日本スケート連盟2022年6月期決算

日本スケート連盟の昨年度の決算報告書が公開されました。スケート連盟の決算月は6月であり、今回の決算は2021年7月1日から2022年6月30日までのものとなります。デルタ株からオミクロンまでのコロナ真っ盛りの時期でありつつ、4年に1度のオリンピックを含む決算期でもあります。

 

○2022年6月期決算

  2022年6月期
経常収益 3,574,905,151
経常費用 3,014,598,392
当期計上増減額 560,306,759
当期一般正味財産増減額 596,740,260
法人税・住民税及び事業税 201,254,500
一般正味財産増減額 395,485,760

経常収益はいわゆる売上、当期計上増減額が営業利益、一般正味財産増減額が純利益、にそれぞれ相当するもの、と考えてよいと思います。そう考えますと、日本スケート連盟は今期はしっかり黒字だった、ということになります。前期というか前シーズンというか、2021年6月期は赤字でした。コロナで大会の集客がさっぱりできなかった20-21シーズンは苦しかったですが、21-22シーズンは大会中止というのはありましたが、それをカバーするくらいに集客できた大会もあり、しっかり黒字を稼ぎました。営業利益に相当する当期計上増減額で5.6億円、純利益に相当する一般正味財産増減額で4億円近い黒字です。

 

2022年6月期スケート連盟収益の内訳を見てみます。オリンピックシーズンはマーケティング収益が膨らむ傾向があるのですが、21-22シーズンもやはりそうなっており、16億円弱の収益がありました。マーケティング事業収益の中身が何かわかるとよいのですが、その中身までは公開されていません。

次に多いのが大会開催で得られたものです。また放映権料というのもそれなりの額を占めています。補助金は全体の1割にも満たない金額で3.1億円ほどでした。これは、このシーズンの5.6億円という当期計上増減額よりも小さい額であり、つまり補助金なしでも黒字という状態であるということですから、スケート連盟は補助金がなくてもやっていける状態である、と言えます。

 

○主催大会の収益

 

NHK杯

フィギュア

全日本

フィギュア

GPファイナル W杯ショート
入場料収入 194,552,000 734,860,000 0 0
物品販売収入 6,454,598 25,030,500 0 0
補助金 110,467,400 0 146,000,000 8,257,900
協賛金等 0 0 0 22,000,000
広告権収入 126,500,000 30,000 0 0
雑収入 436 97 158 4,820,098
参加料収入 0 1,110,000 0 0
合計 437,974,434 761,030,597 146,000,158 35,077,998

21-22シーズンにスケート連盟が主催して財務上の記録の残るものは4試合あります。毎年行われるNHK杯全日本選手権。オリンピックシーズンにやってくるグランプリファイナル、そしてショートトラックのワールドカップというのも開かれていました。ただしグランプリファイナルは直前で中止です。

このシーズンのNHK杯は代々木第一で開催されました。NHK杯はだいたい1万人程度の箱で行われて入場料収入が1.5~2億円ほどあるのが通常で、このシーズンもそれに当てはまっていました。一方、21年の全日本はさいたまスーパーアリーナ。収容人数も多いですしチケット価格もNHK杯より一レベル高く、日程も1日長い、ということでこちらの方が入場料収入ははるかに高くなります。それにしてもこの7.35億円という入場料収入は、記録ですぐわかる2015年大会以来で最高額です。人気選手が多く大変盛り上がったソチの選考会13年大会でも大会収益合計で5.27億円との記録がありますから、その時の入場料収入も上回っているのは確実です。推定になってしまいますが全日本選手権史上最多の入場料収入であった可能性が高いです。

NHK杯はISUの試合ですので補助金をISUから結構な金額受けています。賞金なんかがこの補助金を経由して出て行っています。広告権収入は実はよくわかってないです。全日本もこのシーズンはほとんどありませんが、17~20年の4試合は1,000万円前後の金額がありました。

全日本だけ国内ローカル試合なので参加料収入というのがあります。これだけ莫大な入場料収入を稼ぎあげている試合で選手からお金取るのはどうなの? という思いはやはりこういうのを見るたびに思います。

 

○主催大会の収益

 

NHK杯

フィギュア

全日本

フィギュア

GPファイナル W杯ショート
収入の部合計 437,974,434 761,030,597 146,000,158 35,077,998
支出の部合計 366,544,921 344,871,960 163,698,806 91,468,809
差引 71,429,513 416,158,637 -17,698,648 -56,390,811

支出の方は詳しく出しませんが、収入と支出の差し引きでそのイベントがどれだけ稼いだのか、あるいはどれだけ赤字だったのかが見えます。

全日本選手権が1大会で4億円を超える巨額の黒字を生み出しています。大会毎の収支が確認できた2007年大会以降で最多の黒字です。これまでは13年大会の2.73億円というのが最大でした。これ、放映権料含まれていません。放映権料は一括で契約しているのか、大会毎の収支の項目には入ってきていませんでした。ただ、フィギュア部門の放映権料は2億円弱あるのですが、そのほとんどは全日本の価値が占めていると思われますので、全日本が稼ぐ金額としてはもっと大きいとも言えます

