21-22 ネイサンチェン

1999年5月5日生まれ

シニア6シーズン目

シーズン獲得賞金:$27,000

世界ランキング:1位

シーズンランキング:4位

シーズンベストスコア 332.60(1位) オリンピック

ショートプログラムシーズンベスト 113.97 オリンピック

フリーシーズンベスト 218.63 オリンピック

ショートプログラム楽曲:ラ・ボエーム

フリープログラム楽曲:ロケットマンより

スピンレベル4率 25/27=92.6%

ステップレベル4率 8/9=88.9%

スピンオールレベル4 2/4

スピンステップオールレベル4  2/4

ジャンプ要素回転不足率 0/43=0.00%

ジャンプ回転不足なし 4/4

スピンステップオールレベル4 ジャンプ回転不足なし 2/4

 

○21-22シーズンの戦績

Grade Event Pl Total SP FS
GP Skate America 3 269.37 82.89 186.48
GP Skate Canada 1 307.18 106.72 200.46
NC US Championships 1 328.01 115.39 212.62
OG OlympicGames Team SP 1 111.71 111.71  
OG Olympic Games 1 332.60 113.97 218.63

シニア6シーズン目相当。ずいぶん長く活躍しているような印象ですが、まだ22歳でのシーズンでした。日本の学年で見れば宇野選手より2学年も下です。

シーズン初戦はスケートアメリカ。ここで平昌オリンピック以来の敗戦。まさかの敗戦でした。ショートはひどい出来、フリーは平凡な出来、トータルは平凡なスコア。あれ? やっぱりオリンピックには縁がないの? そんな暗雲漂うシーズンの開幕です。

翌週のスケートカナダはさすがに復調してきて300点に乗せます。ただ、まだ人間の手の届く水準。それでもファイナル進出は問題なく決めて、そこでどれだけの仕上がりを見せてくるか? が期待されました。

しかしながらグランプリファイナルは中止。年が明けてナショナル選手権が次戦となりました。ここではショート完璧、フリーは今一つながらナショナル加点も感じつつスコアは328点に達しました。代表には問題なく選出されます。

そしてオリンピック。平昌では団体戦からガチガチでひどい出来でしたが、今度はそんなことはなく、111.71 世界最高得点までは届きませんが、パーソナルベストをここで出してきました。

そしてオリンピック個人戦、本番。28番滑走、鍵山選手の108.12を聞いた直後という順番。4年前の大失敗。様々な重圧があったと思いますが、最高難度の構成を最初から最後までノーミスで滑り113.97 歴代最高スコアで首位に立ちます。

フリーはスコア的には余裕のある状況。196.09を出せれば勝ち。普通に滑れば勝ち、ただ年に1度くらいはこれを下回るスコアもあう、といったところ。ここでジャンプをしっかりノーミスで全部降り、ほぼ金メダルを確定させたところでスピンにレベル2Vが出たあたりが、まだちゃんと人間だったという感じはありましたが、トータルスコアは332.60で圧勝、念願の金メダルとなりました。

オリンピック金メダリストは世界選手権には出てこない。これが割と常識的で、羽生選手がむしろ異端なのですが、ネイサンチェン選手はこのあたりは普通の道を歩いて、世界選手権は欠場、シーズン終了となりました。あるいは、現役終了、かもしれません。

 

○要素別スコア

Event Pl Total TES PCS J Base J GOE Spin Step
Skate America 3 269.37 136.22 134.15 97.55 -2.61 25.54 15.74
Skate Canada 1 307.18 167.97 139.21 107.78 18.82 25.83 15.54
US Championships 1 328.01 190.49 139.52 120.41 29.10 27.93 13.05
OlympicGames Team SP 1 111.71 63.85 47.86 36.27 9.52 12.49 5.57
Olympic Games 1 332.60 187.39 145.21 115.13 31.15 24.81 16.30

今シーズンは国際大会は3大会の出場でした。

技術点はナショナルで190点まで出ていますが、オリンピックの187.39でもうとんでもないスコアです。シーズン2位でも170.07であり圧倒的でした。

PCSはオリンピックで145.21という150点満点の限界近いところまで出しました。5項目平均9点で135点、9.5で142.5点ですから、この145点というのはとてつもない領域です。

