日本相撲協会の財務状況

さて、スケート連盟の財務状況を見たのを引き金に、ここまで、冬競技の財務状況との比較なんかをしてきました

この辺で、冬競技を離れて、別の競技の財務状況を見てみたいと思います

冬競技の中ではスケート連盟というのはかなりの金持ち団体である、ということが見えましたが、じゃあ各スポーツ団体の中で見たらどうなのか? という話です

 

ここで、オリンピック競技ではないですが、日本相撲協会というのを持ってきたいと思います

これを持ってきた理由は、稀勢の里大変そうだなあ、というのと、それなりにお金持ってそうだから、という二つの理由です

ようは、理由はあってないようなもので、見てみたかったから、というのに近いですが、スケート連盟より大きな資産規模なのではないか? という推測はありました

 

まず前提

相撲協会は12月決算です

最新の決算は2017年12月

また、2014年1月30日から公益財団法人に移行したこともあって13年以前の決算記録は表に出ていません。また、2014年は1月30日から12月31日までの決算となっています。大相撲は1,3,5,7,9,11月に本場所がありますので、2014年は1月場所については決算に含まれていない、ということになります

 

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さて、最初に、どれくらいの事業規模なのかを見るために、経常収益の推移を見ます。

経常収益は、2014年は100億円に欠ける数字でしたが、この年は2月から12月の11か月分の決算なので、1月場所の売り上げが入っていません。それ以降の3年間は120億円前後で継続しつつ、右肩上がりになっています。

スケート連盟は、オリンピックシーズンに補助金込みで30億円台前半の経常収益ですから、それと比べても4倍程度、オリンピックシーズン以外の年で、補助金抜きで考えると6倍程度の規模が相撲協会の事業規模としてある、と言えそうです。

 

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続いて正味財産期末残高の推移

2017年末段階で380億円ほどあります。かなりの資産規模です。スケート連盟が18年6月末時点で26.6億円でしたから、おおよそ15倍の規模になります。上には上がいる、という感じです。さすが「国技」とされるだけのことはあります。スケート連盟は冬競技の中では図抜けた金持ちでしたが、こういうところと比較してしまうと、たいしたことないようにも見えてしまいますね。

 

こんな財産どこに抱えてるの? というところなんですが、相撲協会は資産リストを公表していません。なので、貸借対照表や事業計画書などから読み取れることで推測していくしかありません

 

貸借対照表を見ると流動資産は47億円ほどです。そのうち現金預金で45億円ほど。流動負債が13億円ほどなので、運転資金というにはちょっと大きいですが、年間の経常費用が110~120億円ほどありますので、流動資産はまあ、運転資金としておいてよいでしょうか

 

貸借対照表で、負債で大きな部分を占めているのは退職給付金です。これに相当するものが固定資産として充当されていますので、その分を差し引いた資産を見ると、350億円近い固定資産を抱えています。スケート連盟やその他の冬競技の資産を見ていると、わかりやすい固定資産はあまりなく、積立引当金のような形でしかなかったのですが、相撲協会はわかりやすいものが結構あります

 

土地が94億円あるとされています。建物としても35.5億円ほどあります。このへんはおそらく国技館がメインなのだろうと思います。両国のあのあたりって、地価どれくらいなんでしょう?

ちょっと調べてみたら、両国付近の路線価でおおよそ68万円/m2という数字が出てきました。国技館の面積ってどれくらい? 延べ床面積35,700m2とあるけど、土地の面積はもっと小さいですかね。ただ、外部も占有しているということを考えると、やはりほぼほぼ94億円というのが国技館の土地の価格ということなのでしょう。建物35.5億円は国技館以外の部分もあるかもしれませんが、結構多くの金額が国技館関連でしょう

この辺は、資産と言っても簡単に売ることは出来ないものですし、むしろ維持費がかかってくるので、資産が大きいは大きいですが、余剰資産、というのとはちょっと違いますね。むしろ、これを原資に事業を行っている、というものです。

また、国技館の老朽化による建て替えに備えるため、という理由で減価償却引当資産、というものが計上されているのですが、これが135.4億円ほどすでにあります。さらには国技館改修基金というそのものずばりな名前で17.5億円が確保されています。

 

現在ある両国国技館、というものを建てるのにはいくら掛かっていたのでしょう? Wikipediaによれば1984年竣工で150億円で建った、とされています。別の建設関係のサイトでも、150億円と言っていますから、そういう金額だったのでしょう。そちらのサイトでは、土地代94億円とありますので、上記で述べた固定資産の土地94億円は、やはり国技館そのものと思ってよさそうですね。前回の建設時は、その前に国技館のあった蔵前の土地を売り、補助金として5億円をもらったうえで、自前で貯めていた96億円を使って、土地及び建物を手に入れたようです。その当時と比べて、かなり手持ちの資産も増えていますし、減価償却引当資産と、国技館改修基金と合わせると、前回の総工費150億円を超える152.9億円が確保されている、という状態です。

それだけの準備金をすでに持っているわけですから、そういう観点からすれば、金持ってるなー、とはっきり言えるでしょう。

また、そのほかにも公益目的事業用資産30億円、管理目的用資産20億円、という、わかるようなわからないような科目の資産がまとまった金額入っています。

この辺だけで200億円を超える資産があるわけで、事業規模を考えると、非常に裕福であると言えるでしょう。

 

さて、その金の持ち方ですが、決算書を見ると、各種金融商品を所持している記載がありました。

 

国債50.7億円

地方債20億円

みずほ銀行社債2億円

三井住友フィナンシャルグループ社債10億円

 

締めて82.7億円ほど(すべて帳簿価格)

