全米選手権22 女子プレビュー

ロシア、日本は年末にナショナル選手権を終えましたが北米は1月に行われます。カナダ、韓国、アメリカが同じ週で被ってきますが、ここでは全米選手権を見て行こうとおもいます。

スケジュール的に女子が先、男子が後という、アメリカは完全に男子がメインですというようなスケジュールですので、先に女子から行きます。

 

○今シーズンのアメリカ所属選手の国際大会150点以上のシーズンベスト

  Event Pl Name Total SP FS
1 Lombardia Trophy 1 Alysa LIU 219.24 74.31 144.93
2 Rostelecom Cup 4 Mariah BELL 210.35 69.37 140.98
3 JGP Linz 2 Isabeau LEVITO 208.31 71.32 136.99
4 Finlandia Trophy 6 Karen CHEN 202.49 67.50 134.99
5 Skate America 6 Amber GLENN 201.02 67.57 133.45
6 JGP Ljubljana 3 Lindsay THORNGREN 193.77 70.24 123.53
7 US International 3 Gabriella IZZO 182.76 63.93 118.83
8 Skate America 10 Starr ANDREWS 177.63 61.94 115.69
9 US International 4 Sierra VENETTA 177.40 61.60 115.80
10 JGP Kosice 6 Ava Marie ZIEGLER 176.29 60.03 116.26
11 JGP Gdansk 4 Clare SEO 174.86 62.19 112.67
12 Cranberry Cup 4 Audrey SHIN 174.73 62.18 112.55
13 JGP Krasnoyarsk 6 Kate WANG 170.93 59.26 111.67
14 Cranberry Cup 6 Paige RYDBERG 170.51 63.75 106.76
15 Golden Spin 7 Hanna HARRELL 158.89 57.30 101.59
16 Cranberry Cup 1 Ava ZIEGLER 157.43 49.46 107.97
17 JGP Kosice 7 Mia KALIN 156.23 49.10 107.13
18 JGP Krasnoyarsk 8 Maryn PIERCE 150.67 51.63 99.04

今シーズンの国際大会で150点以上のスコアを出した選手は18人います。ISU公認かどうかは問いません。いわゆるB級大会のスコアも含みます。また、今大会のシニア部門にエントリーしていないジュニア選手も含みます。

 

トップスコアは今シーズンシニアデビューのアリサリュウ選手。219.24まで持っています。これはロシア勢以外では今シーズン2位にあたるスコアです。

2番手にはマライアベル選手。210点に乗せてきています。4年前のオリンピックシーズンは全米選手権5位で代表を逃している25歳ベテラン。トゥクタミシェワ選手と同じく25歳での初代表を目指すという立ち位置です。

シーズンベスト3番手はジュニアからイサボーレビト選手。2007年3月生まれの14歳ですのでオリンピック代表を争う権利はありません。シーズンベスト208.31はロシア選手以外での今シーズンのジュニアカテゴリーのベストスコア。200点を超えたロシア以外のジュニア選手は彼女だけです。世界ジュニアでロシアに対抗する1番手であり、日本勢の枠取りに立ちふさがる壁でもあります。このスコアは当然ジュニアルールで出したものなのでコレオがありません。コレオ分足すと実質的には210点を超える計算で、マライアベル選手より上のベストスコアを持っていると考えてよいと思います。

カレンチェン選手も200点超えのシーズンベストを持っています。前回のオリンピック経験者。ただし、3番手での代表権獲得だったため団体戦には出場しておらずメダルはもらえませんでした。アメリカは今回も団体戦メダル有力候補。個人戦に集中したいなら3番手がお得ですが、オリンピックのメダルが欲しいという場合は団体戦に参加する方が可能性が高いと思われます。

シーズンベスト5番手はアンバーグレン選手。昨年の全米選手権では2位ながら世界選手権の代表権をもらえなかった選手です。今シーズンスケートアメリカで国際大会初の200点超えを果たしました。昨年の結果を考えると表彰台に乗るだけでなく2位までに入らないとオリンピック代表は危うい、という感覚になるでしょうか。国際大会での実績は確かに上位選手と比べると劣ります。

