全日本選手権21 男子レビュー3

前回に引き続いて男子シングルの上位選手の構成要素を見てみます。

 

○上位12選手の要素別スコア

Pl Name Total PCS J Base J GOE Spin Step
1 羽  生  結  弦 322.36 145.83 103.70 27.52 28.11 17.20
2 宇  野  昌  磨 295.82 139.70 102.75 15.64 24.16 14.57
3 鍵  山  優  真 292.41 136.58 101.77 14.62 26.02 14.42
4 三  浦  佳  生 276.16 122.01 104.13 14.84 22.63 12.55
5 友  野  一  希 263.67 126.37 91.04 6.86 24.43 14.97
6 三  宅  星  南 252.82 121.90 89.64 4.95 23.08 14.25
7 佐  藤      駿 252.13 118.15 95.07 4.21 23.57 12.13
8 山  本  草  太 240.18 121.89 77.85 2.22 25.04 14.18
9 壷  井  達  也 235.21 107.57 84.36 11.73 20.30 11.25
10 島  田  高志郎 233.67 117.46 75.69 2.97 25.04 12.51
11 田  中  刑  事 232.42 121.71 65.39 8.30 23.66 13.36
12 本  田  ルーカス剛史 225.22 110.22 81.12 -1.76 23.17 13.47

男子は上位12人とその下の落差が大きいので、上位12人のみを出してきました。

PCSは羽生結弦選手が限界近い145.83を出しています。男子のPCSは150点が満点。上積み余地はもうほとんどありません。

130点台後半、平均9点を超えるスコアを出したのは宇野選手に鍵山選手。宇野選手と鍵山選手はPCSの差がほとんどそのままスコアの差になりました。

PCS4番手は友野一希選手になります。126.37は1項目当たり8点台中盤です。平均8点にあたる120点に乗せたのは三浦佳生選手、三宅星南選手、山本草太選手に田中刑事選手。グランプリ未経験の三宅選手が山本草太選手や田中刑事選手をPCSで上回りました。実績比例でスコアが出がちなPCSでこれは珍しいケースかと思います。

 

ジャンプの基礎点トップは三浦佳生選手になりました。上位4人が100点超え。内訳は様々ですが僅差です。4回転の本数だけでは決まらない。セカンド3回転やコンビネーションをしっかり入れられるかなど、ジャンプすべてでうまくいかないと、4回転の本数が多くても基礎点が押し下げられます。ジャンプのイメージの強い佐藤駿選手は95.07で5番目。今回は基礎点から削られるミスが多かったようです。

 

ジャンプの加点は羽生結弦選手が群を抜いています。ここで10点以上の差がつく。ジャンプでどれだけ加点が取れるかが頂点を極めるには非常に重要なようです。羽生選手に次ぐ位置には宇野選手、三浦選手、鍵山選手が15点前後で固まっています。もう一人二桁の加点を稼いだのが壷井達也選手。4回転は1本だけですが、出来栄えで稼いだのでジャンプで稼いだスコアとしては高めになります。

 

スピンも羽生選手が圧倒的。ただ一人28点台です。国際大会でも見たことない点数でした。それに次ぐのが鍵山選手で26点台に乗せています。26点まで出るとスピンのスコアで世界でも上位に決ます。山本草太選手と島田高志郎選手が25点に乗せて同点で3番目。トータルスコアでは上の方に入ることは出来ませんでしたが、得意分野での美しさは見せてくれました。順位の割にスコアが伸びていないのが宇野選手で24.16は6番目、三浦佳生選手は22.63ですので全体では12番目です。三浦選手のスピンはレベル4が3つ。出来栄えの前にレベルの取得がまず必要になります。

 

ステップ系要素も羽生結弦選手がとびぬけていて17.20という誰も見たことのないスコアをマークしています。羽生選手はショートのステップ満点、フリーのコレオ満点、フリーのステップも9人のジャッジのうち8人が+5で最低と最高は切り捨てて計算されるのでスコアとしては満点、ということでスコア上の上限値をマークしました。これを超えるスコアは存在しません。

その下は14点台になって2番手として友野一希選手がいます。宇野選手が3番手。宇野選手は評価は良かったのですがステップレベル3があったことで14点台に留まっています

上位でステップ系要素でスコアが伸びていないのは三浦佳生選手と佐藤駿選手。二人ともショートフリー共にステップがレベル3だったこともあり12点台にとどまりました。また壺井選手もショートフリーでレベル3で加点もあまりもらえず11点台。壺井選手はスピンとステップで上位と5点以上、ジャンプ一つ分くらい差がついてしまっています。

 

○平均GOEが+4.500以上の要素

  Name   Elements    Base   GOE Scores  
SP 羽生結弦 6 StSq4   3.90   1.95 5.85 5.000
FS 羽生結弦 10 ChSq1   3.00   2.50 5.50 5.000
FS 羽生結弦 6 StSq4   3.90   1.95 5.85 4.889
SP 羽生結弦 7 CCoSp4   3.50   1.75 5.25 4.778
FS 羽生結弦 9 3A   8.80 X 3.89 12.69 4.778
SP 羽生結弦 1 4S   9.70   4.57 14.27 4.667
FS 宇野昌磨 12 StSq3   3.30   1.60 4.90 4.667
FS 友野一希 12 ChSq1   3.00   2.36 5.36 4.667
FS 羽生結弦 8 4T+1Eu+3S   15.73 X 4.48 20.21 4.556