 

これがどの科目に相当するのかはわかりませんが、これらは流動資産ではなく固定資産側へ記載されているものになるはずです。いわゆる固定資産のイメージには合わないのですが、貸借対照表上では固定資産側へ入れていますこの場合。この場合というのは、相撲協会の決算書ではこれらの有価証券は「満期保有目的」と記してあることと、上記に相当する金額が流動資産の科目内に存在しないこと(流動資産のほとんどが「現金預金」である)により、固定資産として所持されていることがわかります。

 

流動資産ではない有価証券というのは、運転資金ではありませんので、ある種の余剰となっているものと言えます。それがこれだけの金額になるのですから、かなり大きいですね。そしてこれが何を生み出すかというと、次のようなものが生み出されているわけです

 

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上記の有価証券、と限ったわけではないですが、正味財産増減計算書の中で、特定資産運用益という科目があり、それを見ると、毎年1億円以上の運用益が得られています。スケート協会も相撲協会の十分の一規模の資産はあったのですが、運用益は毎年数十万円、という規模でした。それと比べると、莫大ともいえる運用益を得ていると言えます。

80億円台の金融資産の運用益が1~2億円というのは、1~3%程度の利回りであり、それほど高いわけではないですが、定期預金に預けておいただけ、というのとは異なり、明確に、運用して収益を得よう、という意思がないと得られない利率、金額です。余剰の資産をうまく生かしていると言えます。

 

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 相撲協会は寄付金もそれなりに得ていて、3億円台から4億円台ほど毎年あります。最新の2017年は4.75億円ほど。経常収益全体が120億円台であるのと比べれば小さく感じられますが、多くの収益源にはコストがかかるのに対し、寄付は寄付でこれに呼応したコストはほぼ発生していないはずです。そういった意味で、これだけの寄付が得られるというのは大きいと言えるでしょう。

 

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じゃあ補助金なんかはどれくらいあるの? というのを見てみると、こんなものです。このグラフ、縦軸は万円単位です。つまり、100万円台しかありません。寄付金や資産の運用益と比べると、微々たるものしかありません。補助金いらずの健全経営ってことでいいんでしょうか。まあ、国債を50億円以上持っている団体に、寄付金を交付する意味、ほとんどないですからねえ。

 

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そのあたりをひっくるめた、正味財産の増減額の推移。これは一般的な企業でいえば、純利益の推移みたいなものですが、15年以降は黒字推移です。2015年、なにかありましたっけ? 日本人久しぶりの優勝、というのは2016年、日本人久しぶりの横綱昇進は2017年です。2015年、なにかあったっけ?

2014年は結構大きな赤字ですが、この年は1月分が除外されている計算で、どうも1月分を合わせると、だいぶ赤字幅が圧縮されているようです。

それ以前、13年以前はしばらく赤字が続いていたようでした。

2017年の正味財産の増加額は8.32億円。これを純利益として読むと、この年度の純利益率は6.58%ということになります。立派な優良企業ですね。さて、立派な優良企業は、営業利益率が高くて、そこから税金取られての純利益になるので、結構な額を納税しているはずなわけですが、相撲協会はどうなんでしょう?

 

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というわけで、法人税等、という科目を見てみたらこんな感じでした。縦軸の単位は1円なので、金額は見たままの数字です。つまり、2017年度は15万円ちょっとでした、ということになります。利益に相当するものがだいぶ出ているのですけどね、税金はほとんど納めていない、という状態なわけです。

 

相撲協会は「公益財団法人」となっています。公益財団法人は「公益目的事業」として認められる部分は課税対象になりません。法人税法上の収益事業から生じた所得は課税対象となるのですが、「公益目的事業」は収益事業ではない、ということとされ、課税対象になっていないわけです。

スケート連盟は、17-18シーズンは、法人税、住民税及び事業税として1.14億円ほど納税していました。このオリンピックシーズンは、結構な金額の黒字があったので、それに伴って税金を納めていた形です。これは、スケート連盟のすべての活動が「公益目的事業」ではなく、収益事業として区分されるものがあるため、そうなっています。それに対して、相撲協会でも、収益事業に区分されるものはありますが、結果として税金はほとんど納めていない形となりました。このあたりが、相撲協会にかなりの資産が貯まっている、一つの要因と言えると思われます。

収益事業であっても、損失の繰越というのができますので、13年以前に莫大な赤字があった、というのなら、法人税がほぼ掛かっていない、というのも妥当ではあるのですが、その辺どうなってるんでしょうね。少なくとも、ここ数年、法人税はほぼ支払われていない、という事実はあります。

 

スケート連盟の財務状況を見ていたときは、アイスホッケーとかカーリングなんかと比べて、だいぶ金持ちだなあ、という感じでしたが、相撲協会のそれを見ると、スケート連盟とはけた違いで、上には上がある、というのはこういうのを言うんだなあ、という感じでした

 

今年も一年盛り上がった、というか、話題に事欠かなかった相撲界。事業規模が100億円台、資産は数百億円抱えている、という事業体です。一部上場企業の中でも売り上げ100億円に満たない企業はいくらもありますので、事業規模でいえば一部上場企業並みの組織体なわけです。

横綱がみんな休んでたり、日本人がなかなか勝てなかったり、暴力沙汰はしょっちゅうだし、この先どうなるんだ?? と雲行き怪しい部分もあるように見えますが、財務面では、非常に裕福で、ゆとりがある状態です。

多少ごたごたが続いても、多少客席が埋まらなくなったとしても、しばらくはお金の面では安泰だろう、ということが見て取れます。

 

相撲協会の話は次回へ続きます