日本スケート連盟2019年6月期決算

日本スケート連盟の昨年度の決算報告書が10月頭頃に公開されました。

少し時間が経ってしまいましたが、今年もスケート連盟の決算を見てみたいと思います。

改めて確認ですが、日本スケート連盟の決算月は6月であり、今回の決算は2018年7月1日から、2019年6月30日までのものとなります。

 

まず、一般の企業の場合には損益計算書にあたる、正味財産増減計算書について見てみたいと思います。

 

経常収益:4,601,065,854

経常費用:4,024,721,396

当期計上増減額:576,344,458

当期一般正味財産増減額:571,810,834

法人税、住民税及び事業税:49,647,100

一般正味財産増減額:522,163,764

 

経常収益は売上に相当して、経常費用の方は売上原価+販管費に相当するもの。当期計上増減額は営業利益に相当するものになります

 

すなわち、スケート連盟は46.0億円の売上があって、5.76億円の営業黒字でした、という結果です。

そこから経常外損益がまあいくらかあるのですが、それを加味した税引き前利益に相当する額が5.72億円。そこから税金ひかれて、当期純利益に相当するのが5.22億円あった、ということになります。

営業利益率、ないしは純利益率が10%を超える、ということで、なかなかな優良会社な状態にあります。

 

 

また、貸借対照表を見てみると、上記の5.22億円を上乗せした正味財産は、31.82億円となりました。この正味財産というのは、一般企業でいえば純資産に相当するものです。

一方で負債を見ると、流動負債、固定負債合わせて3.52億円ほど。負債と比べて十分に大きな正味財産を持っていることが見て取れます。

いわゆる自己資本比率にあたるものを計算すると、

 

3,181,620,882 ÷ 3,533,156,234 = 90.1%

 

一般の企業で、こんな高い自己資本比率、見たことありません。自己資本比率が50%を超えたら安定的で全く心配のない企業だ、とよく言われますが、90%にまで達している状態って、企業だとどうなるんですかね? 逆にここまでいくと、資本効率が悪い、とされてしまって評価されなくなります。

ようは、そんなにお金貯めこんでどうするの? 上手に使いなさい、ということです。企業の場合はそれだけの資本を抱えているのだから、もっと事業を拡大してしっかり稼ぎなさい、と株式市場などから言われてしまうわけです。

スケート連盟の場合は、営利企業ではないので、もっと稼ぎなさい、と言ってしまうとおかしな話になりますが、それだけの資産を持っているのだから、もっと上手にいろいろなことできるでしょ、という指摘はされてしまうくらいの状態にある、と言えます。

 

ちなみに、ROE(自己資本利益率)、ROA(総資本利益率)も計算すると

 

ROE = 522,163,764 ÷ 3,181,620,882 = 16.4%

ROA = 522,163,764 ÷ 3,533,156,234 = 14.8%

 

どちらも10%を優に超えて優良企業区分される数値です。

この辺は、この決算期が利益が出やすい年だった、ということも一つ理由になるかと思います。

 

持っている資産がどういった形態なのか、というのも興味がもたれる部分です。これが、土地や建物だったり、企業であれば設備機械であったりすると、自己資本であったとしても自由に使えるとはとても言えない資産なので、あまり余力になりません。一方で、現金に近い形で持たれているのであれば、すぐに使えると言える資産ですので、大いなる余力として見ることができると言えます。

 

まる、流動資産と言われる、すぐに現金化できる資産として、1,471,876,630円が計上されています。ここから、流動比率、と呼ばれる数字を計算すると、

 

流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 = 1,471,876,630 ÷ 260,184,352 = 566%

 

流動比率とは、一年以内に支払わないといけないお金に対して、手元にあるお金が何倍あるか? というような指標です。まあ100%超えてれば、払わないといけないお金の原資が手元にあるね、200%以上なら理想的ね、というような指標なのですが、500%を超えていますので、何の心配もいらない、という領域です。

 

次に、固定資産の区分を見てみます。ここは、普通はすぐに現金化できないような資産が乗っています。土地や機械設備なんかはここにくるので、その辺が大きいと、資産は大きいけれどすぐに使えるお金の比率はそんなに大きくなくて台所事情は苦しい、というようなこともありえます。

固定資産合計:2,061,279,604

積立引当預金:1,796,646,213

 

