女子シングル、全体のレベルアップ

 

 

昨シーズン,18-19シーズンから、今シーズン19-20シーズンにかけて、女子シングルでは大幅にレベルアップした、というようなことが言われています。女子も四回転時代にはいった、それによってオリンピックチャンピオンですらレベルアップについていけない云々。

さて、まあ、上の方はそうなんでしょうけれど、全体のレベルはどうなんでしょう?

というあたりを今回は見てみました。

 

18-19シーズンと、19-20シーズン、それぞれの、グランプリシリーズ、チャレンジャーシリーズ、ジュニアグランプリシリーズにおいて、出場選手全体の平均点や、上位25%や中央値、さらには上位75%(=下位25%)となる得点はどのあたりであったか、というのを見ています。

グランプリシリーズ、ジュニアグランプリシリーズには、ファイナルを含めていません。ショートプログラムだけ滑りフリーは棄権した、というようなものは全体から外しています。

 

●グランプリシリーズ

 

18年

19年

最高点

233.12

241.02

平均点

183.60

183.31

上位25%

200.14

207.54

上位50%

185.67

178.35

上位75%

159.89

164.01

 

グランプリシリーズの女子シングルのスコアを見ると、18年から19年にかけて、上位のスコアははっきりと上昇しました。上位25%に入るには18年は200点を取れば十分でしたが、19年は207点台が必要です。上位25%というのは全体のべ72枠とすると18番目まで。全6試合ですから、基本的には表彰台ライン、ということになります。表彰台ラインが7点ほど、トリプルルッツ一本分程度上がった、というのは結構大きいでしょうか

ただ、中位層はそれほど上がっておらず、平均点は前年並みですし、中央値に当たる上位50%のラインは18年の方が高くなっています。上位75%とは下位25%の意味でもありますが、ここのラインは19年シーズンの方が4点ほど高いです。上位と中位の差が広がって、中位と下位の差が詰まった、という感じでしょうか。

これは、表彰台争いがごくごく限られた選手だけに限られ、その下、5位以下は最下位まで割と混戦、というような構図になるので、中堅以下の選手は大変な一方、見ている方にとっても上位が固定メンバーなので、ある意味では面白くない構図、となってしまっている側面があります。

 

●チャレンジャーシリーズ

 

18年

19年

最高点

238.43

238.69

平均点

140.30

144.54

上位25%

163.29

166.60

上位50%

135.69

140.69

上位75%

118.65

123.46

 

チャレンジャーシリーズの結果は中堅層もややレベルアップしたのかな、ということを見せてくれます。世界の上位の選手も1試合はチャレンジャーシリーズに出場してきたりしますが、多くはそのレベルにない選手の主戦場となっているのがチャレンジャーシリーズです。そういった試合で、平均点や中央値の点数が、やはり5点ほど18年から19年にかけて上がっています。ここでいう中堅層は、グランプリシリーズの中位層、180点から190点台の選手ではなく、もう少し下の160点台あたりの選手になりますが、その辺の選手が少し点数を上げてきた、というように見えます。グランプリシリーズの上位75%ラインあたりの変化と、チャレンジャーシリーズの上位25%ライン当たりの変化は、同じような選手たちの成長度合いを表しているのかと思われます。

また、それより下、150点に満たない層でも5点づつくらい水準が上がっているのが、上位50%という中央値、あるいは上位75%のラインから見て取れます

 

●ジュニアグランプリシリーズ

 

18年

19年

最高点

221.44

221.95

平均点

123.27

126.01

上位25%

148.36

149.91

上位50%

116.87

125.38

上位75%

95.80

98.94

 

ジュニアグランプリシリーズも、やはり昨シーズンよりレベルが上がっています。

平均点は3点ほど上昇。中央値では9点も上がってきています。ジュニアグランプリシリーズは、下位25%はショートフリー合わせても100点に届かない、という水準だったりはしますが、そのあたりのスコアも4点近くあがっています

 

 

これらの指し示すことはなんでしょう?

中堅以下の層が少しづつレベルを上げている、というのは、基本構成が3回転以下の層が全体的にレベルを上げている、ということでよいかと思います。この辺は、3回転-3回転を入れられる選手が増えているであるとか、普通に3回転の精度が上がるとか、そういったレベルアップであろうと推測されます。

一方で、トップ層はトリプルアクセルに四回転にと、高難度ジャンプの導入による得点力アップがあるのは、もう見るからにわかる現象でしょう

そんな中で、トップのすぐ下の層だけがやや点数を下げている感じがグランプリシリーズの上位50%あたりのラインに出ていました。このあたりの層というのは、おそらく、トップ層の高難度ジャンプ導入に煽られて、自分も高難度ジャンプに挑戦しているのだけど、うまくいかず、副作用として全体のバランスも崩れて、自分のベストの演技が出来ていない、というような構図が見えます。

 

トップのトップ、本当に上の層の上澄みの部分は得点を伸ばしていて、その下でトップをうかがっていた位置の選手は逆に得点を落としてしまった。一方、それより下の中堅以下の選手たちは着実に進歩している。

この構図は、全日本選手権によく表れていたように感じました。トップの上澄み、というところはトリプルアクセル三本決めて突出していく。そのすぐ下にいてトップをうかがっていたオリンピアン二人は昨シーズンまでのような成績を上げられず表彰台にも乗れず。その下の層でもがいていたところから復活の二位表彰台。あるいはジュニアの上位からまさかの表彰台。

 

自分自身のより高みへの成長、というのを見ている分には一つ一つ会談を伸びっていけるけれど、世界の頂点を目指すには高難度ジャンプが必要になってきていて、それを求めるとバランスを崩す。なかなか厳しい時代になってきてしまいました。

 

以上、女子シングルの昨シーズンと今シーズンのスコア比較から見てレベルの変化についてでした