最近あまりこういう財務系のお話してませんでしたけど、久しぶりに見てみます。
カーリング協会の直近の決算が出ています。今回はオリンピックを挟んだシーズンであり、また、一年中ずっとコロナだったシーズンの決算でもあります。オリンピックで史上最高の銀メダルを獲得したカーリング協会は潤っているのかどうか? 気になるところです。
理由はよくわからないのですが、今回は2021年5月1日から2022年5月31日までという、13カ月の変則決算になっていました。
○21年度22年度決算
2021年4月期 | 2022年5月期 | |
経常収益 | 17,719万円 | 27,922万円 |
経常費用 | 16,519万円 | 27,277万円 |
当期計上増減額 | 1,200万円 | 645万円 |
正味財産期末残高 | 6,372万円 | 6,749万円 |
普通こういう会計話では万円単位で記載はされないのですが、わかりやすさのためにこういう表記にしています(今回に限らずいつもこの手の話ではそうしてます)。
オリンピックのあった今期は売上というか収入というかそういうものにあたる経常収益が前期と比べて大幅に増えました。一方で費用の方も大幅に増えています。その差し引きにあたる経常増減額はプラスですのでようは黒字でした、という形です。2021年4月期はコロナ1年目にあたるわけですがここでも黒字でした。2期連続黒字決算になりました。
正味財産期末残高は一般的な貸借対照表でいうところの純資産ですが、これが6,000万円台です。同じ冬の人気競技の日本スケート連盟ですとここが30億円ほどあるのと比べると50分の1という極めて小さい水準になっています。
○収益内訳
2021年4月期 | 2022年5月期 | |
基本財産運用益 | 1,040 | 240 |
受取会費 | 15,243,500 | 14,938,500 |
事業収益 | 77,120,520 | 94,386,952 |
受取補助金等 | 74,421,968 | 152,229,488 |
受取負担金 | 9,227,093 | 14,064,220 |
受取寄付金 | 272,536 | 2,216,083 |
雑収益 | 902,673 | 1,384,165 |
経常収益計 | 177,189,330 | 279,219,648 |
21年4月期から22年5月期で増えた収益の主なものは、結局補助金です。8,000万円近い増加をしています。事業収益もいくらか増えました。
比率で表すとこうなります。22年5月期の収益は半分以上が補助金です。補助金がないとやってられない、というのがカーリング協会の現状です。3分の1ほど事業収益というのもあります。
○事業収益の内訳
2021年4月期 | 2022年5月期 | |
本部事業収益 | 61,600 | 1,663,552 |
協賛金受入収益 | 68,530,000 | 74,024,000 |
選手肖像権使用料収益 | 0 | 1,375,000 |
物品販売等収益 | 828,920 | 824,400 |
入場料収益 | 0 | 0 |
放送権料収益 | 7,700,000 | 16,500,000 |
事業収益の中の8割ほどは協賛金収益です。残りのほとんどは放映権料。カーリング協会の自力で得ている収益の主なものはその辺です。協賛金も放映権料もこれでも過去最高です。協賛金のメインは全農だと思うのですがいくらもらっているんだろう? あれだけオリンピックで盛り上がるのですからもう少しこれからは協賛がついてもいいと思うのですがどうでしょう。
放映権料は全日本選手権のNHKBSでの放映がおそらくメインだと思われます。ちなみに、スピードスケートの年間の放映権料が3,000万円弱ですのでそれよりもかなり少なく、フィギュアスケートは2億円弱ですからその10分の1の水準になります。地上波に出られるといいのでしょうが、地上波でカーリングが映るのはオリンピックだけで、オリンピックでの放映が日本カーリング協会の収益には直接は繋がらないです。