ジャンプの基礎点はオリンピックで115.13 これは結果的にはシーズン2位の基礎点でした。加点の31.15は当然シーズントップです。

スピンはスケートカナダの25.83が最高。オリンピックはレベル2Vがあるのでシーズンワーストのスピンだったりしました。

ステップ系要素はオリンピックで16.30が出ました。これは今シーズン3位の評価となります。

 

○要素別偏差値

Event Pl Total J Base J GOE Spin Step PCS
Skate America 3 66.39 64.99 50.24 65.82 68.52 68.49
Skate Canada 1 76.67 71.54 78.28 66.76 67.66 71.92
US Championships 1 82.34 79.63 91.73 73.57 56.91 72.13
Olympic Games 1 83.59 76.25 94.41 63.45 70.94 75.99

偏差値で見るととんでもない値が並びます。トータルスコアはオリンピックで83.59というのが出ました。偏差値80超え。女子のロシア勢もすごい偏差値が出てますが、トータルスコアで83.59というのはそれらを上回る値です。

ジャンプの基礎点はオリンピックで76.25と70台後半まで出ました。ジャンプの加点はオリンピックで94.41 偏差値80を超えると異常値とされるような領域なのですが、90超えるとなんといってよいのでしょう。

スピンは全米選手権以外は60台半ばで人間の領域です。ステップ系要素では70に乗りました。さらにPCSでもオリンピックで70台後半の値になっています。

 

21-22シーズン ネイサンチェン要素別偏差値レーダーチャート

レーダーチャートはこんな形。スピンが凹みつつジャンプの加点が膨らんでいます。スケートアメリカはなかなかひどかった、というのがレーダーチャートにも表れています。

 

●シーズン最高の基礎点構成

○オリンピック ショートプログラムの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 4F   11.00   4.40 15.40 4.111
2 3A   8.00   2.29 10.29 2.889
3 CCSp4   3.20   1.05 4.25 3.333
4 4Lz+3T   17.27 x 3.94 21.21 3.333
5 StSq4   3.90   1.95 5.85 4.889
6 FSSp4   3.00   1.03 4.03 3.444
7 CCoSp4   3.50   1.45 4.95 4.222
  TES   49.87   16.11 65.98  

ショートプログラム49.87というのは歴代最高基礎点です。1.1倍に4回転ルッツからのコンビネーションを入れる。これより上はセカンドループを入れていくしかありません。実質的には上限限界に達した、と見てよいと思います。

 

○オリンピック フリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 4F+3T   15.20   4.40 19.60 4.000
2 4F   11.00   4.24 15.24 3.889
3 4S   9.70   1.80 11.50 1.778
4 CCSp4   3.20   0.96 4.16 3.000
5 4Lz   11.50   4.93 16.43 4.333
6 StSq4   3.90   1.62 5.52 4.111
7 4T+1Eu+1F   11.55 x 1.63 13.18 1.556
8 3A   8.80 x 2.17 10.97 2.667
9 3Lz+3T   11.11 x 1.35 12.46 2.222
10 CCoSp2V   1.88   0.64 2.52 3.333
11 ChSq1   3.00   1.93 4.93 3.889
12 FCCoSp4   3.50   1.40 4.90 3.889
  TES   94.34   27.07 121.41  

フリーは94.34が最高。全米選手権では101.24というのを出してはいますが国内参考記録としてここでは国際大会の最高値を出します。

94.34だと今シーズン2位です。4回転5本でトリプルアクセル1本構成。トリプルアクセルを2本にするよりは3回転のルッツを入れてセカンドトーループを2本にすることでむしろ基礎点的には有利です。3連続で3つ目が1回転になったことと、スピンで2Vがあることで基礎点は削られていて、そこをしっかりノーミスで行くと、全米選手権の101.24という基礎点100点超えが出てきます。

 

