さて、いくらか時間が経ってしまっていますが、前回、日本スケート連盟の過去から現在までの財政状況の変化を見てきました
次は、他の競技との比較をしてみます
スポーツ競技はさまざまありますが、ここでは冬の競技の中で比べてみることにします
冬の競技というのもいろいろあるわけですが、今回はオリンピック競技で選んでみました
スケート連盟
カーリング協会
スキー連盟
アイスホッケー連盟
バイアスロン連盟
以上の六つです
スノーボードはスキー連盟の一部になっています
フリースタイル系もすべてスキー連盟の範疇です
すべて国内の連盟・協会についてです
国際的にはボブスレー・スケルトンとリュージュは別の連盟ですが、日本国内では一つになっています
比較の前提として、決算月がそれぞれ異なっていることはまず把握しておく必要があります
バイアスロン連盟は3月決算(4月~3月までの一年間)
カーリング協会は4月決算(5月~4月までの一年間)
ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟は5月決算(6月~5月までの一年間)
スケート連盟とアイスホッケー連盟は6月決算(7月~6月までの一年間)
スキー連盟は7月決算(8月~7月までの一年間)
こうなっています
見事に決算月ばらばらですね
大会のスケジューリングの関係とか、おそらくそういう理由で決算月を決めているのだろうと思いますが、冬競技の中で、ここまでバラバラとは思いませんでした
なお、以下では、ボブスレー・リュージュ・スケルトンは、長いのでそり競技、と略します
まずは正味財産の残高。ようは、どれだけ財産がありますか? というものですが、冬競技の中ではスケート連盟はお化けレベルで財産もってますね。26.5億円というのは巨大です。
スキー連盟も10億円に近い財産があり、割と余裕があります。それでもスケートの36%程度の水準です。
他の四競技は、もはや数字が読み取れないレベルになってしまっています。
一応三番目がアイスホッケーで、2.0億円ほどの財産があります。これでもスケート連盟の13分の1の水準です。
毎回オリンピックでの露出が多く、平昌では女子がメダルを取るという結果を残したカーリングですが、正味財産は5,500万円ほどしかありません。スケート連盟と比べるとその資産規模は49分の1 すなわち2%程度しかありません。だいぶ小所帯ですね
5番目がバイアスロンで2,270万円ほど、スケート連盟の116分の1、ゼロが二つ違う、という規模です
一番小さいのはそり競技、2018年5月末の決算時点で、正味財産残高は345万円。スケート連盟と比較すると769分の1です。ゼロ三つ違うという水準に近くなっています。
そり競技は、スケート連盟との比較云々以前に、団体として大丈夫なのか? という財産規模になっていてちょっと心配ですこれ。一応、流動資産>流動負債になっていて、いきなりキャッシュが枯渇する、という状態にはなっていませんが、1億円台の事業を回していることを考えると、何かのはずみで破綻してしまうのではないか、というのが感じられてかなり心配です
経常収益は、企業でいえば売り上げに近い概念、ということでよいでしょうか。補助金なんかがたくさん含まれるのに「売上」というのは違和感もありますが、まあ、イメージとしてはそういうあたりになります
これもスケートが圧倒的で32.3億円あります。2013-14シーズンは50億円超えてましたから、冬競技の中で見れば破格です
二番目のスキーで11.81億円。これでもスケートの三分の一余り程度でしかないですけど。それでも多様な収益源があって、それなりの規模になっています。
三番目がアイスホッケー。6.7億円ほど。オリンピックでは、それほど大きなプレゼンスを示すことは出来ませんでしたが、それでも女子は初勝利を挙げるなど善戦はしました。スケート連盟と比べると2割の規模です
四番目以下は2億円を下回る水準です。カーリングは1.8億円、そり競技が1.7億円、バイアスロンが1.6億円と続きます。いずれもスケート協会の20分の1程度の規模なわけです。オリンピックなんかで感じる、競技としての存在感を考えると、カーリングはそり競技やバイアスロンとはけた違いなはずなのですが、経常収益の規模で見ると、ほとんど変わらないという状態になっています
