日本相撲協会の収入源内訳

 前回日本相撲協会が、資産ため込んでるなー、ということを見てきました。

その資産は、どこから生み出されてきたのでしょう?

前回見てきた中では、資産の運用益、なんてのが意外とまとまってあったり、寄付金なんてのもかなり大きく、一方で補助金はほとんど受けていない、ということが見えました。

今回はそういうところではなくて、事業として、どこからどれくらいのものを得ているのか? というお話です。

 

相撲協会には会計部門が5つ+法人会計というのがあります。

5つの会計部門というのは次のものです

 

・相撲事業

・貸館事業

・広告・物品販売事業

・一般外来診療事業

・協会員福利厚生事業

 

相撲事業というのはそのままで説明の要はまったくないでしょう。これが、公益事業にあたります。

貸館事業とは、相撲協会が所有している国技館を、第三者に貸し出すことで収益を得る事業です。国技館本場所が行われるのは年3回、45日間だけですので、準備片付けを考えても、本場所で使われる稼働日数の比率は、年間考えると15%程度しかないことになります。この残りの空いている時期に貸し出すことで収益を得ようというものです。

広告・物品販売事業は、雑誌の販売やカレンダーの販売、また、相撲博物館の運営などと言ったものが含まれているようです。いわゆる放映権料がどう、とかそういったことは相撲事業の中に入っているように見えます。

一般外来診療事業は、相撲診療所、という国技館併設の、協会員向けを基本とした診療所を一般にも開放していて、一般の方が受診したものがここに含まれるようです。

この貸館事業、広告・物品販売事業、一般外来診療事業の三つが収益事業とされています。

協会員福利厚生事業は、上記の相撲診療所の本来の目的としての協会員(相撲取りや親方等)向けの診療がメインなようです。「日本相撲協会健康保険組合の被保険者および扶養家族の診療費は、福利厚生の一環として、徴収はしていない。」とあり、それが主にここの部分の費用になってきているようです

 

 

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さて、2017年度のそれら各会計部門の事業収益をまず見てみます。

まあ、この辺は普通で、収益のほとんどはやっぱり相撲事業で得ているのですね、という風になります。相撲事業の収益は107.68億円です。それに続くのは遠く離れて貸館事業の8.03億円、広告・物品販売事業は4.77億円となっています。

一般外来診療事業も一応収益はあって、471万円、協会員福利厚生事業も78万円あります。福利厚生事業の収益ってどこから湧いてるのかいまいちイメージできませんが、微小な額なので、これ以上考えないでおきます。

 

これだけだと、そりゃそうでしょ、こんなの見て何になるの? という感じなわけですが、次に費用の側を見てみます。

 

 

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当然ですけど、相撲事業会計の費用が大きくなっています。104.22億円。

また、全体を管理するための法人会計のところでどうしても費用が掛かって、5.40億円あります。貸館事業は3.74億円、広告・物品販売事業は1.33億円です。収益の小さいところは費用も小さいわけですね。それも当然と言えば当然ではあるのですが。なので、事業規模の大小は、そのまま利益の大小にはつながらない、というのも事業体の常。これは企業でも同じですが、相撲協会の各会計部門で、収支がどうなっているのかを次に見てみます。

 

 

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評価損益等調整前当期計上増減額、というのは、経常収益から経常費用を引いたものです。経常収益は、上記の事業収益の他に、資産の運用利益や寄付金などが足されています。おおざっぱに言えば、営業利益みたいなものだと思えばよいでしょうか。

これを見ると、相撲事業が一番大きな黒字ではありますが、貸館事業、広告・物品販売事業もまとまった額の黒字になっていて、この二部門を足すと、相撲事業よりも黒字が大きい、という計算になります。

つまり、興行としての相撲事業よりも、ある種の不動産業としての貸館事業であったり、物販部門であったりの稼ぎを合わせたものの方が大きいのですね。事業規模は当然相撲事業が大きいわけですが、稼ぎはそうでもないわけです。まあ、広告・物販事業は、相撲に付随する事業ではあるのですけど。貸館事業は、ほとんど不動産業ですね。一応、「国技館」というブランドがある種にプレミアムを生んでいる可能性はあるとは思いますけど。

 

 

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会計部門別に、4年間の収支の推移を追ってみました。ただし、2014年は1月分が入っていない計算のため、相撲事業は1月場所の売り上げがなく、極度の赤字計算となっています。

その点を差し引いたとしても、安定した黒字を稼いでいるのは貸館事業と広告・物品販売事業であって、相撲事業は、2017年こそ大きな黒字を稼いでいるものの、15年16年は貸館事業よりも黒字幅は小さい、といった状態でした。15年16年は相撲事業の黒字幅だけでは、協会員福利厚生事業の赤字分と、法人会計で生じるマイナス分をカバーしきれない、といった状態であり、貸館事業、広告・物品販売事業、この二つなしでは協会全体で赤字になっていた、という状態でした。

 

 

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また、相撲事業の中で目につく収入源として、資産運用益と寄付金というのがあったので、その推移を見てみます。そうすると、16年の黒字額はそれらの合計よりも小さい額でしかなく、17年の黒字額6.6億円も、そのおおよそ半分の3.15億円ほどが、資産運用益と寄付金で賄われていることが分かります。なお、寄付金は15年~17年は、相撲事業の収益にカウントされているものと、ほぼ同額が、法人会計の方にもカウントされています。

 

資産運用益は、前回、余剰資産として持っている国債などの債権から得られているもの、と書きました。では、寄付金はどこから出ているのでしょう?

