北京オリンピックが閉幕しました。ただ、フィギュアスケートだけは順位が確定していないという異常事態が残っています。ただ、それはそれとして、締めくくっていこうと思います。
団体戦についてはメダルの授与式も行われていませんが、待っていられませんので全体の振り返りはしてしまいました。続いては男子シングルです。男子シングルはコロナ陽性者が出て残念ながら欠場がありましたが、違うものの陽性者は出ていませんので、ルール通り試合が進行し、順位も確定して完了しています。まずは全体の感想をダラダラと書いていきます。まともな数値編は次回となります。
○男子シングル 総合結果
Pl | Name | Nation | Total | SP | FS |
1 | CHEN Nathan | USA | 332.60 | 113.97 | 218.63 |
2 | KAGIYAMA Yuma | JPN | 310.05 | 108.12 | 201.93 |
3 | UNO Shoma | JPN | 293.00 | 105.90 | 187.10 |
4 | HANYU Yuzuru | JPN | 283.21 | 95.15 | 188.06 |
5 | CHA Junhwan | KOR | 282.38 | 99.51 | 182.87 |
6 | BROWN Jason | USA | 281.24 | 97.24 | 184.00 |
7 | GRASSL Daniel | ITA | 278.07 | 90.64 | 187.43 |
8 | SEMENENKO Evgeni | ROC | 274.13 | 95.76 | 178.37 |
9 | JIN Boyang | CHN | 270.43 | 90.98 | 179.45 |
10 | KVITELASHVILI Morisi | GEO | 268.62 | 97.98 | 170.64 |
11 | MESSING Keegan | CAN | 265.61 | 93.24 | 172.37 |
12 | AYMOZ Kevin | FRA | 254.80 | 93.00 | 161.80 |
13 | VASILJEVS Deniss | LAT | 252.71 | 85.30 | 167.41 |
14 | SIAO HIM FA Adam | FRA | 250.15 | 86.74 | 163.41 |
15 | KONDRATIUK Mark | ROC | 248.82 | 86.11 | 162.71 |
16 | RIZZO Matteo | ITA | 247.53 | 88.63 | 158.90 |
17 | KERRY Brendan | AUS | 244.80 | 84.79 | 160.01 |
18 | LITVINTSEV Vladimir | AZE | 239.19 | 84.15 | 155.04 |
19 | MOZALEV Andrei | ROC | 233.33 | 77.05 | 156.28 |
20 | MILYUKOV Konstantin | BLR | 222.22 | 78.49 | 143.73 |
21 | MAJOROV Nikolaj | SWE | 220.78 | 78.54 | 142.24 |
22 | CARRILLO Donovan | MEX | 218.13 | 79.69 | 138.44 |
23 | BRITSCHGI Lukas | SUI | 212.58 | 76.16 | 136.42 |
24 | SHMURATKO Ivan | UKR | 205.76 | 78.11 | 127.65 |
25 | BREZINA Michal | CZE | 75.19 | 75.19 | |
26 | BYCHENKO Alexei | ISR | 68.01 | 68.01 | |
27 | LEE Sihyeong | KOR | 65.69 | 65.69 | |
28 | SELEVKO Aleksandr | EST | 65.29 | 65.29 | |
29 | SADOVSKY Roman | CAN | 62.77 | 62.77 |
出場は29人。残念ながらヴィンセントジョウ選手はコロナ陽性により欠場となりました。団体戦に出場して何色かわかりませんがメダルを確保していたのは不幸中の幸いだったかと思います。ただ、ジョウ選手の欠場によりメダル候補が減り一つの興味が失われた感じがありました。
優勝はネイサンチェン選手。ショートフリーどちらも1位で2位に20点以上の差をつける圧勝。強かったです。盤石。オリンピックは弱いんじゃないか、といくら世界選手権に勝っても言われ、シーズン開幕初戦で敗れたことで、オリンピックシーズンはダメなんじゃないかとまた言われ。それでもオリンピック、団体戦の演技も含め大きなミスなく危なげなく優勝しました。団体戦から全要素プラス評価。フリーは2人のジャッジが0を付けた要素がありましたが、それ以外はプラス評価です。最後のジャンプを下りた時点で優勝がほぼ確定したわけですが、その次の要素のスピンでレベルが2Vになってるあたりが、ああ、人間だなあ、という感じがしました。すごい演技だったのですが、正直なところ前回のオリンピックシーズンのショート、ネメシスの方が私は好きだったりしました。平昌オリンピックでは失敗しましたが、あれ、かっこよかったと思うんですよね。どうするんでしょうこれから。あそこまできれいに勝ってしまうと、この次へのモチベーションがなかなか得にくい感じもします。北京オリンピックで引退するかもという噂はずっとありましたけど、直後の引退発表はとりあえずなし。男子の22歳はまだまだ先があるのですけど、4回転アクセル挑んでみる?