6番手からは200点に欠けるスコアです。193.77のシーズンベストを持つリンジーソーングレン選手は2005年生まれの16歳。年齢的にはオリンピック参加可能ですがグランプリシリーズはジュニアカテゴリーで戦いファイナル進出券を持っていた選手です。アメリカの代表選出の慣例からは、表彰台に乗ってもオリンピックの代表には選ばれないと思います。世界ジュニアで渡辺倫果選手や住吉りをん選手といい勝負をしそう、というくらいの位置にいる選手です。

その下になってくるとシーズンベスト、パーソナルベスト、どちらも180点台以下になってきますので、代表争いという点では厳しくなってきて、四大陸ねらいになってくるかな、と思われます。

 

アメリカ選手のシーズンベストを並べましたがブレイディテネル選手の名前がありません。今シーズンはケガでこれまで全試合欠場しています。そして、全米選手権の欠場も発表されました。昨年のチャンピオンが欠場。日本の紀平梨花選手と同じ流れです。テネル選手の救いは、4年前には出場していて団体のメダルは持っていることでしょうか。

また、グレイシーゴールド選手が今年も全米選手権にエントリーしてきています。今シーズンはシーズン開幕戦となった国際大会のクランベリーカップで138.69のスコアをだしています。

 

○200点以上のシーズンベストを持つ5人の今シーズン国際大会結果

Event Pl Name Total SP FS
Lombardia Trophy 1 Alysa LIU 219.24 74.31 144.93
Rostelecom Cup 4 Mariah BELL 210.35 69.37 140.98
JGP Linz 2 Isabeau LEVITO 208.31 71.32 136.99
Nebelhorn Trophy 1 Alysa LIU 207.40 70.86 136.54
Skate Canada 5 Alysa LIU 206.53 73.63 132.90
Cranberry Cup 1 Alysa LIU 205.74 71.42 134.32
NHK Trophy 4 Alysa LIU 202.90 67.72 135.18
Finlandia Trophy 6 Karen CHEN 202.49 67.50 134.99
JGP Courchevel 2 1 Isabeau LEVITO 202.35 71.25 131.10
Skate America 6 Amber GLENN 201.02 67.57 133.45
Internationaux de France 5 Karen CHEN 194.00 64.67 129.33
Internationaux de France 6 Mariah BELL 190.79 60.81 129.98
Finlandia Trophy 10 Amber GLENN 183.46 60.76 122.70
Skate Canada 10 Karen CHEN 183.41 68.74 114.67
Golden Spin 2 Amber GLENN 183.36 64.45 118.91
Cranberry Cup 3 Mariah BELL 179.42 67.07 112.35
NHK Trophy 7 Amber GLENN 175.83 63.43 112.40
Autumn Classic 4 Karen CHEN 173.00 58.01 114.99
Cranberry Cup 22 Amber GLENN 59.59 59.59  

優勝を争える力を持った5人の今シーズンの戦績を見ます。

アリサリュウ選手は5試合滑ってすべてで200点を超えるスコアを出しています。ただし210点を超えたのは1試合のみです。安定していると見るか付け入るスキがあると見るか。

アリサリュウ選手のシーズンワーストを超えている選手は2人。2人ともアリサリュウ選手のセカンドベストよりも高いスコアを出しています。

25歳で初めてのオリンピックを目指すマライアベル選手はシーズン3戦して尻上がりにスコアは上がってきているように見えます。8月の初戦は179.42でちょっとびっくりするようなスコア。2戦目のフランス杯は190.79まで持ってきましたが、あれ、200点まだ遠いよ? と心配しましたが翌週のロステレコム杯で210点に乗せてきました。4年前は選考会に落選して、今シーズンは尻上がりにスコアを上げてきたけどグランプリ表彰台にまでは乗っていない、というのが樋口新葉選手と重なります。

