日本スケート連盟2018-19シーズン主催大会の収益

前回日本スケート連盟の2019年6月期決算を見ました

今回は、その決算期間中にスケート連盟が主催して収益を公開している大会の収支を見つつ、過去からの推移も見てみたいと思います

 

昨シーズン、日本スケート連盟が主催して、その収支を公表しているのは5大会あります。

NHK杯フィギュア、全日本フィギュア、世界フィギュア、W杯スピード帯広、W杯スピード苫小牧の5つです。フィギュア3試合スピード2試合で、全日本フィギュア以外は国際大会です。

実際には主催した大会は、例えばフィギュアなら全日本の前に、東日本選手権も西日本選手権も、日本スケート連盟の主催ですが、そういったものの収支は公表されていません。慣例的に、国際大会と全日本フィギュアのみが公表されているように見えます。

 

その5大会の収支は下記のようになっていました

 

主な主催大会収支

 

収益

費用

収支

NHK杯フィギュア

417,824,554

391,010,844

26,813,710

全日本フィギュア

236,067,726

136,477,814

99,589,912

世界フィギュア

1,929,369,646

1,285,035,890

644,333,756

W杯スピード帯広

83,138,059

83,724,921

-586,862

W杯スピード苫小牧

52,805,610

91,347,694

-38,542,084

合計

2,719,205,595

1,987,597,163

731,608,432

 

わかりやすく、フィギュアスケートは黒字、スピードスケートは赤字、という形になっています

スピードスケートは平昌オリンピックで大量のメダルを獲得しました。その翌シーズンの自国で行われるワールドカップで2試合とも赤字。オリンピック効果が生かせえていないのが感じられますし、また、このタイミングで黒字に出来ないということは、構造的に赤字になってしまう体質なのだろう、というのが見えます。

 

 

スピードスケートワールドカップの収支

 

収益

費用

収支

18年帯広

83,138,059

83,724,921

-586,862

18年苫小牧

52,805,610

91,347,694

-38,542,084

16年長野

49,528,632

80,658,854

-31,130,222

14年帯広

57,911,775

63,845,399

-5,933,624

12年長野

36,258,131

42,689,910

-6,431,779

 

スピードスケートのワールドカップというのは2年おきに日本で行われる試合があるようなのですが、12年以降すべての試合で赤字です。費用がものすごくかかっているというわけでもないのですが、収益面が弱すぎて赤字を脱却できていません。

収入面でフィギュアスケートとどこに差があるか、というと、決定的に差があるのは入場料収入です。

 

主な主催大会入場料収入一覧

 

入場料収入

NHK杯フィギュア

159,144,000

全日本フィギュア

212,005,000

世界フィギュア

1,497,406,474

W杯スピード帯広

2,840,000

W杯スピード苫小牧

0

 

昨シーズン日本で行われたスピードスケートのワールドカップに大会は、入場料収入がほとんどありません。苫小牧大会は入場無料。帯広大会は当日スタンド席、というのが一番高くて1,500円でした。三日間の大会で得られた入場料が284万円。これでは興業として全く成り立っていません。

スピードスケートは、興業としていかに成り立たせるかがまず課題なのですが、会場を観客で埋め尽くす、というのは構造的にかなり難しいでしょうか。競技の特性として、リンクが400mの周回ができるだけの大きさが必要です。もうこの時点で、都市圏の中で会場を確保して氷を張る、というのがほとんど不可能事になります。さいたまスーパーアリーナで氷張って、というフィギュアスケートみたいなことはできないわけです。そうなると、屋外の北国のリンクで競技をするしかない。まあ、長野のMウェーブってのが長野オリンピックの時に出来まして、ここで19-20シーズンのワールドカップも1試合行われるみたいですが、12年16年に行われた際も、あまり稼げなかったようですから、今回も同じ構図になるんじゃないかと思います。ようは、集客しづらい競技特性がどうしてもある。