選手の登録料などが計上される受取会費。科目分けは連盟によって異なるのですが、そり競技は別枠になっていた選手などの登録料も含めました。スキーも別枠になっていた資格者、競技者、競技施設の登録料も加えてあります。
この項目はスケート連盟は特別多いわけではなさそうです。突出して大きかったのはスキー連盟。ここでの計算では2.40億円という規模になっています。会計上「受取会費」とされていたものだけで見ても1.37億円あり、冬競技の比較で見ると圧倒的です。
アイスホッケーが遠く離れて2番目で3,800万円台、スケートは三番目で3,600万円台でした。
四番目はカーリングで1,500万円弱。そり競技は五番目で560万円ほど、バイアスロンが一番小さく300万円ほどでした
この項目は、ほとんど競技人口依存なので、スキーが圧倒的ですね。スケートは見る方では人気でも、実際に行う人は少ない、競技人口が多いわけではないので、この形での収入は特に多いわけではない、という形になっています。また、登録料も競技によって異なるのでその影響もありそうです。わかる範囲では、スケートは成年選手でも2,000円、少年区分なら1,000円ですが、カーリングは大人6,000円、大学高校専門生でも3,000円かかりますから、その辺の差は大きいです。選手からの資金に頼る必要のないスケートと、そこからの収入もかなり大事なカーリングの違い、というのもあるのでしょう。
ちなみに、アイスホッケーは18歳以上2,000円、15~18歳1,000円、15歳未満500円です
そり競技も成年2,000円、少年1,000円
バイアスロンは小学生1,000円、中高生1,500円、大学生5,000円、一般競技者は10,000円
スキーは見つけられませんでした
スキーは都道府県連盟や学生連盟が個別に対応しているようで、いまいちわかりません。ただ、そのあたりからも、競技人口がほかの団体と比べてけた違いなのは感じ取れます
こうやって見ると、銃を使うバイアスロンが一番金額が高いんですね。バイアスロンの小学生の競技登録者なんてのがいるのか、というのはちょっと驚きだったりします
カーリングがそれに次いで高い。競技者に厳しいカーリングなんでしょうか。でも、全日本選手権で出場者からフィギュアスケートは15,000円徴収してましたが、カーリングは無料でしたけどね。
寄付金もスキーがトップ。2,850万円ほど。ここでの寄付金は、協賛金などは除いたものとしています。
スケートは二番目で1,950万円。ただ、この金額はここ数年固定で入っているので、もしかしたら実質的には協賛金的なものかもしれません。
アイスホッケーが121万円、カーリングが105万円の寄付がありました。そり競技は受取免税寄付金0となっていました。バイアスロンは寄付金、という科目がなかったので本当にゼロであるか、もしくは別の科目に紛れ込んでいる可能性があります
スキーの寄付金は、だれから集まっているんですかね。科目としては「一般寄付金」という表現になってましたけど、一般とは一般人の意味でしょうか? 普通の人からの寄付なんですかね。
スキーのほかに、カーリング、アイスホッケーは、ウェブサイト上に寄付を募るコーナーがあります。スケートにはありません。
スケートは、一般人からの寄付を必要とはしない、という財政状態ではあります。だとしたら、この1,950万円という寄付金はどこからきたんでしょう? その辺はちょっとわかりません。
放映権料はスケートが圧倒的です。ここでは、包括的に「放映権料」とされている科目の他に、特別事業収益の中の各主催大会で得られた放映権料も加えています。重複はないのか? という疑問も出るかもしれませんが、特別事業収益の中で全日本選手権やNHK杯での放映権料はゼロですので、包括的な契約で得られている放映権料が「放映権料」の科目の中にあり、それ以外で個別に契約できたものが特別事業収益の中に入っていると想定できます。と書いてきてなんですが、当該年度はそれに該当するものがゼロでしたので、包括的に「放映権料」とされているものだけでの計算と実質的に同じになっています。
さて、スケートの放映権料は2.23億円ほど。このなかで1.94億円ほどがフィギュアスケートによるものです。ほとんどがフィギュアスケートによるものですね。ただ、スピードスケートも2,860万円ほどの放映権料を得ています。これはフィギュアと比べると段違いに小さい額ですが、他の冬競技と比べるとかなり大きな金額です。
