日本の女子バスケットボールチームが東京オリンピックで銀メダルを獲得しました。
一方で、その直後に発表された世界ランキングでは、10位から8位に二つ上昇しただけ。それに対して、なぜ? 2位相当でしょ、というような声が出ていたようでした。
一つの大会の結果と世界ランキングというのは相関はあるけど一致しないものではあるのですが、そもそも世界ランキングがどのように作られているのか、といった情報があまり広く知られていないように感じています。
今回は、このバスケットボールの世界ランキングの計算法について記します。
なお、現在の世界ランキングの計算方法は男女とも同一です。男子は2017年10月から、女子は少し遅れて2019年11月から現在の計算方法へ変わっています。
○世界ランキング用のレーティング計算の概要
有効なのは過去8年以内の試合
有効な試合はワールドカップ、大陸選手権、オリンピックと、それぞれの予選のみです。サッカーのような国際Aマッチという名の練習試合は含まれませんし、アジア大会のような地域大会も含まれません。対象となる試合は少なめです。
ホームチームとアウェーチームの概念があり、ホームの方がその試合で獲得できるランキングポイントは小さくなるように設定されています。これは大会の開催地もホームとみなされるので、オリンピックの日本はランキングポイントの獲得という点では厳しい扱いになります。
対戦相手のランキングが高いほどポイントは大きくなりますし、ラウンドが高いほど係数が高くなります。
以下、具体的に記していきます。
ランキングの計算は、各試合で得たランキングポイントを元に行われます。各試合のランキングポイントの総和を各試合の係数の総和で割った数値をレーティングとして、そのレーティングの数値の順にランキングが決まります。
各試合で得られるポイントはⅠその試合の係数、Ⅱその試合の基礎ポイントの二つから決まります。
係数は、三つの要素①大会のグレード、②大会のラウンド、➂試合が行われてから現在までの時間 により決まります。
Ⅰ-① 大会のグレード
係数 | |
ワールドカップ | 2.5 |
オリンピック | 2.0 |
アフリカ選手権 | 0.2 |
アメリカ選手権 | 0.6 |
アジア/オセアニア選手権 | 0.8 |
ヨーロッパ選手権 | 1.0 |
各大陸選手権は大陸毎に異なっています。アジア/オセアニアは2016年以前は別々に行われていましたが、その時期の結果も係数0.8で扱います。
Ⅰ-② 大会のラウンド毎の係数
ラウンドは、本大会と予選という区分けと、本大会の中ラウンドの区分けがあります
係数 | |
予備予選 | 0.25 |
予選 | 0.50 |
本大会 | 1.00 |
例えばオリンピックは1.0ですが、そのオリンピックに出るための予選は0.5となります。オリンピックに出るための予選の出場権は大陸選手権で得られることもありますが、その場合は予備予選ではなく、大陸選手権として扱われます。
Round | 係数 |
1 | 1.00 |
2 | 1.25 |
3 | 1.50 |
4 | 1.75 |
5 | 2.00 |
本大会の中でラウンドが上がっていく毎に係数も大きくなっていきます。
このラウンドがどこにあたるかは大会によってフォーマットが異なるため変わってきますが、グループステージがRound1で勝ち上がるとベスト8というなら準々決勝がRound2で決勝がRound4 ベスト16相当からのトーナメントならベスト16の試合がRound2で準々決勝がRound3 決勝がRound5という扱いになります。
なお、本大会ではなく予選の場合はここの係数はすべて1になります。
Ⅰ-➂ 経過時間
試合が行われてから現在までの時間が経つほど係数は下がっていき、8年以上前の試合は係数0となりレーティングに影響しなくなります
試合からの時間経過 | 係数 |
今年or昨年 | 1.00 |
2~3年前 | 0.75 |
4~5年前 | 0.50 |
6~7年前 | 0.25 |
8年以上前 | 0.00 |
最近の試合の結果の方が重みがあり、昔の試合の結果の方が重みが軽い、という仕組みです
ただ、コロナウイルス流行の影響で例外が生じていて、2020年の一定期間分が時間経過から無視されます。8年以上前が計算から外れる、ということですが、これは、今回東京オリンピックを行ったことにより、ロンドンオリンピックの分が係数0となり計算対象から外れる、というようになるよう調整がされました。
以上を合わせて、その試合で得られるポイントの係数は、
大会のグレード係数 × 大会のラウンド係数1 × 大会のラウンド係数2 × 経過時間係数
という式で表されます
