だいぶ時間が経ってしまっていますが、ISU 国際スケート連盟の2018年12月期の決算報告書が公開されました。
日本スケート連盟は7月1日始まりの6月30日終わり、という年度で決算がなされますが、国際スケート連盟は、1月1日始まりの12月31日終わり、という年度になっています。シーズンのど真ん中でぶった切るという形になっているので、ちょっとわかりにくい部分もあるのですが、まあ、いつの年の決算かというのはわかりやすい形にはなっています
12月決算なのに、決算書が公表されたのは6月の半ばになってからで、だいぶ遅いのですが、上場企業でもなければ、仕方ないのでやっている作業、という側面がだいぶ強いでしょうから仕方ない部分はあるのでしょう。
さて、国際スケート連盟が出している決算書なわけですから、当然、英語で出てきます。その上、決算書という会計用語(専門用語)が飛び交っている書類なわけですから、つまり、英語の専門用語を読み解かないといけないわけです。これを、単語そのまま持ってきて、これです、と出してもなかなかつらいと思いますので、私の方で適当に日本語化して出します。専門家ならそういう日本語は使わない、というような言葉の当て方をしている場合もあるかと思いますが、そのあたりはご了承いただけましたらと思います。
また、国際スケート連盟の決算書の通過はスイスフランとなっています。以下、通貨の表記は省きますが、スイスフランです。1スイスフランが何円くらいなのか、というのは直接的にはイメージしづらいと思いますが、1スイスフランは、ほぼ1ドル、と思っていただければほとんど間違いはないです。1ドルが何円かは、為替相場次第で動きますが、110円くらいに思っておけばいいですし、それがめんどくさかったら100円くらい、と思ってもそんなに間違いはありません。
なお、以下では、スイスフランスイスフランいうのは面倒なのとイメージがしづらいのと、二つの理由により、最初から、〇〇ドルくらい、というような記述の仕方をすることにします
まず、貸借対照表に当たる、Balance Sheetを見てみます
流動資産:39,826,334
固定資産:284,453,973
総資産 :324,280,307
流動負債:44,737,716
固定負債:16,000,000
自己資本:263,542,591
こうやって数字が並ぶとイメージしづらいですかね
総資産が3.24億ドル程度。おおよそ330億円ほど、とイメージしたら良いでしょうか。日本スケート連盟の2018年6月期の総資産が30.5億円ほどでしたから、おおよそ10倍の資産規模になっています
これに対して負債はおおよそ6,000万ドル程度にすぎません。自己資本比率にして80%を超える状態ですので、かなり優良な財務状態にあるといえます。
資産のうち固定資産が2.84億ドル程度あり、かなり部分を占めます。ここの部分、固定資産、という訳を当てましたが、その中身としてはほとんど金融資産になっています。2.79憶ドルほどなので280~300億円近くが金融資産です。どうも金融資産は債権の形で持っているようですが、この債権の金利で毎年数億円相当の収入を生み出しています。金持ちは金を生みやすいの法則です。
この自己資本は、ほぼ、利益剰余金で出来ています。国際スケート連盟のような、利益を上げることを目的とするわけではない団体においては、この利益剰余金が多額にあることは、ある意味では、稼ぎすぎ、を意味する部分があります。財務の安定性、という意味ではいいのですが、稼ぐのが目的ではないのだから、そんなにため込まずに、普及のために使うか、選手に還元するか、何か考えなさい、と言われてしまうような構図にある、ともいえるわけです。
では次に、損益計算書に相当するINCOME STATEMENTについてみてみます
営業収益 :35,612,217
営業費用 :39,196,198
営業利益 :-3,583,982
金融収入/費用 :3,316,387
その他収益 :34,880
本年損益 :-232,714
2018年度は、収益より費用が大きく、358万ドル、3.6億円程度の営業赤字でした。まあ、赤字はあまりいいことではないですが、300億円近い利益剰余金を抱えている状態ですから、痛くも痒くもない額であるとも言えます。
営業外収益に当たる部分を見ると、金融資産関係で332万ドル程度の黒字が入っています。先述した多額の金融資産により、金が金を生む、ということによって生まれた姿です。この辺まで含めると、2018年度の最終損益は、23万ドル程度の赤字、ということで2,500万円ほどの赤字で終わっています。普通の企業では、少額と家でも赤字は問題、ということになりますが、国際スケート連盟は利益を追求する企業ではありませんので、お金が十分に余っている中ではこれくらいの赤字は問題にならない、とみてよいかと思います。
営業収益が日本円にすると30億円台後半程度の規模なのですが、これは、日本スケート連盟の2018年6月期の収益32.3億円よりやや大きい程度に過ぎません。資産規模は10倍程度あるのですが、毎年動かしている金額は、国際スケート連盟も日本スケート連盟も、実はそれほど変わらない、という水準だったりします。