スキー連盟は三番目になっていて680万円というのが入ってきます。ジャンプ競技なんかは時折テレビ放映があるような印象ですが、いまいち金額は伸びていませんね。国内で主催出来ている大会が少ない、という部分が効いているのかもしれません
カーリングが2番手でスキーより大きめな864万円ありました。前年度がゼロでしたから、オリンピック効果でしょう。四年に一度、カーリングは盛り上がって、またすぐに消えて行ってしまう印象なので、今後は継続的に人気を保てるかどうか。選手たちにとって良いのかわかりませんが、競技以外の部分でも注目が集まったりしているので、この先全日本選手権などで、毎年毎年、放映権を得られる状態になっていってくれるとよいと思います
そり競技とバイアスロンはゼロ。残念ながらテレビ放映されるようなコンテンツではない、という現状によると思われます
アイスホッケーも、「放映権料」という科目がないので、数値が入っていません。ただ、アイスホッケーは各主催大会の、特にアジアリーグの事業収益の中に、放映権料も入れ込まれてしまっていると思われます。
協賛金収入も様々です。一番多いのはスキーの2.12億円でした。これはオフィシャルスポンサーの協賛金の他、公式用品プール協賛金、という名称で入ってきています。なんでしょうこれ。スケートは3番目で7,560万円ほどですが、これは主催大会で協賛金としてカウントされたものだけの金額です。この外数で、マーケティング事業収益、というものが巨大にあるので、その中に入れこまれている協賛金が多額にある可能性はあります。
スケートより金額が大きく入ったのはアイスホッケーで9,100万円ほどありました。前年が3,000万円台でしたので、3倍増になっています。オリンピックシーズン、頑張って協賛金集めたのでしょうか?
四番目にカーリングがいて4,800万円ほど。カーリング協会としては、この協賛金が、補助金に次ぐ二本目の収入の柱になっています。そり競技も5番目で2,700万円ほど得ています。正味財産残高が300万円台になってしまっているそり競技団体としては、この2,700万円は虎の子ともいえるものですね。
バイアスロンはゼロ。協賛金に類する科目が決算書に存在しません。雑収益など、他の科目に入れこまれている可能性もありますが、他の団体よりも小さい額であることは確実です
さて、スポーツ競技団体の収入の柱、補助金。ここでは、科目上「補助金」や「交付金」として入っているものだけを計算に入れています。個別に大会運営に対する補助金、のようなものが出ていたりしますが、それらは除外しています。
これもスキー競技が一番多く、4.45億円ほどありました。二番目はスケートで3.73億円ほど。ただ、他の各収入項目と違って、補助金はこの二つの連盟が圧倒的に多いというわけでもないです。
三番目にアイスホッケーがいて2.92億円ほどうけとっています。4番目のそり競技、5番目のバイアスロンはほとんど並んで1.2億円ほど。このへんの競技でも、スケート連盟の三分の一程度の補助金は受けているわけです。
一番補助金が小さいのがカーリングで8,000万円ほど。この水準でスケート連盟の22%程度です。カーリング協会が得ている補助金が、そり競技やバイアスロンのそれより小さく、三分の二しかない、というのは意外な事実でした
こうやって見ると、そり競技やバイアスロンの補助金依存度は極めて高いわけですね
そして、何を見てもスケート連盟がお金持ってるのはよくわかりますが、意外とスキー連盟もそれなりにお金持ってます
案外苦しいのがカーリングでしょうか。オリンピックではあれだけ目立って、メダルも取って、露出もかなりあった割に、収入は少なく、選手の強化・国際試合への派遣へ使える金額も小さいです。カーリングの強化は協会主導ではなく、各チーム、個人主導で行われる部分が多いんでしょうか
本当は強化費・派遣費の比較も出したいのですが、スキー連盟とそり競技の連盟では、それにあたる金額がはじき出せなかったので見合わせています。見えている範囲で数値を並べると、スケート連盟は7.25億円で、内訳としてスピード3.20億円、フィギュア2.86億円、ショート1.20億円。 アイスホッケーは2.56億円。アイスホッケーのそれは、強化費として計上されている1.35億円のほかに、派遣費として計上されている1.21億円を加味しました。
