さて、久しぶりにお金の話をします
ずいぶん前に、日本相撲協会の財務状況について記したことがありました
当時は2017年12月期の決算までの数字のお話でした
その後時間が経ち、2019年12月期の決算まで出ています
今回は、その直近の決算に関してと、コロナで本場所が出来なくなってしまった今、財務状況はどうであろうか? というお話をします。
17年決算の話の時に、売上に相当する経常収益は右肩上がりに来ていて、120億円を少し超えるくらい、というお話をしました。
18年19年は、右肩上がりは止まりましたが、120億円を超えるあたりにあるのは変わっていません。2019年の経常収益は123.5億円でした。
売上のほとんどは相撲事業で上げています。2019年は106億円が相撲事業から得た売上です。
正味財産増減額は、一般的な企業で言えば、当期純利益に相当するものです。
これが2017年をピークに下がってしまってきています。ただ、それでも18年19年はしっかり黒字でした。2019年は2.07億円の正味財産増加を成し遂げています。
前回のお話の時に、相撲協会で稼いでいるのは相撲事業だけでなく、国技館の貸し出しをする貸館事業や、広告・物販の部門もある、ということを記しました。
18年19年も、これら3部門で利益を上げているわけですが、様相が少し変化していて、相撲事業の利益が減少してきています。一方、貸館事業、広告物販は安定しています。19年は、貸館事業で5.49億円、広告・物販で3.32億円の利益相当額があった一方、相撲事業では1.92億円に留まりました。
正味財産期末残高は、一般的な企業で言えば総資産のようなものです。これが19年末時点で379.6億円あります。これが、これまで積み上げてきた相撲協会の資産です。ある意味で内部留保をかなりの額ため込んでいるというのがわかります。
さて、大相撲は3月場所は無観客、5月場所は中止となりました。
上記は昨年までの財務状態で、それを見る限りでは日本相撲協会は非常に裕福である、ということが言えます。この相撲協会が、本場所の中止などにより財政状態が危うくなるようであれば、ほかの、取り立てて裕福とは言えない団体は、さらに危ない、という可能性もあります。
では、コロナの影響で相撲強化の財務状態はどの程度痛む可能性があるでしょうか?
固定費、という概念があります。飲食店などがコロナ影響で店を開けず売り上げが上がらないのだけど、でも、家賃などの固定費は店を開けようが開けまいがかかるので辛い、というあれです。
相撲協会も、本場所があろうがなかろうが、固定的にかかる費用というものがあるはずです。これが、持っている資産に対して過大である場合、一見財政状態が豊かに見えても、一気に苦しくなっている可能性があります。
何をもって固定費か? というのはちょっと難しい部分があるわけですが、例えば従業員の給与関係は固定費になります。相撲協会の場合、力士に対しての養成費や奨励金というのもそれに入るものかな? と推測して固定費として入れています(本場所の賞金などであれば本場所がなければ発生しないので固定費にはいれませんが、ここではそういうものではないと推定)。
賞与なんかも、景気が悪ければ減額、というのが世の常ではありますが、計算するときには固定費にいれます。
その辺ひっくるめて、この辺が主な固定費かな、というのを見ると、90億円程度はあるだろうと見ています。このほかにも管理系で数億円は固定費がいるようなので、大ざっぱに年間100億円近い固定費がある、と推測できます。
120億円ほどの事業規模のうち、100億円近い固定費がある、というのは、結構固定比率が高い商売(と言ったら怒られるのかもしれませんが)だな、と感じます。
ああいった興業商売は、費用のほとんどが人件費、ということなのでしょう。
さて、固定費率が高い、ということは、本場所があろうがなかろうが、ほとんど変わらず費用が掛かる、ということです。なので、本場所が無観客でチケット売り上げがないというのはつらい。さらに、本場所が中止になれば放映権収入入らないし、関係収入全部なくなるので辛い、ということになります。
さらには、相撲協会は副業的なところで費用をあまりかけずに収益を得ている、というお話を以前にしました。国技館を使った貸館事業、というやつですね。この事業は当然、壊滅しているはずです。6月の貸出予定もゼロ。まあ、当然ですね。考えるまでも調べるまでもなく、今、誰も、国技館なんて借りてイベントやろうなんてしません
というわけで、副業収入も途絶えてしまう(広告物販事業は貸館事業よりはましだろうけど)ので、収入面ではかなり苦しいことになってしまっているはずです。
さて、この収入が途絶えてしまったのに固定費が重い、という苦境は、相撲協会が持っている資産で支えることができるでしょうか?