鍵山優真選手が2位。なんかいきなり出てきたシンデレラボーイ、みたいな扱いも一部で見られましたが、昨年の世界選手権で日本人最高位の2位だったのがもう鍵山優真選手でした。世界大会では2大会続けて日本人最高位ですし、2大会続けてネイサンチェン選手に鍵山選手という1位2位なわけです。そもそもここ2シーズンの国際大会で負けた相手はネイサンチェン選手だけ。それを忘れちゃ失礼です。
戦いに挑むグラディエーター。 18歳の高校生感は確かにあるのだけど氷の上ではしっかり戦いに挑む感は出ていたと思います。氷の外での雰囲気は高校の後輩男子な感じなのに、リンクに上がると若き戦士でグラディエーター感が出てます。ローマ時代の戦士ってことで、剣闘士的というより、ガリア戦記に出てくる若きクラッススみたいな感じでしょうか(行く末が縁起でもない感じになってしまいますが)。いいなあ、この勢い。世界選手権でワンチャン、どころか、場合によっては大本命になる可能性もあるわけで。
余談ですが、団体戦のフリーで決めた4回転ループは、オリンピック史上で初めて決まった(GOEがプラス)4回転ループとなりました。
宇野昌磨選手は3位。フリーは、結局まとまりませんでした。ショートは団体戦、個人戦とパーソナルベスト連発。久しぶりのセカンド3回転が来ました。フリーは4回転5本構成で、本人が言うほどはネイサンチェン選手との差はないような気もするのですが。まあ実際その4回転5本が決まり切らないという現実では差を感じるのでしょうけど、決まった時点で基礎点ほぼ追いつくし。そういう意味では失礼ななのかもしれないですが、トゥルソワ選手と近い感じなんでしょうか。
フリーはボレロ。ノーミスボレロが見たいのだけど、4回転5本でノーミスは難しい。本人は難度を下げて無難にいく気はない。だったら、5本を決めてもらうしかないですか。
羽生結弦がオリンピックで負けるのは人間にではなく人間ではない何かでしかない。という神の差配がショートのサルコウを生んだような、そんな気がしています。あれでもう勝負は付きましたものね。そしてフリーの注目は4回転アクセルのみに集まる形に。パッと見た瞬間は、q!q!と 思いましたが、判定はアンダーローテーション。qでよくない? と思いましたけど、スロー見ると、うーん、アンダーローテーションかな・・。と認めざるを得ないかなあ。
羽生選手にとってオリンピック三連覇というのは低すぎる目標だったのかな、と感じました。最初に勝った時は明らかにフリーはミスがあって結果的に相対的にスコアが一番だった、というだけで本人はまだ成長過程前半でもあり、もっと高いレベルでノーミスして勝ちたい、という欲求がたぶんあった。2回目は直前のケガの影響で苦しい調整を迫られ、それでもなんとかぎりぎり間に合わせて勝ち切った。さて3回目。同じものを取りに行く、としか思えないとしても仕方ないよなあ、と思います。決して、簡単という意味ではないのですが、目標として目指すには、あまり欲しいと思えないものだったのではないかなと。4回転アクセルが基礎点が低くて勝つためには有効な手段ではない、なんてことは誰に言われなくたって分かっていたでしょうし。勝ちに行くならケガの原因になったりしたことで恐怖心があったとしても、4回転ルッツを取り戻す方が4回転アクセルよりはよほど楽でかつ効果的。ルッツ入りの4回転5本で基礎点がまずほとんどネイサンチェン選手に追いつきますし、予定構成に入っていたというセカンドループを入れれば基礎点でネイサンチェン選手を超えられる。後は出来栄えPCS勝負となれば部のいい戦いだったと思います。でも、そんな計算に価値を感じなかったのかな、と思いました。今後の去就は注目されるものではありますが、もう、余計なもの背負うことないから、誰も背負わせようとする権利ないから、好きに生きて行ってください、と思います。競技生活続けるなら続けるで、ケガを押して試合に出るとかしなくていいです。出たいときだけ出てきていただければ。もう1シーズンあれば4回転アクセル降りられそうな気はしましたけど。
