日本スケート連盟2020年6月期決算

日本スケート連盟の昨年度の決算報告書が10月頭頃に公開されました。

少し時間が経ってしまいましたが、今年もスケート連盟の決算を見てみたいと思います。

改めて確認ですが、日本スケート連盟の決算月は6月であり、今回の決算は2019年7月1日から、2020年6月30日までのものとなります。

従って、順調にシーズンが進んでいた前半と、コロナウイルスで各地の大会が中止になっていた後半を含んだ時期の決算、ということになります

 

まず、一般の企業の場合には損益計算書にあたる、正味財産増減計算書について見てみたいと思います。

 

経常収益:2,069,595,331

経常費用:1,938,648,106

当期計上増減額:130,947,225

当期一般正味財産増減額:130,654,245

法人税、住民税及び事業税:47,513,800

一般正味財産増減額:83,140,445

 

経常収益は売上に相当して、経常費用の方は売上原価+販管費に相当するもの。当期計上増減額は営業利益に相当するものになります

 

すなわち、スケート連盟は20.7億円の売上があって、1.31億円の営業黒字でした、という結果です。

そこから経常外損益がまあいくらかあるのですが、それを加味した税引き前利益に相当する額が1.31億円。そこから税金ひかれて、当期純利益に相当するのが0.83億円あった、ということになります。

この期の後半はコロナウイルスが広がっていて、各地の大会は中止になったりしていますが、そのあたりは連盟の収益には影響しておらず、特に問題なくこの期も黒字になった、という形でした。

 

また、貸借対照表を見てみると、上記の0.83億円を上乗せした正味財産は、32.64億円となりました。この正味財産というのは、一般企業でいえば純資産に相当するものです。

一方で負債を見ると、流動負債、固定負債合わせて2.09億円ほど。負債と比べて十分に大きな正味財産を持っていることが見て取れます。

いわゆる自己資本比率にあたるものを計算すると、

 

3,264,761,327 ÷ 3,473,603,890 = 94.0%

 

ものすごい自己資本比率になっています。

その他指標を見ても、財務面では非常に余力がある状態になっています。一般の企業であれば、金余り状態であり、もっと上手に投資して売り上げを増やしなさいと言われるか、余っていて使い道がないんだった株主に還元しなさい、と言われるような財政状態です

 

では次に、収益の中身に移ります

2020年6月期スケート連盟収益内訳

 スケート連盟は補助金収入は全体に占める割合は小さく15%に満たない水準となっています。そういった意味では、割と自主独立的に運営できているというか、自力で稼いで運営が出来ている、という形です。その稼ぎはマーケティング事業からのものが大きいです。

なお、ここに載せているのは収益側だけですが、費用の方も考慮して赤字黒字を見ると、マーケティング事業として3.34億円の黒字がありました。連盟は、マーケティング事業で稼いだお金を選手の強化や普及に回している、という構図があります

 

また、放映権料が全体の10%ほどを占めています。フィギュアが大きめでスピードスケートは小さい。ショートトラックはおそらくゼロです(たまにスピードスケートの一部として扱われるときがありますが)。昨シーズンは世界フィギュアが中止になっていているのですが、あれは”世界”フィギュアであって、元々放映権料は日本の連盟に流れてくる構図はありませんので、痛手になりませんでした。

フィギュアの放映権料は1.98億円、スピードスケートの放映権料は2,805万円となっています。あれだけオリンピックでメダル取りまくったスピードスケートなので、放映権料でもっと稼げるようになるといいんですけど、1試合丸々映すには、テレビ向きじゃないのが苦しいんですかね。ショートトラックは放映権料ゼロなようですが、結構テレビ向きな競技だと思うので、もう少し強くなれば、こういうところで稼げるようになるんじゃないかと思います

 

そして、残りの大きな収益源が主催する大会です。毎年行われるNHK杯全日本選手権が二本の柱になっています。18-19シーズンのように世界フィギュアが日本開催だと、ものすごく大きな稼ぎがあるのですが、昨シーズンはそういった試合はありませんでした。それにしてもコロナが一年ずれていて、日本開催の世界フィギュアが中止になっていたら、連盟としては大きな痛手を負っていた可能性が高いです。

