全日本選手権19 男子シングルプレビュー

 前回女子シングルのプレビューをしましたので、今回は男子シングルになります。

グランプリシリーズに出場した6人と、ジュニアグランプリファイナルに出場したジュニアの2人、合わせて8人を中心にみていきます。

今シーズン、国際試合はジュニアグランプリシリーズにチャレンジャーシリーズ、さらにグランプリシリーズがあってファイナル、という流れ出来ました。上記8選手はほとんどが3試合、羽生選手のみ4試合出場しています。ジャパンオープンはフリーのみなので除きます。

チャレンジャーシリーズとグランプリシリーズ、ファイナルまで含めて、延べ281選手が滑った記録から、平均と分散を取り、それを元に、各選手の偏差値を計算させました。総合スコアの他に、ジャンプの基礎点、ジャンプの加点、スピン(基礎点+加点)、ステップ(基礎点+加点 コレオ含む)、PCSの六項目で偏差値を求め、レーダーチャートで表示させます。

なお、ジュニアの二人は、プログラムにコレオシークエンスがないので、そこは補正を加えています。ショートフリーのステップのGOEの平均に0.5を掛けた値(コレオはGOE1あたり0.5の加点)をステップのGOEに、コレオシークエンスの基礎点分の3点をステップの基礎点に加えた上で、偏差値計算しています。ただし、合計点は補正していません。

また、ジュニアの二人は、自分が母集団に含まれていない、チャレンジャーシリーズやグランプリシリーズの試合の平均や分散を元に偏差値計算するのは本当はおかしいのですが、全体の比較のために、そういった形の計算にしています。

 

宇野昌磨

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
CS Finlandia Trophy 1 255.23 92.28 162.95
GP Internationaux de France 8 215.84 79.05 136.79
GP Rostelecom Cup 4 252.24 87.29 164.95

 

宇野昌磨スケート偏差値

 

昨年優勝で4連覇目を目指す宇野昌磨選手ですが、今シーズンは不調です。フランス杯はひどい出来でした。とはいえ、後の二戦は250点には乗っています。255.23というシーズンベストは、日本人選手の中では羽生選手に次いで2番目。結局、不調でもその位置にはいるわけです。

レーダーチャートは本質的にはバランス型なようなのですけど、フランス杯のジャンプのGOEはひどいですね・・・。そこに目を瞑れば基本的にはバランス型。本来、あんまり穴はないんじゃないかと思われます。

どこまで本調子に戻っているんでしょうか、というあたりがきっとポイント。

今シーズンまで四回転サルコウは一度も決まっていないし、四回転のフリップも成功率が低かったりするのですが、どこまでの構成で試合に出てくるでしょう。

 

田中刑事

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
CS US International 1 249.96 88.76 161.20
GP Skate Canada 3 250.02 80.11 169.91
GP Cup of China 5 233.62 74.64 158.98

 

田中刑事スケート偏差値

昨シーズン2位の高橋大輔選手は、今シーズン国際試合の出場無し、どころか国内の試合も出ておらず、データが何もありませんので飛ばします。

田中選手は三年連続で表彰台に乗っていて昨シーズンは3位。今シーズンのベストは250.02と250点に乗せています。ちょっと気になるのは、ショートプログラムのスコアが下降気味なこと。今シーズンはジュニアがかなり強いので、70点台前半だと最終グループに入れない可能性もあります。グランプリ2戦ではショートで四回転が不発で三回転になっているのですが、全日本ではしっかり入れられるかどうか。

レーダーチャートは、なんでしょうこれ、試合によってバラバラです。USインターナショナルではジャンプの基礎点が高かったもののGOEは得られず、一方でステップは伸びました。スケートカナダはジャンプは基礎点はいらないけれど加点は伸びてPCSもよかった。中国杯は全体的に悪い・・・。全部そろえばかなりの高得点が期待できるのだけど・・・、というのが今シーズンの出来なようです。

田中選手の四回転は基本的にサルコウが入っていたのですが、今シーズンは積極的にトーループも入れて、二種類入れてショートフリー合計で4本飛びたい、という構成に見えます。ただ、まだ四回転トーループが今シーズン加点までついたものがありません。サルコウはそこそこ決まってくるのですけれど。ショートフリーで四本の四回転が入れば、世界でも上位で勝負できるのですけれど、今回世界選手権の出場圏内に確実に入るには、サルコウのみで2本ないしは3本にしておいた方が確率高いように見えるのですけれど、さて、どんな構成でくるでしょう

 

 ●友野一希

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
CS Lombardia Trophy 7 203.08 61.69 141.39
GP Skate America 5 229.72 75.01 154.71
GP Rostelecom Cup 8 237.54 80.98 156.56

 