5位にチャジュンファン選手。ここまで来ましたか。四大陸選手権に勝って、スケジュール厳しくない? と思いましたが何の問題もなく好調維持してオリンピック5位。チャジュンファン選手がフリー滑り終えて、結果待ち上位3人ソファに来た時点で、2代目クリケットブラザーズ! とか思いました。羽生-ジェイソン-チャジュンファン。ナムニューエン選手の時と違って、チャジュンファン選手が一番年下なわけですがあまりいじられ感は感じられません。そこはキャラの違いもあるし、年長者側がジェイソンブラウン選手いるといじる感じでもないしなあ。
韓国はオリンピックシーズンに男子も女子もフリーにトゥーランドット持ってきました。みんなイナバウアーは必ず入れるのね、なんて思ったりもする。同じトゥーランドットでも男子が演じるのはだいぶ立場が違うのでまたそれはそれで難しいと思うのですが、宇野選手がやった時と同じように年齢的には二十歳くらいがちょうどいいんでしょうか。勝気かつ挑んでいくような姿はこれから頂点を取りに行くそれに近い位置にいる選手、というのに割と似合っていて、チャジュンファン選手もそれにあたっていてよかったと思います。冒頭の四回転の派手な転倒で、首はねられて終わるんじゃ、と心配でしたが、建て直せてよかったです。
ジェイソンブラウン選手が280点に乗せて6位。4回転やりませんでしたね。一つのスタイルとしていいと思います。オリンピックは完成したものを見せる場であってイチかバチかみたいな要素は入れない、というのは一つの在り方かと思います。4回転無しで280点超えってどれだけ各要素の評価がすごいんだ? ってのは、たぶんそのうち出てきます。
シンドラーのリストは、元々の出来事が悲しいというべきか不快というべきか、本来あってはいけない類の事柄であるのである意味ではあまり好きではないのですが、それはそれとして、描き出される世界はさすがでした。
7位にはイタリアのダニエルグラスル選手が入ってきました。4回転、基礎点高い方からルッツフリップループと着氷。ジャンプ構成ではトップクラスです。なぜサルコウとトーループがない、という不思議。4回転5種類を一つの演技で最初に決めるのは誰か? のダークホースな感じの選手。もう少し各要素の質が上がるといいんだけどなあ、と思ってしまう部分があるのは事実。でもジャンプしっかり決まったので技術点は100点超えていきました。ジャンプは良かった。マテオリッツォ選手とのイタリアの2枚看板。どちらか交互にではなくて、二人同時に世界の舞台に出られ続けるように枠を確保し続けていただければと思います。今回決めた4回転ループからのコンビネーションは、オリンピックで初の4回転ループを含むコンビネーションでした。
補欠代役セメネンコ選手がロシア国籍勢で最高位の8位に来ました。羽生選手の次という何とも言えない空気の中しっかり滑って入賞確保。正直なところ、羽生選手の残したいろいろな余韻を打ち消して印象を残してくれるほどの演技は出来なかったのかなあ、という感じは受けてしまいました。それでもパーソナルベスト。あと一歩届かなかったか、の補欠だったところから出場出来て、一定の成果を出せてよかったのではないかと思います。
地元中国ボーヤンジン選手が9位。元祖四回転魔王。団体戦はいまいちで、うーん今回も厳しいのかなあ、と思っていましたが、個人戦はまあまあいい滑りが戻ってきてよかったです。ショートフリーで4回転ルッツ成功。旧ルールですが300点を持っている数少ない選手です。ショート第一グループで滑るような選手じゃない。せっかく4回転全部決めたのに、何でトリプルアクセル失敗するかなあ・・・。ノーミスなら4位まで行けました。まあまあ復活。この先完全復活に期待。