バイアスロンが1.22億円。カーリング8,100万円。カーリングも、強化費の他に派遣費まで含めます。どこまでを強化費に含むのかは難しいのですが、ざっと主観で切り分けるとそんなところでした。この辺は競技人口や、国際大会の出場選手枠数の影響もあるとは思いますが、ぱっと見の印象としては、スケート連盟、特にスピードスケートの手厚さが感じられる一方で、カーリングの貧弱さも見えてきます。
バイアスロンは、全然お金のない連盟なわけですが、懐に入ってきたそれはきっちり強化費として使っているわけです。上記のように、得られた補助金が1.21億円に対して、強化費が1.22億円ですからね。カーリングも補助金≒強化費になっています。良くも悪くも補助金依存ですが、補助金をちゃんと強化費に使えているのだから、正しい姿ではあるんだと思います。
スケート連盟のように、補助金以外の収入が多岐にわたるところでは、強化費>補助金という構図を作ることができているわけです。ただ、お金があればこそ、その使い方は難しいという部分もあって、持っているお金を強化費にそのまま使う、というのではなく、お金を稼げているのだから来年もまたきっちり稼げるように、という方向にお金が向かいがちな部分はどうしても出てくると思われます。ある種の拡大再生産の思想なわけで、それはそれでよいと思うのですが、その辺のバランスをどうとるべきか、というのが、お金を持っている連盟の難しいところかな、という印象です
ここまで読んできた感覚としては、カーリング、これでよくメダルとれたな、男子も出場圏とって、終盤までチャンス残すところまでよくいけたな、というものです。補助金は少なく、協賛金収入もそれほど多くなく、マーケティング収益などがあるかというとそうでもない中、選手の強化に充てられる金額は冬競技内で最低ランク。選手の、あるいはチーム自体の、活動資金確保段階からの頑張り、というのが極めて大きいんだな、と感じさせられます。
カーリングは、もうちょっとマーケティングうまくやれば、収益を増やせて、その分を強化に充てられるようになるような気がするんですけどね。ついでに言えば、補助金も、オリンピックで結果出したのだから、そり競技やバイアスロンの三分の二、ってのはちょっとひどいと思うので、もう少し回してあげて欲しいと思います。
一方で、その他の冬競技と比べてスケート連盟の資金の豊富さは群を抜いていて、それに伴って強化費用も他の競技と比べて多めです。ただ、資金の豊富さと比例した額までは行っていないように見えます。特に、フィギュアへの配分はそれほど高いわけでもなさそうです。
お金の生かし方、というのも、それほど上手ではない、という風に見えなくもない。
ストックとして20億円をはるかに超える金額のものがある。じゃあ、これをどう使うか? その絵がないから、何かにはっきり大きく使う、ということもできず、4年サイクルで、少しづつ赤字を出しながらオリンピックシーズンに大きく稼いでトータルプラス、みたいな繰り返しになっていく。プラスだから資金面で心配はない。心配はないのはいいのだけど、その20億円くらいの存在が、ただ存在しているだけで死んでるよね? という風に見えたりもするわけです。なんというか、ROA(総資産利益率)が低い、という感じでしょうか
資産を増やしていくならいくでいいと思うんですよ。資産を増やして、先々何十億円かけてこういったものを作って強化の拠点にするとか、普及を行うためにどうするとか、そのために今は資産を増やすべき時期である、みたいな考え方で進めることがあってもいい。また、ストックとしてこれだけ持っておいて、この資産を元に収益を生み出して、その収益を強化に充てる。すなわち、たんまりある資産は強化資金を生み出す元手である、という考え方もあっていい。
ただ、成り行きで、安心のために資産を持っている、というのだともったいないな、と思います。
フィギュアスケートはお金がかかるスポーツです。また、お金がかかるスポーツであってもなくても、何かを強化するには資金が重要だったりします。そういう意味で、連盟がお金を稼ぐのは全然悪いことではないし、資産をたくさん持っていること自体は何も悪いことではないです。なので、その資産を使って、選手たちの力になる何か、というのをしていってもらえたらなと思います。