田選手、松生選手次第で、3位だと危なくなる可能性もあります。

 

○青木祐奈選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 3Lz+3Loq q 10.80   -0.34 10.46 -0.667
2 3T< 3.36   -0.43 2.93 -1.222
3 3S   4.30   0.92 5.22 2.222
4 2A   3.30   0.80 4.10 2.444
5 CCoSp4   3.50   0.55 4.05 1.556
6 2A<+1Eu+3F<< <|<< 5.43 x -1.17 4.26 -4.444
7 3Lz<+2T< <|< 6.34 x -1.82 4.52 -3.778
8 3Fq q 5.83 x -0.38 5.45 -0.667
9 FCSp4   3.20   0.78 3.98 2.444
10 ChSq1   3.00   1.64 4.64 3.222
11 StSq4   3.90   1.23 5.13 3.222
12 LSp4   2.70   0.81 3.51 3.111
  TES   55.66   2.59 58.25  

ショート3位からフリー、120.98で表彰台確定。プレッシャー掛るけれど力なりに滑れば全く問題ない、というシチュエーションで出てきて、力なりに滑って表彰台を確保しました。冒頭のルッツループはqがついてGOEはわずかにマイナス。ただ、これだけ取れれば十分ではあります。次の単独トーループがアンダーローテーションというのはもったいなかったです。それも含めてダウングレード1つにアンダーローテーション4つにq2つ。マークが何もないジャンプはサルコウと単独ダブルアクセルだけ。これが印象ほど点が伸びなかった要因ではありますが、それでもしっかり3位を確保しました。中庭先生のまだ伸びしろあるから、はまさにこのあたりでしょう。以前はこういったジャンプの課題は、抜けて2回転になってしまうこと、転倒になってしまうことだったのと比べると、アンダーローテーションやqにまでなっていますので、かなり改善されたと言え、それが190点台に手が届いている要因です。これがB級基準判定といったら怒られるのかもしれませんが、そういう判定で行けるとチャレンジカップのような210点前後までスコアが出てくるわけです。

全日本ノービスで優勝した天才少女が、ジュニア時代、苦労に苦労を重ねて全然結果が出なかったところから、大学生になり卒業年度にようやくグランプリシリーズに出場し、さらに引退を撤回して社会人になって出たグランプリシリーズで、ついに表彰台にまでたどり着きました。中庭先生は大学生以上の選手を復活させる天才なんでしょうか。大学はいるまで木下アカデミーにいて、都内の大学に進学してMFアカデミーに移る、というのが女子のゴールデンコースに見えたり見えなかったり。

恐ろしいのは日本女子。195.07出してグランプリシリーズの表彰台に乗っても、シーズンベスト順位が7位で、世界選手権の代表選考基準どころか、4大陸選手権の代表選考基準にすら乗ってきません。2試合平均も189.05で5番目ですが、グランプリシリーズ2戦目で超えてくる選手が複数いそうで、やはりこれも入ってこない。まあ、アジア大会派遣選手が4大陸と連戦しない、という条件になれば、4大陸のチャンスはあるかな、とは思われます。

また、これで来期のグランプリシリーズにもつながったかな、と思いたいところなのですが、今期は日本人選手が8人表彰台に乗っています。そこに来季は中井亜美選手が上がって来る。表彰台に乗ったのに、グランプリシリーズの枠が2つもらえない、という可能性まである状態です。それでも1枠はあると思いますが、そんなことごちゃごちゃ考える必要が無いように、次は全日本で上位に入って、4大陸の出場権を得る、というのが目指すところとなるかと思われます。

一応年齢的にはワールドユニバーシティゲームズも、卒業の翌年なので出場可能ですが、日本の連盟的に、そこは選考対象となるのかどうか、ちょっとわかりません。

 

○女子シングル ショートフリー合わせた要素別スコア

Pl Name Total PCS J Base J GOE Spin Step
1 Kaori SAKAMOTO 231.88 112.88 64.42 14.72 24.90 14.96
2 Mone CHIBA 212.54 101.91 65.67 6.50 24.71 13.75
3 Yuna AOKI 195.07 99.93 58.11 -0.64 23.42 14.25
4 Alysa LIU 190.75 95.62 61.75 0.83 19.96 12.59
5 Bradie TENNELL 190.25 98.53 56.04 -0.45 24.17 12.96
6 Lara Naki GUTMANN 180.28 92.72 52.17 2.29 21.83 11.27
7 Seoyeong WI 173.77 83.39 61.28 0.98 16.68 11.44
8 Olga MIKUTINA 169.93 89.86 51.33 -5.22 22.09 11.87
9 Lindsay THORNGREN 169.03 87.96 56.89 -7.81 23.43 10.56
10 Niina PETROKINA 165.84 89.76 55.17 -8.41 21.57 8.75
11 Ekaterina KURAKOVA 157.14 87.89 46.88 -9.64 19.40 12.61
12 Yelim KIM 152.84 85.33 36.32 0.27 19.84 12.08