 

相撲協会には、「維持員」という制度があります。おおざっぱに言ってしまうと、多額の寄付をするからいい席頂戴ね、みたいな制度です。もう少し真面目に書くと、相撲協会の記した文言から抜粋して、

 

相撲をこよなく愛し、造形深くご尽力いただく方が常に存在し、一体となって維持発展してまいりました。今日、その方々が「維持員」として日本相撲協会の維持と存立を確実にし、その事業全般を後援すると共に大相撲が未来永劫、親しまれますよう、制度として確立されております。

 

という前提のもとに、維持費として、6か年分を一括で、東京地区では414万円以上、大阪、名古屋、福岡地区では、138万円以上を収めていただく、というものです。

 

維持員の方には、力士の相撲競技を鑑賞し、力士の技量の実態を把握し、これを育成することで、相撲道の発展を計ることとします。「維持員席」にて当該維持員の属する地区の本場所相撲競技に立ち合う事となります。

 

ということで、土俵下の溜席を、東京、大阪、名古屋地区は300席、福岡地区は250席割り当てています。

 

というのが、寄付金の出どころです。

これ、年間チケットのVIP版、6年セット、を維持員という名前で売り上げではなく寄付金カウントしただけ、に見えます。相撲に限らず、スポーツ系団体がVIP向けにラグジュアリー席というものを設けて商売する、というのはある話で、それ自体は何の問題もないと思います。ただ、気になるのは、寄付金だと消費税が発生しないんですよね。この制度、制約が割と多いので、実際にはラグジュアリー席で観戦するVIP、というよりはある種のステータス的なものになっていて、「私、相撲協会のタニマチなんですよ」と言える権利、としての性質の方が強いようにも見えるので、「寄付」扱いでいいのかもしれません。実際のところは、どちらの性質が強いのかははっきりしないので、ここでは、寄付金扱いだけどVIP席のような割り当てがあって、でも寄付金だから消費税は発生しないはず、と指摘するにとどめておきます。

 

こういう見方をすると、この寄付金は、半ば売り上げみたいなもの、と捉えることもできて、これは相撲事業の事業としての実力で得ている収益、と見なせるかもしれません。ただ、見なせるならば、消費税は? と問いかけたくなります。そうではなくて寄付です、というのならば、相撲事業の実力値としての収益とはちょっと違う、と捉えることになります。

 

この寄付金は、相撲事業と法人会計合わせて、4億円台半ばの金額であり、重要な資金源となっています

 

それら以外の、各事業での収益の中心がなんなのかについては決算書に記載はありません。相撲事業収益がいくらいくら、とまとまった金額が記載されているだけです。その中身がわかると面白いのですが、残念ながら分かりません。

常識的には、入場料収入というのが大きく、ついで放映権料があるでしょう。相撲の場合は本場所以外に地方巡業というのがあり、これもまた一つの収入源となっているものと思われます。また、グッズなどの販売、と続きそうなのですが、これは、相撲事業ではなく、広告・物品販売事業に含まれるでしょうか。相撲で広告と言えば懸賞ですが、これが相撲事業に入っているか、広告・物品販売事業に入っているか、いまいち区別がついていません。

 

これらの中で、個別の金額がわかるものを載せてみます

 

入場料は以下のようになっています。ただし、一月の東京場所について、です

 

溜り席

14,800円

マスA席(1~4人用)

11,700円/人

マスB席(1~6人用)

10,600円/人

マスC席(1~4人用・6人用)

9,500円/人

特別2人マスC席

9,500円/人

6人ファミリー/シニア桝B席

37,200円/マス

6人ファミリー/シニア桝C席

31,200円/マス

4人ファミリー/シニア桝B席

24,800円/マス

4人ファミリー/シニア桝C席

20,800円/マス

イスA席

8,500円

イスB席

5,100円

イスC席

3,800円

4人ファミリー/シニア椅子B席

15,600円/組

自由席大人

2,200円

自由席子供(4~15歳)

200円

(すべて内税表示)

 

イスA席以下が2階です

ファミリー/シニアの桝席は、一人当たりにするとイスA席より安かったりするんですね。

土俵に近い席ほど少なくなりますので、平均単価は7,000円くらいになるでしょうか。収容人数は11,098人とされています。満員御礼なら7~8,000万円くらいの入場料収入になるんでしょうか。15日間で10~12億円ほど。もう少し大きくなるのかな。

 

もう一つ、懸賞金も上げておきます。

 

1本

62,000円

1場所15本

930,000円

申込本数は1日1本以上、1場所15本以上から、とのことなので、最低93万円スタートです(税込み)

 

価値力士獲得額

56,700円

手数料(取組表掲載料・場内放送料)

5,300円

 

これは、力士の収入としては重要そうですが、協会の取り分としてはそれほどは大きくないでしょうか。今年9月場所に懸賞本数が2,160本で過去最高になった、という報道がありました。年間6場所すべて2,160本付いたとして、年間で12,960本。5,300円を掛けると、6,869万円になります。

 

 

やはり、なんだかんだで入場料収入というのは大きいんだな、というのはわかります。

 

 

もう一回続きます。