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アウトサイダーが小説の筋書きのように勝ち上がった今年の甲子園
20年前、本命が本命として、小説の筋書きのように勝ち上がった年があった
準々決勝延長17回完投
翌日準決勝、8回表終わって0-6からの大逆転
もうここまで来たらノーヒットノーランくらいしかやることないだろ、と言われた決勝、ノーヒットノーランで優勝
1998年8月20日
第80回全国高等学校野球選手権大会
伝説の準々決勝 横浜vsPL学園のドキュメントである
全体の流れは二本の線が絡み合って進んでいく
一本は、試合展開に沿って、あるプレーの意味、その場面での各選手の心理、取った動きの解説
もう一本は、選手、指導者たちの背景について語られる
日々の暮らし、今日、その日に至るまで、どう育ってきたのか
ここに至る伏線として、春の選抜で両者が対戦していたこと。それがこの試合での審理にどう影響したか。過去からのつながりが一本の線として入ってくる
20年前の話である
試合を見ていた人間でも、一つ一つのプレーを覚えていたりはしない
それでも、一つのプレイの裏に、技術的にこういった裏付けがあり、さらに選手たちの心理がこうで、といったことを、入念な取材をもとに見せてもらえるのは、大変興味深い
一つのプレイを、野手が見る目、投手が見る目、ランナーが見る目、3塁コーチが見る目、ベンチが見る目、すべて異なっていて、それぞれがそれぞれの理由でその時の動きがあったりする
野球にそれほど詳しくなくても楽しめる
試合の序盤のあるプレーが、心理的に後を引き、試合の後半になって影響し、その余波が延長に引きずられ、最後の結末にまで影響を与える
普通の試合でも試合終了時に解説者がそれっぽいことをいうようなこともあるが、それを後から振り返って、当事者たちすべてに取材をし、再構成して見せてくれるドキュメント、というのはなかなか面白い
選手たちの、その日に至るまでの暮らしぶり、のような部分も興味深く読むことができる
地元の子供たちの力だけで勝ち上がる、という物語、というものも面白い
一方で、野球留学していく高校生たちも、それはそれで人生であり、一つの物語だ、ということもこういった話を読むと感じさせられる
20年経ってこれを読むと、試合を思い出す、というよりも当時の空気感を思い出す
この準々決勝からの三試合は、まさに伝説としか言いようがない
それ以外に言葉のつけようがない
10年単位に一度、そういう空気が生まれるのだろうか
80年代はPL学園の桑田清原、90年代が横浜の松坂大輔、00年代はハンカチマー君
この試合も、なんだかんだで、松坂大輔が中心にいた
試合の直後に読むのもいいのであろうが、20年経って、今になって読んでみるのも、また、よいものであると思う