PCSは坂本選手がものすごいスコア出しています。110点台まではオリンピックとワールド、合計3回出していますが112点台は初めてです。ここはさすがに若干雰囲気ボーナスを感じますが、勝敗に影響はない範囲です。千葉選手の101.91も自己最高、青木選手の99.93は公認試合の自己最高です。チャレンジカップでは101点台がありました。

ジャンプの基礎点は千葉選手が1位で坂本選手が2位です。ルッツループが武器とされて代名詞化している青木選手ですが、ジャンプの基礎点はそれほど高くありません。加点は坂本選手がただ一人二桁出しています。今期の全選手中最高です。2位はこれも千葉選手です。他は0点台の加点かマイナスでした。青木選手もマイナス側になります。

スピンは坂本選手が24.90で1位。本人の中で割といい方ですが、25点台まで出すことは時折あり、過去最高ではないです。千葉選手24.71も本人比で同じような意味合いのスコアです。テネル選手も24点台を出しています。

ステップ系要素は坂本選手が14.96で1位。ショートのステップは今期全選手中最高評価です。フリーのステップはレベル3でした。また、コレオは今期全体の中で2位の評価です。青木選手も14点台です。こちらはショートのステップがレベル3でした。テネル選手はステップでは稼げませんでしたが、コレオが今期の公認試合中4位という高い評価を受けています。

 

○男子シングル

Pl Name Nation Total SP FS
1 Yuma KAGIYAMA JPN 300.09 105.70 194.39
2 Daniel GRASSL ITA 264.85 83.01 181.84
3 Tatsuya TSUBOI JPN 251.52 85.02 166.50
4 Andrew TORGASHEV USA 246.58 84.36 162.22
5 Matteo RIZZO ITA 246.56 81.79 164.77
6 Kao MIURA JPN 240.38 102.96 137.42
7 Jason BROWN USA 229.09 77.08 152.01
8 Tomoki HIWATASHI USA 226.38 74.59 151.79
9 Vladimir LITVINTSEV AZE 225.67 81.85 143.82
10 Gabriele FRANGIPANI ITA 223.82 81.33 142.49
11 Mark GORODNITSKY ISR 215.76 77.74 138.02
12 Juheon LIM KOR 196.05 74.31 121.74

男子は、最終的には鍵山優真選手の圧勝でした。300.09 髪の毛一本分の300点超え。自身4回目の300点到達となります。

2位にはグラスル選手が入りました。ショート5位からの逆転表彰台です。フリーの181.84はオリンピック以後のベストスコア。ルッツ、ループ、サルコウと3本の4回転を決めてきました。次は連戦でフィンランディア杯です。初戦優勝の鍵山選手、2位のエイモズ選手、3位のチャジュンファン選手に4位の山本草太選手、自分含めて5選手がファイナルの可能性を持っての難しい試合になります。

壷井達也選手が3位表彰台となりました。251.52はパーソナルベスト。ショートフリー共に3位。素晴らしい表彰台でした。

前週のフランスで3位表彰台、急遽の出場となったトルガシェフ選手がショートフリー共に先週のスコアを上回るパーソナルベストで4位に入りました。先週のスコアだと表彰台には乗ったけれど、アメリカ勢の中ではシーズンベスト5位に過ぎなかったわけですが、今週のスコアなら、アメリカ勢の中でシーズンベスト2位という位置になります。マリニン選手は別格ですが、あとの2枠の代表争い、世界選手権も狙えるところに顔を出してきたように見えます。

5位はイタリアのリッツォ選手。イタリアは有力4選手でヨーロッパ選手権の3つの枠、世界選手権の2つの枠を争う状況です。今回は3人の直接対決だったわけですが、その中では2番目となりました。次戦は中国杯。グランプリシリーズは東アジアをめぐる形になります。

三浦佳生選手は6位でした。ショートは初の100点超えで2位に付けたところからまさかの6位転落。ファイナル進出の芽はなくなった形です。

 

