日本スケート連盟の財務余力

前回、相撲協会の財務余力を見ました。

相撲協会はかなりの金持ち団体ですが、協会員の給料という固定費が大きいため、本場所という興業が行えずに収入が途絶えるとちょっと苦しい。ただ、持ってる金額が桁違いなのでまだ大丈夫、というものでした。

 

さて、では、割とお金持ってそうなスケート連盟はどうでしょう?

ちょっとその辺を今回は見ていきます。

 

スケート連盟の最新の決算は2019年6月期のものです。もうすぐ2020年6月期が終わりますが、これ、決算書が出るのは9月の終わりころになるので、まだ全然見えてきません。

2019年6月期の決算については以前に見ました。

18年6月期に続いて、2年連続で5億円レベルの大きな黒字があり、純資産に相当する正味財産が31.8億円まで増えています、というような状態でした。

 

資産合計

3,533,156,234

負債合計

351,535,352

正味財産合計

3,181,620,882

 

負債が3.5億円ほどに対して資産が35億円と10倍水準であります。差し引きで正味財産は31.8億円ほど。かなり大きな資産を持っています。

 

流動資産合計

1,471,876,630

固定資産合計

2,061,279,604

資産合計

3,533,156,234

 

その資産の持ち方ですが、スケート連盟も、それなりに固定資産扱いのものがあります。一方、すぐに現金のように使える資産である流動資産も14.7億円あります。それなりの金額。これでどれだけ暮らせるか?

 

スケート連盟の年間の支出はどれくらいあるのでしょう? 2019年6月期は40.2億円の経常費用がかかっていました。スケート連盟の支出は年ごとに大きく変わります。2019年6月期は結構特殊な年。世界フィギュアを開催したシーズンでした。世界フィギュアに賭けた特別事業費が12.85億円あります。それを除くと27億円台です。

 

実は、連盟自体の本当の固定費は、年間3億円程度しかありません。なので、14.7億円の流動資産があれば理論上5年近くは暮らせます。前回見た相撲協会は、金持ちだけどそんなに5年も何もしなくても暮らせる、というようなことはありませんでした。その差は、相撲協会は協会員という名前の関取たち含め、多くの人達に給料を払わないといけないため、そこが固定費として重くのしかかっていました。一方、スケート連盟にとって、選手たちは給与を払う対象ではありません。したがって、選手たちを支援する費用は固定費にはなりえないわけです。なので、固定費が軽く、連盟自体はちょっと世の中止まっても、いきなりつぶれるというようなことはありません。

相撲協会とスケート連盟では、ビジネスモデルがだいぶ違う、ということが言えます。公益法人に向かって、ビジネスと言ってしまうと怒られるなら、収益モデル、と言い換えましょうか。

 

スケート連盟の支出の中で、19年6月期決算において最もお金がかかっていたのは、特別事業費という名の大会運営費用でした。

 

2019年スケート連盟の支出額比率

 

支出の半分が特別事業費 = 大会運営費です。ここでいう大会とは、NHK杯フィギュア、全日本フィギュア、世界フィギュア、スピードスケートワールドカップ、の4試合でした。実際にはこの全体の支出の半分である大会運営費の中の6割が世界フィギュアの運営費です。

 

何が言いたいかというと、準備もしていない段階で大会が中止になっても、連盟の懐は痛まないけれど、準備をしてから中止になると懐が結構痛む、という話です。大会運営費は固定費扱いではないですが、大会の準備をしてしまえば実際に発生する支出ですので、結構痛い、ということになります。

例えば、18年のNHK杯フィギュアで懸かった費用は3.91億円でした。大会がもし直前で中止になれば、賞金などが発生しないことでわずかに出費が減りはしますが、9割以上はそのまま費用が掛かったうえで、メインの収入源となる入場料を得られないので、大きな赤字を抱えることになります。

 

ただ、それでも、15億円近い流動資産を持つスケート連盟としては、痛いけれど支えきることは問題なくできる、という水準ではあります。

 

固定費、大会運営費、以外で毎年何にお金が使われているのか?

それは、大事な大事な、選手の強化費です。

これは、上記の円グラフでは、強化費と書かれた項目だけでなく、一般事業費からも割り当てられています。

 

強化派遣費推移

 

決算書の中に、判別しにくい項目もあるので、概算ですが、各年の強化・派遣費はこのグラフのようになっています。2019は2018年7月から2019年6月までのシーズンの意味です。

ショートトラックが2016-17シーズンから初めて数字が入っている形になっていますが、それ以前はスピードスケートとショートトラックの区別が決算書から読み取れませんでした。

近年は毎シーズン7億円ほどの強化・派遣費が捻出されています。これを次のシーズンも普通にねん出することができるか?

 

結論から言えば、できます。間違いなくできます。

 

万が一、収入が途絶えた場合、上記の流動資産からだけだと年間7億円を支出するのは、多少の不安がある水準です(できなくはないけど)。ただ、資産はもう一つありました。固定資産です。

 

固定資産は20.6億円あると上記の表に出しました。このうちの19.0億円は特定資産という、特定の目的のためにもっている、と宣言されている資産になっています。

特定の目的とは何か?

 

退職給付引当預金 みずほ銀行定期預金 91,351,000
特別基金引当預金 三菱UFJ信託銀行定期預金 10,000,000
積立引当預金(フィギュア関係) 三菱東京UFJ銀行定期預金 20,000,000
積立引当預金(強化関係) みずほ銀行定期預金 1,776,646,213

これは決算書の財産目録に書いてありました。17.77億円相当がみずほ銀行に定期預金として預けられていて、これは、強化関係のものである、とありました。

つまり、固定資産の中に、実質的にすぐ現金化できる強化に使用できる資産が17.77億円ある、ということです。

来シーズンも、その次のシーズンも、収入がちょっとやそっと途絶えても、昨シーズン並みの強化費の捻出は問題なくできます。

 

今日のお話は、簡単にまとめてしまうと

スケート連盟はコロナでNHK杯や全日本のような主催大会が中止になると、収益が損なわれるけれど、十分に今の段階でお金持ってるから、1年2年くらいなら、今までと変わらず選手の強化費は出せるよ、というお話でした