友野一希スケート偏差値

昨年四位の友野選手は初の表彰台を目指す、という立ち位置です。

今シーズンはシーズンベストが237.54 あまり伸びていませんが、ショートもフリーも試合ごとにスコアを伸ばしてきています。

レーダーチャートは左よりですかね。ロステレコム杯ではジャンプのGOEもそこそこ出て偏差値50代後半くらいにはなっていましたが、それでもPCSやステップの方が偏差値的には高く出ます。最近はステップレベル4を並べることが出来て、GOEも結構つくので、ロステレコム杯ではポイントにして14.93 偏差値67.67という高評価を得ました。これより上は今シーズン、羽生結弦、ネイサンチェン、ケビンエイモズ、ジェイソンブラウン、といった世界的にも評価の定まった4人の選手のみ。羽生選手のファイナルのスコアよりも高く、日本人選手では2番目の位置です。

今シーズンはショートで四回転二本、フリーも二本、という構成を組んでいますが、まだ不発です。冒頭の四回転トーループがしっかり決まらない。元々飛んでいたサルコウも確率的には半々程度なこともあり、そこで点が取れないのでトータルスコアもまだ伸びてきていない、という構図があります。国際試合3試合、ショートフリー合計6回のステップがすべてレベル4なのは、日本人選手では友野選手のみ。ただ、スピンでレベル4をあまり取れないのでジャンプ以外のベースが高い、と言えないのがちょっと痛いのですが、四回転四本入れば表彰台のチャンスは十分ありそうです。

 

 ●島田高志郎

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
CS Nebelhorn Trophy 2 214.98 74.32 140.66
GP Skate America 10 216.22 72.12 144.10
GP NHK Trophy 9 213.65 75.98 137.67

 

島田高志郎スケート偏差値

昨年はジュニア枠ながら5位に入った島田高志郎選手。今シーズンは苦しんでいてベストスコアは216.22です。グランプリ2戦、ランキングポイントが取れなかったの痛かったです。トータルスコアが210点台だと、グランプリシリーズとチャレンジャーシリーズも併せての全体の平均点付近となってしまいます。

レーダーチャートは、何とも言い難いですがしいて言えば下に伸びている感じでしょうか。

スケートアメリカのスピンは偏差値60に乗っていて、今シーズンこれより高いスコアがあるのは日本人選手だと羽生選手、宇野選手に鍵山選手の三人までです。スピンで点を取るあたりはランビエール門下生な感じは出ています

今シーズン、何が厳しいって四回転がまだ決まっていないこと。ショートフリーで四回転トーループ1本づつなのですが、着氷したのも1回だけ。その1回もGOEマイナスなので、しっかりした四回転がまだ飛べていません。四回転が決まれば、四大陸枠争いくらいには入ってこられるんじゃないかと思うのですが、一本も決まらないとちょっと厳しい、という現実があります。

 

 

 ●鍵山優真

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
JGP JGP Courchevel 1 234.87 80.61 154.26
JGP JGP Baltic Cup 2 245.35 84.72 160.63
JGPF JGP Final 4 227.09 71.19 155.90

鍵山優真スケート偏差値

昨年6位の鍵山優真選手は今シーズンもジュニアです。シーズンベストは245.35 昨シーズンならジュニアのシーズンのというか歴代の最高得点に当たるスコアですが、今シーズンだとそのスコアを出してもその試合で優勝もできない、というハイレベルなジュニア勢です。ファイナルも惜しかった。

レーダーチャートは下に伸びた形になっています。ジュニアなのでPCSはまだ伸びない。ジュニアなのでショートに四回転は入らず、フリーに二本だけの構成なのでジャンプの基礎点も低くはないですがそれほど伸びず偏差値50台後半にとどまっています。一方で、出来栄えが問われるステップスピン、さらに出来栄えそのもののジャンプGOEは高評価。レーダーチャートの面積が小さいように見えますが、これ、軸の一番上偏差値80ですからね。そうなると全体が下に縮まらざるを得ない。ジュニアグランプリの2戦目でジャンプのGOEが偏差値にして73.6なんてところまで行ってしまったため、軸が伸びてしまいました。

ベストスコアは245.35点ですが、全日本はシニアルールでフリーにコレオシークエンスが入ることで単純計算で250点ほどにまではなります。さらに、ショートで四回転が飛べますので、その分も加味すると250点台後半までは今のままで出せる計算になります。

全日本ジュニアで優勝している鍵山選手は、実は全日本選手権で懸かっているものが特にない、という立場です。全日本ジュニア優勝者は世界ジュニアの出場権がもらえますので。失うものが本当に何もないので攻めた構成で挑むことができます。表彰台に乗る可能性も十分にありそうです。

年齢的には四大陸出られないこともないのですけど、1月半ばにユースオリンピックもすでに入っているので、シニアのミニマムスコアを取りに行く時間的余裕もなさそうですし、そのコースはなしかな。

 

 ●山本草

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
CS US International 2 240.11 82.88 157.23
CS Finlandia Trophy 2 223.24 92.81 130.43
GP NHK Trophy 6 226.27 74.88 151.39

