書評 世界探検史

『世界探検史』 長澤和俊
講談社学術文庫 A6判 504ページ

原本は1969年に出たという非常に古い本である
世界の、地理的発見、というのだろうか、それについてヘロドトスからアムンゼンまで、網羅的に描かれている

ほとんどの部分は、薄くは知識がある事柄についてのものだった
その、薄い知識の部分を、探検、発見、到達、というところに焦点を当てて掘り込まれている
ただ、古代世界から南極点到達まで網羅的なものになっているため、一つ一つの深さはそれほどない
とはいえ、あまり深く掘られてもついていけないので、軽い歴史好き程度の自分にはちょうど良い塩梅であった


出てくる話のほとんどは、悲惨さに満ちている
古代はまだよかった
記録がそれほど残っていないからだろう、ある程度うまくいった話、あるいはある段階から行方不明程度の話で終わっている
フェニキア人が3年かけてアフリカを一周したらしい、たぶん、なんて言っているうちは平和なもんだ
悲惨さがはっきり表れてくるのが大航海時代あたりからである

スペインのコンキスタドールたちの中南米制服の残虐なこと
蛮勇を持った金の亡者はここまで出来るのか、という描写が続く
同様な残虐さはロシアによるシベリア、カムチャッカ、アラスカの征服でも出てくる
一方で、過酷な自然との闘いという面での悲惨さも多い
太平洋横断、ベーリング海の探索、北東航路北西航路、オーストラリア内陸部、北米内陸部
壊血病、惨殺、虐殺、餓死、凍死
その締めくくりは南極点到達のスコット隊の全滅となる


この、とてつもない量の、死、死、死
死の連続

ごくわずかな成功者さえも、その後の末路は悲惨なことが多い

初めて大西洋を西にわたることに成功したコロンブスは三度目の航海からは鎖につながれての帰国になり、四度目の航海の後宮廷から見放され孤独に死んだ

初めて世界一周に成功した、ということになっているマゼランは、実際にはその途中、フィリピンで原住民の紛争に巻き込まれ死んだ
 世界一周を果たしたのは、彼が率いた船隊の生き残りたちである

インカを侵略しほしいままに略奪を果たし、一つの文明を潰えさせたピサロは、自分が斬首した盟友の子に暗殺される

南太平洋を探索し、伝説の南方大陸は氷山のかなたにあり人が住めるような場所ではない、と断定したクックは、北太平洋の探索時にハワイで住民にバラバラに切り刻まれた

ベーリング海に名を遺すベーリングは、三カ月余り暗いベーリング海付近をさまよったあと、ようやくたどり着いた島で衰弱死した

ハドソン湾に名を遺すハドソンは、部下の反乱にあい無蓋ボートでハドソン湾に放り出された。その後、彼の姿を見た者はいない

そして、南極点にたどりついたスコットは、その帰路、ベースキャンプから20キロまで近づいた地点で吹雪に合い身動きが取れず、一週間以上テントに籠ったまま衰弱死した

 

探検家の歴史は、栄光の歴史ではなく、悲惨さのオンパレードである


探検家に類するようなものになろう、なんて人間は、ハイリスクを好んで取るのだろう
リスク自体を楽しんでいる部分があったり、あるいは、困窮に耐えて進んでいく状態そのものを楽しんでいる部分があることもある
あるいは、得られる膨大なリターンを求めてのハイリスクのこともあるだろう

結果として、ハイリスクの勝負に勝ち続けることは出来ず、やがて、大きな敗北、悲惨な死、へとつながっていく、ということなのだろう


知識の薄かった部分としては、オーストラリアの探検ってこんなに苦労したんだ、というところ
あと北米も
北米は、まあ、確かに言われてみれば北の方寒いし、苦労するかもね、という感じではあるのだけど
オーストラリアがこんなに不毛でこんなに厳しいんだ、というのは初めて知ることだった
東南アジアのすぐそばなのに、なんで現代に近い時期までほとんど空白地扱いだったのかが、初めて少しわかったような気がしている

 

暗いベーリング海での漂流など、読んでいて想像すると気分が悪くなってしまうような場面も多い

それでも総じて、面白かった、といえる内容だった

せっかくなので、もう少し地図が多くあってほしい、という印象はあった
手元に地図を持って、それぞれの経路を追っていければ、さらに臨場感強く読み込めたと思う