書評 東欧サッカークロニクル

東欧サッカークロニクル 長束恭行

単行本 288ページ

 

東欧のサッカー事情に関して記した書

サッカー事情と言っても、サッカーの戦術の特徴などではなく、サポーターの振る舞いやクラブの性格などの文化面の話である

 

全体の三分の一ほどは、著者が長く住んでいたクロアチア関係の話であり、残りの三分の二は各国様々な話がある

「東欧」と銘打っているが、いくらかはみ出した部分もあり、アイスランドフィンランドギリシャキプロス、といったところも最後の方には出てくる

 

白眉と言えるのは、ディナモザグレブのサポーター軍団とアウェー戦で訪れた、モルドバならぬ沿ドニエストル遠征記だろう

訪れた場所も場所であるが、訪れるメンバーもメンバーで、ハチャメチャである

フーリガンがヨーロッパの辺境へ出かけるとこうなる、というのがこれでもか、というくらいに書かれている

取材同行ではなく、実際に著者が、ディナモザグレブのサポーターであり、クロアチア語にも堪能で、普通にサポーターとして、友人として、参加している、というのが強い臨場感を生んでいるのであろう

 

それにしてもディナモザグレブのサポーターはめちゃくちゃである

移動中は常に酒まみれ、万引きし放題、人に出会えば金をせびる

この遠征ではスタジアムに火をつけなかったのが幸いであったが、放火の常習犯でもある

他人事だから面白いが、間違ってもその輪の中には入りたくないとも思う

 

そんなハチャメチャなサポーター、あるいはフーリガンの、中に入って書いた話だから、これだけ面白いものが仕上がったのだろうとも思う

世に旅行記はさまざまあるが、こういったものはなかなかお目にかかれない

 

この沿ドニエストル遠征記以降は、やや硬めな話が集まっているが、それはそれで興味深い

各国のサッカーを通して見た国民性のようなものも映し出されている

目を引いたのは、永遠の三番手と称された、小国セルビアの中の小都市にあるクラブヴォイヴォディナな話や、日本人選手も多数渡ったラトビアについて、また最終章の分断されたキプロスの話あたりがあげられる

通常のサッカーの物語では決して主役になることのない地域、クラブ、人

その実情を見ることができるのは、なかなか楽しいものである

 

自分は、サッカーの戦術的なこと、技術的なことはそれほど詳しくない

ただ、こういった、世界各地のサッカーの背景のようなものには興味がある

だからこういったものが楽しく読めたのだろう

 

宇都宮徹壱氏の描くような話が好きな人には、こういった本は向いていると思う

 

発行日が2018年5月28日

おそらく、ロシアワールドカップに合わせて出版されたものであろうと思われるが、そのロシアワールドカップで、本作の主役、クロアチアが決勝まで勝ち上がった、というのは出版社として上出来すぎただろう

ただし、モドリッチの話なんかは、影も形も出てこないので、そこは間違いないようにしたい

そういう話ではないのだ、この本は

 

余計なことを付け足すと、ちょっと誤字が多すぎ、という印象はあった

著者の紹介に、1997年生まれ 銀行に勤めていた1973年~  とあるけど、たぶん逆だよね? とか

あんまり聞かない出版社だから、とかそういう理由もあるかもしれませんけど