○平均GOE4.000以上

Event     Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
US Championships SP 5 StSq4   3.90   1.95 5.85 4.889
Olympic Games SP 5 StSq4   3.90   1.95 5.85 4.889
Skate Canada FS 11 ChSq1   3.00   2.43 5.43 4.778
US Championships FS 5 4Lz   11.50   5.59 17.09 4.778
Skate Canada SP 5 StSq4   3.90   1.78 5.68 4.556
US Championships SP 7 CCoSp4   3.50   1.60 5.10 4.556
US Championships SP 1 4F   11.00   4.87 15.87 4.444
US Championships FS 12 FCCoSp4   3.50   1.60 5.10 4.444
Skate America FS 11 ChSq1   3.00   2.21 5.21 4.333
US Championships FS 1 4F+3T   15.20   4.87 20.07 4.333
US Championships FS 6 StSq4   3.90   1.73 5.63 4.333
OlympicGames Team SP SP 5 StSq4   3.90   1.67 5.57 4.333
Olympic Games FS 5 4Lz   11.50   4.93 16.43 4.333
Olympic Games SP 7 CCoSp4   3.50   1.45 4.95 4.222
US Championships SP 6 FSSp4   3.00   1.24 4.24 4.111
Olympic Games SP 1 4F   11.00   4.40 15.40 4.111
Olympic Games FS 6 StSq4   3.90   1.62 5.52 4.111
US Championships FS 8 3A   8.80 x 3.31 12.11 4.000
Olympic Games FS 1 4F+3T   15.20   4.40 19.60 4.000

出場試合は4試合であり、拾い出す要素数は少なめなはずなのですが、平均GOE+4.000以上がこんなにたくさんあります。最高評価は全米選手権とオリンピックのショートのステップで+4.889 これは9人のジャッジの8人が+5を付けたということで、スコア的には満点の5.85が付きます。

4回転フリップが4つ、4回転ルッツも2つ、GOE+4.000以上というすごい評価を受けました。

 

○ルッツを含む要素

Event     Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
Skate America SP 1 4Lz   11.50   -5.75 5.75 -5.000
Skate America FS 2 2Lz   2.10   0.30 2.40 1.333
Skate Canada SP 1 4Lz   11.50   1.97 13.47 1.556
Skate Canada FS 2 3Lz   5.90   1.94 7.84 3.333
US Championships SP 4 4Lz+3T   17.27 x 3.61 20.88 3.111
US Championships FS 5 4Lz   11.50   5.59 17.09 4.778
US Championships FS 9 3Lz+3T   11.11 x 2.19 13.30 3.667
OlympicGames Team SP SP 4 4Lz+3T   17.27 x 3.45 20.72 3.000
Olympic Games SP 4 4Lz+3T   17.27 x 3.94 21.21 3.333
Olympic Games FS 5 4Lz   11.50   4.93 16.43 4.333
Olympic Games FS 9 3Lz+3T   11.11 x 1.35 12.46 2.222

ルッツはショートで4回転、シーズン後半はコンビネーションで後半に入れるというすごい使い方。フリーでは単独でいれるのと、3回転からのコンビネーションも使いました。

スケートアメリカではショートで転倒、フリーは2回転と散々でしたが、以降はすべて成功ジャンプでした。

 

○フリップから始まる要素

Event     Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
Skate America SP 4 4F+COMBO+1T* * 12.10 x -5.50 6.60 -5.000
Skate America FS 3 4F+3T   15.20   2.04 17.24 1.889
Skate Canada FS 3 4F+3T   15.20   3.30 18.50 3.000
US Championships SP 1 4F   11.00   4.87 15.87 4.444
US Championships FS 1 4F+3T   15.20   4.87 20.07 4.333
US Championships FS 2 4F F 11.00   -5.34 5.66 -4.778
OlympicGames Team SP SP 1 4F   11.00   4.24 15.24 3.778
Olympic Games SP 1 4F   11.00   4.40 15.40 4.111
Olympic Games FS 1 4F+3T   15.20   4.40 19.60 4.000
Olympic Games FS 2 4F   11.00   4.24 15.24 3.889

フリップはショートでも飛びつつ、フリーではコンビネーションありでシーズン後半には2回飛ぶジャンプになってきました。

オリンピックでは団体戦も含め4回すべて成功。評価も非常に高いです。

 

