世界選手権23 男子シングルレビュー3

前回からの続きで男子シングルの数値編3回目、これで最終です。

 

○ショートフリー合わせた要素別のスコア

Pl Name Total PCS J Base J GOE Spin Step
1 Shoma UNO 301.14 140.31 101.63 16.42 26.93 15.85
2 Junhwan CHA 296.03 135.34 97.60 21.52 25.51 16.06
3 Ilia MALININ 288.44 121.87 124.46 4.05 24.04 14.02
4 Kevin AYMOZ 282.97 135.20 90.39 15.56 25.72 16.10
5 Jason BROWN 280.04 142.18 78.27 16.12 27.83 15.64
6 Kazuki TOMONO 273.41 131.23 99.44 6.69 22.90 15.15
7 Keegan MESSING 265.16 130.84 83.86 17.32 20.64 12.50
8 Lukas BRITSCHGI 257.34 123.03 80.89 16.46 22.22 14.74
9 Matteo RIZZO 256.04 127.41 87.35 3.73 23.08 15.47
10 Adam SIAO HIM FA 253.11 127.38 95.23 -9.74 24.92 16.32
11 Vladimir LITVINTSEV 251.76 114.33 91.75 12.76 22.57 10.35
12 Daniel GRASSL 244.43 118.88 96.71 -6.38 23.83 11.39
13 Deniss VASILJEVS 243.15 125.95 81.41 -4.69 27.00 13.48
14 Mikhail SHAIDOROV 236.93 104.31 100.93 3.27 19.31 9.11
15 Sota YAMAMOTO 232.39 118.28 93.04 -10.71 21.37 12.41
16 Mark GORODNITSKY 232.13 112.14 76.82 11.38 20.25 11.54
17 Mihhail SELEVKO 230.94 113.73 83.55 -1.86 23.61 12.91
18 Andreas NORDEBACK 223.52 112.77 76.28 0.53 22.34 12.60
19 Nikita STAROSTIN 217.87 109.81 78.08 -4.50 22.58 12.90
20 Morisi KVITELASHVILI 212.32 111.97 81.34 -11.44 20.20 11.25
21 Andrew TORGASHEV 210.59 105.44 82.63 -6.65 19.48 11.69
22 Boyang JIN 204.22 112.67 66.44 -6.94 21.58 12.47
23 Adam HAGARA 203.26 95.79 75.32 4.88 18.92 8.35
24 Maurizio ZANDRON 194.31 101.05 73.41 -9.71 20.59 10.97

フリー進出24人のショートフリー合わせた要素別のスコアを見ていきます。

PCSはジェイソンブラウン選手が14.218とおおよそ9.5平均という極めて高いスコアを叩きだしました。宇野選手が140.31と140点台で続きます。チャジュンファン選手、ケビンエイモズ選手も135点台で9点平均のスコアです。マリニン選手は121.87で8点平均を少し超えたくらい。悪いスコアではないですが宇野選手と18.44 チャジュンファン選手とでも13.47という大きな差が付きました。

ジャンプの基礎点はマリニン選手の124.46が圧倒的です。過去最高基礎点となりました。2位の宇野選手で101.63なので基礎点で22.83の差があります。これはPCS差より大きいです。なお、今期のジャンプの基礎点2位は三浦佳生選手のスケートアメリカで108.24というのがありました。ジェイソンブラウン選手は78.27 4回転なしだとこういうスコアになってきています。

ジャンプの加点はチャジュンファン選手の21.52が1位でした。2位はキーガンメッシング選手の17.32になります。ブリッチギー選手が僅差で3位の宇野選手は4番目です。マリニン選手は4.05 加点があまり得られていません。PCSが伸びていないのもさることながら、加点が取れないところがまだ頂点に届かない要因になっています。結局ジャンプで得たポイントは128.51であり、チャジュンファン選手の119.12や宇野選手の118.05と10点前後の差にまで詰められています。また、4回転の無いジェイソンブラウン選手は加点を稼いでジャンプのスコアは94.39まであって全体10位です。

スピンはジェイソンブラウン選手が27.83という圧倒的なスコアで1位でした。バシリエフス選手の27.00が2位で宇野昌磨選手の26.93が3位です。この3人がだいぶ抜けていました。

ステップ系要素はアダムシャオイムファ選手の16.32が最高スコアでした。これは今シーズン全体の1位です。ジャンプ決まらなかったですがこういったところでは素晴らしい演技を見せていました。エイモズ選手が2位とフランス勢2人が上位を占め、チャジュンファン選手が3番目、ここまでが16点台です。ジェイソンブラウン選手はフリーでレベル3だったことでいつもよりスコアが伸びていませんでした。

