「N高って何?」
中学三年生の時に紀平梨花さんが、何かの競技会での所属アナウンスを聞いて、川畑和愛さんに聞いたとか。
ホントかどうかはわかりませんが、ある種、人生の一つの進路が変わった瞬間だったのかもしれません
N高、略さずに記すと、N高等学校は2016年4月設立の通信制の高校です。創立4年とちょっと。最近できた学校ですので、例えば羽生選手あたりでは選択肢になりえませんし、女子でも宮原知子選手あたりでも選択肢として存在しませんでした
N高の在校生あるいは卒業生として、フィギュアスケート関係者では、上記の川畑和愛選手、紀平梨花選手の他に、アイスダンスの吉田唄菜選手もいます
通信制高校にもスクーリングといって登校する機会があります。N高の場合本校が沖縄県のうるま市与那城町にあり、その他に全国各地にキャンパスがあります。通信制ではありますが、通学コースもあり、通学コースは、沖縄に限らず全国各地のキャンパスに通学することになります。ネットコースの場合のスクーリングは、2020年からは、2年次に一度沖縄本校に4泊5日で通うことに基本的になっており(収入等による例外規定あり)、1年と3年の時には各地の校舎に通うことになります。
川畑選手、あるいは紀平選手が、N高のあとに、東京とついて、「N高東京」という登録になっているのは、このスクーリングの先が東京である、ということを意味しているはずです
ちょっと不思議なのは、東京都内の中学に通っていた川畑選手はともかく(通学コースですし)として、濱田先生の下で関西に拠点があった紀平選手が、東京の扱いになっている点です。兵庫の中学に通っていたはずですし、N高には大阪校舎もありましたので、そちらを選ぶのが自然な感じがするのですが、そのあたりはどういった意志が働いたのでしょうか
N高には「修学旅行」と名のついた行事はないですが、2年次の沖縄でのスクーリングが、ある種の修学旅行を兼ねているようにもみえます。授業、という形で、英語、生物、地理、体育、などのカリキュラムが組まれていて、時間割表だけ見るとぞっとするようなスケジュールなのですが、体育はマリンスポーツであったり、生物の飛翔について紙飛行機を飛ばすなど実習を通じて学ぶであるとか、座学ではない部分が多くを占めます。本当の意味での、学を修める旅行、といった装いです。
生徒数が多いので、おそらく一度に全員があつまるのではなく、いくつかの日程に分かれているのだと思うのですが、国別対抗戦でショート83.97の当時の歴代最高スコアを出して始まり、中止になってしまったカナダでの世界選手権で終わった、忙しい高校2年生の一年間の中で、紀平選手が4泊5日で沖縄に行っていたかは不明です(6月7月くらいなら行けた気もしないでもない 本当の修学旅行ではないので、逆に、卒業のために参加が必須です基本的には ただ18年4月入学の紀平選手は、回避の手段もあるようです)
N高等学校は、学校法人角川ドワンゴ学園による運営です。角川書店を母体とし、2014年10月に、株式会社ドワンゴを取り込んだ、今の株式会社KADOKAWAが運営母体、ということになります。角川の名物社長、角川歴彦氏と、将棋の電王戦を手掛けたりしていたIT会社ドワンゴ。この両者が合併された会社が運営母体の通信制高校。というわけで、従来の通信制のイメージとはだいぶ異なっていて、通信制の通信が、ITに強く振り切ったものになっています。
通信制であり、一つの校舎に収容する、というような物理的制限がないこともあって、N高の生徒数は膨大な数になっていて、2020年4月時点で、14,852名以上を数える、と公表されています。普通の高校の生徒数と比べると、桁が一つ違う領域です。
大学進学実績は、学生数の割にはそれほど目立ったものでもありません
2020年合格実績として、東京大学1名、京都大学3名、筑波大学4名をはじめとして、国公立大学は23名です。私立では、慶應義塾大学13名、早稲田大学8名、などとなっています。これらは現役生だけでなくいわゆる浪人生も含めた数です。川畑和愛選手は、この早稲田大学8名の中の一人にカウントされますかね。
実力ある予備校講師の指導も受けられ、大学受験を目指すためのカリキュラムもしっかりある、とされれていますが、実際には今までの実績で見ると、オーソドックスに有名大学へ進学する、ということを考える中学生にとっては、まだ、N高というのが、あまり選択肢として挙がってきていないのかな、と感じます。実際、中高一貫が流行っている中で、N高はそういった概念から外れますし、また、公立中学からの進学としても、高校入試、という関門が(事実上)無しで入れてしまう、というのは大学受験というのを中心に考えた場合は、あまり最初の選択肢としては上がってこない、というのが今の日本の環境だと思います
