かつて、フィギュアスケート界で、飛ぶ鳥を落とす勢いだった本田家が、ここ数年苦戦している、ように見える。
本田真凜選手が平昌オリンピック出場を逃したころから、バッシングが強まっていたように感じていました。
バッシングの妥当性はともかくとして、その時期以降、本田真凜選手がわかりやすい結果を出していない、という事実はあります。また、女優との二刀流というか二足の草鞋というか、注目を浴びる立場にいる望結選手も目覚ましい結果は出せていません。
さて、では、本田家の4人は全盛期を過ぎて下降線をたどってしまっているのでしょうか?
そのあたりを今回は見ていこうと思います
まずは長男、本田太一選手
現在大学三年生。四年生となる20-21シーズンでの引退を表明しています。
ジュニア時代にはジュニアグランプリにも派遣されていましたし、アジアンオープンフィギュアではジュニアの部で表彰台にも乗っていました。また、男子ではそれほど多くない、ジュニア一年目から全日本ジュニアを勝ち抜いて全日本選手権にまで進出したという経験のある選手です。
そういったジュニア時代の実績からすると、現在の立ち位置は満足いくものではないのかもしれません。
それでも今シーズン、近畿選手権では205.54のスコアで2位に入りました。205.54というのは旧採点時代まで含めての本田太一選手のパーソナルベストとなるスコアです。自身初の200点台。確かにジュニアの時代に思い描いていた未来とは、今の姿は違うのかもしれませんが、それでもパーソナルベストを今シーズン出しているわけですから、過去の自分と比べて明らかな成長があります。
昨シーズンからアメリカに渡ってアルトゥニアン先生に師事しているのが、本人の意思だったのか、家族内での何らかの合意によるものなのかはわかりません。ただ、現実として国内レベルの太一選手にとっては、拠点は国内にあった方が戦いやすいという現実はありました。それでも妹とともに渡米してトレーニングを積んでいます。世界のトップ、ネイサンチェン選手を間近にみることもあるでしょう。
全日本では22位に終わり、満足いく結果ではなかったと思いますが、学生選手権では2年連続の表彰台。国内ではトップのレベルにある選手、という姿はしっかり見せ続けていると言えるのではないでしょうか。
続いて一番下の本田紗来選手。今シーズン本田家の中で一番苦しんでいるのは紗来選手のように見えます。昨シーズン2位だった全日本ノービスは、一つ学年が上がったにも関わらず4位に順位を落としました。昨シーズンは近畿選手権で100.74を出し、100点に乗せていたのですが、今シーズンは全日本ノービスで80.92までしか出せておらず、スコア的にもだいぶ落としており、まわりが伸びて追い抜かれたというのでもなく、紗来選手自身が不調、というのがはっきり見えます。
ジャンプの精度が落ちた、というだけでなく、スピンのレベルも取れなくなりました。PCSも下落。すべての点で昨シーズンより悪い方に出てしまっています。
紗来選手は今シーズン、浜田チームを離れアメリカへ渡ったと聞きます。昨シーズン、一足先に渡米していた姉兄たちのいるアルトゥニアン先生の元へ。高校生でも一般人では海外留学はそれほどあるわけではない、まして中学生ならスポーツのトップ選手でもごくごく限られた人しか海外へ出たりはしません。紗来選手は小学校6年生。姉兄が先に行っているとはいえ、大きなストレスがかかったことは間違いないでしょう。一方で、不調に陥ったのは渡米前からとも聞きます。この時期から日本を離れることで長い目で見るといい方向に出るのかもしれません。