だとすると、放映権料をなんとか得よう、という方向へもっていきたいわけですが、放映権料もフィギュアスケートと比べると一桁低い水準です。放映権料は包括的に取ってる時と、大会毎なときと、パターンがいろいろあるようなので、大会収支としてゼロでも、実際に連盟としては放映権を得ているというようなことはあるのですが、それにしてもスピードスケートの放映権料は少ない。

連盟がお金を稼ぐために、選手をスター化して、集客する、放映権料を吊り上げる、というのはある種本末転倒ではあるのですが、スピードスケートが自身の稼いだお金で強化・普及をしていくことを考えるならば、そういった方向へ舵を切らないといけない部分はありそうです。

 

一方で、フィギュアスケートは大会の開催がドル箱になっている、というのがよく見えます。昨シーズンは世界フィギュアの6.44億円という膨大な黒字がありました。まあ、世界選手権は毎年日本で開催されるわけではないのですが、数年に一度でもこの金額はインパクトがある。では、世界フィギュアのほかに、四大陸選手権、グランプリファイナル、というのも日本で開催されることがあるのですが、近年開かれたその辺の大会の収支を見てみます。

 

 近年の国際大会(NHK杯除く)の収支

 

収益

費用

収支

世界フィギュア19

1,929,369,646

1,285,035,890

644,333,756

GPF名古屋17

554,900,282

485,900,628

68,999,654

世界フィギュア14

1,665,839,423

1,143,689,056

522,150,367

世界フィギュアEX14

210,906,642

195,398,185

15,508,457

GPF福岡13

613,794,066

553,848,733

59,945,333

四大陸大阪13

478,077,732

422,852,043

55,225,689

 

世界フィギュアの儲かり方は突出していますね。四大陸選手権というのは世界選手権と比べて格が落ちる、というのははっきりしているのですが、グランプリファイナルも収益面ではかなり世界フィギュアより格が落ちます。14年の世界フィギュアは試合とエキシビジョンで決算表の別科目となっていましたが、合わせると19年とほぼ同じく収益として19億円前後の数字になります。四大陸やグランプリファイナルは5億円前後ですので4倍ほど規模が異なります。

何が違うって、入場料収入が先に挙げたように世界フィギュアは莫大です。入場料収入だけで15億円ほどある。17年のグランプリファイナルは入場料収入は2.9億円ほどでした。

この違いは、まず日程の違いがあります。世界フィギュアは4日+エキシビジョンですが、グランプリファイナルは3日+エキシビジョンなので1日分世界フィギュアの方が長いです。さらに世界フィギュアは練習日二日間も有料入場可能、つまり、入場料収入が入ります。また、チケット価格もボリュームゾーンのS席で世界フィギュアは2万円に対しグランプリファイナルは15,000円と差があります。さらに、客席数がさいたまスーパーアリーナを使用した世界フィギュアの方が大きい。

ということで、世界フィギュアの収益は他の大会と比べて突出しています。次の日本開催は決まっていませんが、羽生選手が現役の間にあと一回あるか? 北京で辞めるようならもうないですかね。それでも、紀平選手が現役の間にはあるでしょう。グランプリファイナルは通例ではオリンピックシーズンには日本でやる、という流れで2005年から来ています。今の集客力ならもう少し大きな箱でやることも可能ですがどうでしょう?

基本的に各大会の主な収入源は入場料収入になっています。放映権や広告権は包括的な契約になっているのかISUへ行く契約になっているのか、スケート連盟の収益という形では世界フィギュアやグランプリファイナルではほぼ計上されていませんでした。

 

その辺は数年に一回のイベントですが、毎年行われる、確実な収益源となっているのがNHK杯全日本選手権です。二つの大会の収支(収益―費用)の毎年の推移を見てみます。

 

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2010年以降しかはっきりと確認できていませんが、常に黒字です。2013年の全日本フィギュアは突出していますが、この年はソチオリンピックシーズンで代表選考が非常に盛り上がった大会でした。内訳が確認できないので詳細は分からないのですが、この時はさいたまスーパーアリーナでの開催でした。他の年と比べて明らかに収容人数の大きな会場でしたので、その分入場料収入が大きかったのではないかと想像されます。