次に、営業収益の中身を見てみます。
テレビ収入 :17,044,403
広告収入 :6,855,883
オリンピック年間収益配分 :11,058,135
国際スケート連盟の収入の柱はテレビ収入なようです。その額1,700万ドルほど。日本円にして20億円弱程度。日本スケート連盟の放映権料収入は2億円程度でしたからそれと比べると10倍規模になります。テレビ収入は実は17年比で18年は減っていて、その原因は、ワールドチームトロフィー(国別対抗戦)がなかったからだ、と言っていて、金額として2,250,000CHFほど、その影響があった、とされています。日本円にして2億数千万円ほど。国別対抗戦は賞金も大きく、このテレビ収入は連盟丸儲けなわけではないのですが、連盟のテレビ収入の1割以上の大きさをこれが占める、というのは意外でした。たまに忘れられてしまいますが、国際スケート連盟は、フィギュアスケートだけの連盟ではないですからね。スピードスケートもショートトラックもその範疇にあります(アイスホッケーは氷上ですが別団体です)。スピードスケートやショートトラックの運営にも、ああいう収益源が役に立つ、というのは確かなのでしょう。
広告収入は700万ドル弱。7億円ほど。オリンピックからの配分は1,100万ドルほどなので、10億円台前半。2018年はオリンピックがあった年ですが、この1,100万ドル程度というのは全額ではなく、4年間に適当に分けて配分されるようです。毎年同じ額なわけではなく、実際のオリンピック関連の収入の推移に合わせて調整が入っているようですが、まあ、オリンピックからの金銭的配当は1回あたりこの4倍程度、4,000万ドルくらいあるんだな、と思えばよさそうです。
こうしてみると、オリンピックというのはやはり大きいんだなあ、とは思います。
次は支出を見ます。
ISUイベント :18,330,808
ISU育成プログラム :7,694,900
ISUその他の営業費用 :9,525,122
ISU事務局費用 :3,345,108
支出の最大はISUイベント。ようは世界選手権とか、グランプリシリーズ、スピードスケートなどのワールドカップとか、そういったものの運営にかかる費用です。
ISUチャンピオンシップ :11,024,239
その他のISUイベント :2,905,692
チャンピオンシップ賞金 :1,822,487
その他の賞金 :2,578,390
ISUイベントの費用の内訳ですが、チャンピオンシップにかかる費用がほとんどで、その他イベントはそれほど大きな額ではありません。チャンピオンシップ大会というのは、世界選手権、世界ジュニア、あるいはヨーロッパ選手権や四大陸選手権を指します。
賞金はチャンピオンシップよりもそれ以外の試合での支出の方が多いのですね。それにしても、スピードスケート、ショートトラックまで含めて、年間の賞金支出が440万ドル程度、日本円にして5億円に満たない、というのは寂しい限りです。
事務局の費用というのは300万ドル台。3億円台半ばですので、ここがやたら大きい、ということはありません。それなりに適正な規模で運営されているんだろうな、というのは想像されます。
日本スケート連盟の支出で大きな部分を占めるけれど、国際スケート連盟の支出項目としては存在しないものがあります。選手の強化費的な部分です。国際スケート連盟は、特定の選手を支援して強化する、というような機能は持っていません。そのため、そういった費用は存在しません。一方で、国からの支援、補助金、的なものも受け取っていないので、その分収入側にそういった科目が存在しません。
国際スケート連盟は、かなり巨額な資産を持ち、財務的な安定性がある中で、昨年度の損益はごくわずかな赤字でした。この巨額な資産をどう生かしていくのがよいのでしょう。
想像ですが、スケート連盟の収入のほとんどは、フィギュアスケートに依存しているように感じられます。一方で、スピードスケート、ショートトラック、といった競技も抱えています。競技団体ですから、大会の運営、選手を守ること、というのが一つの存在意義ですが、その一方で、競技の普及、というのも存在目的になります。
収入の大きな部分はフィギュアスケートに依存しているように感じられるのですが、この、フィギュアスケートという競技、今現在、広く世界で受け入れられているか? と考えると、ちょっと疑問なところもあります。日本では、カップル競技のマイナーさ、という問題はあるものの、大会を開けば客席はほぼ間違いなく埋まるという状態はあります。では、世界ではどうなのでしょう?
アメリカですら最近は埋まらない、ということも聞きます、ネイサンチェン選手が出てきて、アメリカのフィギュアスケートも、競技レベルとしては復権してきたようには感じられますが、人気の面ではどうなのでしょう?
さらに心配なのはヨーロッパ。ロシア以外のヨーロッパ。競技レベルの面でも人気の面でも不安を感じざるを得ません。
スピードスケートも、ショートトラックも、おそらくそうですが、スケート連盟として、できれば、世界への普及、という視点での活動を強めてもらえたら、資金の配分を高めても絶えたら。そんなことを思ったりします。