12歳から海外に出て、現世界王者を見ながらトレーニングする、というのはどんなものでしょう。紗来選手は昨シーズンの段階で3Lz-3Tのコンビネーションを決めています。そこから身長が伸びジャンプの調整に苦しんでいると聞きますが、今の段階で身長が伸びてしまえば、シニアに上がるころにはすでに定常状態に達して、ジャンプも安定化しているかもしれません。来シーズンジュニアに上がります。まだ、体形変化中で苦しい時期になるとは思われますが、この二三年は飛躍のための準備の時期ということで、未来に期待したいと思います。
続いて、本田家の中で一番最初にスポットライトを浴びた望結選手。ただ、フィギュアスケート選手としての実績は一家の中で一番落ちるのも事実です。望結選手だけは国際大会への出場経験がありません。国内でも全日本ジュニアの12位が最高成績。ジュニアデビュー年に6位に入った太一選手、全日本ノービスで優勝経験のある紗来選手と比べても、実績は劣ります。
そんな望結選手も、今シーズン苦戦しています。4試合滑ってベストスコアはサマーカップの139.18 昨シーズンは一番悪いスコアでも141.09でしたから、昨シーズンのワーストより今シーズンのベストの方が低い、というなかなかつらい状態です。西日本ジュニアでは135.48の17位に終わり、全日本ジュニアの出場権をジュニア3年目にして初めて逃してしまいました。
そういう状態だけを見ると、望結選手は昨シーズンと比べて全面的に悪くなっているのではないか? と感じてしまいますがそうではない部分もあります。
今シーズン初戦のサマーカップではショートプログラム54.47のスコアをだし、ショートプログラムとしてのパーソナルベストを更新しました。この時の技術点は30.47 初めて30点を超えました。30.00というスコアは、今シーズンのシニアの世界選手権の女子シングルショートプログラムにおけるミニマムスコア(これをクリアしたことがない選手は出場できない)、となっています。ミニマムスコアはISU公認の国際試合で出さないといけませんし、シニアの世界選手権にはシニアの競技会で出したものではないとカウントされませんので、このスコアをもって世界選手権に出場可能なわけではないですが、それに相当するスコアを出す力がある、ということが言えるようになった、とは言えるわけです。
また、望結選手は、今シーズンプログラムの難度が上がっています。ショートプログラムにトリプルルッツからのコンビネーションが入るようになりました。まだ成功率は低いですが、3Lz-2Tのコンビネーションを初めてGOEがプラスの成功ジャンプとして決めることが出来ています。これが、上記の、世界選手権のミニマムスコア越えの技術点をたたき出す原動力にもなりました。
もちろん、まだ、!やeのつかないクリーンなフリップが飛べないであるとか、セカンド三回転がないなど、上位と比べると課題は多々あるのですが、それでも、昨シーズンからきちんと成長している部分があるわけです。
ショートで54点台が出せれば、全日本選手権でも問題なくショート通過してフリーへ進めますし、フリー第一グループでなく第二グループに入るくらいのスコアです。今シーズン不調で130点台しか出せていませんが、これくらいのスコアは全日本の20位台で出てくるスコア。国内レベルならきちんと通用するのも確かです
今シーズン不調ではありますが、成長している部分も確かにありますので、残りの全中、また、来シーズンは全日本ジュニアへの復活を期待したいと思います。
そして最後に本田真凜選手。なんだかんだ言っても、スケーターとしての本田家の中心は、今現在はやはり真凜選手です。ただ、今シーズンも苦労しているのは確かです。グランプリシリーズは6位と7位 スコアも179.26止まりで、昨シーズンのベストスコア188.61から落としてしまっています。世界ランクも高くない中でベストスコアが170点台まで落ちてきているので、来シーズングランプリシリーズの枠があるのかどうかも微妙という立ち位置。あまりいい出来はないのは確かですが、今シーズンは昨シーズンと比べて全面的に悪化してしまっているのでしょうか?
