ヨーロッパ選手権 悲願の初優勝と反則技

ロシア抜きになって昨シーズンからヨーロッパの勢力図は一変したわけですが、その状態にも少し馴染んできたでしょうか。アジア勢北米勢と対抗できるのはフェルナンデスさんとロシアだけ、という時代がしばらく続いてきていたのが、ようやくそこから抜け出してきているようにも感じられる試合ではありました。

 

○女子シングル(上位12名)

Pl Name Nation Total SP FS
1 Loena HENDRICKX BEL 213.25 74.66 138.59
2 Anastasiia GUBANOVA GEO 206.52 68.96 137.56
3 Nina PINZARRONE BEL 202.29 69.70 132.59
4 Livia KAISER SUI 194.72 66.31 128.41
5 Lorine SCHILD FRA 183.86 63.27 120.59
6 Sarina JOOS ITA 180.83 59.82 121.01
7 Kimmy REPOND SUI 180.82 60.34 120.48
8 Olga MIKUTINA AUT 173.46 63.71 109.75
9 Julia SAUTER ROU 168.40 58.59 109.81
10 Lara Naki GUTMANN ITA 166.01 55.68 110.33
11 Josefin TALJEGARD SWE 165.03 57.33 107.70
12 Emmi PELTONEN FIN 164.74 56.73 108.01

女子はヘンドリックス選手が初優勝。昨季の悔しい負けから今期もフリーミス出ると危ないというところを乗り切ってついにタイトルを獲りました。

2位には連覇ならずのグバノワ選手ですが、オリンピック以来の200点突破でパーソナルベスト更新です。

3位には今季好調、ピンツァローネ選手が入ってきました。初の200点突破でチャンピオンシップ初表彰台です。

4位にはスイスから、リビアカイザー選手が入ってきました。これまでのベストは173.20 グランプリシリーズの出場経験も無く、昨季は世界ジュニア22位という選手が大躍進です。

フランスのシルト選手が5位です。長らく低迷しているフランス女子ですが、久しぶりに上位に絡んできました。昨季世界選手権25位のショート落ちからの躍進でこちらもパーソナルベストでした。

パーソナルベスト連発の女子となりました。そんな中、昨季4位のクラコワ選手がショート落ち。ショートからルッツとフリップ両方入れて勝負に行っていたようですが、裏目に出てしまいました。

 

○ルナヘンドリックス選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 3Lz+3T   10.10   1.26 11.36 2.111
2 2A   3.30   0.80 4.10 2.333
3 3F   5.30   1.14 6.44 2.111
4 2A   3.30   0.71 4.01 2.222
5 CCoSp4   3.50   1.40 4.90 4.000
6 ChSq1   3.00   1.79 4.79 3.667
7 3Lz+2T   7.92 x 1.35 9.27 2.222
8 3F<+2T 6.09 x -1.15 4.94 -2.556
9 3S   4.73 x -0.74 3.99 -1.667
10 FCCoSp4   3.50   0.95 4.45 2.778
11 StSq4   3.90   1.45 5.35 3.667
12 LSp4   2.70   1.16 3.86 4.333
  TES   57.34   10.12 67.46  

ヘンドリックス選手は通常構成で通常の出来でした。フリップ回転不足の分基礎点は削られています。ショートの2位3位の2人が結果的にはいい演技をしたのですが、それより滑走順が先だったのは少し心理的に楽だったでしょうか。さすがの演技でした。

ただ、後半は少し疲れたでしょうか、ジャンプに2つミスは出ています。ヨーロッパはこれくらいで勝てますが、ワールドだとこういうのが入ると届かなくなりそうです。

後は今季はメダル2つ持っているワールドへ進むわけですが、やはりそこで勝つには技術点がもう少し欲しいでしょうか。ループが無い分基礎点で坂本選手に劣りますので、本当にノーミスが求められます。

 

○女子シングル ショートフリー合わせた要素別スコア(上位12名)

Pl Name Total PCS J Base J GOE Spin Step
1 Loena HENDRICKX 213.25 105.86 60.45 5.15 26.19 15.60
2 Anastasiia GUBANOVA 206.52 98.22 66.33 6.24 22.21 13.52
3 Nina PINZARRONE 202.29 94.97 65.29 1.67 25.49 14.87
4 Livia KAISER 194.72 88.78 65.97 5.04 21.70 13.23
5 Lorine SCHILD 183.86 86.32 63.55 0.21 22.26 11.52
6 Sarina JOOS 180.83 85.95 62.63 -2.48 22.14 12.59
7 Kimmy REPOND 180.82 89.77 59.87 -3.63 23.03 12.78
8 Olga MIKUTINA 173.46 87.96 53.32 -6.09 23.89 14.38
9 Julia SAUTER 168.40 82.78 54.49 1.37 19.59 11.17
10 Lara Naki GUTMANN 166.01 86.45 44.22 -0.84 22.19 13.99
11 Josefin TALJEGARD 165.03 86.42 51.21 -6.38 20.27 13.51
12 Emmi PELTONEN 164.74 87.99 44.18 0.43 18.04 14.10