 

昨シーズンのNHK杯、全日本フィギュアの収入の内訳はこうなっていました

2018年 NHK杯・全日本フィギュアの収益

 

NHK杯フィギュア

全日本フィギュア

1)入場料収入

159,144,000

212,005,000

2)物品販売収入

10,040,624

13,242,161

3)補助金

53,159,600

0

4)協賛金等

75,600,000

0

5)放送権収入

0

0

6)出店権収入

0

0

7)広告権収入

119,880,000

9,780,000

8)雑収入

330

20,565

9)分担金収入

0

0

10)参加料収入

0

1,020,000

11)繰入金収入

0

0

合計

417,824,554

236,067,726

 

NHK杯は協賛金が入ります。補助金はISU(国際スケート連盟)からのものです。広告権収入も入るのは意外でした。広告はISUに行くのかと前は思っていたのですが、直接日本スケート連盟に来るようです。

放映権がどちらもゼロなのは、NHK杯はISUへ行くから、全日本は、包括的な契約になっているからかと思われます。物販は1,000万円程度です。もうちょっと売れてるものかと思ったのですがそれほど売上は大きくないんですね。ここはうまくやるともう少し売上上げられるんじゃないかと思うんですがどうでしょう。結構売り切れが多いような印象なのですけれど。

 

入場料は全日本の方が大きくなっています。全日本の方が一日長い、というのがあるのでしょう。全日本は基本的に収入は入場料がほぼすべてです。集客力とチケット単価にすべてがかかっています。ただ、参加料収入ってのが全日本にはあります。出場選手から1名15,000円取ってますので、その分です。これだけ毎年黒字を積み重ねていて、実際にはその外数にさらに放映権料にあたるものがある中で、それに貢献している、試合で滑っていること自体が入場料収入や放映権収入への貢献にあたる選手たちに対して、さらに出場料を徴収する、というのは、やはり何とも違和感があります。

おそらく、昔からの、フィギュアスケートが興業として成り立っておらず、コストの方が大きい状態の時代に、受益者負担として出場料を取っていたころからの名残なのでしょう。でも、もう、さすがにいいだろう、という感じがします。これがまだ賞金大会であるなら、まず参加料払え、勝った奴に賞金で返すぞ、というスタンスもありかと思うのですが、全日本は賞金ありません。

なお、出費の方も全日本はNHK杯などと比べて少なくなっています。決定的に差があるのは二つ。賞金と選手団の旅費です。NHK杯は賞金が出ます。4競技合わせた賞金総額で1,980万円に過ぎませんでしたが賞金は出ます。また、出場選手には旅費、さらには滞在費も出ます。全日本はどちらも出ません。この辺も、滞在費くらいは出してあげたら、という気もしますかね、この収益状況を見ると。NHK杯のような国際大会は、海外から選手が集まるので渡航費としては結構な金額で毎回二千数百万円かかっています。滞在費は千数百万円です。世界フィギュアは選手数が多いので、滞在費は1.1億円かかっていました。全日本も、選手数はそれなりにいるので、滞在費出してしまうと結構かかりますかねえ。

 

最初の方で上げましたが、入場料収入は世界フィギュアと比べると全日本やNHK杯では10分の1に近い水準です。今の日本のフィギュア界の集客力を考えればNHK杯も全日本も、もっと入場料収入で稼げるはずです。そうなっていないのは、大きな会場を使っていないから、ということなんでしょうねおそらく。全日本もNHK杯だって、毎年さいたまスーパーアリーナでも使えば、もっと稼げるでしょう。それをしないのは、善意に取れば、普及面を考えて、毎年会場を変えて、全国各地を移動している、と取れます。まあ、首都圏開催の場合に代々木第一や武蔵野の森で開催したりしてますので、1万人規模の会場までにして、安心して集客できる規模に抑えてるのかな、という気もしますけれど。

 

 

今回はスケート連盟の主催大会の収益面を見てみました。世界フィギュアはドル箱だなあ・・・