○ループを含む要素

Event     Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
Skate America FS 1 4Lo   10.50   1.35 11.85 1.333
Skate Canada FS 4 3Lo   4.90   0.98 5.88 2.000

4回転ループはシーズン序盤に試みていました。スケートアメリカで成功。これがあると4回転5種類構成が可能なわけですが、オリンピックではその構成は試みませんでした。ただ、シーズン通じて4回転5種類すべてを成功させた選手、ということになりました。

 

サルコウを含む要素

Event     Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
Skate America FS 4 2S   1.30   0.09 1.39 0.778
Skate Canada FS 1 4S   9.70   1.80 11.50 1.778
US Championships FS 3 4S   9.70   3.46 13.16 3.556
Olympic Games FS 3 4S   9.70   1.80 11.50 1.778

意外に飛んでいないのが4回転サルコウスケートアメリカ以外は成功させていますが、意外と評価は高くもないです。

 

○4回転トーループを含む要素

Event     Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
Skate America FS 8 4T+1Eu+2F   12.98 x 0.68 13.66 0.778
Skate America FS 9 4T+3T   15.07 x 0.41 15.48 0.556
Skate Canada SP 4 4T+3T   15.07 x 2.85 17.92 2.889
Skate Canada FS 8 4T+1Eu+3F   16.83 x 2.17 19.00 2.333
Skate Canada FS 9 4T+2T   11.88 x -1.22 10.66 -1.222
US Championships FS 7 4T+1Eu+3F   16.83 x 3.80 20.63 3.778
Olympic Games FS 7 4T+1Eu+1F   11.55 x 1.63 13.18 1.556

4回転トーループも意外と少ない。ショートでルッツとフリップ、フリーも2回飛ぶジャンプがシーズン後半はフリップになってきていたことで、4回転トーループの出番が少なくなっていました。

飛べばすべて着氷はしています。そして、すべて1.1倍にコンビネーションで入っています。ネイサンチェン選手にとっては、もはや何でもないジャンプという扱いなのでしょうきっと。セカンド4回転もその気になればできるようになったのかもしれませんが、その道は後進に譲ることになるでしょうか。

トリプルアクセル

Event     Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
Skate America SP 2 3A   8.00   1.71 9.71 2.111
Skate America FS 7 3A   8.80 x 2.06 10.86 2.444
Skate Canada SP 2 3A   8.00   2.40 10.40 2.889
Skate Canada FS 7 3A   8.80 x 2.63 11.43 3.333
US Championships SP 2 3A   8.00   2.74 10.74 3.333
US Championships FS 8 3A   8.80 x 3.31 12.11 4.000
OlympicGames Team SP SP 2 3A   8.00   1.83 9.83 2.333
Olympic Games SP 2 3A   8.00   2.29 10.29 2.889
Olympic Games FS 8 3A   8.80 x 2.17 10.97 2.667

トリプルアクセルはショートでは固定要素として入ります。フリーでは1.1倍に単独ジャンプとして入れました。すべて問題なく着氷しています。トリプルアクセル苦手説というのはもう昔のことなようでした。

 

また、目立たないことですが、シーズン通して回転不足が一つもありませんでした。これは今シーズンに限らず3シーズン続いてきたことです。ジャンプの安定感というか正確性というか、そこが大きな強みになっています。

 

念願の金メダルを手に入れました。今後の去就が注目されましたが、まずは22-23シーズンは休養。ただ、実際にはこのままもう戻ってこないんじゃないか、という感じが強いでしょうか。獲るもの全部獲ってしまいましたし。実際には世界ジュニアはケガで取れなかったので、いわゆるスーパースラムはならず、なのですが。あとはグランプリシリーズでNHK杯は勝ってないです。これはもう構造的な問題で、NHK杯には日本のシード選手が出るので、ネイサンチェン選手はここに出てくることがない、というような仕組みな関係があり、グランプリシリーズ全制覇というのも難しいですが、その辺の細かいところは何の興味もないでしょうきっと。

この4年間世界の頂点に君臨し続け、そのままオリンピックも勝ちました。強かったなあ。

まだ若いですが、もう、これで、お疲れさまでした、ということだと思います。学業成就をお祈り申し上げます。