全日本選手権19 女子シングルプレビュー

 

全日本選手権の季節が今年もやってきました。

今回は、女子シングルのプレビューです。

 

グランプリシリーズに出場した8選手を中心にみていきます。今シーズン、国際試合はチャレンジャーシリーズからグランプリファイナルまで、ほとんどの選手は3戦、紀平選手のみ4戦、白岩選手は2戦しています。ジャパンオープンはフリーしかありませんでしたので除きます。

チャレンジャーシリーズとグランプリシリーズ、ファイナルまで含めて、延べ281選手が滑った記録から、平均と分散を取り、それを元に、各選手の偏差値を計算させました。総合スコアの他に、ジャンプの基礎点、ジャンプの加点、スピン(基礎点+加点)、ステップ(基礎点+加点 コレオ含む)、PCSの六項目で偏差値を求め、レーダーチャートで表示させます。

 

 ●坂本花織

Grade Event Pl Total SP FS
CS Nepela Memorial 2 194.42 59.97 134.45
GP Skate America 4 202.47 73.25 129.22
GP Internationaux de France 4 199.24 64.08 135.16

 

坂本花織スケート偏差値


昨年優勝で連覇を目指す坂本選手は、今シーズン3戦して、まだ200点台は1試合だけ。ファイナルまで進んだ昨シーズンと比べるとやや不調、というシーズン前半でした。

ショートの最高点はスケートアメリカの73.25 これは悪くないのですが、フリーは一番良くてもフランス杯の135.16にとどまっていて、まだ140点台がありません。

得点は三試合でいい時と悪い時で8点ほどしか変わらないのですが、中身はだいぶ変わっているようです。ジャンプの基礎点が一番高かったのはフランス杯なのですが、加点が全然取れず、という形。一方、基礎点低かったスケートアメリカは加点をしっかりとれました。加点が取れなかった試合は転倒の大幅減点が痛く、加点が取れている試合は転倒はないけれど3回転予定のジャンプが2回転になるのが目立った、というものです。

そこがしっかり合わされば、すぐに210点くらいにまでは届くのですが、全日本では果たしてどうでしょうか。

チャートの形としては左側偏重で、ステップPCSで点を取る形です。左側は比較的表現面で評価される選手が伸びる要素。ジュニア時代のイメージとは一新していますが、本意ではおそらくないのでしょう。ジャンプの基礎点が偏差値60を超えない、というのは意外な姿です。

また、スピンの偏差値は50台前半。まだ今シーズンはスピンのレベル4がショートフリーで6つそろった試合がありません。昨年のような競った試合になると、こういうところの1点2点が効いてくるということもあるかもしれません

一方、力を入れているというのをよく聞くステップは高評価。グランプリ2試合では60台後半の偏差値になっています。レベル4をしっかり並べていました。

昨シーズンは、世界選手権222.83、国別対抗戦では223.65と220点台前半までのスコアは出すことが出来ていますので、本調子に戻っていれば連覇のチャンスもあると思われるのですが、果たしてどうなるでしょう?

 

 ●紀平梨花

Grade Event Pl Total SP FS
CS Autumn Classic 1 224.16 78.18 145.98
GP Skate Canada 2 230.33 81.35 148.98
GP NHK Trophy 2 231.84 79.89 151.95
GPF Grand Prix Final 4 216.47 70.71 145.76

 

紀平梨花スケート偏差値

紀平選手は唯一国際試合を4戦こなしています。グランプリ2戦は230点台に乗せ、一番悪い時でも216.47 このスコアは、他の選手の一番いいスコアを上回っているものであり、今大会の優勝候補最右翼であることは間違いないと言えそうです。

チャートはバランス型なのですが、ファイナルはいろいろありまして、ジャンプの加点が全然得られなかった、という構図がありました。NHK杯ではジャンプ加点の偏差値が75.20で振り切れているんですけどね。

紀平選手の中で見ると、スピンは60台前半の偏差値になっていてやや弱い部分ではあります。ただ、それでも、日本勢の中ではトップ。順当にいけば国内ではだれも太刀打ちできない、という水準に今シーズンはなってきました。

