四大陸選手権 Perfect Storm

女子シングルは、紀平梨花選手の優勝で幕を閉じました

ショートプログラムトリプルアクセル抜けから、フリーは1本に絞っても153点を出しての逆転優勝

その辺を含めて、それぞれの選手の点数の取り方、なんてのを見てみたいと思います

 

まず紀平選手。

フリーでトリプルアクセル2本が通常のところ、今回は1本にしていました。これがどの程度得点に影響するか? 3Aの基礎点は8.0 2Aの基礎点は3.3ですので、単純計算では4.7点基礎点が下がることになります。

 

ところが、トリプルアクセル2本を入れて完ぺきに滑ったNHK杯の時の基礎点合計が68.75だったのに対し、今回の基礎点合計は66.95と、1.80しか差がありません。つまり、どこから2.90点を稼いでいるわけですが、これは、コンビネーションでつけるダブルトーループを一つトリプルトーループに変えることで1.3→4.2として稼いだものです。紀平選手が二回跳ぶジャンプは通常構成だとトリプルアクセルトリプルルッツなのですが、トリプルアクセルが一つ減ることで、二回跳ぶジャンプを別に作ることができるようになり、そこにトリプルトーループを入れたため、こうなりました。

したがって、トリプルアクセル2回の構成の場合には、トリプルトーループを2回つけることができないため、今回の基礎点から単純に4.70増やす、ということは出来ません。

逆に言うと、トリプルアクセルを1回から2回にすることで増やせる基礎点は1.80でしかない、とも言えます。

 

この辺の得点計算を考えると、ちょっとでも不安があるならトリプルアクセルは1本にしておく、というのは妥当なんだろうな、という風に見えます。

 

 

NHK杯フリー   4大陸選手権フリー
Elements    BaseValue   GOE Scores   Elements    BaseValue   GOE Scores
3A+3T   12.20   2.63 14.83   3A   8.00   2.51 10.51
3A   8.00   3.09 11.09   2A+3T   7.50   1.38 8.88
3Lo   4.90   1.54 6.44   3Lo   4.90   0.14 5.04
CCoSp4   3.50   1.30 4.80   CCoSp4   3.50   0.95 4.45
StSq4   3.90   1.17 5.07   StSq4   3.90   1.45 5.35
3Lz+2T   7.20   1.69 8.89   3Lz+3T   10.10   1.85 11.95
3F   5.83 X 1.59 7.42   3F   5.83 x 1.44 7.27
LSp4   2.70   0.93 3.63   LSp4   2.70   0.93 3.63
3Lz+2T+2Lo   9.79 X 1.26 11.05   3Lz+2T+2Lo   9.79 x 1.60 11.39
FSSp4   3.00   0.69 3.69   FSSp4   3.00   0.60 3.60
ChSq1   3.00   1.36 4.36   ChSq1   3.00   1.71 4.71
3S   4.73 X 1.17 5.90   3S   4.73 x 1.23 5.96
TES   68.75   18.42 87.17   TES   66.95   15.79 82.74

 

 NHK杯のとの点数の差は、基礎点の差よりもGOEの差の方が大きいのが分かります。GOEは基礎点が高い要素ほど高く出すことが可能なので、3Aを2A-3Tに変えた二つ目の要素のところで、その差が大きく出ました。そういう意味では、3Aを2Aに変えたことの影響は、基礎点以上には大きかったという部分があると言えばあるのでしょう

 

次、2位に入ったトゥルシンバエワ選手。四回転サルコウを冒頭に入れてきたのは驚かされました。この4Sは転倒しましたが回転はきちんと足りていた、という判定になっています。そのため、基礎点合計は全選手の中で最高の68.81でした。

 

Event Elements    BaseValue   GOE Scores
Ondrej Nepela Trophy TES   56.99   4.32 61.31
Finlandia Trophy TES   59.10   7.15 66.25
Skate Canada TES   60.39   4.22 64.61
Rostelecom Cup TES   54.34   3.73 58.07
Four Continents Championships TES   68.81   7.16 75.97

この68.81という基礎点は、NHK杯の紀平選手の基礎点68.75を上回って、全シニア選手の中で今シーズン最高です(ジュニアのトゥルソワが78.12というとてつもない基礎点を出してますが)。

