日本相撲協会22年12月期決算

コロナ3シーズンを過ぎて2023年になってきたわけですが、2022年あたりの決算が各所で出始めてきています。企業活動もコロナでだいぶ影響を受け変わってきましたが、スポーツイベントはさらに大きな影響受けていました。22年は割と観客も入ってきたシーズンですが、そんな中で収益的にはどうだったのか? 今回は日本相撲協会の2022年12月期決算というのが出ていますので、それを見て行こうと思います。

 

○2022年12月期決算

  2022年12月期
経常収益 ¥10,147,274,486
経常費用 ¥13,225,216,896
当期計上増減額 ¥-3,231,490,653
当期一般正味財産増減額 ¥-3,231,642,054

経常収益はいわゆる売上、当期計上増減額はいわゆる営業利益みたいなものだと思ってください。昨年は101億円ほどの売上があったけれど、132億円余りの費用が掛かって、結果、32億円を超える赤字が発生したということになりました。なかなかひどい赤字です。

 

○事業別決算内容

  経常収益 経常費用 一般正味財産増減額
相撲事業 ¥8,169,505,122 ¥10,706,625,156 ¥-2,611,765,962
貸館事業 ¥563,937,316 ¥1,051,590,024 ¥-509,554,865
広告事業 ¥475,618,522 ¥81,711,762 ¥393,869,460
物品販売事業 ¥575,209,180 ¥435,191,601 ¥140,010,407
一般外来診療事業 ¥3,576,088 ¥24,654,934 ¥-21,383,968
協会員福利厚生 ¥1,281,577 ¥256,433,836 ¥-256,166,552
法人会 ¥358,146,681 ¥669,009,583 ¥-366,650,574

相撲協会は相撲事業だけを行っているわけではありません。その他営利事業がいくつかあります。以前、相撲協会の副業、なんてのを記しましたが、それらを各事業それぞれの状況を表しています。

下の方3つは基本的に常に赤字の事業です。黒字にすることをそもそも意図していないものなので、まあ常にこんなものだよな、ということで特に赤字なことが問題でもないです。

問題なのは上の方。相撲事業そのものでの赤字が26億円と巨額なものになっています。貸館事業も大赤字です、広告物販は黒字でした。この辺特に広告はそれだけを取り出せば原価もあまりかからない事業かと思いますので黒字にはしやすいと思います。

 

日本相撲協会会計部門別計上増減額推移

過去まで遡って経過を見てみます。コロナに入ったのは2020年度から。相撲事業は22年12月期も大赤字でしたが、それでも20年21年に比べればだいぶましなことがわかります。

相撲事業はコロナ前もコロナ中も、費用の方はほとんど変わっていませんでした。多少20年21年は費用も減っていましたがそれよりもとにかく売上の減少が痛いです。19年以前は110億円前後あったものが20年に52億円と半減、21年でも58億円です。それが22年には81億円台まではもどってきました。やはり観客が入るようになったというのは大きいです。1月は5,000人が上限、3月以降は90%まで、ということでしたので、100%入るようになれば売り上げはもう少し伸びるでしょう。ただ、強い横綱、のような看板力士がいない状態かと思いますので、コロナ関係なく観客数が伸びない、という可能性もあるにはあります

 

貸館事業もコロナとともに赤字になりました。ただ、21年は黒字になっています。国技館東京オリンピックの会場なんかにもなっていましたがその辺影響しているでしょうか、売り上げがしっかりありました。22年は赤字です。イベントが減っているようで売上は21年比で減。ただ20年よりは売上が出ていたので費用の方で何か大きなふくらみがあり赤字になりました

貸館事業の主な費用の推移

2020年以降減価償却費が増えてますがこれは国技館の設備改修工事というのをしているらしいのでその辺の影響でしょう。それよりも何よりも、2022年、修繕費がいきなり5億円以上湧いています。これが貸館事業大赤字の原因です。何があったのか?

どうやら、2021年にビルを購入し、そこにテナントを入れるために修繕を施した、ということのようでした。購入したビルというのは国技館のすぐそばにあるもので、国技館ビルと名がついています。2022年の財産目録では、建物15.49億円、土地19.24億円、というなかなか大きな金額がついていました。これをテナントとして貸し出すわけですから、完全に収益事業としてのお金の運用ですね。まあ、財団法人と言えども先立つものは金、なわけでお金を稼ぐこと自体はいいので、国技館を相撲以外に貸し出して稼ぐとかはうまくやってね、と思うのですが、ビル買って貸し出しって完全に単なる不動産投資なのでちょっとやりすぎな気はします。まあ、こんなことができるくらいに、コロナで大赤字が2年3年と続いても財政的余力は十分残っているわけです。

そして、この国技館ビルに入ったテナントはどんな方たちかというと、報知新聞の本社でした。報知新聞ってスポーツ新聞なわけで、取材対象の店子になるというなかなか不思議な構図が出来上がりました。いいのかその関係? それはともかく、ビル1棟相撲協会の所有で、ビル1棟丸ごと報知新聞が借りた、という構図なようです。6月から移転したということですので、テナント料が丸々一年入って来るのは今年からなはずですので、今年は収益力が上がっているはずです。ビル1棟借りたテナントはそう簡単に出て行かないでしょうから、安定的な収益基盤になっていくだろうと思います。

ついでに疑問なのは、こういうビルの修繕って、会計上は修繕費ではなくて減価償却費へ行くことが多いのですが、その辺の会計処理は大丈夫なんだろうか、と思ったりはします。

 

広告物販事業は順調で5億円以上の黒字でした。こういうあたりの商売はうまいなあ、というのを感じます。相撲というのは結構特殊な業界とは思いますが、他のスポーツ系連盟も、こういう商売上手さは見習っていいんだと思います。稼いだ分は選手(力士)に還元したり、普及や強化にちゃんと使ってね、とは思いますけれど。

 

正味財産期末残高推移

巨額の赤字が3年続いていますので相撲協会の財産はだいぶ減っています。それでもまだ250億円を超える正味財産(一般的な会社で言うところの純資産)は残っています。こんな状況下で土地付きでビルなんか買って不動産業(貸館事業)拡大してますし。35億円余りの普通預金や30億円+20億円の定期預金も手付かず保たれていまし、その他にも8.4億円の定期預金がある。17.2億円+18.1億円相当の国債・地方債があったり、三井住友フィナンシャルグループ社債が10億円あまりあったりします。さすがに数十億円の赤字がさらに数年続くと危ないですが、今年度は黒字予算が組まれています。相撲事業では赤字だけど、貸館、物販、広告で大儲けしてトータルで黒字化しようという予算です。黒字まで行けるかは終わってみないとわかりませんが、それほど大きな赤字はもう出ないと思いますので、十分安泰かと思われます。

 

コロナで観客入らないってのは大変ね、と思う一方、持っている資産の使い方が上手で、商売上手でいいなあ、とも感じる、日本相撲協会の2022年12月期決算のお話でした。