学費は私立学校としては安いと言えると思います。就学支援金、いわゆる、高校無償化と呼ばれるものの支援金を計算に入れないとして、以下記します(支援金は年収により変わるため)
入学金は1万円です。施設設備費、と呼ばれるものが毎年5万円発生します。教育関連諸経費が1万3千円請求されます。その上で、授業料は1単位7,200円で、年間の必須単位数が25なので、単純計算では18万円になります。すべて足すと25万3千円です。入学金は初年度のみなので、2年3年では24万3千円になります。3年間で73万9千円です
引き合いに、開成高校でも出してみましょうか。入学金だけでまず32万円かかります。施設拡充資金で12万円。授業料は月額で41,000円かかります。施設維持費と実験実習料がそれぞれ月額6,000円。生徒会会費月額550円 父母と先生の会会費月額2,800円。そのほかに、入学時に1年生は1口10万円で1口ないし2口の寄付(任意)をお願いしているそうです。寄付(任意)をお願い、ってよく見るけど謎の文言ですが、ようは1年生の時点で合計100万円を超える金額掛るわけです。
開成高校は例で出しましたが、有名私立高校はたいていそれぞれ、内訳の前後はありつつも、こんなものです。それと比べるとN高は破格の安さである、と言えそうです。ついでに言うと、制服代、なんてのもかかりませんね(N高でも通学コースには制服あります 任意ですが)。
N高は通信制ではあるものの、高校ですので、学習指導要領に従ったカリキュラムを受けることにはなります。そのあたりは、IT化されていて、遠隔で受けられるというだけで、中身は一般の高校とあまり変わらないはずです。まあ、テストが年一回、というのはあまりないでしょうけれど。(テストはリモートではなく、通学して受けます)
特徴的なのはやはり通常カリキュラムではなく、それ以外の部分でしょう。
アドバンストプログラム、とN高では呼ばれている課外授業がまず挙げられます。運営母体としてドワンゴが入っていることもあってか、やはりIT系のものが中心。プログラミングというちょっと幅広い表現のものに始まり、もう少し枠を狭めて、WEBデザインや機械学習と言ったものもあります。また、各種クリエイティブ分野ということで、作家、イラストレーター、ボーカロイド、ゲーム、声優、ファッション・ヘアメイクなどなどの分野も学ぶことができます。このあたりは、専門学校色が強いでしょうか
課外活動で有名になったのはネット遠足でしょうか。ドラゴンクエストⅩオンラインの中で生徒が集まってネット遠足をするという。まあ、ネット遠足自体は参加が任意なので、本当に単なるイベント、課外活動なのですが、普通の高校、普通の通信制高校ではありえないものでしょう。ぶっ飛んでる、というようにも見えますが、必須ではなくて任意参加ですので、まあ普通の高校でも、文化祭のとある一コマ、程度にはありえる光景なような気もします
課外活動で継続的に行われているものとして目立っているのが、ネット部活でしょうか。目立つ柱は二本、起業部と投資部ではないかと思います。
起業部は、実際に年間最大で1,000万円を活動費として用意し、起業するところまでを目指すようです。この部活、まず、入るのが大変で、セレクションがあります。野球やサッカーやスポーツの強豪校で、入部選考があるのと同じように、起業部には入部選考があります。開校した直後の第一期では、その入部選考の審査員として、角川の社長川上量生氏、ドワンゴの社長、夏野剛氏と並んで、ホリエモンこと堀江貴文氏が名を連ねていました。大企業経営者と、自分で起業して企業を大きくした実績のある人々、というのが審査員であり、なかなかハードです。
投資部の方は、あの村上ファンドの村上世彰さんが特別顧問として名を連ねています。実際に、村上財団が一人当たり20万円を拠出し、部員はそれを元に投資するようです。投資対象は、東京証券取引所上場銘柄、に限られるというのは明記されていますが、ミニ株としても買えるのか? など細かいところまではわかりません。損失が出ても返済する必要はないが、利益が出た場合はその部員のものになる、とされています。
村上ファンドの是非、という点では賛否いろいろあるかと思うのですが、この村上さん、投資に真剣な人ではあると思うので、投資教育という点では結構真剣にやってくれるんだろうな、とは感じます。ある種の自己弁護なところもあるのかもしれませんが、世の中の、お金というものに対して、汚いイメージがついているのをなくしたい、という思想がたぶんあって、こういうところに出てきて、特別顧問なんてことをしているのでしょうきっと。
個人的には、高校生くらいで、お金というもの、投資というもの、市場というもの、について知っておくのは良いと思うので、部活であることがどうかはともかくとして、活動としてはいいのではないかと思います
さて、こんなN高等学校。進学先としてどうですかね?