クビテラシビリ選手が10位。エテリ組唯一の男子。そしてエテリ組の中で一番息長くシニアの国際舞台に出続けることができる選手。彼は自分が止めない種類のジャンプを次々に決める自分の半分くらいの年齢の女子達に囲まれながらどんな気分で練習してるのだろう。ショートよかったのですがフリー伸びませんでしたね。PCSはまだ出ない選手なのでジャンプでミスが出ると上位にまでは入ってこられない。エキシビジョンのジーニーが印象に残ります。通常ワリエワ選手がやるジャスミンをトゥルソワ選手に振ったのは、機嫌直してもらうために仕事割り振る大人の優しさか、オリンピックチャンピオンには頼みにくかっただけなのか。団体戦、コンドラチュク選手の上まで行ってジョージアがフリーに進んでくれれば、最後に日本がアメリカの上に行った可能性もあったんだけどなあ、とひとのせいにする恨み節を入れておきます。
キーガンメッシング選手は個人戦にはぎりぎり間に合いました。11位。団体戦から万全で出ていたら、団体戦はまた違う試合展開していたと思います。もう少し日本とカナダは競った形で後半を迎えていたはず。全体的に印象は良かったのですが、スピンステップのレベルがやたら取れていませんでした。今回だけでなく、割とその傾向があるんですよね。中位が混戦なのでその辺のレベルをきちんととれるかどうかで順位が変わって来る。カナダの2枠を堅持するために、世界選手権でその辺改良しつつ頑張っていただければ。旗振り応援含め、団体戦で見たかった選手です。
ケビンエイモズ選手は結局調子は上がってこずに12位でしたか。フリーの後半の盛り上がりは当然好きなのですが、やはり序盤中盤でジャンプがしっかり決まってこない中で終盤が来ると、本人の気分としても見ている方の気分としても、いまいち盛り上がり切らない感じはしてしまいます。
なんだかんだでオリンピックは、上位に来るべき選手はしっかり上位にきて、その中で多少上下はある、という感じになるのかなあ、と思いました。中位以下でもいい選手は結構いたとは思いますけど。バシリエフス選手は4回転決まらないなあ。でもそれ以外の要素はいい。ジェイソンブラウン選手のコースを選ぶという手もあると思うのだけどどうなのだろう。南半球ナンバーワンのブレンダンケリー選手もパーソナルベストで17位。メキシコ? メキシコ? 思わず2度見してしまうドノバンカリージョ選手もフリーに進んで22位に入りました。まあ、世界選手権で20位になっている選手ですからフリーに進んで驚くこともないのですけど。メキシコはジュニアグランプリをよく開催してますね。団体戦頑張ったコンドラチュク選手は15位止まり。なんでメンバーチェンジしなかったかなあ団体戦。
ベテラン勢、ブレジナ選手、ビシェンコ選手、フリーに進めませんでした。ブレジナ選手はグランプリシリーズの出場試合数23で、あと1試合で最多に並びます(ファイナルカウントせず)。来シーズン2試合出れば歴代最多になるところだったのですが引退表明。ビシェンコ選手はどうするのかな。34歳のオリンピック出場は確かプルシェンコさんの最後のオリンピックと同じ年齢だったと思います。シングル競技で38歳のオリンピックというのを見てみたい気もしています。
祭りの終わり。ある種いろいろな喪失感もあります。実際に喪失されるものもある。この後の世界選手権は次の4年の始まりか、この4年の締めくくりか。疲れた選手は休めばいいし、リベンジに燃える選手は燃えつくし燃やし尽くせばいい。コリヤダ選手、ヴィンセントジョウ選手といった残念なコロナ陽性がありましたが、女子のような大混乱は起こらず、しっかり競技が終わりました。選手の皆様お疲れさまでした。