スコアの中身を見るとそうとも言えないことがわかります。
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中国杯 スピンステップ要素のスコア
Elements | BaseValue | GOE | Scores | |||||
SP | 3 | FSSp4 | 3.00 | 0.51 | 3.51 | 1.667 | ||
SP | 5 | LSp4 | 2.70 | 0.69 | 3.39 | 2.444 | ||
SP | 6 | StSq4 | 3.90 | 1.17 | 5.07 | 3.000 | ||
SP | 7 | CCoSp4 | 3.50 | 0.75 | 4.25 | 2.111 | ||
FS | 5 | CCoSp4 | 3.50 | 0.90 | 4.40 | 2.556 | ||
FS | 6 | StSq4 | 3.90 | 1.11 | 5.01 | 2.778 | ||
FS | 9 | FSSp4 | 3.00 | 0.43 | 3.43 | 1.444 | ||
FS | 12 | LSp4 | 2.70 | 0.73 | 3.43 | 2.778 |
真凜選手は今シーズンのグランプリシリーズ2試合目、中国杯において、初めてショートフリー共にスピンステップレベル4を達成しました。スピンステップのレベル判定は試合によって甘い辛いあるようにも見えるので、中国杯が甘かったから、という可能性もこれだけ見るとあり得るのですが、実際はそうでもなく、トゥクタミシェワ選手も、ユヨン選手も、宮原知子選手もレベル4を8つは並べられませんでしたし、優勝したシェルバコワ選手もスピンステップレベル取りこぼしがありました。そういった選手たちに混ざって、この中国杯でスピンステップすべてレベル4を出したのは、本田真凜選手ただ一人です。もう少し言えば、今シーズンの前半戦、グランプリファイナルまでの国際試合で、スピンステップレベル4をショートフリーで8つ並べた日本人選手は、中国杯の本田真凜選手の他は、スケートカナダの紀平梨花選手だけで、全部で2例しかありません。
気分屋、と言われてきた本田真凜選手ですが、今シーズンはこういうきっちり滑ってレベルの取りこぼしをなくす、というようなことがだいぶ出来るようになってきた、というのが見えます。ステップレベル4が昨シーズンは1つだけだったのが、今シーズンは3試合で4つと、三分の二はレベル4を取ることが出来ています。
あとはジャンプです。ジャンプなんです。プログラムにルッツがないというのがちょっとつらい。フリップは、今シーズン3F-3Tのコンビネーションを決めることができたのですが、全日本では3回飛んで全部!が付けられました。
そういう意味でも、アルトゥニアン先生のところにいる、というのはとても良いと思います。真凜選手が見つめるのにいい選手がいる。ネイサンチェン? まあ、それはそうではあるんですけど、それよりも私は、マライアベル選手を見てほしい、と思っています。
マライアベル選手はジュニア時代、ほとんど結果を残せませんでした。ジュニアグランプリシリーズで1度表彰台に乗ったことはありましたが、せいぜいそれくらいです。世界ジュニアの出場経験もない。18歳のシーズンにシニアに上がりましたが、グランプリシリーズの出場権さえ回ってきませんでした。
全米選手権で初めて表彰台に乗ったのは二十歳の時。オリンピックには出られませんでしたが、そこから世界選手権の常連になり、今シーズンはグランプリ二試合で表彰台に乗っています。
元々評価はされている選手でしたがジャンプがなかなか決まらなかった。それがある程度決まるようになってくると、スピンステップの高評価がベースとしてあるので200点台に安定して乗ってくるようになります。ジャンプが決まるようになるまで時間はかかりました。初めて200点を突破したのは22歳になってからです。でも、そこまでたどり着きました。
アルトゥニアン先生のところで学ぶ本田真凜選手にとって、いい手本になるのではないかと思います。マライアベル選手にしても、トリプルアクセル以上の高難度ジャンプがあるわけではないので、世界の頂点を争う力はないのですが、世界の一桁順位のところで戦う力は身に付きました。今の本田真凜選手が目指しやすく目指すべき姿はそこにあるように感じます。
本田家のメンバーは今シーズン苦戦しているように見えます。それでもそれぞれに少しづつ成長の跡が見えます。本田家の未来は不透明です。来シーズンで引退だったり、身体的な成長の副作用がどれだけあるかわからなかったり、二足の草鞋は重かったり、そして、かつての栄光があるが故の苦しみもあるのでしょう。
それでも、きっと、未来はつながっていって、氷の上で輝いている四人のそれぞれの姿を見られる。そう信じて、待っています。