全日本選手権21 女子レビュー2

今回からは数値編です。女子シングルのオリンピック代表選考に絡んだ6選手と世界ジュニアの代表選考に絡んだ6選手、それぞれを見ていきます。

 

ショートプログラム上位6人の構成

  坂本花織 樋口新葉 河辺愛菜 三原舞依 宮原知子 松生理乃
1 2A 2A 3A 2A 3Lz+3T< 3F
2 3Lz 3Lz+3T 3Lz+3T 3Lz+3T FCSp4 2A
3 CCoSp4 FCSp4 FSSp4 FSSp4 2A FCSp4
4 3F+3T 3F 3F 3F 3F 3Lz+3T
5 FCSp4 CCoSp4 StSq4 CCoSp4 CCoSp4 LSp4
6 StSq4 StSq4 LSp4 StSq4 StSq4 StSq3
7 LSp4 LSp4 CCoSp4 LSp4 LSp4 CCoSp4
Base 32.95 32.53 37.03 32.33 31.69 32.41
GOE 10.02 7.81 5.90 8.02 5.90 7.75
PCS 36.26 34.32 31.34 33.31 36.17 32.15
TSS 79.23 74.66 74.27 73.66 73.76 72.31

ショートプログラムは6人70点台で史上初のフリー最終グループが全員70点以上というハイレベルな試合になりました。紀平梨花選手抜きでこれが起きるとは思いませんでした。

全員スピンは3つすべてレベル4。6位だった松生理乃選手だけステップレベル3でした。ステップレベル3は基礎点が0.6下がりGOEもその影響を受けるので、松生選手がステップレベル4を取っていれば73点にまで乗ってきていました。

全員4つ目の要素まででジャンプを終えています。体力面考えるとこうなりがちでしょうか。たまには最後をジャンプで締める選手なんかがいてもいいと思うのですが。

トリプルアクセルは一人だけ。河辺愛菜選手。それにより基礎点が周りの選手よりはっきりと高くなっています。コンビネーションを1.1倍に入れたのは二人。ルッツからの松生選手の方が基礎点が高くなるはずだったのですがステップレベル3分基礎点で劣り、坂本選手の方が基礎点が高くなりました。全員がルッツとフリップにセカンドで3回転トーループの組み合わせです。宮原選手だけ冒頭にコンビネーションが来て回転不足になりました。結果的にそのせいで基礎点が一番低くなっています。それでもダブルアクセル組では坂本選手と宮原選手の間で1.26しか基礎点の差はないです。基礎点で差をつけるにはトリプルアクセルしかショートプログラムでは手がありません。

上位の選手がショートプログラムで差がつく要因は、トリプルアクセルの有り無し、出来栄え、PCSの3つなわけですが、そのうち出来栄えとPCSの二つを持った坂本選手が、一つだけの他の選手と比べて頭一つ抜け出たという形でした。

 

○最終グループのフリーの構成

  坂本花織 樋口新葉 河辺愛菜 三原舞依 宮原知子 松生理乃
1 2A 3A 3A 3Lz+3T 3Lz+3Tq 3Lz<
2 3Lz! 3Lz+3T 3Lz+2T 2A 2A 3F<
3 3F+2T 3S LSp4 3F 3Lo 2A
4 3S CCoSp4 3Lo 3S ChSq1 2A
5 FSSp4 2A 3Lz CCoSp4 3S< FCCoSp4
6 3F+3T 3Lz+3T< StSq4 1A+1T FCSp4 StSq3
7 2A+3T+2T 3Lo+2T+2Lo 2A+3T+2T 3Lz+3Tq+2T< 3Fq+2T+2Lo 3Lz+3T+2T
8 StSq4 3F! FSSp4 3Lo+2T*+REP 3Lz< 3S+3T
9 CCoSp4 FCSp4 3F+3T FSSp4 CCoSp3 3Lo+2T
10 ChSq1 StSq4 3S StSq4 2A+3T< ChSq1
11 3Lo ChSq1 ChSq1 ChSq1 StSq4 CCoSp4
12 FCCoSp4 FCCoSp4 CCoSp4 FCCoSp4 LSp4 LSp4
Base 62.52 67.51 66.96 57.57 59.19 60.27
GOE 17.52 8.20 4.42 9.63 3.64 6.14
PCS 74.79 71.41 64.00 66.00 70.92 62.05
TSS 154.83 147.12 135.38 133.20 132.75 126.46