○鍵山優真選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 4F< F< 8.80   -4.40 4.40 -5.000
2 4S   9.70   3.74 13.44 3.889
3 4T+3T   13.70   3.39 17.09 3.556
4 3A+1Eu+3S   12.80   2.40 15.20 3.000
5 FCSSp4   3.00   0.73 3.73 2.444
6 4T   10.45 x -1.09 9.36 -1.111
7 3A   8.80 x 2.40 11.20 3.111
8 3F+3Lo   11.22 x 1.59 12.81 3.000
9 StSq4   3.90   1.78 5.68 4.556
10 ChSq1   3.00   1.71 4.71 3.444
11 CCoSp3   3.00   0.77 3.77 2.556
12 FCCoSp3   3.00   0.86 3.86 2.778
  TES   91.37   13.88 105.25  

4回転3種類4本構成。冒頭のフリップはアンダーローテーションの転倒となりました。それでも105点まで技術点が出ます。2回飛ぶジャンプは4回転トーループトリプルアクセル。セカンド3回転をトーループとループを入れ、3連続は3つ目3サルコウ。2回転の要素が1つも無いというトンでも構成で基礎点91.37です。フリップを基礎点満額取れれば93.57の基礎点になり、最後の2つのスピンをレベル4に出来ると94.57まで出ます。今期は人間界に合わせた基礎点構成のマリニン選手が97.87ですので、出来栄え勝負でなんとかなる水準の構成は組めています。

国際大会ではオリンピック以来のセカンドループを入れてきて成功させました。4回転4本あたりの構成の時にはセカンドループはダブルアクセルの代替として1.1倍なら1.76点の価値をもってきます。これが4回転5本になってくると、4回転からあるいはトリプルアクセルからセカンドループを飛ぶ、ということが必要になってきてかなり厳しくなるわけですが、4回転ルッツを習得したら鍵山選手はコンビネーションをどういう風に使っていくでしょうか? ちなみに、細かいこと言えば、セカンドループを使ってダブルアクセルが1つも無い状態からなら、3連続は3回転サルコウを使うよりはダブルアクセル2つ使う方が1.80基礎点があがります。ただ、シークエンスでアクセルを2つ使うと時間がかかるので、そのあとの振付が合わなくなる、という問題があり、そこも考慮しないと簡単には変えられないのではないかと思われます。

グランプリシリーズ通算4勝目。日本人選手の中では通算5位タイ。小塚崇彦選手、町田樹選手に並びました。次戦は連戦でフィンランディア杯。強敵も多いですが、連勝の連続300点でファイナル進出を目指すことになります。

 

○壷井達也選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 4S+3T   13.90   2.49 16.39 2.444
2 4S   9.70   2.91 12.61 2.889
3 3A< 6.40   -0.73 5.67 -1.111
4 FSSp3   2.60   0.37 2.97 1.333
5 StSq3   3.30   0.38 3.68 1.222
6 3A+1Eu+3S   12.80   1.94 14.74 2.444
7 3Lz+2T   7.92 x 1.18 9.10 1.889
8 3Lo   5.39 x 1.05 6.44 2.111
9 CCoSp4   3.50   0.50 4.00 1.444
10 ChSq1   3.00   1.00 4.00 2.000
11 3F   5.83 x -0.15 5.68 -0.333
12 FCCoSp4   3.50   0.50 4.00 1.444
  TES   77.84   11.44 89.28  

4回転サルコウ2本成功。そのあとのトリプルアクセルがもったいなかったですが、目立ったミスはそれだけです。3連続で3つ目を3回転に出来るかが心配だったのですがこれもしっかり入りました。今大会で一番やれることをやりきったのは壷井達也選手だったように感じます。基礎点は77.84 トリプルアクセルを基礎点満額入れば79.44 スピンステップオールレベル4に出来ると80.44という基礎点になります。

ちょっとグラスル選手が260点台を出してきた時点で、これは表彰台は厳しくなったな、それでも250点には乗せて高いシーズンベストで来期につなげてくれれば、と思っていました。どうしてどうして、文句なしの初表彰台です。ショートフリートータルすべてパーソナルベスト。青木祐奈選手もそうでしたが、今年のチャレンジカップで本人比見たことないスコア出した選手がNHK杯でそれの再現に近いスコアを出して表彰台に乗る、という構図になっています。