全選手のショートフリーから出来栄えの非常に良い要素を取り出してみました。ジャッジ9人の平均GOEが+4.5以上だった要素は9件あったのですが、そのうち7件は羽生結弦選手のものでした。ショートフリー合わせて19の要素があるわけですが、そのうちの3分の1以上で平均GOEが+4.5を超える領域にあるわけです。上述したステップだけでなく、ショートの最後のスピンもジャッジ9人中8人が+5を付けたため、スコアとしては満点となりました。つまり、全19要素中4つ、2割ほどの要素で満点となったわけです。ちなみに、平均GOEが4.000を下回った要素は4つだけでした。とてつもないものを私たちは見せられたようです。

羽生選手以外で平均GOE4.5を超えたのは二人。宇野選手はステップレベル3ながら評価は+4.667と高いです。友野選手の最後の要素コレオシークエンスも+4.667と高い評価を受けています。

 

羽生結弦選手以外で平均GOEが+3.500~4.500の要素

  Name   Elements    Base   GOE Scores  
SP 宇野昌磨 6 StSq4   3.90   1.56 5.46 4.000
SP 鍵山優真 6 StSq4   3.90   1.50 5.40 3.889
SP 本草 6 StSq4   3.90   1.56 5.46 3.889
SP 三浦佳生 1 4S+3T   13.90   3.74 17.64 3.889
FS 鍵山優真 12 FCCoSp4   3.50   1.30 4.80 3.778
FS 佐藤駿 1 4Lz   11.50   4.44 15.94 3.778
SP 鍵山優真 1 4S+3T   13.90   3.60 17.50 3.667
SP 鍵山優真 3 CCSp4   3.20   1.19 4.39 3.667
SP 三浦佳生 7 CCoSp3   3.00   1.11 4.11 3.667
SP 三宅星南 6 StSq4   3.90   1.39 5.29 3.667
SP 鍵山優真 7 CCoSp4   3.50   1.25 4.75 3.556
SP 田中刑事 6 StSq3   3.30   1.18 4.48 3.556
FS 鍵山優真 3 4T+3T   13.70   3.39 17.09 3.556
FS 鍵山優真 7 4T   10.45 X 3.53 13.98 3.556
FS 鍵山優真 8 3F+3Lo   11.22 X 1.89 13.11 3.556
FS 宇野昌磨 4 3A   8.00   2.86 10.86 3.556
FS 三浦佳生 12 CCoSp3   3.00   1.07 4.07 3.556
FS 友野一希 5 StSq3   3.30   1.18 4.48 3.556

羽生選手入れたままだと羽生選手だらけになるので外して、それ以外の選手で平均GOE+3.500以上の高い評価のものを並べます。+4.500を超えた2つは再掲しません。

やはり宇野選手と鍵山選手、表彰台に乗った二人の名前が多くあります。三浦佳生選手はジャンプは一つだけで意外にもジャンプではなくてスピンで高評価が2つあります。ただしレベルは3なので点数的には伸びていなかったりしますが。佐藤駿選手はフリー冒頭の4回転ルッツが高評価でした。大逆転へのスタート、という雰囲気がこのルッツにはありましたが、結果は残念ながらそうはなっていません。山本草太選手、三宅星南選手、田中刑事選手、友野一希選手といったあたりがステップで高評価を得ているのも見えます。

 

男子のオリンピック出場ラインは292.41 とてつもない領域になってきてしまいました。まあ、前シーズンの世界選手権2位3位4位がいるわけですから高いレベルになるのはわかりますが、それにしても高すぎる。

それに続く中位の選手のレベルも上がっています。今年はフリー最終グループは全員ショート90点以上になりましたし250点を超えても7位にしかなれない、200点超えは13人とこの辺のレベルは上がってきています。ただ、その下の層が薄いまま変わっていません。フリー進出ラインは53.45 これは4年前の54.01から下がっていますし、4年前がルール全然違うというなら3年前の55.84からでも下がっています。この辺の選手たちの底上げが出来ていないので、上から下までのレベル差がものすごく大きなものになってきています。これは競技人口の少なさが生んでいるものなのだと思いますが、この辺の解消、競技レベルの差というよりも男子の競技人口の少なさをどう改善していくか、というのが一つフィギュアスケート界の課題になるのではないかと思います。

 

今シーズンはオリンピック以外も楽しみな試合が多いです。世界選手権がオリンピックと同じメンバーになったのはある意味では残念ではあります。一方で四大陸選手権は真新しい顔ぶれ。優勝が期待されるメンバーです。そして世界ジュニアも幸か不幸か佐藤駿選手がここに回ってきたことで超強力布陣になりました。ここも優勝が期待できる、というかかなりの確率で日本勢が勝ちそうに見える。男子は展開次第では主要大会すべて日本勢が優勝、みたいなことがありえます。

次の日本勢の国際大会は四大陸選手権になるはずです。1/20日開幕。スケジュールの関係上、カナダ勢、アメリカ勢があまり力を入れられる状態ではないですし、エントリーを見るところ中国勢は出ないようです。メンバー的に力入っているのは日本と韓国くらい、という状態なので、男女シングルは日韓決戦みたいなことになりそうです。

 

各試合の代表に選ばれた選手の健闘を祈る前に、まず、みなさん怪我無く、あるいは怪我からの回復をして、次の試合を迎えられることを祈っています。ケガ、多すぎなんですフィギュア界・・・。