前回、相撲事業での黒字額よりも、貸館事業や広告・物品販売事業による黒字額の方が大きい、ということを述べました
今回は、それらの、いわば「副業」とも呼べるものの収益構造を見てみたいと思います
改めて載せますが、主要三部門での、相撲協会の営業利益相当の金額の推移です。なお、2014年は2月から12月の11か月分の決算のため、1月場所の収益が含まれないこともあって、相撲事業の赤字が大きい、ということになっています。
貸館事業で、毎年数億円、2016年が近年では最大で5.76億円の黒字がありました。4年間で19億円にものぼる黒字です。この積み上がりというのは相撲協会の大きな資産に直結しています。
さて、貸館ってなんでしょう?
国技館の貸し出し、ということですね。
どれくらいの価格で貸しているのでしょう?
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教育関連行事等 |
私的行事等 |
展示会等 |
物販等 |
プロスポーツ興行・歌謡ショー等 |
土日祝日 1日利用 |
2,000,000 |
2,300,000 |
2,600,000 |
3,000,000 |
3,500,000 |
土日セット |
3,800,000 |
4,370,000 |
4,940,000 |
5,700,000 |
6,650,000 |
平日1日 |
1,700,000 |
1,955,000 |
2,210,000 |
2,550,000 |
2,975,000 |
平日2日 |
3,200,000 |
3,680,000 |
4,160,000 |
4,800,000 |
5,600,000 |
平日3日 |
4,500,000 |
5,175,000 |
5,850,000 |
6,750,000 |
7,875,000 |
平日4日 |
5,600,000 |
6,440,000 |
7,280,000 |
8,400,000 |
9,800,000 |
平日5日 |
6,500,000 |
7,475,000 |
8,450,000 |
9,750,000 |
11,375,000 |
準備日 |
1,000,000 |
1,200,000 |
1,200,000 |
1,200,000 |
1,200,000 |
価格は、土日の1日がベースで、2日セットの場合は1日分は1割引き
平日は土日の料金から15%引きで2日以上使用する場合は、2日で20%、3日で25%、4日で30%、5日で35%安くなる、という計算です。
これはアリーナの料金で、このほかに、大広間が土日の1日50万円をベースに、値引き率が上記と同じで2日以上や平日は使えます。
さらに、付帯設備として、さまざまな料金があり、会議室が10万円だったり、空調管理費が土日は1時間あたり9,000円掛かったりとか、さまざまな費用が付いてきます
こういったものの売り上げが毎年6~8億円ほどあって、2~3億円台の費用を引いて、大きな黒字を稼いでいます。ある種の不動産商売としてうまくやっているように見えます。
用途によって価格が異なるんですね。
どんな人たちが借りているのでしょう?
当然ですが、1月5月9月は、ほとんど相撲協会自身が使う、という形で埋まっています。
また、やはり多いのは相撲関係のイベントで、〇〇断髪式という引退関係や、△△襲名披露相撲、○○部屋落成祝賀会、という、関係者系のものがありますし、少年相撲とか、白鵬杯といった大会関係もあります。
3月4月には専門学校の卒業式入学式なんてのもありました。
企業イベント、というのもそこそこありますし、プロレスが行われることもあります。
最近だと、Tリーグ開幕戦、というのが大きなイベントだったでしょうか
ライブ関係は少なめかな、という印象ですが、11月にはポールマッカートニーのコンサートがあり、大晦日にはさだまさしカウントダウンなんてのもあります
今年を数えてみると、143日稼働があって、うち45日は相撲の東京場所、それ以外に37日は相撲関係のイベントで、それ以外の貸し出しは61日ありました。
稼働は、あんまり高くないのかな、という印象です。付帯設備の方で稼いでいる部分が結構あるんでしょうか。ただ、実際に東京場所、として使っているよりも、貸出している日数のが長いわけで、国技館というのはある種の不動産業としての色の方が強いんだな、という風に感じます。
貸館事業の費用ってなんでしょう?