今やれることをほとんどやり切れてしまったので、これ以上出すにはどうしたらいいだろう、みたいな状態に逆になりました。細かい点では、ダブルアクセルが余っているのでシークエンスを習得してダブルトーループの代わりに入れましょう、というのはあります。それ以上のものは、今季アジアンオープンフィギュアで入れて転倒していた4回転トーループ。すなわち2種類目の4回転というのを入れていく、ということになるのかと思われます。

ISUのサイトがいろいろ不具合起きていて、公式には見えませんが、シーズンベスト順位は12位になってきています。250点超えればシーズン終わっても24位以内におそらく残るでしょう。グランプリシリーズの表彰台にも乗りました。来期は2枠もらえるのではないかと思われ、それはすなわち、オリンピック代表争いへの挑戦権を確保した、と言えると思われます。宇野選手いたころの6強、引退しての5強、というのが代表争いの中心ですが、それに次ぐ位置に島田高志郎選手、吉岡希選手とともにいたのが壷井達也選手かと思います。その3人の中から、今回の3位表彰台兼250点オーバーで、一歩抜け出したように見えます。日本人選手中のシーズンベストは5位。アジア選手権と4大陸の代表の兼任が無いとすれば、4大陸の代表入りチャンスが来ているように見えます。今期はグランプリ2戦目が無いので次は全日本となりますが、残り2戦、ひょっとしたら今大会のトルガシェフ選手のように、代打が回ってくる可能性もあります。

 

○三浦佳生選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 3A   8.00   -1.37 6.63 -1.778
2 3S   4.30   0.98 5.28 2.222
3 4Tq Fq 9.50   -4.75 4.75 -5.000
4 FCSp4   3.20   0.59 3.79 1.889
5 2A   3.30   0.00 3.30 0.111
6 StSq3   3.30   0.85 4.15 2.556
7 4T+REP F 7.32 x -4.75 2.57 -5.000
8 3A+2Aq+2A*+SEQ q|* 12.43 x -2.17 10.26 -2.667
9 ChSq1   3.00   0.50 3.50 1.000
10 3F+3Lo   11.22 x -1.36 9.86 -2.333
11 CSSp3   2.60   0.37 2.97 1.556
12 CCoSp4   3.50   0.60 4.10 1.667
  TES   71.67   -10.51 61.16  

どうしちゃったのでしょう、というフリーでした。冒頭前向きに踏み切ってのトリプルアクセル。おそらく3連続入れるつもりだったはずです。以降のジャンプもさっぱり決まらず。なんとか点を取りに行こうと3連続でダブルアクセル2つ使って、3回目のダブルアクセルになり1つノーカウント。最後のジャンプどうするんだろうと思っていたら、まさかのセカンドループ。基本的に、ジュニアショートの強制ルール時以外ではルッツは跳ばない三浦選手。最後のジャンプの時点で持っているカードは3回転はフリップからでセカンドはトーループを持ってくるかと思ったらいきなりセカンドループ。隠し札ですが、とにかく持っている一番強いカードを出す、ということで最後のジャンプまで点を取りに行っていたのが非常によく見えるジャンプでした。過去の実績調べてみると、国際大会でセカンド3回転ループはこれが初です。国内の試合では1度だけ、2018年の東京夏季フィギュアでトリプルルッツからのセカンド3回転ループというのがありましたが平均GOE-3.400となっていました。この試合のフリーはいいところなしに終わったように見えますが、意外と今回見せたこの隠し札が、使えるぞということでこの先鍵山選手のようにセカンドループを入れてくるようになるかもしれません。

今シーズン初めて国際大会で、鍵山優真、佐藤駿、三浦佳生、3人同じ試合に揃う、という光景がありました。関東ブロックにいた3人がついにこんなところにまで、と感慨もひとしおでしたが、今大会のショートプログラムまでは、この3人でそろってグランプリファイナル、というのがほとんど見えている状態でした。それがこのフリーで暗転。三浦選手はファイナル無しです。昨季は佐藤駿選手がファイナルに届かず。一昨年は鍵山選手が怪我でグランプリは欠場。今期は三浦選手が届かず。こんなところでも3人仲良く順番に手が届かない立場を味わっています。3人そろってのファイナルは来期にお預け。その前に、3人そろっての世界選手権があるかどうか。三浦選手はどうもあまり状態がよくなさそうなので、何度も出ているファイナルに無理に出るよりも、少し試合間隔開けて全日本へ直行の方がむしろ良かったのかもしれません。