紀平梨花選手にとっては、良い選択だったのではないかと思います。こういう言い方が適切かわかりませんが、15歳の時点で紀平選手はもう人生ほとんど決めていたでしょうから、その決まっている人生から考えると、学校に通う、ということが必要か? と考えると、そうでもない。ただ、高校を卒業するというのは保険の意味でも、また、人生経験の意味でも有用である。この二つを兼ねたものとして通信制高校があり、その中でもN高という選択があった。紀平選手みたいな場合は、英語はきっちり学んだ方が良いでしょうし、国際的に活躍していくなら、国語とか、日本史世界史地理、あたりの知識もあったほうがいい。また、競技の特性として、物理の知識もあると、感覚だけでなく理論として体の動きと回転の関係、なんてものも理解できてよいのでしょう。一方で、紀平選手が生物学んで黄色ショウジョウバエの遺伝実験とかするのは、見ていて微笑ましいという価値はあっても、実質的にはそんなところに時間使ってもって感じでしょうし、二次方程式の解き方学んでもねえ、という気もする
その辺全体を見て、いい選択だったんだろうと思います。
一方で、川畑選手にとってはどうだったか? 彼女に限らないのですが、スポーツ選手を目指す人が選ぶ進学先としては、一つの弱点がたぶんあります。それは、通常、通信制高校は、全日制の高校と同じインターハイには出られない、ということ。通信制のインターハイはありますが、それは全く別物で、失礼ながら競技レベルも異なる。ましてフィギュアスケートレベルの競技人口だと、通信制のインターハイなんて無いでしょう。ただ、ごくまれに、通信制でも全日制のインターハイに出場できるような仕組みになっているところがあるようですが、おそらくN高はそういったことはしていなさそうです。実際、川畑選手は3年間、インターハイへの出場はありませんでした。まあ、3年時には全日本選手権で3位表彰台に乗った選手ですから、インターハイ別に興味なかったし、と言い切っても誰も文句言えないんですけれど、1年2年次にインターハイがなかったことはどうだったか?
したがって、個人競技で、インターハイレベルに興味のない選手にとってはいいですが、インターハイレベルの水準の選手にとっては、貴重な実践の場が失われることになるので、あまりいい選択ではなさそうです。また、団体競技の選手も基本的にはダメでしょう。例外的に、サッカーでクラブユースをベースに活躍している選手にとっては、高体連の試合はもともと関係ないので、N高というのがいい選択肢として浮かんでくると思われます。
そうやって考えると、スポーツ系でN高が合いそうなのは、サッカー、フィギュアスケートの他には、卓球や競泳あたりですかね。高校生でも世界のトップで戦える、という競技は男子より女子の方が多いので、より、女子に向いた選択肢になるかもしれません。スキージャンプの高梨沙羅選手なんかもそんなパターンでした(インターナショナルスクール~大検を経ての大学進学)が、そういった競技レベルの選手は、上記で上げた競技以外にもきっといるでしょう。
だいぶ長々と書き記しましたが、N高等学校というのはこんな学校です
15歳時点でやりたいことがはっきりしている人、にはいい選択肢なのではないかな、と思います。現時点では、在校生~卒業生の中で、紀平選手の実績というのが突出していますが(他に囲碁の女流本因坊というのはいますが国内レベル)、この先15歳時点で世界に通用している人、の選択肢として選ばれることが増えていくのではないかと思います。