ジュニアのレビト選手はジュニアグランプリ2戦で200点を超えています。シニアに混ざって表彰台に入ってくる可能性はかなりありそうです。彼女がいることにより3枠あるアメリカはナショナル選手権で表彰台に乗っていない代表というのが生じる可能性が結構あります。その場合過去の実績というものがかなり優先されるように感じられます。その視点で行けばカレンチェン選手は有力です。2大会連続枠取り大貢献で2大会連続出場を狙う唯一の選手。今シーズン唯一の200点台はチャレンジャーシリーズのフィンランディア杯でだしたもの。グランプリ2戦は180点台から190点台に終わっているのは不安要素になります。

そこに挑戦する立場なのはアンバーグレン選手。グレン選手も200点台は1度だけで他は180点台以下です。ただし昨年の全米選手権は2位。一発当てれば高いスコアを出せる選手なのは確かなので、この全米に今年も合わせてこられるかどうか。

 

○上位5選手のフリーシーズンベストの構成

  Alysa LIU Mariah BELL Isabeau LEVITO Karen CHEN Amber GLENN
1 3A< 3F+2A+SEQ 2A 2A 3F+3T
2 3Lz 3Lo 3Lz 3Lz+3Tq 2A
3 3Lo CCoSp4 3Lo 3F!q 3F
4 2A+1Eu+3S 3S 2A 3Lo 3Lz+2T
5 FCCoSp4 2A CCoSp4 StSq4 FSSp4
6 StSq4 StSq4 3F+3T FCCoSp4 StSq3
7 3Lz+3T< 3F+2T+2Lo 3Lz+1Eu+3S 2A+1Eu+3S 3Lo+2T
8 3F+2T 3Lz+2T 3F+2T 3Lz< 3Lo
9 3F FCCoSp4 FCSp4 CCoSp4 2A
10 ChSq1 3Lz StSq3 ChSq1 CCoSp3
11 CCoSp4 ChSq1 FCCoSp4 3Lo<+REP ChSq1
12 LSp4 LSp4   LSp4 LSp3
Base 65.18 59.52 60.38 57.32 55.84
GOE 10.55 12.03 13.18 8.05 11.73
PCS 69.20 69.43 63.43 69.62 65.88
TSS 144.93 140.98 136.99 134.99 133.45

上位陣のフリーの構成要素はこんな感じになっていました。ただ、全米選手権もこれで行くかどうかはあたりまえですがわかりません。

アリサリュウ選手は回転不足が2つありながらも60点台半ばの基礎点を持っています。2回飛ぶジャンプはルッツとフリップでセカンド3回転は1つですが3連にトリプルサルコウがつきます。ノーミス時には67.70にまでなります。この構成はロンバルディア杯のものですが、NHK杯では3連続の最後をフリップにしてかつ1.1倍に入れるなど難度を上げた構成にしてノーミス時に68.23に達する構成にしています。今回は4回転はやらない、と明言しているようなのでノーミス時に68点前後になる構成でおそらく行くことになると思われますが、トリプルアクセルも今シーズン確率が低いのが課題でもあり、どこまで予定通りの実施ができるか?

マライアベル選手は基礎点が60点に届いていません。構成見ると分かりますがセカンド3回転無しです。スピンステップもすべてレベル4ですので、セカンド3Tなしのノーミスで基礎点60点に届かない構成なわけです。単独のダブルアクセルが入っているので、本人の意思としてはセカンド3Tをどこかで入れる前提なのかと思いますが、最初からダブルアクセルのシークエンスを入れているあたりがこの時点ではセカンド3Tは入れられないということだったのだろうと思います。PCSは出る選手ですしナショナル選手権ですから70点台半ばに近いところまで出るとして、セカンド3Tなしでも加点を10点以上出すのでフリー140点台後半まで普通にありますが、そうはいってもそれだとちょっと構成は弱いです。

ジュニアのレビト選手は1.1倍にすべてのコンビネーションをつぎ込む構成です。2回飛ぶジャンプはルッツとフリップで3連サルコウ付き。これでも基礎点が60.38しかないのはジュニアルールでコレオがないためです。コレオ付きノーミス時には63.98までは出ます。トリプルアクセル以上のジャンプやセカンド3Lo無しでの限界に近い構成です。ジュニアなのでPCSが他の有力選手より出にくいようですが、技術要素の加点はエントリー選手中トップの実績です。