紀平選手の勝敗のポイントは、勝ちにいくかどうか、というところになって来るのではないかと思います。勝ちに行くなら四回転は不要ですので、トリプルアクセル3本コースでいい。一方で、先を見据えて四回転投入、となった場合には、ファイナルの時のような流れになる可能性もありそうです。ファイナルでは四回転は転倒したけれどあとはよくまとめた、ということになっていますが、実際には、紀平選手ない比較で見ても、四回転以外の部分の加点は小さめでした。細かいところでやはり四回転の影響はあったようですので、そこにさらに焦りのようなものも加わって、もうひと崩れすると、全日本初優勝、というものが遠のく可能性もあるかもしれません。個人的には、そのリスクはあっても表彰台から落ちるリスクはほぼないと思うので、四回転は先を見据えて入れておいた方がいい、と思いますが、初優勝というタイトルを優先する考え方もあるとは思います。

 

宮原知子

Grade Event Pl Total SP FS
CS US International 1 204.30 74.16 130.14
GP Cup of China 2 211.18 68.91 142.27
GP Rostelecom Cup 4 192.42 63.09 129.33

 

宮原知子スケート偏差値


昨年三位の宮原選手は二年ぶり5回目の優勝を目指します。

今シーズン、悪いながらも200点は二度超えていますが、ロステレコム杯で国際試合連続200点試合が15試合で途切れることになりました。

シーズンベストは211.18 ショートフリーの一番いいスコアを合わせれば216.43となり、ファイナルの紀平選手のスコアに匹敵します。

レーダーチャートは完全な左寄りスタイル。表現面で評価される選手の傾向です。ステップは日本人選手中のトップ評価というだけでなく、USインターナショナルの偏差値71.91は今シーズンの全選手中最高です。

その辺はさすがなのですが、昨シーズン盤石だったスピンが今シーズン今一つ点が取れていません。昨シーズンは国際試合前後試合、30回あったスピン要素すべてでレベル4だったのですが、今シーズンはすでに二つ、レベル3がありました。特に、世界最高とも評される、昨シーズンは全選手全要素中ただ一人のGOE満点を出したレイバックスピンで、ロステレコム杯ショートプログラムではレベル3と取りこぼし。あまりない姿なので心配です。

また、やはりジャンプが泣き所になってしまっています。中国杯ではショートで二つフリーで三つ、合計五つの回転不足。ロステレコム杯ではショートで2回転になるのが一つに、フリーは5つの回転不足。逆に言うと、それだけ回転不足があるのに中国杯では210点台の表彰台、というのはすごいこととも言え、回転不足の修正さえできれば220点台半ばまでは届く、という計算もあります。ジャンプの矯正がどこまで進んでいるかがカギ、なのでしょうか。

一方、回転不足が積み重なり、スピンのレベルの取りこぼしなんかがあると、190点台にまで落ち込む、というのがロステレコム杯で出てしまっていますので、この水準まで下がってくると、表彰台から落ちる危険性もあります。

 

樋口新葉

Grade Event Pl Total SP FS
CS Lombardia Trophy 8 164.37 52.33 112.04
GP Skate America 6 181.32 71.76 109.56
GP Internationaux de France 6 174.12 64.78 109.34

 

樋口新葉スケート偏差値

昨シーズン4位の三原舞依選手は欠場ですので、次は昨シーズン5位の樋口新葉選手。

シーズンベストスコアが181.32と伸びていません。このスコアはグランプリ組8人の中で6番目です。フリーのシーズンベストが112.04 なかなかうまくいっていません

レーダーチャートはやや左よりでしょうか。ジュニアから上がってきた段階ではジャンプが得意、という選手だったのですが、今はジャンプがうまくいかず苦しんでいるようです。

スコア的に唯一良かったのはスケートアメリカショートプログラム。71.76が出せれば、全日本でもフリーで勝負、というくらいにはなるスコアですし、この71.76の時もスピンでレベル2が一つ、レベル3が一つ、と取りこぼしがあるので、パーフェクトに滑った時の到達点はまださらに上、というのがありえます。

全日本でトリプルアクセル投入、というのはシーズン序盤の流れを見ているとなさそうですが、実際どうなんでしょう、最近の調整具合は。トリプルアクセルの練習が他のバランスを崩してしまっている側面もあるようなのですけれど。昨シーズン、結果的に5位でしたが、シーズン序盤の不調具合と比べると、かなりいい点数を出していました。全日本には割と合わせてくる選手だと思いますので、しっかり合わせてくれば表彰台チャンスはあるし、四大陸枠を争う有力選手であることは間違いないですので、一発当てる姿を見たいなあ、と思います。