基礎ポイントは①試合の勝ち負けと点差、②ホーム/アウェー/中立 ➂対戦相手のランキング という三つの要素で決まります。
Ⅱ-① 試合の勝ち負けと点差
ポイント | |
20点差以上の勝ち | 800 |
10-19点差の勝ち | 700 |
9点差以内の勝ち | 600 |
9点差以内の負け | 400 |
10-19点差の負け | 300 |
20点差以上の負け | 200 |
没収試合の負け | 0 |
当然ですが勝った方が大きなポイントを得ます。延長戦になった場合も最終結果が反映されます。引き分けという概念はポイントの上でもありません。没収試合の勝者は20-0の勝ちと同じ扱いなので800ポイントを得ますが、負けの方は0ポイントとなります。
Ⅱ-② ホーム/アウェー/中立
ホーム | -70 |
中立地 | 0 |
アウェー | 70 |
ホームチームは-70ポイント、アウェーチームは+70ポイントを試合の結果に依らず得ます。中立地で開催された場合はどちらのチームもポイント0です。
ホームというのは大会の開催国のことも指します。大会の開催国と対戦するチームはアウェー扱いになります。
Ⅱ-➂ 対戦相手のランキング
対戦相手の試合をした日のランキングに従ってポイントを得ます。計算式は次のようになります。
1.5 × (全チームの平均順位 - 対戦相手の試合前のランキング)
全チームの平均順位とは、ランキングに載っているチームが100あれば50.5 という意味になります。強い相手と戦うほどこのポイントは大きくなることになりますし、平均より下のチームと戦うとこのポイントはマイナスになるという意味でもあります。
- ②➂を合わせて、その試合で得られる基礎ポイントが計算されます。
試合の勝ち負けと点差ポイント + ホーム/アウェーポイント + 対戦相手のランキングポイント
となります。
かなり複雑なので例を示します。
東京オリンピックの女子バスケットボール。準々決勝でベルギーと対戦し86-85で勝利しました。
大会のグレード:オリンピックなので2.0
ラウンド係数1:本大会なので1
ラウンド係数2:準々決勝はRound2にあたって1.25
時間経過係数:今年の試合なので1.0
1点差勝利は600ポイント
ホームなので-70ポイント
ランキングポイントは124チーム中の6位なので1.5×56.5=84.75
係数 = 2.0×1×.25×1 = 2.5
ポイント = 600 – 70 + 84.75 = 614.75
となります
このようにして東京オリンピックの全6試合の計算をすると、
係数 | ポイント | |
GL フランス戦 | 2.0 | 616.25 |
GL アメリカ戦 | 2.0 | 322.25 |
GL ナイジェリア戦 | 2.0 | 698.25 |
QF ベルギー戦 | 2.5 | 614.75 |
SF フランス戦 | 3.0 | 716.25 |
F アメリカ戦 | 3.5 | 322.25 |
こうなります。
(実際には試合ごとにランキングの再計算が行われているとのことなので、世界ランキングの変動分わずかに誤差があります)
レーティングは、Σ(係数×ポイント) / Σ係数 が基本*とされます
Σとは、すべて足す、というような意味で、該当する試合のすべての係数×ポイントを足したものを、該当するすべての係数を足し合わせたもので割る、ということになります。
(*Σ係数 で割るところは、試合数が少ない場合は定数Kで割るとされています。Kの値は公表されていません。少なすぎる試合の結果で高いランクになることを避ける措置です)
銀メダルを取ったのですが、勝敗で言えば6試合で4勝2敗。それほど大勝ちしたわけでもありません。また、負けた2試合が二桁点差だったこともレーティング的には痛いです。さらにポイントとしては、すべてホームゲーム扱いになるというのもポイントが伸びない要因です。
レーティングは過去の結果も加味して出るものなので、今大会の結果がそれほど良くなくても、過去の結果がもっと悪いチームは、均すとレーティングが上昇する、ということはよくあります。今大会終了後のランキング更新に於いて、日本のレーティングの上昇幅は出場12チーム中2番目でした。一番レーティングが上昇したのはグループリーグ全敗のプエルトリコですし、レーティング上昇幅3番目4番目はベスト8に終わったベルギーと中国でした。グループリーグから全勝で優勝したアメリカはレーティングを下げています。グループリーグのナイジェリア戦で一桁点差だったりと、勝ちはしたものの得たポイントが少ないと、以前から勝ち続けているアメリカのようなチームはレーティングが下がってしまうわけです(レーティング順につけたランキングは1位変わらずですが)
以上、バスケットボールの世界ランキングのつくり方でした