残念ながら大会の入場料収益はゼロ。コロナなんでね無観客、というのもありますが、コロナ以前でもあまりそこの収益は大きくなく、19年4月期なので平昌オリンピックでメダルを取った次のシーズンに1,404万円あったのが最高です。人気はあるので主催大会で稼げるとよいのですが、今シーズンはどうでしょう。1月末の全日本も常呂で行うところまでは発表されていますが、観客入れるのかどうかも公表されておらず、まして前売りチケットなど販売していない状態です。
事業収益に限らず補助金と負担金以外の収益の内訳をみるとこうなります。結局事業収益の中の3分の2が協賛金です。
協賛金、放映権料以外では競技者登録料が10%を占めています。金額にして1,130万円弱。カーリングの場合は競技者の登録料も重要な収入源になります。これも収益規模が大きいスケート連盟あたりとの大きな違いです。気になるのは20年4月期の1,268万円ほどをピークに減少しているところ。コロナ以前と比べてカーリング競技者人口が減ってしまったという現実があるのだろうと思われます。
費用の内訳はこんな感じになります。国際大会の派遣費と国内外の強化合宿費で全体の半分くらいです。22年5月期はわずかな黒字でしたが、費用と収益でほぼ変わらないところからすると、収益の半分ちょっとを占めていた補助金が、ほぼこの国際大会の派遣と国内外の強化合宿に掛った費用に相当することになります。
これは補助金がないと強化合宿が出来ないという意味である一方、補助金なくても強化が止まるし国際大会に行けなくなるだけで、国内の大会開催などは成り立つ程度に収入があるので、ある種身の丈にあった強化をしている、というところもあるのかな、と見て取れます。
また、上記の収入の方で競技者登録料の減少から、競技人口が減っているのではないかということも記しましたが、普及啓発事業への費用の投入は全体の0.5% 金額にして130万円ほどと非常に小さなものにとどまっている状態にあります。
前期と比べて増えた費用は国際大会派遣事業費と海外強化合宿事業費でした。コロナで海外に行けなかったというのがはっきり出ています。
では、その強化合宿の費用は誰に掛けられているのか、というのを見てみました。海外と国内、そして男女ミックス、それぞれ見ています。区分無しというのは男子とか女子とか区分せずにナショナルチーム強化合宿のような表記になっているものです。実際には表記がないだけで男子だったり女子だったりだけのものもあれば、男女両方いるものもおそらくあります。
区分無しが国内海外で合わせて21%ありますが、それを入れても女子が全体の46%を占め、男子とはっきり記載されている29%と比べるとだいぶ差があります。ここに差があるから結果に差があるのか、結果に差があるから強化費用に差が出るのか。鶏が先か卵が先か。ミックスは男子と比べてもだいぶ少ないですが、これはいつもは男子あるいは女子のチームで活動している選手が、大会直前に組んで試合に出る、という形がトップ選手だと多いからということかと思われます。
なお、ここで取り上げた合宿費用の合計は8,800万円ほどで、その外数として大会派遣関係の費用が4,500万円ほどあります。強化と派遣合わせると1.23億円ほどになるわけですが、これはスケート連盟の中のショートトラック部門の1.17億円とほぼ同じくらいになり、フィギュアスケート部門の3.27億円からすると4割弱になります。収益規模の割には結構強化に費用が使えているな、とも見えますがこの辺は補助金の効果ということかと思いました。一方で、あれだけ稼いでいるんだからフィギュアスケートにもう少し強化費費やしてもいいよね、と思うのと、同じくらいの強化費でオリンピックのメダルをカーリングが獲っているのだから、ショートトラックももうちょっと頑張ろうね、というのも思います。
カーリング協会としては、オリンピックで初めて決勝に残るまでのチームをつくることができた記念すべきシーズンとなりました。一方で、金銭面ではあまり潤沢な状態ではないこともわかります。補助金があるので強化にはそれなりの金額を出せてはいますが、自力で稼ぐことが出来ていないので完全に補助金頼みになっています。あまり金儲けに励むのもよくはないとは思うのですが、お金があればいろいろできるのも事実。せっかくそれなりに人気もあり結果も出ている競技ですので、集金力を増やして、選手達の金銭的負担を減らしたり、普及に力を入れたりすることができればと思います。