 

●山下真瑚

Grade Event Pl Total SP FS
CS Nepela Memorial 6 163.54 55.99 107.55
GP Skate America 12 142.40 46.21 96.19
GP NHK Trophy 5 189.25 65.70 123.55

 

山下真瑚スケート偏差値

 

昨シーズン6位の山下真瑚選手。今シーズン序盤はどうなることかと思いましたが、NHK杯では元気な姿を見せてくれました。シーズンベストスコアは189.25 グランプリ組8人の中では5番目です。ショートフリー共に、グランプリ2戦目のNHK杯がシーズンベスト。この流れで全日本に入ってくれば上位に絡むチャンスもあるんでしょうか。

レーダーチャートは右寄り。ジャンプ型です。NHK杯のジャンプ基礎点の偏差値58.62は今シーズンの坂本花織選手、宮原知子選手のジャンプ基礎点偏差値を上回ります。一方、スピンステップは、いい試合でも偏差値が50を少し超えたくらいのところにいます。

スピンステップがこの水準で、ジャンプがしっかり決まったNHK杯、というのはいまの山下選手のほぼベストな出来かと思いますので、さらに上で勝負、というのは今シーズンは少し難しいのかもしれません。

190点台のスコアだと表彰台は上がだいぶ落ちてこないと少し厳しいでしょうか。ただ、四大陸枠争いの4番手は十分狙える水準かと思います。

 

 ●横井ゆは菜

Grade Event Pl Total SP FS
CS Finlandia Trophy 3 191.90 65.09 126.81
GP Rostelecom Cup 6 182.68 56.51 126.17
GP NHK Trophy 4 189.54 62.67 126.87

 

横井ゆは菜スケート偏差値

昨年はショート6位で最終グループに入り、フリーも6位、総合7位に入った横井選手。今シーズンのベストスコア191.90は、今回の全日本出場選手中4番手です。一番悪くても182.64と180点台にまとめています。まあ、ちょっと、国内の試合では点数的にこの辺よりだいぶ落ちるものもあるのですけれど・・・。

ジュニア時代は海外での試合は弱く、国内なら点が出る、という選手だったのですが、今シーズンは海外でも目だって悪いというところはないです。ただ、ショートで失敗してフリーで頑張る、というのがグランプリ2戦で続きましたが、これは昨シーズンのジュニア時代と同じ構図なようには見えます。

レーダーチャート的にはバランス型に近いでしょうか。全大会の全要素区分において、偏差値50を下回るものがありません。大きな欠点弱点はない、ということを示しています。

ジュニア時代から表現力に定評がある、という扱いの選手でしたが、今のところPCSは、ジュニア上がり1年目ですね、という扱いなこともあるのかあまり伸びていません。また、ステップで高いか点を得るようなこともなく、偏差値的に一番高くなっているのは、フィンランディア杯でのジャンプのGOE。これだけが唯一偏差値65を超えています。

今シーズン、大崩れがないのは、ジャンプの回転不足が少ない、というのが一つ理由として挙げられそうです。3試合で回転不足扱いになったのは、フィンランディア杯ショートプログラム冒頭の三回転-三回転の二つ目、のみです。他は、3回転したいのに2回転にしてしまった、というのが実は結構ありますが、そういう、抜けはあっても、回転不足は少ない。

一方で、スピンステップ含め、全体的に上位と比べると加点が小さい、というのが現状あります。GOEで+5を付けたジャッジは、3大会で19×3の全57要素中、ダブルアクセルで3回あっただけでした。+4もあまり付きません。そのあたりの一つ一つの要素の出来、という部分で上位3強とは差がある、というのが今シーズン3大会の結果から見えることです。

シーズンベストは4番目ですし、国内大会では200点を出していますので、国内大会である全日本選手権では、表彰台のチャンスもありますが、今の力関係からすると、四番手の四大陸枠を争う最上位、というところにいる、というように見えます。

 