四回転なしの構成だったここまで四試合は、回転不足が嵩んだこともあり、最高でも60.39にとどまっていましたが、そこから一気に伸ばしました。4回転が入った、というだけでなく、コンビネーション三本をすべて後半に入れたものを含め、回転不足が一つもなかったということが効いています

基礎点が60.39だったスケートカナダでもコンビネーション三つが後半で、かつすべてのジャンプで回転不足なしでした。その時と比べると、結果的に、三連続に入っていた2T二つが、1Euと4Sに変化した、という形になっています。単純計算ですが、2T二つは2.6点で、1Euと4Sは10.2点になるので、7.6点のアップです。4Sが転倒であったとしてもGOEは-4.85で転倒の-1まで含めてもおつりがくる基礎点の増加ですので、回転さえ足りる自信があれば、転んでも4Sに挑んだ方が得、ということになっています

今回の技術点は75.97で、4Sが着氷してGOE±0なら80点に届く計算でした。グランプリシリーズでも表彰台がこれまでなかった選手なはずですが、この構成なら世界選手権でも上位に入ってくる可能性が出てきました。

 

 

3位の三原選手は2位まで結果的に0.34ポイント足りませんでした。ショートの冒頭のジャンプのミスが・・・、というのはありますが、フリーは本当のノーミスならトゥルシンバエワの上まで行くことが出来ました。

 

  Elements    BaseValue   GOE Scores
1 3Lz+3T<< <<  7.20   -2.53 4.67
2 2A   3.30   0.94 4.24
3 FSSp4   3.00   0.77 3.77
4 3F   5.83 x 1.21 7.04
5 CCoSp4   3.50   0.90 4.40
6 StSq3   3.30   1.18 4.48
7 LSp4   2.70   0.85 3.55
  TES   28.83   3.32 32.15
1 3Lz+3T< 9.05   0.08 9.13
2 ChSq1   3.00   1.43 4.43
3 2A   3.30   0.94 4.24
4 3Lo   4.90   1.26 6.16
5 CCoSp3   3.00   0.81 3.81
6 3F   5.30   1.21 6.51
7 2A+3T   8.25 x 1.08 9.33
8 FSSp4   3.00   0.73 3.73
9 3Lz+2T+2Lo   9.79 x 1.52 11.31
10 3S   4.73 x 1.11 5.84
11 StSq4   3.90   1.45 5.35
12 FCCoSp4   3.50   1.30 4.80
  TES   61.72   12.92 74.64

上がショート、下がフリーの要素ごとの得点一覧です

 

フリーでも、しっかり着氷したように一見見えたのですが冒頭のコンビネーションは回転が足りていない判定です。これの回転が足りていれば2位でした。ただ、3Lz-3Tをショートもフリーも回転が足りていないのですから、これは出来たはずなのにできなかったのではなく、今大会ではこれが精いっぱいだったとみることもできます。それよりもったいなかったのはCCoSp チェンジフットコンビネーションスピンがフリーでレベル3だったこと。レベル3だと基礎点が3.0 レベル4なら基礎点3.5  レベル4が取れていれば2位までは入れたわけです。ショートではレベル4だったスピンですから、これはもったいなかった。2位まで入れなかった致命傷はここでした。

三原選手はこれで四大陸選手権は三年連続表彰台。金銀銅すべて揃えました。また、国際試合の連続200点越えが8試合に伸びました。現在これより長く200点越えを続けているのは、宮原知子選手だけです(ザギトワ選手はヨーロッパ選手権で途切れています)

 

 

4位の坂本選手は3位まで0.33ポイント差 2位まで0.67ポイント差。これはもうわずかな差でした。1Aになったのが痛い、というのは当然なのですが、それ以外の細かい取りこぼしを抑えられていれば、崩れながらも2位で踏みとどまることも出来ました。

  Elements    BaseValue   GOE Scores
1 3F+3T   9.50   1.82 11.32
2 2A   3.30   1.27 4.57
3 CCoSp4   3.50   0.95 4.45
4 StSq4   3.90   1.11 5.01
5 3Lo   5.39 x 2.10 7.49
6 FCSp4   3.20   0.82 4.02
7 LSp4   2.70   0.42 3.12
  TES   31.49   8.49 39.98
1 3F+3T   9.50   1.44 10.94
2 2A   3.30   1.04 4.34
3 3Lz ! 5.90   0.25 6.15
4 FSSp4   3.00   0.81 3.81
5 StSq3   3.30   1.08 4.38
6 3S   4.30   1.47 5.77
7 1A   1.21 x 0.00 1.21
8 3F+2T   7.26 x 1.14 8.40
9 CCoSp4   3.50   0.85 4.35
10 ChSq1   3.00   1.43 4.43
11 3Lo+2T   6.82 x 1.19 8.01
12 FCCoSp4   3.50   0.95 4.45
  TES   54.59   11.65 66.24