フリーは結構差がつきました。トリプルアクセル組の基礎点がやはり高く67点前後あります。回転不足付きながらもセカンド3Tを二つ入れた樋口新葉選手の基礎点が全体トップでした。樋口選手は抜けさえなければこうなります。

6人のなかでスピンでレベル4を取りこぼしたのは一人だけ。意外にも宮原知子選手でした。ルッツ転倒直後のスピン。動揺があったでしょうか。三原選手との点差は0.35差だったわけですが、このスピンでレベル4を取っていれば宮原知子選手の方が上にいました。河辺愛菜選手が結局オリンピックは持っていきましたが、もしかしたらこのスピンのレベルの取りこぼしが最後の運命を分けた、という未来を生じた可能性もある場面でした。

三原舞依選手はやはり後半最初のアクセルがシングルになったところが痛かったのですが、もっと痛かったのはそこにシングルトーループを付けてコンビネーションにしてしまったこと。この1Tがなければ最後のジャンプのコンビネーションが生きていて、その場合基礎点が差し引きで2.61上がる計算になります。ここまで行くと河辺選手との点差は0.18 あとは3連続の最後の回転不足をちゃんと回れば上回る、という計算でした。アクセルがシングルになったことそのものより、そのあとうまくまとめていれば、というところの方が影響は大きかったように見えます。そんなこともあって三原舞依選手が基礎点が一番低い、という形でした。GOEは坂本選手に次いで稼いでいたのですけどね。

松生理乃選手はコンビネーションをすべて1.1倍につぎ込むという構成。名古屋の選手でこの作戦の人何人かこれまでも見ました。冒頭二つのジャンプが回転不足で転倒。その時点でオリンピックは消えましたが、それでも後半よく立て直したなと思います。転倒二つあるのにGOEはかなりのプラスがあるというのが後半しっかり滑って証です。

河辺愛菜選手は逆に加点が少ないです。大技決めて基礎点高めながら130点台半ばに終わったのは各要素の出来栄えの影響かと思います。

坂本花織選手は基礎点は全体の中では上位というくらいで特別高くはないです。ルッツ一本ですし。ただ加点は非常に大きい。毎試合20点超える加点をもらいますというワリエワ選手を除けば、世界でもこれだけの加点をコンスタントにもらう選手はなかなかいません。出来栄えで勝負します、というのが色濃く見えます。

 

○世界ジュニアを争った6人のショートプログラム構成

  渡辺倫果 住吉りをん 吉田陽菜 柴山歩 千葉百音 田中梓沙
1 2A 2A 3A 3Lz+3T 3Lz+3T 3Lz+3Tq
2 3Lz+3T 3Lz+3T 3Lzq 2A 2A 2A
3 FCSp4 CCoSp4 FSSp4 CCoSp4 CCoSp4 LSp4
4 3Lo FSSp4 CSp4 3F FSSp4 3F
5 CCoSp4 3F 3F+3T FSSp4 3F StSq4
6 LSp4 LSp4 StSq4 StSq3 StSq4 FSSp4
7 StSq4 StSq4 CCoSp4 LSp4 LSp4 CCoSp4
Base 32.09 32.33 37.35 31.73 32.33 32.33
GOE 5.06 5.78 -1.97 5.38 5.00 3.45
PCS 27.92 29.28 26.97 25.37 27.08 28.14
TSS 65.07 67.39 61.35 62.48 64.41 63.92

ジュニアの推薦選手は6人いますが、フリー進出できなかった中井亜美選手は外して、世界ジュニアに進出された渡辺倫果選手を入れた6人で並べています。

ジュニア組でトリプルアクセルを入れたのは吉田陽菜選手。体調万全ではなさそうですがトリプルアクセルは回転を充足して転倒せずに降りるところまでは今回も行きました。問題はそれ以外のジャンプで今回は二つ目のルッツで転倒。三つ目もうまくいかないとトリプルアクセル降りたのにショート落ちという前代未聞の事態になるところでしたが何とか決めて踏みとどまりました。ショートフリーノーミスしたら河辺愛菜選手と互角以上に戦える選手なのですが、なかなか決まらない。たらればってやつですけど。