総額で21億円近い固定資産のうち、87%にあたる金額が積立引当預金というものになっています。積立引当金というのは、使う予定があるのだけど積み立てておいておく、というものを割り当てる科目です。これとは別に退職給付引当預金というものが9,000万円ほどあったのですが、これなんかは、職員の退職金として将来予定されているものを引き当てておく、というもので、実際に手元にあっても使えるわけではありません。

積立引当預金の内訳もあったので見てみますと、2,000万円がフィギュア関係、残りの17.7億円は強化関係、と分類されていました。どのような形で所有されているかというと、フィギュア関係の2,000万円は三菱東京UFJ銀行渋谷支店に定期預金として。強化関係の方は全額がみずほ銀行渋谷中央支店にやはり定期預金として所有されています。

定期預金なので、いつでもフリーで取り出せるわけでは確かにないですが、でも、ほとんど痛手なく解約できるものではありますので、土地や機械設備のような固定資産とはだいぶ意味合いが違います。キャッシュに近い代物と考えてよいでしょう。強化に充てるもの、として取り分けられているキャッシュが17.7億円ほどあるのだ、と考えると、やはり現状は大変裕福である、とこの団体は言えると思われます。

 

 

さて、では資産状態の話は終わりにして、次に、昨年度の収益の中身を見ていきたいと思います。

 

46億円の売上というか収益のうち、主催大会の収益が半分以上を占めました。毎年必ず行われるNHK杯が4.18億円、フィギュアスケート全日本選手権が2.36億円あります。それ以外の大会は毎年行われるわけではないものからの収益になるので、その他の競技会とまとめましたが、昨年度はそのほとんどが世界フィギュアからの収益でした。これが19.29億円あります。昨年度が例年に比べて収益が大きかった理由はほとんどこれです。世界フィギュアを日本で開催したことで、オリンピックのあった年度よりも収益が大きい、ということが生じました。

 

次に大きいのは補助金でした。補助金は総額で9.68億円あり、中でも一番大きかったのはスポーツ振興くじからの助成金で6.92億円ありました。ただ、これは、国際競技会開催の助成金として逆にほとんど支出側で使われています。ちょっとここのお金の動きはどういうものなのか今一つ解釈できないので正直なところよくわかりません。

助成金の残りの金額は、JOCからの交付金が7,000万円ほど、JOCからの選手強化費が1.93億円ほどありました。この二つは毎年定常的に入ってきていますが、選手強化費は、オリンピック年度であった前年と比べて大幅に減額されています。

 

 

 

 

では一方の、費用の方を見てみます。

一番大きいのは特別事業費、というもので19.9億円ありました。これは主催大会の運営費にあたるもので世界フィギュアに12.9億円、NHK杯3.92億円、全日本フィギュアに1.36億円かかりました。大きな金額掛っているのは事実ですが、この三つの大会はすべて黒字です。

次に一般事業費で7.69億円あります。ここはマーケティングにかかる費用、国内の競技会への補助金、強化対策費、などなど入ってきます。

 

 

 

さて、連盟の一つの使命として選手の強化、というのがあります。そこに昨年度いくらお金が使えたでしょうか? これは、どの科目を強化に使ったお金と見るか? で変わってきてしまうのですが、おそらくこれはそれに該当するだろう、というものを足し合わせるとこうなりました。

 

フィギュアスケート:245,245,595

スピードスケート:323,013,066

ショートトラック:126,698,826

合計:694,957,487

 

強化対策費、とはっきり明記されているものの他に、強化合宿とあるもの、また、試合への派遣費までを含めました。その辺全体で7億円弱が直接的に強化に充てられていると言えそうです。その中で半分近くはスピードスケートへ、三分の一がフィギュアスケートへ、六分の一がショートトラックへ、というのが大まかな配分に見えます。

スピードスケート、平昌オリンピックでもメダルを多数、それも複数の金メダルを含んでとりましたしね。ただ、昨年度日本スケート連盟が主催したスピードスケートのワールドカップは残念ながら赤字だった、という現実があります。また、放映権料でもフィギュアスケートが1.96億円を得ているのに対し、スピードスケートは2,600万円ほどにとどまっています。

あれだけ強い競技なのですから、スピードスケートはその強さを収益につなげて、その収益を強化費に充てて、というサイクルをしっかり作っていくことが今後の課題になるのではないかと思われます。

 

次回以降、過去からの推移などもう少し詳しく見ていきますが、今回は、昨年度は大きな黒字があったこと、また、現在の財務状態は大変裕福だと言えること、くらいまでは見えてと思います。

 

以上、日本スケート連盟の2019年6月期決算でした