主な費用を載せてますが、減価償却費も17年にいきなり増えてますがそれでも1億円程度です。租税公課は固定資産税(公益法人でもこれは条件そろわないと普通に収める)が結構あるのだと思いますが、6,000万円弱です。労務費関係もありますが、この二つと比べるとだいぶ小さい。光熱水料費は当然かかるし、保安のための費用も掛かってくる。このあたりが固定費なので、もうちょっと貸出稼働を上げたい、というところなんだろうな、とは思います
もう一つの収支の柱になっている広告・物販事業。
何を売っているのか? とみると、相撲協会機関紙「相撲」という月刊誌が一つのメインの販売物なようです。2017年度は、年間実売部数170,074部とされています。定価は月によって異なり930円~1050円。12か月分を計算したら、16,768万円、すなわち、1.68億円ほどの売上でした。
広告・物販事業の売り上げは4億円台あるので、足りません。
月刊誌を超える販売部数のものがありました。大相撲カレンダーが49万部製作されたそうです。来年度のカレンダーが、壁掛けのものが1,000円、壁掛け+卓上カレンダー付で1,800円。49万部に1,000円を掛けると4.9億円になるので、金額大きすぎになりますが、カレンダーというものの性質上、協会が無料で配布する相手というのもいるでしょうから、これと月刊広報誌の売り上げ、というのが広告・物販事業の主な収益源でしょう。
広告・物販事業の主な費用はこういったところ。さすがに広告宣伝費が一番かかっていて、17年は6,000万円レベルになっていました。印刷製本費は、伸びてきてはいますが17年段階で3,000万円。3,000万円で作った雑誌とカレンダーで3億4億稼ぐわけですね。
元々持っているコンテンツを使って、グッズ化して売っているので、コストも、一から作り上げるより低くて済んでいるのでしょう。
こうやって見てみると、相撲協会というのは、自分の持っている資産をうまく使っているな、というのを感じます。
当たり前ですが、相撲協会の中心業務は、大相撲の開催です。力士という人的資源があり、国技館という固定資産がある。この二つで本場所を開く、というのがメインの収入源ですが、本場所は国技館だけでなく、年3回は地方を回ります。しかしながら本場所は年間で90日しかなく、残り275日はありません。力士はこの空いている時間は、稽古に使われるのが本来の姿ですが、その、稽古そのものをある種興行化した、「地方巡業」というものが行われて、収入源となっています。人的資源の有効活用です。極論、「練習を見せている」だけで、1人1万円、なんていう席を販売して稼げていたりします。
国技館という固定資産も、本場所以外は貸出をして稼ぐ。これも資源の有効活用です。さらに、相撲というコンテンツを生かして、月刊誌を作成して販売する、力士というキャラクターを財産として生かしてカレンダーを中心としたグッズを作成して販売する。余剰資金は運用に回しリターンを得る。
いろいろなスポーツ系の団体は見習った方がいい、と思うくらい、商売のうまさを感じます。
オリンピックでメダルを取って、知名度があり華もある選手もいるのにお金がない、なんていうカーリング協会なんかはほんとに見習った方がいいです
ただ、これだけ稼いでこれだけ資産を持っているからこそ、その稼ぎをどう使うのか? というのが問われます。
相撲協会がほかのいろいろなスポーツ団体と違うのは、世界の頂点を目指す的な視点が持てない、ということがあります。日本代表にオリンピックで金メダルを取ってもらうとか、そういう方向性はありません。大相撲イコール世界、であって、世界を目指しようがない。もちろん、選手の強化、というのと同じ意味合いで、各部屋、親方、への資源の配分というのはありますが、ある種、それは身内への資源の配分であり、身内の中の頂点を争う戦いでしかありません。
相撲協会では、協会の使命として、以下のようなことを言っています
太古より五穀豊穣を祈り執り行われた神事(祭事)を起源とし、我が国固有の国技である相撲道の伝統と秩序を維持し継承発展させるために、本場所及び巡業の開催、これを担う人材の育成、相撲道の指導・普及、相撲記録の保存及び活用、国際親善を行うと共に、これらに必要な施設を維持、管理運営し、もって相撲文化の振興と国民の心身の向上に寄与することを目的としています。
これ、ようは、なになにを目指す、ではなくて、現状を維持する、が目標になってるんですよね。現状を守る、が目標な場合、資源が溜まっていったところで、投資する先がなかったりします。今の相撲協会はその状態なのではないか、と思われます。
スポーツ団体であろうと、お金を稼ぐのが悪いこととは思いません。ただ、金余り状態にまでなっている、というのはどうなんでしょう? 株式会社の場合、金余り状態で投資先が見つけられない、というようなことになったら、その資金は株主に返す(配当、自社株買い)ということが行われます。相撲協会は株式会社ではないので、オーナーが誰? というのはいまいち見えにくいのですが、どうなんでしょう? 行きつく先は、国家、ということでいいんでしょうか
相撲協会は公益財団法人であり、公益事業は所得税などが免除されています。これまでも、その公益性、というのが問われる場面が何度もあったようであり、最近も不祥事が続き、ガバナンスに疑義が出されている状態でもあります。ただ、それらとは違う見方で、お金が余っていて投資先もなく余剰になっている、という状態なのだから、それは、税金が免除されるような団体でいてよいのか? という方向性の指摘もしたくなるわけです。
稼ぐのが悪い、とは全く思いません
ただ、税金面で優遇された状態でいながら、資金が余っている、というような状態はいかがなものか、という風には思います
これだけ余る状態にあるのなら、税で納めるという形にしていくのが良いのではないでしょうか
相撲協会の財務についてのお話は、この全三回でとりあえず終わりとします。