ダブルアクセル組は似たような構成。1.1倍は単独のフリップで3-3は前半に入れて基礎点32.33というのが3人いますがこれは世界でもよく見る構成です。柴山歩選手も狙いは同じ。ステップレベル3な分基礎点が下がっています。それにしても最近の女子はジュニアでもステップでレベル4が取れるようになってきました。

出来栄えはそれほど差がないですがルッツ転倒の吉田陽菜選手だけマイナスでした。トリプルアクセル跳んでもその他のジャンプで転倒が入ると出遅れます。ロシア選手権のトゥクタミシェワ選手と同じ構図です。

スピンは全員オールレベル4 差がなかなかつかなくなってきています。

渡辺倫果選手と住吉りをん選手は最後の要素をステップにしています。オリンピック代表候補勢にはいなかったスタイルの構成でした。

 

○世界ジュニアを争った6人のフリーの構成

  渡辺倫果 住吉りをん 吉田陽菜 柴山歩 千葉百音 田中梓沙
1 3A 4T< 3A 3Lz+3T 3Lo 3Lzq+3T
2 3Lz+1Eu+3S 3F 2A+3T 2A 3Lz+3T< 3Lo<
3 3Lo 3F+3Tq 3F 3Lo 2A 3F!q
4 FCSp4 CCoSp4 ChSq1 FSSp4 CCoSp4 FSSp4
5 3Lo+2T 3Lo 3Lo 3F 3S 2A
6 LSp4 FCCoSp4 CCoSp4 CCoSp4 3F+2T StSq4
7 ChSq1 StSq4 3Lz StSq3 FSSp4 2S
8 2A+3T 2A+3T 3Lz+3T 3Lz+2T+2Lo 3F+2T+2Lo CCoSp3
9 3Lz 3Lz+2T+2Lo< 3S+2T+2Lo 2A+3T 3Lz ChSq1
10 3F ChSq1 StSq3 3S StSq4 2A
11 StSq4 3Sq SSp3 ChSq1 ChSq1 3Lz+1Eu+2Sq
12 CCoSp4 LSp4 FCCoSp4 LSp4 LSp4 LSp4
Base 66.67 66.30 66.73 61.87 60.08 51.75
GOE 9.06 -3.34 3.95 9.70 5.96 -2.11
PCS 58.35 59.81 55.41 52.07 54.85 55.89
TSS 134.08 121.77 126.09 123.64 119.89 104.53

ジュニアの上位3人はフリーでは66点台の基礎点を出してきました。全体最高基礎点は樋口新葉選手の67.51ですがそれとほぼ遜色ない構成です。渡辺倫果選手と吉田陽菜選手はトリプルアクセル、住吉りをん選手は回転不足ながらも4回転が入ってことでこうなりました。渡辺倫果選手は3連続にトリプルサルコウ付き。ただ1.1倍部分がやや弱い構成になっていて基礎点は66.67止まり。住吉りをん選手は4回転の回転が足りれば68点台の基礎点になります。吉田陽菜選手はステップとスピンのレベル3をレベル4に出来ると67点台半ばの基礎点です。

GOEはフリーでは4位に入って渡辺倫果選手と新人賞の柴山歩選手は10点近く稼いでいます。逆に住吉選手はGOEマイナス。4回転以外のジャンプもきれいに決まらないことが多かったです。それでも他のジュニア勢より高いPCSが取れることにより世界ジュニア出場権を確保しました。

逆に13歳柴山歩選手はPCSが低い。そこは年齢とともに上がっていくのだろうと思います。

トリプルアクセルが入り基礎点が高く、出来栄えでもしっかり稼ぎ、ジュニアの中では高いPCSという3つ揃えた渡辺倫果選手と、出来栄えは稼げなかったけれど高い基礎点をとりPCSも伸ばした住吉りをん選手の二人が世界ジュニアの切符を取ったというかたちになりました。

最後の要素は全員スピン。オリンピック代表争いの6人も同様で、フリー24人中スピン以外の要素を最後に持ってきたのは2例。ステップで終わった横井ゆは菜選手とコレオで締めた山下真瑚選手の二人でした。

 

次回へ続く。