ショートの最後のレイバックスピンが今一つだったのもありますが、フリーではステップがレベル3になったところで基礎点が0.6下がっています。また、どこかで3連続をリカバリーできていたら、2Loを一個つけられれば1.5点と後半1.1倍分が付いたのでやはり2位にのこれました。基礎点が54.59なのはちょっとひどかったですね・・・。ダブルアクセル起点の三連続、というのは通常11点前後を取っていた要素なので、それが抜けてしまったのはあまりにも痛かったです。

なお、ショートプログラムでの単独のトリプルループがGOEで4.14がついて、今大会の全選手の全要素のなかで最高のGOEでした。また、今シーズンここまでの全選手の3Loの中で最高評価でもあります

 

5位にブレイディテネル選手。フリーは回転不足が3要素で4つ。コンビネーションの3Loも1回転になるなど、ジャンプ要素7つのうち思い通りに飛べたのがダブルアクセル二つと単独トリプルサルコウの三つだけ、となると今のレベルで上位に来るには苦しかったです。個人的には単独ダブルアクセルが二つあるなら、一つはコンビネーションにして、3Lzからのコンビネーションを単独にしたほうが楽になるんじゃないか、と思ったりするんですが、その辺はこだわりたいなにかもあるんでしょうか。

ジャンプは思う通りに飛べませんでしたが、フリーの最後の要素のスピン二つはそれぞれGOEが3.71と4.00で、今大会の全選手のスピン要素のGOEのなかで一位と二位を占めました。

 

 

  Name Nation   Elements    BaseValue   GOE Scores  
SP Kaori SAKAMOTO JPN 2 2A   3.30   1.27 4.57 3.714
SP Kaori SAKAMOTO JPN 5 3Lo   5.39 x 2.10 7.49 4.143
SP Mai MIHARA JPN 6 StSq3   3.30   1.18 4.48 3.571
FS Rika KIHIRA JPN 5 StSq4   3.90   1.45 5.35 3.571
FS Kaori SAKAMOTO JPN 6 3S   4.30   1.47 5.77 3.571
FS Bradie TENNELL USA 11 FCCoSp4   3.50   1.30 4.80 3.714
FS Bradie TENNELL USA 12 CCoSp4   3.50   1.40 4.90 4.000
FS Mariah BELL USA 12 LSp4   2.70   0.93 3.63 3.571

今大会、GOEで平均3.5以上が付いた要素の一覧。GOEの列は加点された点数。右端の数値がジャッジ9人が+5~-5でつけた点数の平均です。平均3.5を超えるには、9人のジャッジのうち5人以上が4以上をつける必要があります。

 

傾向がはっきり出ていて、ジャン要素で3.5を超えたのは坂本選手だけで、坂本選手は3つもあります

スピンはアメリカのテネルとベルの両選手の加点が大きい。ステップは紀平選手と、レベル3ですが三原選手が3.5を超えるGOEでした。

 

紀平選手はこうしてみると、今回はトリプルアクセルで勝ったわけでもなく、ジャンプの要素で爆発的に点を取って勝ったわけでもなく、全体的にまんべんなく点を取って総合力で圧勝した、という形になりました。これでフリー150点越えが3回目、技術点80点越えも3回目です。5試合中3試合で150点越えですから、他の選手は、紀平選手は150点は出すもの、と考えて戦わないといけない状態です

今シーズンフリーで150点を超えたのは、紀平選手以外ではザギトワ選手がチャレンジャーシリーズのネーベルホルン杯で158点を出した1回だけです。145点まで下げても、ザギトワ選手が3回と、宮原選手がスケートアメリカで145.85を出したところまでです(ジュニアのトゥルソワが146点台を2回だしていますが)。

 

紀平選手優位、という流れのまま、シーズン最後の世界選手権へ向かっていくこととなりました。