NHK杯と全日本では、例年、入場料収入は全日本の方がはるかに大きいのですが、協賛金や広告権収入などにより、トータルの収益はNHK杯の方が大きくなる傾向があります。ただ、費用もNHK杯の方が掛かる。グランプリシリーズであるNHK杯は海外から来るISUの役員の旅費もかかるし、選手団の旅費も大会運営側で出してます。さらには賞金もある。全日本は、選手から出場料を取るのとは対称的。ということで、多くの場合全日本の方が黒字が大きくなります。

19年の大会ではNHK杯が9,700万円ほどの黒字、全日本は1.79億円の黒字でした。どちらも入場料収入が大きな柱ではあるので、コロナで今シーズンどうなるかまだ分かりませんが、急遽無観客、とかなると、収益面での痛手は結構あります。

 

その他の競技会は昨シーズンは、スピードスケートとショートトラックのそれぞれワールドカップが1試合づつ計上されていました。スピードスケートは3,300万円、ショートトラックは4,500万円ほどの赤字です。どちらも入場料収入がほとんど得られていないのが厳しいです。スピードスケートで373万円、ショートトラックはゼロ。さすがにこれで黒字を出せ、というのは無茶な話です。スポーツなので、赤字になるならやるな、というたぐいのものではないですが、ある程度観客が入るくらいの人気が出るようにしていく、というのが連盟の重要な活動なのだろうと思います。まあ、ショートトラックはともかく、スピードスケートはどうしても開催地が限られて地理的に集客が難しくなるので大変だとは思いますけどね。

 

では次に、ここまででもいくらか触れてしまっていますが、費用の方、使ったお金の方を見てみます。

2020年6月期日本スケート連盟費用内訳

特別事業費というのは大会運営の費用を実質的にはさします。上記の4大会の費用です。大会運営費というのが連盟の結構大きな支出になっているわけです。

一般事業費は、国内の各大会へ連盟側から補助金を出す、といったものの他、選手の強化費もここから出ていたりします。連盟の使命としての、普及(国内の各大会への支援)と強化(選手の強化費)です。選手の強化費はここからだけでなく、JOCからまわってくる補助金形式の強化費も使用されます。それが上記グラフでいうJOC選手強化NF事業費です。

また、スケート連盟も一つの団体なので、それを維持するためにはかかわっている人の橋梁や何やかやとお金がかかり、その費用もあります。上記グラフの給料手当以降の各項目はそんな用途です。

 

さて、去年も見ていますが、選手の強化にどれだけお金が使われているか? というのがやはり気になるところ。それを取り出してみてみます。

 

フィギュアスケート:227,370,879

スピードスケート:302,661,215

ショートトラック:103,066,723

合計:633,098,817

 

強化対策費、とはっきり明記されているものの他に、強化合宿とあるもの、また、試合への派遣費までを含めました。

全体で6.33億円ほど。その半分近くはスピードスケートへ回ります。フィギュア向けは三分の一ちょっと、ショートトラックは六分の一弱です。

 

何度かこれ系の話を書くときに書いてしまっていますが、スケート連盟は、フィギュアで稼いでそのお金でスピードスケートを強化する、という構図が出来てしまっている部分があります。スピードスケートが悪いわけではないのですが、あれだけ強い競技なのだから、もう少し上手に、スピードスケート自体で稼げるようになるといいのにな、と思います

また、フィギュアスケート、選手の負担がどうしても大きい競技なんですよねいろいろと。そして、連盟自体は結構な金余り状態にある。心理的に、毎年赤字を出してお金を使っていく、というのが怖いというのはどうしてもあるとは思うのですが、もう少し選手の強化に回す部分があってもいいのではないかという風に見えてしまいます

まあ、貯めて貯めて貯めて、専用のスケート場建ててペア競技の選手集めて徹底的に強化します、とか狙ってるなら、頑張ってくださいという気はするのですが、そういう感じでもなさそうですしねえ。

 

次回、経年変化なども見ていきますが、今回はまず、後半はコロナに見舞われたシーズンでしたが、連盟自体は普通に黒字で財務状態には何の問題もないですよ、ということをお伝えしておこうと思います。

 

以上、日本スケート連盟の2020年6月期決算でした