結論から言うと、微妙な部分はあるけど、たぶん大丈夫。
貸借対照表の方を見てみます。
資産合計 |
47,316,372,024 |
負債合計 |
9,353,176,414 |
正味財産合計 |
37,963,195,610 |
2019年末の資産、負債、財産です。
負債が100億円弱ありますが、資産が473億円にも及ぶため、正味財産として380億円ほどあります。これは、19年の決算の話のところでも見た、正味財産の推移にあったものと同じです。380億円もの財産があれば、年間100億円ほどの固定費が発生している中で収入が途絶えたとしても、3.8年ほど持つじゃないか、と一瞬見えます。ただ、それはまやかしです。
流動資産合計 |
3,473,115,666 |
固定資産合計 |
43,843,256,358 |
資産合計 |
47,316,372,024 |
資産は、流動資産と固定資産に分かれます。流動資産は、手元にある現金のようなもので、お金払って、と言われたときにすぐに払える状態の金額をさします。一方で、固定資産は固定化されてしまった資産で、お金払って、と言われてもすぐにお金として払えない状態のものです。一番わかりやすいのは土地ですね。明日お金払って、と言われたときに、どれだけ土地を持っていても、それを売って現金化してお金として払うには時間がかかります。
なので、すぐに支払えるのは35億円ほどでしかない、と言えます。
この時点で、年間の固定費100億円にはだいぶ遠く、4か月分程度の金額しかないことがわかります。
流動資産合計 |
3,473,115,666 |
流動負債合計 |
2,685,476,726 |
さらに見ていくと、流動負債、というものがあります。これは、お金払って、と言われていてもうすぐ払わないといけない金額に相当します。
なので、実際には流動資産から流動負債を引いた金額しか余剰はありません。
流動資産の余剰は8億円ほどです。この金額だと、年間で100億円に及ぶ固定費に対して、収入が途絶えた状態ではほとんど持ちません。
さて、どうしましょう?
資産には流動資産の他に固定資産がありました。固定資産にもさまざまあるので、その中で現金化しやすいというか現金に近いものが十分にあれば、なんとかなるでしょうか
土地 |
9,400,000,000 |
定期預金 |
100,000,000 |
昭和報謝基金資産 |
24,016,854 |
博物館資料 |
48,343,622 |
基本財産 合計 |
9,572,360,476 |
固定資産は基本財産や特定資産に分けられますが、上記は基本財産の方です。
評価額94億円の土地があります。こんなもの、すぐに現金化することは出来ませんね。
ただ、定期預金1億円。これは、ほとんど現金みたいなものでしょう。100億円と比べると大した額ではないですが、こういうものは固定資産くくりであっても、素早く現金化できるはずです。
退職給付引当資産 |
5,483,917,100 |
役員退職慰労引当資産 |
398,700,000 |
減価償却引当資産 |
12,221,144,447 |
3,677,468,554 |
|
公益目的事業用資産 |
3,000,000,000 |
管理目的用資産 |
2,000,000,000 |
建物 |
16,058,855 |
特定資産合計 |
26,797,288,956 |
特定資産はこういうものに使う予定、という区分に従って入っていて、どういう持ち方をしているかはこれだけ見てもよくわかりませんね。
ただ、退職給付引当資産や役員退職慰労引当資産あたりは、将来的に従業員に払うためのもの、という意味合いになるので、この辺をほかの用途に流用することはなかなかできないでしょう(退職金規定などを変える、ということができればやれますけれど).
一番大きな金額として、減価償却引当資産、というのがあります。これは国技館を建て替えるための準備として積み上げてきているものなようです。その次の国技館改修基金は、建て替えではなく修繕をするための準備金です。
減価償却引当資産 |
|
定期預金 |
6,900,000,000 |
金銭の信託 |
253,764,447 |
国債・地方債 |
4,046,280,000 |
1,021,100,000 |
|
3,034,381,839 |
|
定期預金 |
200,000,000 |
金銭の信託 |
443,086,715 |
これら資産の持ち方を見てみると、すごいですね、普通預金で30億円なんてのがあります。定期預金69億円なんてのもいます。
これらがそのまま使えれば、年間の固定費くらいは問題なく支えられる計算になります。問題は、そのまま使えるのか? という点です。
特定資産、というのは特定の目的のために持っている資産です。減価償却引当資産は、国技館建て替えのため、国技館改修基金は、国技館の改修のため、と明言されています。
そのため、これらの資産はその目的のためにしか使用することができません。ただ、これら特定資産は、目的外取り崩しの要件、といったものが通常定められています。この要件に合致すれば、国技館の建て替え以外にもこの資産を使うことができます。
要件がどういったものなのかは、実際のところよくわかりません。ただ、以前、相撲協会は各種不祥事により大きな赤字を計上していた時期がありました。この時期には、その赤字を、減価償却引当資産の取り崩しにより補填していた、ということがあります。
そのあたりから考えると、コロナだろうがそれ以外の何かだろうが、本場所が開けず収入が途絶えた状態、というのは、減価償却引当資産を取り崩してもよい、目的外使用の要件に、おそらく合致しているもの、と思われます。
減価償却引当資産は、定期預金で69億円、国債などで40億円、といったものなど、ほぼ現金に近い状態で120億円あまりあります。
そういったことから考えれば、本場所の一場所や二場所なく、協会員の給料を中心とした固定費が多額であっても、十分支えていくことができるだろう、ということが見て取れます。
大ざっぱにまとめると、金持ちでも固定費が大きいとコロナで営業止まってしまうとつらい。でも、金持ちなので数カ月から1年くらいは止まったままでもなんとかなる。ただ、国技館建て替えとかのお金はなくなっちゃうけどそうなると、というものでした。
勝武士さんのご冥福をお祈りいたします