 

以下、個別の要素を見ます

 

○4回転のアクセル、ルッツ、フリップ、ループを含む要素

  Name   Elements    Base   GOE Scores AvGOE
FS UNO 3 4F   11.00   4.24 15.24 3.889
FS UNO 1 4Lo   10.50   3.75 14.25 3.444
SP MALININ 1 4Lz+3T   15.70   3.45 19.15 3.000
SP UNO 1 4F   11.00   2.99 13.99 2.778
FS RIZZO 2 4Lo   10.50   2.40 12.90 2.333
FS MALININ 1 4A   12.50   0.36 12.86 0.444
FS GRASSL 1 4Lzq q 11.50   -1.97 9.53 -1.667
FS MALININ 7 4Lz<+1Eu+3S < 15.40 X -2.10 13.30 -2.222
FS GRASSL 2 4Lo< < 8.40   -2.04 6.36 -2.556
SP GRASSL 1 4Lzq q 11.50   -3.45 8.05 -3.000
FS MALININ 3 4Lzq q 11.50   -3.61 7.89 -3.111
FS MALININ 2 4Fq q 11.00   -4.40 6.60 -4.111
SP RIZZO 2 4Loq q  F 10.50   -5.25 5.25 -5.000
FS JIN 1 4Lz< <  F 9.20   -4.60 4.60 -5.000

今大会で4回転アクセルを入れたのはマリニン選手1人、4回転ルッツはマリニン選手、グラスル選手、ボーヤンジン選手の3人、4回転フリップは宇野選手、マリニン選手の2人、4回転ループは宇野選手、リッツォ選手、グラスル選手の3人が構成に入れました。全部合わせループ以上の4回転を構成に入れたのは5人なわけです。

そのうちGOE+の成功ジャンプを決めたのは3人でした。最高評価は宇野昌磨選手のフリーのフリップ。宇野選手はショートのフリップも成功ジャンプです。マリニン選手はショートのルッツからのコンビネーションで+3.000が付いて1要素で19.15稼ぎました。また、4回転アクセルも+0.444で成功です。リッツォ選手はフリーのループを成功させました。

 

○4回転サルコウが入る要素で平均GOEがプラス

  Name   Elements    Base   GOE Scores AvGOE
FS Junhwan CHA 1 4S   9.70   4.16 13.86 4.333
SP Junhwan CHA 1 4S   9.70   4.02 13.72 4.111
FS  TOMONO 3 4S   9.70   3.33 13.03 3.444
FS MALININ 4 4S   9.70   2.77 12.47 2.889
FS SIAO HIM FA 4 4S   9.70   2.49 12.19 2.667
SP

SHAIDOROV

1 4S   9.70   2.36 12.06 2.333
FS SHAIDOROV 2 4S   9.70   2.08 11.78 2.333
FS KVITELASHVILI 1 4S+3T   13.90   0.97 14.87 1.000
SP RESHTENKO 1 4S   9.70   0.55 10.25 0.667

4回転サルコウを構成に入れる選手は結構いるのですが、GOEプラスの成功ジャンプにした選手は7人でした。チャジュンファン選手がショートフリーで平均GOE+4越えというきれいなジャンプを決めています。友野選手のフリーも高評価でした。

 

○4回転トーループが入る要素で平均GOE+2.000以上

  Name   Elements    Base   GOE Scores AvGOE
SP MESSING 1 4T+3T   13.70   3.26 16.96 3.556
FS Junhwan 2 4T   9.50   3.53 13.03 3.556
SP UNO 2 4T+2T   10.80   3.39 14.19 3.444
FS MESSING 1 4T+2T   10.80   3.26 14.06 3.444
SP TOMONO 1 4T+3T   13.70   3.26 16.96 3.333
SP RIZZO 1 4T+3T   13.70   2.85 16.55 3.000
FS LITVINTSEV 2 4T   9.50   2.99 12.49 3.000
FS TOMONO 1 4T+2T   10.80   2.71 13.51 2.889
SP MALININ 2 4T   9.50   2.71 12.21 2.889
FS AYMOZ 1 4T   9.50   2.71 12.21 2.778
FS BRITSCHGI 1 4T+2T   10.80   2.44 13.24 2.556
FS MESSING 2 4T   9.50   2.58 12.08 2.556
FS SHAIDOROV 1 4T+3T   13.70   2.17 15.87 2.333
FS RIZZO 1 4T+2T   10.80   2.04 12.84 2.222
FS LITVINTSEV 1 4T+3T   13.70   2.04 15.74 2.111
FS YAMAMOTO 3 4T   9.50   2.04 11.54 2.111

