国際スケート連盟の財務状況 時系列

 


前回は2018年12月期の国際スケート連盟の決算を見ました

今回は、過去からの推移を見てみます

ただ、過去と言っても2015年からの4年分とします。

前回も記しましたが、国際スケート連盟の決算書の通貨は基本的にはスイスフラン(CHF)です。1スイスフランはほぼ1ドル程度です。文中に、〇〇スイスフラン、と記しても、それがいくらくらいなのかイメージしづらいと思いますので、文中では基本的にスイスフラン表記はせずに、おおよそ〇〇ドル、という風に、ドルで記します。1ドルは最近は105~110円ほどですが、めんどくさかったらおおよそ100円、すなわち、ドル表記の100倍に換算していただいてもよいかと思います。

なお、以下のグラフでは、国際スケート連盟の通貨であるスイスフラン(CHF)表記で記します。

 

まずは年間収入の推移

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ISUの年間収入はおおよそ3,500万ドル近辺を推移しています。日本円では30億円台後半付近。年による変化はあまりありません。2018年がオリンピックの開催年なのですが、オリンピックの年だけ極端に増える、ということもありませんでした。オリンピック関連の直接的な収入は、IOCから得るわけですが、その収入はオリンピック開催年だけではなく、4年間の間にだいたい均されて付与されるので、オリンピック年だけ収入が膨らむ、ということはありません。また、国際スケート連盟としての直接的な収入も、オリンピック年だけ膨らむ、ということがないのもわかります。逆に、オリンピック年のオリンピック後の世界選手権は有力選手が来ないので客が入らず収入が減る、というようなことも起きなかった、ということも見て取れます。

この辺は、日本スケート連盟との大きな違いかと思います。日本スケート連盟は、露骨に、オリンピックシーズンの収入が大きくなっています。オリンピックシーズンだけマーケティング収益が膨らむ、あるいはオリンピックシーズンだけ主催大会の収益が膨らむ、ということが起きているのですが、国際スケート連盟ではそれが起きていないわけです。

また、収入規模では、国際スケート連盟は、日本スケート連盟と大差ない、こともわかります。日本スケート連盟はオリンピックシーズンの18年6月期決算では32.3億円の収入でした。浅田真央さんの最後のオリンピック、羽生結弦選手の最初の金メダルのソチオリンピックシーズン、14年6月期決算に至っては、51.4億円の収入があります。

 

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国際スケート連盟の主な収入源は三つ、それにプラスして金融資産からの収益があります。金融資産からの収益は、上記の年間収入の外数としてカウントされています。

最大の収入源は放映権料です。1,500万ドルから2,000万ドルの幅で推移しています。奇数年に大きく、偶数年に小さいのには理由があります。フィギュアスケートの国別対抗戦の有り無しです。国別対抗戦があると放映権料として、17年は225万ドルほどの収入があるとされています。15年は220万ドルほどだった、とのことなので、わずかですが増えてるんですね。

なお、2016年には、チームチャレンジカップ、という三大陸対抗の試合が行われましたが、これは、ISU主催ではなく、ISU公認でアメリカの協会が主催の試合でした。

日本スケート連盟の放映権収入は2億円ほどですので、一桁違います。日本スケート連盟が主催している試合というのはそれほど多くはなく、一番高く売れているのは全日本フィギュアであることを考えると、一桁違うくらいはきっと妥当なのでしょう。ちょうどISUが国別対抗戦で得ている放映権料と同じくらい、ということを考えると、世界中に放映権を売れる、という市場性の違いというのは大きいのでしょうね。全日本フィギュアもアジアの国とか、ロシアとかに売れるといいのですけど、むしろロシア選手権にJ-Sportsが払っている放映権料の方が大きそうでしょうか。その辺うまくやれるといいのですけれど

また、16年→17年で、TV ASAHIからの放映権料が14万ドルほど増加、15年→16年では額の記載はないのですが、FUJI ASAHI JSports からの放映権料が増えた、とあります。日本のテレビ局は、国際スケート連盟にだいぶ吸い上げられているようですし、その額は徐々に増えて行っているようです。その辺からの集金は、日本スケート連盟にもうまくやっていただいて、選手に還元してもらえる流れが出来たらと思います。なお、日本のテレビ局よりもっと大きな増加が見られたのが16年→17年のTencentで37.65万ドルほど増加した、とあります。中国からの集金額を増やすことができれば、スケート界ももっと裕福になっていけるので、期待しております。

 

オリンピックからの収入は放映権収入の半分程度です。まあ、四年に一回だけしかない大会でこれだけ入ってくるというのはやはり大きいですね。冬のオリンピックといえばフィギュアスケート。ただ、オリンピックの時だけはスピードスケートも日本では盛り上がりますし、ショートトラックなんかは東アジア圏では盛り上がっているでしょう。

 

放映権料と比べると広告収入は三分の一程度になっています。国別対抗戦の有り無しでやはりいくらかの増減はあるようなのですが、数百万円程度なようなので、広告収入の方にはあまり影響は大きくないようです。年間の総額で数億円の後半。リンクの壁に貼られる広告っていくらくらいなんですかね? その辺の具体的な額がわかると面白いのですが、そういったデータは得られていません。

この広告収入が17年→18年で減っているのですが、理由が、ショートトラックでISU主催の試合が中国韓国でなかったため、スポンサーが減ってしまって、おおよそ115万ドルほどの減収要因となった、とされています。ショートトラックの広告収入、というのも結構あるんですね。総額で7億円前後な中で、ショートトラック要因での減収が1億円以上あった、というわけですから、広告収入の中での影響度は結構大きいわけです。放映権収入のために試合を午前中にするのはいかがなものか? みたいな話はよく出てくるわけですが、広告料収入のために開催地をコントロールするのはいかがなものか、みたいな話にこの辺はなってくるでしょうか。難しいですね。連盟がある程度お金を稼いでくれた方が、その教義の選手にとっても当然プラスになるので、放映権収入も広告収入もガンガン増やしてほしい。でも、そのために試合時間や開催地が決められてしまう。バランスをどうとったら良いでしょう。