 

○男子シングル ショートフリー合わせた要素別スコア

Pl Name Total PCS J Base J GOE Spin Step
1 Yuma KAGIYAMA 300.09 136.43 107.67 17.70 23.50 15.79
2 Daniel GRASSL 264.85 119.55 102.84 7.69 23.07 12.70
3 Tatsuya TSUBOI 251.52 113.77 90.75 13.40 22.10 11.50
4 Andrew TORGASHEV 246.58 118.91 86.80 4.22 22.41 14.24
5 Matteo RIZZO 246.56 122.21 87.04 1.53 22.52 14.26
6 Kao MIURA 240.38 122.89 88.42 -4.58 22.71 12.94
7 Jason BROWN 229.09 128.53 62.12 -1.98 25.34 16.08
8 Tomoki HIWATASHI 226.38 106.59 87.40 2.95 17.54 11.90
9 Vladimir LITVINTSEV 225.67 105.19 95.31 -1.90 19.21 8.86
10 Gabriele FRANGIPANI 223.82 112.46 87.63 -7.72 18.84 12.61
11 Mark GORODNITSKY 215.76 106.70 75.52 2.65 19.80 11.09
12 Juheon LIM 196.05 101.52 70.76 -5.82 20.85 10.74

PCSは鍵山選手が平均9点越えの136.43で突出しています。ジェイソンブラウン選手は128.53で2番目。本人比ではそれほど高くありません。壺井選手は113.77 1項目平均7.5を少し超えるあたりです。ここがもう少し上がってくると、スコアのベースが上がるので250点をそれほど苦労なく出せるようになっていってよいなと思います。

ジャンプの基礎点は鍵山選手が107.67で1位。これは本人過去最高です。グラスル選手も100点を超えました。スコア伸びませんでしたがリトヴィンツェフ選手が95.31で3位です。壺井選手の90.75はISU公認試合では過去最高でした。

加点も鍵山選手の17.70が1位。壺井選手が13.40と大きく稼いで2位でした。B級大会ではもっと出したことがありますが、ISU公認試合では当然本人比過去最高です。

スピンはジェイソンブラウン選手が25.34と1位。このあたりはさすがです。鍵山選手は23.50で2位ですが、今回はレベル3が複数あり、いつもと比べるとあまり出せませんでした。

ステップ系要素もジェイソンブラウン選手が16.08で1位。これは今シーズン1位です。コレオの平均GOE+4.333は今季2位でした。鍵山選手は15.79で2位。フリーのステップが平均GOE+4.556で今期全選手中1位のステップとなっています。壺井選手は11.50 スピンステップコレオで33.60ということで、鍵山選手あたりは39点を超えてくるわけで、スピンステップで4回転を1本増やすのと同じくらいの差を付けられていますので、この辺ももう少し点を取っていきたい部分になっています。

 

今回のNHK杯は女子は表彰台独占、男子も1位と3位と2人表彰台に乗りました。ペアは三浦璃来/木原龍一組が2位でファイナル進出確定。長岡柚奈/森口澄士組は172.47のパーソナルベストで7位。これは昨季の世界選手権の14位相当のスコアになりますので、世界選手権2枠目の選手として恥ずかしくないスコアを出してきました。アイスダンスは吉田唄菜/森田真沙也組が161.36で9位、田中梓沙/西山真瑚組が151.27で10位となっています。アイスダンスの世界選手権代表争いは、怪我もありますし、直接対決2連勝ということで吉田森田組が一歩リードの様相です。

次週はグランプリシリーズ5戦目、フィンランディア杯です。男子は連戦で3位以内でファイナルが決まる鍵山選手、初戦4位でファイナルに進むには優勝が欲しい山本草太選手、ケガの状態はどうか、という友野一希選手が日本からはエントリー。初戦2位のエイモズ選手とグラスル選手、3位のチャジュンファン選手もファイナルを賭けて参戦、混戦が予想されます。女子はヘンドリックス選手とレビト選手という両シード選手がいたのですがどちらも欠場ということで、日本から初戦2位の松生理乃選手、3位の吉田陽菜選手、さらに2シーズン前のファイナルチャンピオン三原舞依選手の3人で、今期3回目の表彰台独占のチャンスです。アメリカのサラエバーハート選手はNHK杯との連戦になるララナキグットマン選手などもいますが、松生選手と吉田選手にとっては、ファイナル出場権を確保したい試合となります。