山本草太スケート偏差値

昨年は9位だった山本草太選手。

今シーズンはチャレンジャーシリーズ2戦にグランプリシリーズ1戦、とこなしてきています。グランプリシリーズのエントリーがNHK杯以外のところなら、NHK杯が地元枠で回ってきての2試合になったのではないかと思ったりもするのですが、結局1試合。チャレンジャーシリーズを昨年同様2試合回って、ランキングポイントを得よう、としている感じも見えるので、来年は2試合入るといいのですけれど。

シーズンベストスコアは240.11  昨シーズン後半に250点台を出してますので、それと比べるとまだ低めなスコアです。フィンランディア杯でショート92.81を出しているので、フリーもそろえば250点に乗せられるところだったのですけれど、この試合だけフリーは130点台と当たらず。ショート92.81は今シーズンの日本人選手では羽生選手に次いで2番目ですので、全日本ではフリー最終グループ後半、何なら最終滑走、という目もあるかもしれません。

レーダーチャートは、一定しませんがバランス型に近いのでしょうか。滑りに定評のある選手なのですが、意外と左サイドが伸びてません。ステップは基本レベル3で、レベル4が取れないこともありあまり伸びていません。PCSも意外と出ていない。スピンもレベル4が集まっているわけでもない。ということで滑りの印象ほど点が出ない傾向があるようです。

今シーズン、ジャンプは、ショートで4回転2本、フリーで3本の5本構成を組もうとしているように見えます。5本まで入ると、それより多いのは羽生選手宇野選手だけ、となる構成。実際に決まったのは3試合とも3本にとどまっています。3本入れば十分高得点になるはずなのですが、決まらなかった2本が2回転になってしまいがちなので、2回転が2本となると基礎点の減り方が極端なんですよね。その辺を、回転不足だけど降りている、というくらいにまで持ってこられると表彰台も見えてくるくらいのところにいます。

 

 ●佐藤駿

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
JGP JGP LakePlacid 1 217.12 79.19 137.93
JGP JGP Croatia 3 219.69 78.41 141.28
JGPF JGP Final 1 255.11 77.25 177.86

佐藤駿スケート偏差値

昨シーズン12位だった佐藤駿選手、今年はジュニアグランプリファイナル優勝の肩書を持って全日本に挑みます。

シーズンベストスコアは255.11 これは羽生選手宇野選手に次ぐ3番目のスコアです。フリー177.86に至っては羽生選手に次ぐ2番目。ファイナルのスコアはそれほどまでのスコアでした。

レーダーチャートは完全な左寄り。ジュニアグランプリシリーズは四回転が不発でスコアが今一つ伸びませんでしたが、ファイナルは四回転のルッツまで入れての3本構成を完璧に決めてハイスコアを出しました。ジャンプのGOE偏差値は驚愕の76.13 これを上回るのは、もう、ネイサンチェン選手と羽生結弦選手しかいません。

フリーはこの構成のまま行くとして、ショートプログラムはどうするでしょう。四回転禁止なジュニア構成と比べると、四回転二本を足すことができるのですが、それをやるかどうか。しかもルッツ入りで。そこまでやると、理論的には275点くらいまでは伸ばせるんですけれど、ちょっと難易度高すぎますかね。でも見てみたい。

 

 ●羽生結弦

Grade Event Pl Total SP TSS FS TSS
CS Autumn Classic 1 279.05 98.38 180.67
GP Skate Canada 1 322.59 109.60 212.99
GP NHK Trophy 1 305.05 109.34 195.71
GPF Grand Prix Final 2 291.43 97.43 194.00

 

羽生結弦スケート偏差値

羽生選手の全日本選手権出場は4年ぶりです。インフルエンザ、ケガ、ケガ、でしたかね。全日本で最後に負けたのは2011年。あとは勝つかお休みかです。

シーズンベストスコア322.59は別格。ショートもフリーも日本人選手の中ではとびぬけたトップです。

レーダーチャートも偏差値軸が90まであります。ジャンプのGOEを稼ぎすぎているので右寄りになってますが、PCSなんかは上限が決まっているからこうなっているのであって、ジャンプ偏重と呼ぶのはちょっとナンセンスな感じになります。

スケートカナダではトータルスコアが偏差値80.54 ジャンプGOE偏差値87.44 3シグマの上をいく、というもはや異常値扱いなスコアです。

そんな羽生選手でも、オータムクラシックはショートフリーで回転不足4つありGOEがあまり得られない、なんてことはありました。

どういうモチベーションでこの大会に臨むのでしょうか羽生選手は・・・。

 

 

日本人男子シングルスケート偏差値

最後に、各選手の合計点が一番いいスコアの時のレーダーチャートを重ねてみました。

羽生選手の緑は全項目で一番外に出ています。かすっているのは、友野選手のステップくらいですかね。ジャンプGOEはジュニアの二人がだいぶ外側に来ています。