アンバーグレン選手はトリプルアクセルに挑戦中の選手ですが今シーズンはフリーでは一度も入れていません。ショートでは4回チャレンジして回転不足が2回、ダウングレードが2回と成功していません。トリプルアクセルが入ってこないとすると構成はだいぶ弱めです。3連続ジャンプは今シーズン一度も入っていませんし、1.1倍のところに入るコンビネーションは1つで、単独ダブルアクセルもいますし、2回飛ぶジャンプはフリップとルッツ。スピンステップでレベルが取れていないこともありますが、そこがすべてレベル4になっても基礎点57.24まで。GOEは二桁取れていますがこのままの構成だと苦しいです。

カレンチェン選手も50点台後半の基礎点ですが、こちらは回転不足やジャンプのリピートを含んでのこの基礎点です。ノーミスなら基礎点は5.1上がって62.42まで出ます。今シーズンはジャンプの回転に悩んでいて、<やqなんなら<<のオンパレードだったりしますので、そのあたりがどこまで解消できるかが鍵でしょうか

 

○上位5選手のシーズンベスト時の要素別スコア

Event Name Total PCS J Base J GOE Spin Step
Lombardia Trophy Alysa LIU 219.24 102.36 68.29 8.51 25.05 15.03
Rostelecom Cup Mariah BELL 210.35 102.74 59.31 8.65 24.65 15.00
JGP Linz Isabeau LEVITO 208.31 94.64 66.59 12.15 25.78 9.15
Finlandia Trophy Karen CHEN 202.49 104.25 55.53 1.99 26.45 15.27
Skate America Amber GLENN 201.02 97.07 59.33 9.14 22.14 13.34

5選手の要素別のスコアを見ます。

PCSはカレンチェン選手がトップです。ただ一人のオリンピック経験者。PCSというある種の基礎点を高く持っています。ジュニアのレビト選手は低め。アンバーグレン選手も3枠目をカレンチェン選手と争うとするとPCSで7点以上負けているのは大きめなビハインドを背負っている形になります。

ジャンプの基礎点はアリサリュウ選手がトップですがレビト選手もそれに近い水準有ります。他の3人は60点に届かずですがその中でもカレンチェン選手が低めです。回転不足をどれだけ減らすことができるかが鍵。

ジャンプの加点はジュニアのレビト選手がトップでした。シニア勢は10点近く稼いでいてアンバーグレン選手がやや優位です。カレンチェン選手はここが弱い。基礎点も加点も低いということでジャンプが完全に弱点になっています。

スピンはカレンチェン選手がトップ。26.45というのは今シーズンではロシア勢以外ではトップのスコアで26点台が彼女しかいません。25点台に二人。マライアベル選手は24点台ですがこれくらいなら足を引っ張っているということでもないです。アンバーグレン選手が22点台とスピンが弱点。カレンチェン選手とはダブルアクセル1つ分程度の差があります。

ステップ系要素もカレンチェン選手がトップですが15点台で3人は拮抗しています。ジュニアのレビト選手はコレオなしのスコアなので生の数字を比較しても意味がないですが、コレオの基礎点3.00に加点を仮にGOEで+3の1.50入ったとしても13.65ですのでステップは弱い方です。アンバーグレン選手もここが13点台で弱いです。

こうしてみるとバランスのいいマライアベル選手、ジャンプに寄ったアンバーグレン選手、スピンステップPCSのカレンチェン選手と3者3様。アリサリュウ選手はマライアベル選手のバランスの良さにジャンプの強みを加えたような形なので、頭一つ抜けているように見えますが、ジャンプの安定感が年齢を経てなくなってきているので、ジャンプが決まらないと他の選手の水準まで落ちてきます。

 

全米選手権は男子より女子が先にあるスケジュールで現地時間6日にショート、7日にフリーが行われます。日本時間ではそれぞれ翌朝くらいの時刻になります。