 ●白岩優奈

Grade Event Pl Total SP FS
GP Internationaux de France 9 161.71 63.12 98.59
GP Rostelecom Cup 10 170.03 60.57 109.46

 

白岩優奈スケート偏差値

 

白岩選手は昨シーズン9位。全日本はジュニアデビュー年の5位が最高です。

今シーズンの国際試合出場はまだ二試合。体調が優れないようで、出来はまだ暇一つという感じです。体力的な問題にもなるのでしょうか、ショートは基礎力があるので多少崩れても60点台に踏みとどまるのですが、フリーで100点前後に終わってしまって総合点が伸びない、という二試合でした。

レーダーチャートは左より。表現面で定評のある選手の形状ですが、実際には、シニアである程度評価されたことがあってPCSはある程度の水準まで高まった選手が、ジャンプのミスが出るとこうなる、というチャート形状でもあります。

ジュニア時代はポンポンジャンプを決めてくる選手、という印象で、フリーでは最初の要素3つでコンビネーション二つを含めて、五種類のジャンプすべて決めてくる、という、とにかく跳びまくる選手だったのですが、最近ちょっと元気がないでかすね。

まずは体調の回復が最優先でしょうか。力のある選手なはずなので、万全な状態で挑めれば一発チャンスはあると思うのですけれど

 

 ●本田真凛

Grade Event Pl Total SP FS
CS Nebelhorn Trophy 5 174.01 58.08 115.93
GP Skate Canada 6 179.26 59.20 120.06
GP Cup of China 7 168.09 61.73 106.36

 

本田真凛スケート偏差値

本田真凛選手は昨年は15位でした。全日本最高位はジュニア二年目のシーズンの4位があります。

今シーズンは三試合でベストスコアは179.26と180点にまだ届いていません。

ショートは少しづつ点を伸ばして中国杯では61.73と60点台まで乗せました。フリーは、交通事故に見舞われたスケートカナダが実は一番高い120.06を出しています。スケートカナダのフリーは構成を落としているはずですので、今の状態だと、構成を落として角度を上げた方が点が出る、というように見えます。スケートカナダはジャンプのGOEは偏差値60を超えてきていました。

レーダーチャートは完全な左寄り。構成落としたスケートカナダより、ケガの影響はほとんど消えていた中国杯の方が、回転不足が目立ったことでジャンプは点が出ませんでしたが、スピンステップPCSは高いスコアが出ています。

その二つの両立、すなわち、構成落として完成度で勝負、ケガの影響は消えてるし、戦略で臨めば190点あたりまで出す力は十分にある計算になるのですが、その点数だと表彰台は争えない。未来を目指すなら挑戦プログラムで、となって、完成度で不安がある。さあ、どうする? というのが今の立場なのでしょうか。

本田家はどうもルッツが苦手で、兄の太一選手も、フリーで単独フリップにしていたり、妹の望結選手もまだほとんどトリプルルッツは飛べません。という中で真凛選手も、実は今シーズンルッツが飛べていないのですが、そこまで入れてノーミスすれば、基礎PCSが170点台の選手としては極めて高いので、上位で戦える可能性があります。

 

 

女子シングルスケート偏差値

 

最後に、各選手の合計点が一番いいスコアの時のレーダーチャートを重ねてみました。

紀平選手の水色が目立って外側にあるのがわかります。左側では宮原選手の黄色、坂本選手の赤も割と目立っているでしょうか。

 

 

日本人選手女子シングルのSPとFS

各選手の今シーズンの国際試合のショートとフリーを記します。ひし形はチャレンジャーシリーズ、丸はグランプリシリーズ、星はグランプリファイナルです。

 

日本女子シングルの技術点演技構成点

これは、技術点と演技構成点のプロット差

ショートフリーよりも、こちらで見た方が各選手のばらつきは小さめです。ショートがいい時フリーがいい時、というのは時によって分かれても、技術点と演技構成点の取り方は結局同じ人が滑るなら割と似てくる、ということなのでしょうか。

 

紀平選手が一人抜けていて、坂本選手宮原選手まで含めた三強もやはり抜けていて、四番手以下混戦、というのがグランプリシリーズまでの戦績から見える状況ですが、実際滑ってどうなるでしょうか?

 

以上、全日本フィギュア19の女子シングルプレビューでした