日本スケート連盟2023年6月期決算

日本スケート連盟の昨年度の決算報告書が少し時間経ってしまっていますが公開されました。スケート連盟の決算月は6月であり、今回の決算は2022年7月1日から2023年6月30日までのものとなります。実質的に、コロナがだいぶ影を潜めて1シーズンようやくまともに試合を開催できた久しぶりの決算期となっています。

今回は、このスケート連盟の決算を見ていきます

 

○2023年6月期決算

  2023年6月期
経常収益 3,854,496,225
経常費用 3,868,733,671
当期計上増減額 -14,237,446
当期一般正味財産増減額 -14,392,255
法人税・住民税及び事業税 31,854,200
一般正味財産増減額 -46,246,455

経常収益はいわゆる売上、当期計上増減額が営業利益、一般正味財産増減額が純利益、にそれぞれ相当するもの、と考えてよいと思います。数字が大きすぎて見づらい部分もあるかと思いますが、経常収益、経常費用ともに38億円台で、当期計上増減額はマイナスの1,400万円ほどというふうになります。そうしてみると、昨季のスケート連盟は赤字に終わった、ということになります。なぜ赤字が生じたのでしょう?

 

2023年6月期 日本スケート連盟収益内訳

収益の内訳を見てみます。放映権、マーケティング事業、競技会収入、補助金、というのが主な収益源です。競技会収入は実際には費用と差し引いたあとの金額がどれくらいか、というのが効いてくるわけですが、まあそれはともかく、この辺の収入が過去と比べてどうなのかを少し見てみましょうか。

 

放映権料推移

経年グラフの横軸は、2023なら22年7月から23年6月期、という意味になります。これを見ると前のシーズンからフィギュアスケートの放映権料はほぼ変わっていないことがわかります。スピードスケートの方は2,893万円から3,355万円へと、絶対額はそれほど大きくないですが、比率にすると16%も増加しました。スピードスケートが少しでも稼げるようになっていくのはいいことだと思います。オリンピックメダリストが複数いるわけですし、有名選手も多いです。スピードスケートでもう少し稼いでほしい、と思います。

放映権の契約というのはいつしているかは今ひとつわかりません。羽生結弦さんが競技会から離れる、すなわち全日本に出ないのに放映権料変わらないの? と思われた方もいるかもしれませんが、これは、契約がその公表より早かったからというだけ、という可能性もありますし、そういったことよりも過去からの流れで変わっていない、という可能性もあります。時期が時期でしたので前者の色合いが強いと思いますが、13年から17年までほぼ変わらずに、18年に1度上がってからも以降変わらない、というところを見ると、選手の入れ替わりがあっても、金額はそれほど極端には変わっていかない、という後者の色合いも結構あるのだろうと思います。

 

マーケティング事業収支推移

次に、マーケティング事業の収支を見てみます。これは収益ではなくて収支なので、支出を差し引いた値、つまり、どれだけマーケティング事業分野で黒字だったかを示します。

見た分かる通り、23年6月期は、前期と比べて大幅に減少しました。ただ、これは、22年6月期の方が特別なタイミングであったということです。グラフは、18年、14年も膨らんでいるのが見て取れます。4年ごとです。つまり、冬季オリンピックを含むシーズンにあたります。従って、23年6月期に前のシーズンよりもマーケティング収支が落ち込むというのは、最初から予想されていたことであり、当たり前の事象と言えそうで、特別なことではなさそうです。

 

大会毎の収支推移

続いて、継続的に主催している大会の収支を見てみます。継続的に主催しているのは2つ、NHK杯と全日本フィギュアです。ここでは、23年とは23年6月期で示しているので、2022年の試合を指します。つまり、すべて、書いてある数字の前年の試合の収支にあたります。

NHKはずっと黒字出来ています。23年も22年とほぼ変わらない黒字額です。巨額な黒字とはいきませんが、安定的に稼げているというか、安定的に運営できているのがわかりますコロナ期で海外選手がやってこない試合でもしっかり黒字になっているのがなかなかすごいです。NHK杯ですので出場選手は割と毎年入れ替わっていますが、それでも安定的です。

一方、大きく動いたのが全日本でした。2022年度、つまり2021年には記録的なというかおそらく過去最高の黒字額を稼ぎだしました。もう一つ、2014年6月期、つまり2013年の大会も巨額の黒字になっています。この2試合には共通点があって、開催地がさいたまスーパーアリーナであり、オリンピックの代表選考会であった、ということです。人気選手も多い時期であり、狙って稼いだという感じがよく見えます。そのタイミングと22年の試合を比べるのはちょっと厳しいでしょう。

では、それ以外と比べてどうか? 20年開催よりは黒字がだいぶ大きいですが、これはコロナ効果なのでこれと比べるのは甘すぎる。17年から19年もだいぶ稼いでいました。19年は久しぶりに羽生選手が出場出来た大会です、そこで膨らんでいます。18年は高橋大輔さんがシングルに復帰した年、17年は会場は武蔵野の森ですがオリンピック選考会です。そのあたりのインパクトある効果のある時と比べると、22年の試合の収益力は落ちました。

それ以前と比べると、13年のすごい時以外とは大差ないです。全日本というのは通常これくらいなもの、と捉えるべきなのでしょう。予想されることが予想された通りに起きた、ということなようです

 