PCSはヘンドリックス選手が1人だけ100点超えて1位です。グバノワ選手、ピンツァローネ選手と総合順位順に続きます。技術点はグバノワ選手がわずかにヘンドリックス選手を上回っていました。上位3人は技術点はほとんど差が無く、PCS差で順位が決まってきています。

ジャンプの基礎点はグバノワ選手が1位で2位はカイザー選手です。ヘンドリックス選手は6位。それほど高くありません。なお、今大会は4回転、トリプルアクセルはありませんでした。3回転構成の中でどれだけミスなく滑るかで基礎点差もついてきています。

加点の方もグバノワ選手が1位です。ヘンドリックス選手が2位でカイザー選手が3番目です。ジャンプで順位付けるとグバノワ選手にカイザー選手が2位で続いてピンツァローネ選手3位にヘンドリックス選手4位という並びになります。

スピンはヘンドリックス選手が26点台で1位。今期シニアで26点台を出しているのはヘンドリックス選手だけです。ピンツァローネ選手が25点台で続きます。

ステップ系要素もヘンドリックス選手が15点台で1位でした。15.60は今季全選手の中で1位のスコアになります。

 

○男子シングル(上位12名)

Pl Name Nation Total SP FS
1 Adam SIAO HIM FA FRA 276.17 94.13 182.04
2 Aleksandr SELEVKO EST 256.99 90.05 166.94
3 Matteo RIZZO ITA 250.87 80.43 170.44
4 Gabriele FRANGIPANI ITA 246.09 83.51 162.58
5 Lukas BRITSCHGI SUI 242.46 91.17 151.29
6 Deniss VASILJEVS LAT 237.42 82.34 155.08
7 Nika EGADZE GEO 233.16 77.00 156.16
8 Vladimir SAMOILOV POL 230.17 71.05 159.12
9 Georgii RESHTENKO CZE 226.67 72.74 153.93
10 Nikolaj MEMOLA ITA 225.88 72.78 153.10
11 Adam HAGARA SVK 220.82 74.97 145.85
12 Mark GORODNITSKY ISR 217.56 77.50 140.06

アダムシャオイムファ選手2連覇。フリーは最終滑走ではなかったわけですが、優勝を確信したような滑りでした。

2位にはエストニアのアレクサンデルセレフコ選手。セレフコ兄弟の兄の方ですが、初のチャンピオンシップ表彰台です。ショートフリー共にパーソナルベストで初の250点超え。エストニア男子として初の表彰台でもありました。これくらいのスコアが出せるとワールドトップ10が見えて、来期のエストニア2枠も見えて、兄弟ワールドの芽が出てきます。もう少し先ですが、兄弟オリンピックにつなげるためにもこれくらいのスコアを維持しつつ、できれば260点台に乗せるくらいになっていきたいところかと思います。

3位にはイタリアのリッツォ選手がショート6位から逆転表彰台にたどり着きました。3回目の表彰台です。怪我を抱えながらなようですが、今期もしっかり結果を出してきています。

同じくイタリアのフランジパーニ選手が4位。冒頭4回転が抜けて3回転になった結果、終盤の3連続の3Lzが3つ目の2回飛んだジャンプとしてカウント外に。これをうまく回避できていれば表彰台が見えていただけに残念でした。

昨季3位のブリッチギー選手が5位。昨季はショート5位からの逆転表彰台でしたが、今期はショート3位の最終滑走というプレッシャーのかかる局面。4回転2本が来あらず、スコア伸ばせず5位に終わりました。

2期前に3位表彰台があるバシリエフス選手は6位でした。この試合で表彰台を狙うなら4回転を回避するのがいいわけですが、ショートフリーと3本入れてきてすべて失敗。安定を選ぶ構成なら表彰台には乗ってきたと思うのですが、世界で勝つためにどうしても4回転が必要と考えているのかと思われます。

上位の有力候補の中ではケビンエイモズ選手がまさかのショート落ち。怪我なのか調子悪いのかなんなのか。このところショートかフリーかどちらかで大崩れ、という試合が続いています。どうしてしまったのでしょうか。

 

○アダムシャオイムファ選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 4Lz   11.50   0.16 11.66 0.222
2 4T F 9.50   -4.61 4.89 -4.667
3 3A+2A+SEQ   11.30   1.14 12.44 1.333
4 4S   9.70   -1.25 8.45 -1.111
5 4T+3T   15.07 x 2.04 17.11 2.111
6 3A   8.80 x 1.14 9.94 1.556
7 StSq4   3.90   1.45 5.35 3.667
8 3Lz+1Eu+2S   8.47 x 1.01 9.48 1.556
9 FCCoSp4   3.50   0.80 4.30 2.222
10 ChSq1   3.00   1.79 4.79 3.556
11 CCoSp4   3.50   1.05 4.55 3.000
12 CSSp4   3.00   1.07 4.07 3.556
  TES   91.24   5.79 97.03  

