書評 長女を育て、四女に教わった 本田家流子育てのヒント

長女を育て、四女に教わった 本田家流子育てのヒント 本田竜一

ソフトカバー 160ページ

 

フィギュアスケート、本田一家の父、本田竜一さんが執筆した本です

2013年2月10日 第一刷発行

おわりに、の部分には平成二十五年一月、とあります

この時期に出版されたということは、2012年に企画されて執筆された、と見てよいかと思います

 

この時期の本田家はこんな感じでした

2011年10月期 本田望結さんが「家政婦のミタ」出演

2011年10月 本田真凜選手 全日本ノービスB 71.26で2位表彰台

2011年10月 本田太一選手 全日本ノービスA 94.16で優勝

2012年10月 本田真凜選手 全日本ノービスB 90.41の歴代最高得点で優勝

2012年11月 本田太一選手 全日本ジュニア 155.76で6位入賞

2012年12月 本田望結選手 京都府総合体育大会 3級女子の部 44.80で優勝

2012年12月 本田太一選手 全日本選手権 165.78で14位

 

2013年2月時点で、長男の太一選手がジュニア上がりたての中学2年生14歳、真凜選手が小学5年生11歳でノービスB2年目、望結選手は小学2年生8歳でノービスBのさらに2年下、紗来選手は5歳です

上記はしませんでしたが、紗来選手も12年段階で1回転のジャンプを飛んで試合に出ています。

 

いわゆる世間という中ではまだ、女優望結さん以外はまだまだ無名ではある時期ですが、一方で、スケーターとして全員が世代トップだった時期でもあります。5歳の紗来選手も、試合出ている時点でトップみたいなものですし。スケートもやっている望結さん、を中心に、その家族全員がスケートの世界でもトップなんだよ、というのを使って子育て本企画がされた、というのははっきり見て取れます。

一方で、スケートファンの間ではこの時点で真凜選手がはっきりと期待されていて、望結さんの姉じゃなくて、真凜さんが中心なんだよ、と言い返しているような、そんな時期ではありました。ポスト浅田真央、なかなか出てこないけど真凜ちゃん待ち? なんて声が一番大きかったのは、むしろこのころだったのかもしれません。

 

本田家は太一選手のさらに上に真帆さんというお姉さんがいて、その方がタイトルの「長女」に当たるのですが、太一選手の3学年上、とのことなので長女でもこの時点で高校2年生。実際には長女の名前ははじめにと著者紹介の欄にしかほとんどでてこないのですが、それを含めても、子育て本が一番上の子で高校二年生、という時点で書いてしまう、というのはちょっと早いように感じます。そして、それは書いている本人も思ったようで、はじめに、の時点からその旨記載があります。子育ての真価が問われるのはこれから、と。

 

それから7年経ち、今があります。今になってこの本を読んでも思います。本田家の子育ての真価が問われるのはこれから、なんだろうな、と。

 

7年の間に一人の子は世界ジュニアのチャンピオンになりました。一番下の子は日本の世代別の試合でチャンピオンになりました。二足の草鞋は普通の人基準で考えれば十分に高いレベルではけています。そして、長男は日本の世代別の大会では表彰台をキープしている。

競技、あるいは仕事、としては十分成功していると思うんですね。世界で勝つこと以外成功ではない、なんて、一般庶民の自分にはとても言えない、感じられない。

ただ、太一選手以外は、いまこのまま引退したら、それは成功ではない、とも思います。それは、リプニツカヤさんやポゴリラヤさんが成功したとちょっと言いたくないのと同じ意味で。このレベルでやっている選手が、成人する前に辞めてしまう。それは競技者として成功とはいえない。そういう燃え尽き方をしないで生きていけるか? というのは競技者としてもあるんですが、未成年の彼女たちにとっては、やはり、家庭での育ち方、というのが強く影響するものだと思います

 

子育ての専門家が、子育てについて体系立てた理論をもって書いた本ではありません。そういった観点で言えば、本田家が受けた、本書内で出てくる「七田式」と呼ばれる教育は、おそらく体系立てられたものなのかと思いますが、本田家の父親が与えていく教育、および、本書の内容というのは、体系立てられたものではありません。本人も書いていますが、うちではこうしてます、という話が並んでいる、というものです

 

子育ての参考にするには、本田家はどう考えても特殊です。そのまま自分の家に、自分の子育てに使える、という人はまずいないでしょう。まず5人も子供はいませんし、4人もスケートさせられるお金を持ってないですし、その中に女優が混じっていたりなんかしない。

幼稚園、という単語が出てきていますので、いわゆる共働きでもなく、各種映像資料からは、母だけでなく父も、子供たちのために十分に時間を使えるような環境にいることが見て取れます。そんな家、ほかにはありません。家の和室にトランポリンを置く、そんなのまねできる家、めったにありません。

 

ただ、一つ一つのエピソードは、そういう考え方でこの一家は、兄は妹は、育てられてきたんだな、というのが読み取れます。その辺は、自分に子供がいてもいなくても楽しく読めるのではないかと感じました

 

意外だったのは、文中に、太一選手が、フィギュアスケートは向いていない、と早い時期に親も思っていて、本人にも言っていて、本人もそれを否定していなかった、というあたりのエピソード。向いてない競技で全日本レベルの大会に毎年のように出るってどんな総合力ですか? という感じもありますが、そういうことを早い時期に、少なくともこの本が出版されるジュニア1年目よりもさらに前の時期に、本人も、親も思っていた、というのは過信なく、親ばかなく、現実を見ながらの競技生活だったんだな、ということを感じさせられました。

この記述からすると、この本より未来のこと、オリンピックに行けるかもしれないけれど、行けないかもしれない。二足の草鞋は壁にぶち当たるかもしれない。そういった未来も、本人はわかりませんが、親からすると、冷静に、あり得る未来として覚悟はあったのではないか、と感じさせられました。

 

 

太一選手が言ったそうです。本田家で一番飛躍するのは紗来。一番最後に一番おいしいところを持っていくんだ、と。ノービス最終年になって今シーズンはだいぶ苦労しているような紗来選手ですが、長男太一選手の予言は当たるでしょうか?

 

子育て本のその後を、これからも見ていけたらと思います