書評 帳簿の世界史

帳簿の世界史 ジェオコブ・ソール 訳:村井章子

文春文庫 文庫本 416ページ

 

古代ギリシャローマの時代から、リーマンショックまで

「会計」に焦点を当てて歴史を追った書

ただ、全13章のうちの10章程度は、ルネサンス期イタリアからフランス革命アメリカ独立あたりの時代の話となって、そのあたり3~400年程度の期間が本書の中心を占めている

 

イタリア商人あり、太陽の沈まない国あり、オランダ黄金時代あり、ブルボン王朝~フランス革命あり

 

多くの歴史の話では、政治軍事が中心で、それらの動きにより世界が歴史が動いてきた、という見方、描かれ方がされている。

ここで出てくるのは、そうではなく、経済を中心とした見方であり、その中に会計があり、会計をおろそかにすると国が傾く、という構図になっている

すべてをその視点で説明するのがよいのか? と思う部分はあるが、実際、世界が動くのは政治軍事の前に、金勘定というものの影響が大きいのは事実だろう

 

先立つものは金、金を生むのは会計

そんなところだろうか

 

また、時代と共に会計というものへの意識、商人というものへの社会の見る目、というものの変遷、というのもこの書のひとつのテーマなのだと思う

キリスト教と金貸しの関係。金貸しは卑しい、商人は卑しい

そういった社会の目を、金貸しが、商人が、どこまで意識していたか

読んでいると、商人たち自身がある部分では商人は卑しい、というコンプレックスを抱いていなかったか

そう思わされる描写も多い

第3章で主役として出てくるメディチ家の盛衰、といったものは、まさにその一幕なのだろう

 

時折出てくる絵画がまた興味深い

挿絵ではなく、絵画である

元々の知識がゼロなので、実際のところはわからないが、「会計」に関わるテーマの絵画、というものは意外と多くあるようだ。実際には商人およびそれに類するテーマ、ということのようではあるが

表紙になっているのは、オランダの画家、レイメルスワーレ作の「二人の収税人」という作品であるが、その話も作中に出てきていて、これと似たモチーフの作品というものがいくつかあり、時間経過を追うと、会計士、あるいは商人、金貸し、といったものを見る社会的視線の変化というものが見える。16世紀初頭には、いくばくかの好意的なモチーフで描かれていたものが、16世紀も半ばになっていくと強欲さが目に見える描かれ方になっていく。

初期の、比較的好意的に書かれていた、マサイスの「両替商とその妻」は、とある戦略ゲームの商人の絵として使われていただろうか

 

事実を語る、数字を語る、というだけでなく、こういった絵画のような芸術作品までもってきているあたりが、この本の奥深さを一つ構成している

 

経済好き×歴史好き の人に向いた本だろう

単行本だけでなく、すでに文庫化されているので、購入する場合は要注意