 

そして、収入のもう一つの柱として、金融資産からの収益があります。国際スケート連盟には300億円を超える資産があり、これを金融資産の形で持っているので、それが生む金利から収益が入るわけです。時期によっては広告収入並みの収益が金融資産から得られていました。ここに記載した金額は、金融資産からの収入だけでなく、その維持コストや為替差損などによる増減を加味した後の金額になります。金融資産からの収入だけを単純にみるならば、15年の680万ドルほどから18年の590万ドル程度まで微減傾向ですが、グラフに記載されているほどの落ち込みはありません。債権の値下がりによる損失の部分が毎年いくらかあるようです。

それにしても、金融資産からの収入がこれくらいあると、これが最初から計算されて予算が組まれるので、これに頼った運営になります。つまり、300億円以上の資産があると、そこから生み出される収益がすでに連盟運営のための資金源として計算されてしまっているんですね。したがって、この膨大な資産は減らしたくない、という心理が働きます。それがいいことなのかどうかは何ともわかりません。毎年数億円生み出してくれる金の卵として持っておけば、確かに毎年の運営に余裕は出てくる。一方で、そんなにため込んだならもっと直接的に選手に還元、あるいは普及事業につぎ込むべき、という考え方もあります。

 

次は支出の方を見ていきます。

 

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支出は右肩上がりで、2015年におおよそ3,200万ドル台だったものが2018年には3,900万ドル台にまで増加しています。3年で2割ほど増える、というのはかなりの増加です。何の費用が増えているのでしょう?

 

 

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ISUイベント、つまり、世界選手権やグランプリシリーズなどにかかる費用が支出の半分ほどになっています。この金額はグラフを見るととくに増えていません。むしろ減少傾向です。

開発プログラムというのは、ようは普及などのことを指すと考えられますが、この支出が15年から16年にかけて増えています。予算が増えたから、という記録はあるのですが、予算を増やした理由はよくわかりません。予算が増やせるのは、やりたいことがあり、かつ、お金があるときです。お金はある、という状態でしたので、何かやりたいことができたので使ったということなのでしょうが、その何かが何なのかはちょっとわからないです。

 

継続的に増えているのはその他の営業費用、という項目になっています。15年には460万ドルほどだったものが18年には950万ドルほどにまでなっており、3年の間に二倍以上に増えました。18年に目立って増えているのは、オリンピック関連の出張や会議などで250万ドル近い費用が発生していて、この辺の出張・会議系の費用が前年より100万ドル以上増えています。あまり、増えてうれしいタイプの出費ではないですね。メディアPR費用やドーピング対策費用などが増えているのは仕方のないところなんでしょうけれど、こういうところばかり増えてしまうのもなあ・・・、という印象な項目です。

 

また、事務局費用も2015年に240万ドル相当だったものが2018年には330万ドル程度にまで大幅に増えています。増えているのは、サラリー・・・、給料ですね・・・。どうやらスタッフが増えたというような記述がありました。

 

支出はそういったところではなく、ISUイベントや普及活動の方を増やしていきたいはずなのですが、今一つ、そういう方向に進めていないようです。

 

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増やしたい支出であるところのISUイベントへの支出の推移。これが各項目増えてません・・・。チャンピオンシップというのは世界選手権や世界ジュニア、ヨーロッパ選手権あたりのことを指しますが、2015年に1,040万ドル程度だったものが2018年には1,100万ドルほどにまではふえました。一方でその他のISUイベントの費用は17年→18年で減少。ショートトラックのワールドカップが17年は6試合だったのが18年は4試合だったことで30万ドルほど費用が減少したそうです。これは試合数の縮小ですから、スケート界としては悲しむべきことです。また、17年はフィギュアスケートのオリンピッククオリファイがありましたが、18年はなかったので20万ドルほど費用が減ったとされています。ようは、ネーベルホルン杯がオリンピックの最終予選とされるときはISUの主催になる、ということなようです。なので、これはまあ、受け持ちが変わっただけなので特に問題ないでしょう。

チャンピオンシップの賞金は、実は微減傾向です。15年に210万ドル台だったのが、18年は180万ドル台になってしまっています。17年→18年はスピードスケートの1大会がなかったために減少した、とされています。大会数が減るのはスケート界として悲しむべきこと・・・。

その他のISUイベントの賞金は微増傾向で、15年230万ドル台が18年は260万ドル弱にまで増えています。この辺の中身の変化はよくわかりません

 

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そんなこんなで、各年の最終損益は右肩下がりになっています。15年には1,400万ドル近い黒字があったのですが、18年はついに赤字。赤字理由が資金に余裕もあるし普及に力をお金をつぎ込もう、とかだったらよかったのですが、ここまで見てきた感じからすると、近年は運営コストが嵩んでしまっていて費用が増えて赤字になった、という風に見えます。あまりよくない赤字理由に感じます。

 

国際スケート連盟のここ数年の財務状況はこういった形になっています。前回見たように資産は十分にある。自己資本が2.6億ドル余りあり自己資本比率が80%にも達しています。なので資金面の危険性はないのですが、最近はその豊富な資金を生かせていないように見えます。

短期的にはこういった、コストが増えてしまう時期というのがあるのはしかたのないことなのかもしれません。しかしながら、中長期的にはそのままではよくなく、選手への還元、あるいは幅広い地域への普及、といった方へ力を、お金を、つぎ込んでいけるようになってほしい、と思います