構成的には今シーズンの基本構成です。3連続の3つ目が2回転になった分基礎点はベスト時より下がりましたがそれでも90点台あります。4回転トーループの1本目が転倒だったので、2本目も転倒するとコンビネーションも入らなくなって危険が出てくるところでしたが、これを降りて、トリプルアクセルまで降りたところでほとんど優勝は見えた、というところだったかと思います。

その結果が、バックフリップ、でしょうか。バク転騒ぎを起こすのは昔からフランスとなぜか決まっているようですが、ここでやらなくてもよかったんじゃ・・・、とは思いました。コレオシークエンスの中か外か微妙でしたが、反則の減点2はあるものの、コレオはしっかり高評価ついています。コレオの外ということなのか、コレオの中だけどGOEには無関係ということなのか、どちらなのかいまいちわかりませんでした。

賛否はあると思いますが、少なくとも、結果的に185.0を出せば逆転優勝出来た最終滑走のブリッチギー選手は、舐めやがってバカヤロー、と怒っていいと思います。自己ベスト176.49を今期出していましたので、コレオを丸ごと-5にされたところにブリッチギー選手がノーミスしたら逆転が十分にあったはずでした。

全体的にジャンプが不安定で、何とか耐えきったという風に見えて、本人比ではあまりいい演技ではなかったでしょうか。それでも270点台後半までは出せているわけで、しっかり世界選手権に合わせてくれば、今期こそは表彰台チャンスがあるかとも思われます。

 

○男子シングル ショートフリー合わせた要素別スコア(上位12名)

Pl Name Total PCS J Base J GOE Spin Step
1 Adam SIAO HIM FA 276.17 131.99 104.64 1.45 25.32 15.77
2 Aleksandr SELEVKO 256.99 123.96 81.85 13.90 22.04 15.24
3 Matteo RIZZO 250.87 125.08 81.22 8.60 22.74 14.23
4 Gabriele FRANGIPANI 246.09 119.56 82.22 9.12 22.20 12.99
5 Lukas BRITSCHGI 242.46 123.10 78.62 2.54 24.62 14.58
6 Deniss VASILJEVS 237.42 126.49 80.25 -9.28 25.90 15.06
7 Nika EGADZE 233.16 111.11 94.70 -5.47 20.09 12.73
8 Vladimir SAMOILOV 230.17 107.23 89.10 5.51 18.88 10.45
9 Georgii RESHTENKO 226.67 100.30 94.37 4.82 19.10 9.08
10 Nikolaj MEMOLA 225.88 109.18 92.68 -5.19 17.45 13.76
11 Adam HAGARA 220.82 103.42 78.81 8.24 19.73 10.62
12 Mark GORODNITSKY 217.56 109.68 72.04 2.64 20.44 13.76

スコア別では技術点PCS共にシャオイムファ選手が1位でした。PCSはバシリエフス選手が2位です。4回転にこだわらなければ表彰台くらいは普通に見えるわけですが、ワールド表彰台を目指すには確かに4回転は必要なわけで。ノーミスが見たい選手ですが、なかなかその辺のバランスは難しいようです。

ジャン宇pの基礎点はシャオイムファ選手1人だけ100点超えです。2番目はエガゼ選手、ほぼ同点でチェコのリシュテンコ選手が続きます。このあたりはショートフリーで4回転2種類合計5本飛んでくれば入ってこられます。セレフコ選手はジャンプの基礎点はそれほど高くない位置でしたが、加点は1人だけ二桁の1位です。フランジパーニ選手、リッツォ選手も加点を大きくもらいました。

スピンはバシリエフス選手が1位です。26点台まで出せる選手ですが、今期はこの25.90がベストです。シャオイムファ選手も25点台で続き、ブリッチギー選手が24点台で3位でした。

ステップ系要素はバックフリップありながらもシャオイムファ選手が1位。セレフコ選手とバシリエフス選手までが15点台をマークしています。

 

男子は2連覇×反則技に、新興勢力が2位に入り、すでにベテラン感のある実績のある選手が3位と、様々な顔が結果を出して見どころ多くありました。女子は、ようやくの悲願の初優勝と、それに続く選手たちのパーソナルベスト祭り。こちらは好演技の連発で非常に印象のいい試合となりました。女子で、ロシア以外で200点に3人乗せたヨーロッパ選手権というのはかつてなかったはずです。表彰台に乗った3人は東アジア勢、アメリカ勢とも十分戦える力が見えて、世界選手権が楽しみになりました。観客の入りどうかな? と心配な部分もありましたが、結構しっかり入っていたようでそこもよかったです。

次は2週空いて4大陸選手権が続きます。アメリカはナショナル終わってなかったりと、まだエントリーの全容もわかりません。また、同時というか直前からというかユースオリンピックもそのあたりで行われます。