入場料収入の推移

収支ではなく、ここでは入場料収入だけを見てみます。このグラフは2022年とあったら2022年の大会をそのまま指します。会計年度ではなくて、西暦の年そのものです。なお14年以前のデータは得られていません。

NHK杯はコロナで国内大会化した2020年以外は基本的にあまり変わらないです。ただ、22年と同じ会場だった19年で入場料収入が22年よりかなり多いです。19年は羽生結弦さんの最後のグランプリシリーズ優勝の試合でした。その辺の差は出ているのでしょう。

全日本は顕著に増減しています。22年の大会は前年の3割弱しかありませんが、15年16年あたりと比べるとむしろ高いです。入場料収入はさすがに前年比は激減したものの、普通にちゃんとあった、と言えるでしょう。

 

○世界選手権

  世界選手権収支
2011年 -33,694,905
2014年 522,150,367
2019年 644,333,756
2023年 192,024,701

その他の主催大会の収益が大きかったわけですが、その他というのは世界選手権のことを指します。記録で残っている限りでは世界選手権の収支が見えるのは4回。2011年は赤字ですが、これは震災の影響で開催を返上したというものなのでどうしようもなかったです。

実際に開催されのは2014年と2019年。この2大会は巨額の黒字を稼ぎだしていました。それと比べると2023年大会は黒字は黒字ですが、その額は半分以下になっています。

 

○世界選手権入場料収入

  2019年 2023年
世界選手権入場料収入 1,497,406,474 993,907,800

2014年の入場料収入の記録は無いのですが、2019年と23年は確認できます。結局、この差が世界選手権の収支の差でした。入場料収入が4年前と比べておおよそ3分の2になっています。これが結局痛手だったわけです。時期としてはどちらもオリンピックの翌年で同じです。そうなると、出場選手の違い、というのが大きな差を生んだ、と考えるのが自然かと思います。羽生結弦さんのいるいない、というのもありますが、当時はネイサンチェン選手もいました。ロシアのいるいないというのもありました。女子は19年には、ザギトワさんメドベージェワさんという看板選手が表彰台に乗った試合です。当時は戦争はもちろん、ドーピング問題というのも表には出てきておらず、2人は明らかな人気選手でした。そのあたりもマイナスに寄与していると思われます。

一方で、当時はペアの日本勢は出場もなし。アイスダンスはフリー進出がいません。それと比べるとカップル競技は4年で一変していました。こちらはずいぶん集客力が上がっていたでしょう。

以前と同水準の収益が世界選手権で得られなかった、というのが結局赤字の理由ということだったかと思います。むしろよく3分の2までは確保したな、とも思いますが、実際には、19年の試合でもっと集客可能な会場で開催出来ていたら、もっと巨額の入場料収入があった可能性が高い、とも思います。

 

ただ、世界選手権もしっかり黒字です。2億円の黒字はそれだけで十分大きいです。連盟として重荷にはなっていません。日本に招致してやってよかった試合です。

これが、23-24シーズンにはなくなります。世界選手権の2億円があったから、22-23シーズンの赤字は一千万円余りで済みました。税金含めると5,000万円近い赤字という計算になりますが、それはちょっと横に置いて、問題となる赤字は事業活動で生じた一千万円余りと見てよくて少額です。問題は、世界選手権の収支が無い状態でどうなるか? というところになります。全日本もNHK杯も、ちゃんと黒字が確保できることはわかりました。あとは、全体のバランスをどう取るか? 単純計算でそのまま来期もスライドすると2億円近い赤字が発生することになりますが、それをどうつぶしていくか?

 

実は22-23シーズンも予算の時点で赤字でした。4.66億円の赤字予算が実際にはほぼトントンにまでしています。23-24シーズンは7億円の赤字予算を組んでいます。23-24シーズンは、スピードスケートのワールドカップと世界ジュニアの日本開催があり、これが結構心配です。フィギュアもジュニアグランプリは以前の実績からするとたぶん赤字になります。

 

正味財産期末残高推移

これは、日本スケート連盟の正味財産の残高の推移です。2008年6月期から記録が残っていますが、基本的に右肩上がりで来ました。23年6月期も34億円の財産を持っています。

ISUと違って債券運用とかしていませんので、金が金を生む、みたいなことにはなっていないのですが、それでも巨額の財産があるのは確かです。まあ、ちょっと稼ぎが減っても、1年2年でまずい状態になるような組織ではないです。

 

この先はしばらく、このグラフのような右肩上がりに稼いでいくという構図にはさすがにならないとは思います。まあ、収支トントンくらいでやっていけるといいのではないでしょうか。実際には、強化費削ればすぐに黒字に出来るので、どれだけ稼げるかはどれだけ強化費を注ぎ込めるかに直結します。ジュニアグランプリの派遣枠余らせたのはその辺の理由? とか勘ぐってしまうのですが、まだ資産は結構あるんですよねえ。そんなこともありますので、ファンの皆さんは、NHK杯なり全日本なり、平日から席を埋めていきましょう、というのが一番の応援になるかと思います。

 

個人的には、ISUや相撲協会みたいに、余剰資産で債券でも買っておくといいと思うんですけどね。今なら、金利も上がってきていて、毎年数千万円くらいは生み出してくれると思うのですが、まあ、あまりそっちに連盟が視線を向けているのも健全ではないような気もするので仕方ないのかもしれません。