4回転のトーループはさらに多くの選手が構成に入れてきますし成功者も多いです。ただ、+2越えというジャンプを1.1倍のところで決める選手はいませんでした。

最高評価はキーガンメッシング選手のショート冒頭とチャジュンファン選手のフリーの単独ジャンプです。チャジュンファン選手はショートフリーで3本の4回転を飛んだのですが、その3本すべてがそれぞれの種類での最高評価となっており、今回2位に躍進した原動力となっています。

 

トリプルアクセルを含む要素で平均GOE+2.500以上

  Name   Elements    Base   GOE Scores AvGOE
SP MESSING 2 3A   8.00   3.09 11.09 3.778
SP TOMONO 4 3A   8.80 X 2.86 11.66 3.556
FS AYMOZ 3 3A+2A+SEQ   11.30   2.74 14.04 3.444
FS BRITSCHGI 6 3A   8.80 X 2.63 11.43 3.444
SP UNO 4 3A   8.80 X 2.51 11.31 3.111
FS BRITSCHGI 3 3A+2T   9.30   2.29 11.59 2.889
SP Junhwan 4 3A   8.80 X 2.17 10.97 2.889
FS UNO 9 3A+2A+SEQ   12.43 X 2.29 14.72 2.778
SP MALININ 4 3A   8.80 X 2.17 10.97 2.778
FS MESSING 7 3A   8.80 X 2.17 10.97 2.667
FS Junhwan 7 3A+2A+SEQ   12.43 X 1.94 14.37 2.556
FS BROWN 1 3A+2A+SEQ   11.30   1.94 13.24 2.556
FS UNO 4 3A   8.00   2.17 10.17 2.556
SP AYMOZ 2 3A   8.00   1.94 9.94 2.556

トリプルアクセルは男子ではほぼ全員構成に入れている要素です。

最高評価はキーガンメッシング選手のショート。トーループと並んでメッシング選手は最高評価なわけで、ショートの好成績がこの辺からも見て取れます。

目立つのはシークエンスの文字。3A+2Aは1つのはやりでもあるようです。シークエンスで2Aをどこかで使いたい、4回転にはつけにくい、フリーでは2回入れたいトリプルアクセルに付けよう、というのは割と自然な思考で出てきそうには思います。

 

○3連続ジャンプで平均GOEが+1.000以上

Name   Elements    Base   GOE Scores AvGOE
SIAO HIM FA 7 3Lz+1Eu+3S   11.77 X 1.77 13.54 3.111
BRITSCHGI 7 3F+1Eu+3S   11.11 X 1.59 12.70 3.111
RIZZO 3 3F+1Eu+3S   10.10   1.67 11.77 3.111
BROWN 6 3F+1Eu+3S   11.11 X 1.59 12.70 2.889
Junhwan 9 3Lz+1Eu+3S   11.77 X 1.18 12.95 1.778
SELEVKO 7 3A+1Eu+3S   14.08 X 1.26 15.34 1.667
TORGASHEV 7 3Lz+1Eu+3S   11.77 X 1.10 12.87 1.667
GORODNITSKY 7 2A+1Eu+3S   8.91 X 0.68 9.59 1.667
LITVINTSEV 8 3F+1Eu+3S   11.11 X 0.61 11.72 1.000

3連続ジャンプはフリーで1つだけ入る要素ですが、今回は24人中21人が入れていました。普通は3連続が入らないというのは失敗の表れなのですが、今回は優勝した宇野選手が3連続ついていないというわけのわからないことになっていたりしました。

最高評価は3人、アダムシャオイムファ選手、ブリッチギー選手、リッツォ選手。今大会8位9位10位といった位置にいる選手でした。

ジェイソンブラウン選手は4回転が入らないのでジャンプが苦手感がありますが、4回転の入らない構成なりに1つ1つのジャンプではこうやって高評価を得ていたりします。

 