NHK杯も安定の黒字です。全日本は人気選手の有無でこの先稼ぎが減るかもというような心配もあるのかもしれませんが、NHK杯が安定して黒字を出していることからすると、運営さえちゃんとやれば、黒字幅は小さくなるかもしれませんが、赤字になるようなことはないのではないかと思われます。

グランプリファイナルは中止。入場料収入なしでは当然苦しいです。ただ、結果的には補助金で赤字がだいぶ圧縮されています。補助金の内訳は、テレビ朝日4,400万円、水野スポーツ振興財団200万円、文部科学省大臣官房1億円です。文部科学省からの1億円はコロナで中止になったことへの補助でしょうか。テレビ朝日は17年のファイナルにも補助金出してますので、コロナ補助とか関係ない出費であり、テレビ局がお金出して試合中止はちょっとかわいそうだったと思います。ファイナルは試合が開催されていれば黒字が見込まれていました。

フィギュアスケートのイベントは基本的に黒字が出るのですが、ショートトラックは厳しい。21-22シーズンも結構なまとまった額の赤字が出ました。会場が名古屋だったようなのでコロナでなければ入場料は取る予定だったようですが、コロナ以前に開催した時も入場料ゼロの実績がありました。入場料を取れるようなイベントではない、という現実があります。スピードスケートはまだしもショートトラックはオリンピックでメダルが取れない競技になっていることもあり、日本の中でも認知度が低く、金銭面では他競技に依存している状態にあると言えそうです。

 

 

2022年6月期スケート連盟強化費派遣費比率

たまに勘違いされる方がいるのですが、日本スケート連盟フィギュアスケートだけの連盟ではなく、スピードスケート、ショートトラックまで管轄です。同じ氷の上でもアイスホッケーは別枠です。

このスケート連盟から出ている強化費・派遣費の競技ごとの比率を見てみたのが上のグラフです。

3競技のなかで一番強化費・派遣費が掛っているのはスピードスケートです。全体の半分、4.5億円ほど掛けていました。フィギュアスケートは3.3億円ほど、ショートトラックは1.2億円ほどです。スピードスケートは種目数の関係でフィギュアスケートよりも各国際大会の出場人数は多くなるので、派遣費・強化費が膨らむのは自然と言えば自然な感じもしますが、稼ぎはフィギュアが上げてるんだけどな、という部分もあります。競技人口はどうなんでしょう? フィギュアスケートの方が多いという話も聞きますが、実数は把握できていません。スピードスケートもオリンピックでメダルを取る水準の選手が何人もいて、有名な選手も何人もいる、という競技ですので、何らかの形でもう少し自力で稼げるとよいんだろうな、と思います。なお、スピードスケートは放映権料として3,000万円弱を稼いではいました。

 

○2022年6月期末財産残高

  2022年6月期
一般正味財産期首残高 3,047,674,701
一般正味財産増減額 395,485,760
一般正味財産期末残高 3,443,160,461

このシーズンでの黒字を含めてスケート連盟の持っている資産がどう変化して、期末にどれだけ資産があるか、というのがこの表です。

用は、昨シーズンは4億円近い黒字があったので、それを積み増して34.4億円ほどの財産をスケート連盟は持っているということになります。細かいことを言うと、この外数として一般ではなくて指定正味財産というのが1,000万円ほどあるのですが、ほとんど誤差みたいなことになっています。

大会運営費含めてこのシーズンに掛った費用が30億円ほどなわけですから、収入ゼロでも1年分賄えるくらいの財産をスケート連盟は抱えているということになります。この金額は、記録のある2008年6月末以降で最多の金額です。

ちなみに、これらの財産、どのような形で持たれているかと言うと、ほぼほぼ銀行預金です。みずほ銀行渋谷中央支店にスピード部とかフィギュア部とか普及部とかそれぞれに分かれて10億円ほどの預金がまずあります。その辺は常に動くものなのだと思うのですが、それとは別に定期預金が莫大にあります。強化関係として15.89億円の定期預金がやはりみずほ銀行中央支店にあります。この辺は完全に金余り感があります。

 

いろいろあった一年でしたがスケート連盟は大きな額の黒字を稼ぎだし、十分に資産のある状態を保ちました。人気選手が一線を退くとその後の収益力に不安を感じる部分はあるかもしれません。ただ、そんなに一気になくなってしまうような資産ではないようにみえます。これをどう使っていくか。連盟は営利事業ではないので役に立てないといけません。強化か普及か、どちらかに費やしていく必要があるのでしょう。事業計画というのも出ているのですが、それを見ていると、少し普及への力の掛け方は弱いのかなあ、とも思います。

今シーズンは世界フィギュアさいたまスーパーアリーナで行われます。コロナ再発また中止or無観客の可能性もあるにはありますが、ほっとくとまた莫大な利益を得ることになります。上手にお金使ってほしいなあ、と思いました。