書評 宇宙はどこまで行けるか ロケットエンジンの実力と未来

宇宙はどこまで行けるか ロケットエンジンの実力と未来

小泉宏之 著

中公新書 新書版 320ページ

 

2019年2月22日

はやぶさ2がリュウグウへ着陸した

 

人類が地球から飛ばした探査機のなかで、一番遠くまで行って帰ってきたのがはやぶさ初号機である

宇宙はどこまで行けるか? とりあえず小惑星までは行って帰ってこられた。ただし、生物は乗っていないけれど

生物が行って帰ってきた一番遠くは、まだ月面のままで、その記録を塗り替えることは出来ていない

帰ってこなくてよいなら、1977年に打ち上げられたボイジャー1号が今のところ一番遠くにいる。すでに太陽圏は抜け、今は星間空間にいるとされる。

 

本書は、地球から宇宙空間へ飛び出し遠くへ行く、というのはどういうことか? というのが書かれている。

筆者はイオンエンジンの専門家。ロケットエンジンあるいはイオンエンジンについて、大きくページが割かれていて、前半部はそういった、宇宙へ飛び出すための技術について主に記されている。後半は少しづつ地球から遠ざかっていくのであるが、そこにたどり着くための課題、それを乗り越えるための手法、と言ったものが記されていて、最後は太陽系の外まで飛び出していこうとしている

 

まだ現実的には、木星土星といったあたりまでで、太陽系の外、太陽にとって隣の星、隣の恒星であるアルファケンタウリまで行こうとすると、ちょっと現実的ではないレベルの話になってしまうようだ

4光年しか離れていないアルファケンタウリでも、そこを探査しようとするとボイジャー1号の速度で到達まで8万年、今ある技術の限界まで考えても1,400年かかる、という結論が出ている。人類が隣の星まで出かけていくのはまだまだ遠い先のことなようだ。

 

人類が向かうべき場所、として本書で真面目に検討されていたのはやはり火星である。火星を有人探査するには? という検討では、技術的にはやりようがあるけど最大の問題はお金、ということになっていた。このレベルならお金の問題にまで降りてきてくれるだけの技術の進展はあるようだ

金額目安は最安値で考えても10兆円。まあ、30兆円くらいが妥当、というのが結論となっている。アポロ計画が9年で13.5兆円相当を費やせたのだから、20年掛けて1.5兆円づつかければできるんじゃ、ということになっているが、アポロ計画の時代のような、国民一丸となって、というような世相でもないし、これだけの巨額の費用はなかなかアメリカでも捻出できないだろうな、と思わされる。

 

ただ、現代はアポロ計画の時代と比べても、けた違いの金持ち個人がいるので、そちらの方が可能性があるのではないか? という期待も出来ると思われる。昨年か一昨年の段階で、世界一の金持ちはアマゾン創業者のジェフベゾスとされているが、その資産が1,120億ドル。ジェフベゾスは宇宙開発に強い関心を示していて、宇宙開発企業も作っているので、自身で資産を投入し、コストを下げる研究を重ねていけば、火星探査を自力で行えるだけのものを作り上げられるのではないか。

ジェフベゾスは先にまず月へ到達したいようなので、それからにはなるのだと思いますが、宇宙探査も金持ち個人が主役になっていく時代なのかな

まあ、誰が主役でもいいですが、火星で鉱物資源を掘ってる、くらいの時代が生きている間にみられたらと思ったりします

 

宇宙に興味があり、ある程度読書力のある中学生くらいから、大人まで読める本かと思います。

宇宙探査にすでに詳しい大人にとっては、多少浅いと感じる部分もあるのかもしれませんが、それほど知識が深くはない、という自覚がある程度の人にはこれで十分ですし、そういった人に読みやすくなっています

作者がイオンエンジンの専門家なので、はやぶさブームのころに、イオンエンジンってなんだ? と興味を持った方が、はやぶさ2のプロジェクトが話題になっている今、改めて読んでみる、というのにもいいかもしれません