○平均GOE+4.000以上の要素

  Name   Elements    Base   GOE Scores AvGOE
FS UNO 10 StSq4   3.90   1.95 5.85 4.889
SP TOMONO 7 StSq4   3.90   1.89 5.79 4.778
SP BROWN 7 CCoSp4   3.50   1.70 5.20 4.778
FS BROWN 12 CCSp4   3.20   1.55 4.75 4.778
SP AYMOZ 7 StSq4   3.90   1.84 5.74 4.667
SP BROWN 5 StSq4   3.90   1.84 5.74 4.667
SP UNO 5 StSq3   3.30   1.56 4.86 4.667
FS Junhwan 12 ChSq1   3.00   2.36 5.36 4.556
SP SIAO HIM FA 5 StSq4   3.90   1.73 5.63 4.444
FS SIAO HIM FA 11 ChSq1   3.00   2.29 5.29 4.444
FS BROWN 8 StSq3   3.30   1.46 4.76 4.444
FS Junhwan 1 4S   9.70   4.16 13.86 4.333
FS UNO 5 ChSq1   3.00   2.14 5.14 4.222
FS BROWN 10 ChSq1   3.00   2.14 5.14 4.222
FS UNO 12 CSSp4   3.00   1.29 4.29 4.222
SP Junhwan 1 4S   9.70   4.02 13.72 4.111
FS AYMOZ 6 StSq4   3.90   1.67 5.57 4.111
FS RIZZO 12 StSq4   3.90   1.62 5.52 4.111
FS BROWN 4 FCCoSp4   3.50   1.45 4.95 4.111
FS UNO 11 CCoSp4   3.50   1.40 4.90 4.111
SP SIAO HIM FA 7 CSSp4   3.00   1.24 4.24 4.111
SP BROWN 1 3F   5.30   2.12 7.42 4.000
FS MESSING 11 ChSq1   3.00   2.00 5.00 4.000
SP VASILJEVS 5 StSq3   3.30   1.32 4.62 4.000
FS SIAO HIM FA 12 CSSp4   3.00   1.24 4.24 4.000
SP UNO 7 CSSp4   3.00   1.20 4.20 4.000
SP MESSING 5 CSSp4   3.00   1.20 4.20 4.000
SP VASILJEVS 7 FSSp4   3.00   1.20 4.20 4.000
FS VASILJEVS 6 FSSp4   3.00   1.20 4.20 4.000

平均GOE+4.000以上で集めたらこんなに並んでしまいました。今大会いい演技が多く感じたのはこのあたりにも見て取れます。

最高評価は宇野昌磨選手のフリーのステップ。平均GOE+4.889は9人のジャッジのうち8人が+5であったことを意味して、これはスコア的には満点として現れます。ステップ満点はGOE±5時代になってからは、ジェイソンブラウン選手、ネイサンチェン選手に次いで3人目のはずです。友野選手のショートのステップも高評価でした。

その他、宇野選手、ジェイソンブラウン選手、チャジュンファン選手、ケビンエイモズ選手と言った名前が目立ちます。アダムシャオイムファ選手、キーガンメッシング選手、バシリエフス選手あたりも複数名前を入れてきています。

上位の選手の中ではマリニン選手の名前が見当たりませんでした。ジャンプの各要素でもあまり上位評価にはいません。基礎点は高く、降りるのだけど、加点はそれほど得られない、というあたりがまだ勝ち切れない原因としてあるようです。

 

男子シングルは宇野昌磨選手が2連覇という形で締めました。高難度ジャンプ入りであの質で滑れる選手は他にいないので納得ではあるのですが、コンビネーションいまいちしっかり入ってこないのがいろいろと納得いかない・・・。難しいんだとは思いますが、その辺しっかり決まってくると320点くらいまで行くのですが。

まさかの男女シングル共に2位韓国。チャジュンファン選手は北京オリンピック5位で、1位2位4位がいないわけですから、2位まで来ても特におかしなこともなく自然な流れなのですが、ちょっと驚いてしまいました。そして3位にマリニン選手。ある意味この選手が今シーズンの中心ですし来シーズンも中心になっていくのだろうと思います。

チャジュンファン選手は4回転をショートで1本、フリーで2本。ここまでで2位まで入ってこられるんですね。4回転は2種類でよくて、ループやフリップやルッツまではいらない。これは今の端境期だけの現象なのか、出来栄えさえしっかりそろえれば次のオリンピックまで通用するのか。そのあたりは来シーズンの注目点な感じもします。

 

世界選手権が終わり、今シーズン残すはお祭り大会の国別対抗戦のみとなりました。案外ここでパーソナルベストを出す選手がいたり、これまで決めたことのないジャンプを決める選手がいたりと、適度な緊張感と気楽さがまざっていい演技が見られることも多いのですが今年はどうでしょう?

日本勢派遣のトリグラフトロフィーと共に、気楽にシーズンの残りを楽しめたらと思います。