世界フィギュア19 男子シングル1

女子シングル編で、ジャッジ毎の差ってかなり大きいのね、という話をしましたので、同じものを男子シングルでも見てみることにします。

 

  J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9
Nathan CHEN 105.01 109.95 108.45 102.58 102.60 107.03 108.34 110.13 109.88
Jason BROWN 96.15 92.31 92.79 99.56 96.47 95.86 100.00 100.32 95.52
Yuzuru HANYU 95.41 94.01 95.15 93.91 95.39 94.76 94.99 96.23 94.04
Vincent ZHOU 93.56 90.82 94.03 92.28 88.65 96.67 96.51 96.23 93.16
Matteo RIZZO 91.43 94.75 95.16 87.22 91.42 94.06 98.14 97.24 89.51
Shoma UNO 90.50 90.85 93.15 90.89 91.07 92.13 92.51 91.40 91.69
Kevin AYMOZ 86.44 82.58 89.83 85.10 87.14 90.50 90.29 89.24 88.86
Michal BREZINA 88.07 78.74 86.69 83.25 85.23 93.13 89.14 91.08 84.62
Boyang JIN 85.33 83.73 81.93 82.78 80.45 91.85 89.38 83.88 82.65
Mikhail KOLYADA 84.75 85.72 86.89 76.10 83.19 85.53 85.22 85.80 81.83

というわけで、GOEとPCSを判定するジャッジ9人のジャッジ毎の採点を見ます。まずはショートプログラムの上位10人。女子シングルの時もそうでしたが、転倒などによる減点は別の審判が判定する領域なのですが、話がややこしくなるので、転倒による減点を加味した形で上記は計算されています。

 

ショート1位のネイサンチェン選手は、J8は110.13と110点を超えるスコアだとみていました。2位のジェイソンブラウン選手は四回転なしでしたが、J7,J8と二人のジャッジは100点に乗る点数を出しています。四回転なしでも100点まで出すことは可能なわけです。

ネイサンチェン選手についた最低点は、ほかのどの選手の一番高い点よりも上、ということで、どこをどうひっくり返してもネイサンチェン選手が一位、というのがショートプログラムの結果でした。

羽生選手と宇野選手は、上位選手の中ではジャッジ毎の点差が少ない、という結果が出ています。これはおそらく、基礎点が高くGOEの幅が出そうな要素で、ノーバリューで零点とか、転倒による-5、というのが出ると、その部分は誰が付けようと同じ点数に強制的になったことが効いていると思われます。

 

  J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9
Nathan CHEN 1 1 1 1 1 1 1 1 1
Jason BROWN 2 4 6 2 2 3 2 2 2
Yuzuru HANYU 3 3 3 3 3 4 5 4 3
Vincent ZHOU 4 6 4 4 6 2 4 4 4
Matteo RIZZO 5 2 2 6 4 5 3 3 6
Shoma UNO 6 5 5 5 5 7 6 6 5
Kevin AYMOZ 8 9 7 7 7 9 7 8 7
Michal BREZINA 7 10 9 8 8 6 9 7 8
Boyang JIN 9 8 10 9 10 8 8 10 9
Mikhail KOLYADA 10 7 8 10 9 10 10 9 10

ジャッジ毎の順位を出すと、ネイサンチェン選手は誰が見ても1位となっていますが、2位以下は混沌としています。ジェイソンブラウン選手に2位をつけたジャッジは6人いますが、ヴィンセントゾー選手が2位というのが1人、マテオリッツォ選手が2位と見たのが2人います。羽生選手は2位と見たジャッジはおらず、むしろ、3位も6人だけで、4位や5位と見たジャッジが複数いるという形でした。

こうしてみると、宇野選手の下に一本線が引かれている感じです。ここの間で90点台に乗るか乗らないか、という差もあるのですが、それ以上に、どのジャッジが見ても、7位以下の選手は6位以上の選手と比べて劣った、と見えるような差があったんだな、と見て取れます。

  J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9
Nathan CHEN 7 2 4 9 8 6 5 1 3
Jason BROWN 5 9 8 3 4 6 2 1 7
Yuzuru HANYU 2 8 4 9 3 6 5 1 7
Vincent ZHOU 5 8 4 7 9 1 2 3 6
Matteo RIZZO 6 4 3 9 7 5 1 2 8
Shoma UNO 9 8 1 7 6 3 2 5 4
Kevin AYMOZ 7 9 3 8 6 1 2 4 5
Michal BREZINA 4 9 5 8 6 1 3 2 7
Boyang JIN 3 5 8 6 9 1 2 4 7
Mikhail KOLYADA 6 3 1 9 7 4 5 2 8

 これは、女子シングルの時には出しませんでしたが、各選手に出した点数の中でどのジャッジの点が高かったか低かったか、というのを示したものです。ジャッジは9人いますので、各選手の中の1が入っているジャッジはその選手に一番高い点をつけたジャッジ、9が入っていれば、その選手に一番低い点をつけたジャッジ、ということになります。

これを見るとJ8は全体的に甘く、J2,4,5あたりは割と厳しめ、というのが見て取れます。厳しめなJ2がネイサンチェン選手にだけ全体で2番目の点数をつけていたり、J4はジェイソンブラウン選手には甘かったり、なんでかなあ? と思うところもあるわけですが、こういうのを長期的に追っていくといろいろと面白いこともあるのかもしれません

 

  J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9
Nathan CHEN 212.52 216.19 218.33 217.67 211.61 226.57 211.74 217.27 211.48
Yuzuru HANYU 202.29 205.85 201.37 211.98 205.21 211.26 207.68 206.14 201.40
Vincent ZHOU 181.66 196.50 190.69 186.36 188.59 198.21 181.77 181.98 178.12
Shoma UNO 176.82 177.56 176.89 179.14 181.71 178.31 183.52 180.58 177.55
Boyang JIN 172.14 181.82 185.68 180.43 183.32 177.97 176.66 172.58 172.91
Mikhail KOLYADA 176.66 177.69 174.96 182.48 174.57 179.75 180.24 175.03 179.96
Alexander SAMARIN 164.68 174.02 170.15 169.50 162.29 165.97 173.73 163.18 168.31
Michal BREZINA 168.92 169.69 167.57 164.81 170.13 170.94 166.25 162.60 165.78
Andrei LAZUKIN 163.41 165.94 168.42 161.38 168.57 173.28 165.14 156.60 161.93
Matteo RIZZO 161.65 167.42 165.91 165.29 160.98 174.00 162.74 161.17 161.37

次はフリーの上位10人です

ネイサンチェン選手が1位なのは誰が付けても変わりませんでした。ショートフリー、全ジャッジが1位とつけた完全優勝です。全ジャッジ210点越え。最高点は226.57という異次元スコアです。ただ、かろうじて、ネイサンチェン選手に就いた最低点211.74は、羽生結弦選手についた最高点の211.98よりは低い数値になっていました。

羽生選手も全ジャッジ200点越え。

逆に3位のヴィンセントゾー選手以下は、どのジャッジでも200点には届きませんでした。四位の宇野選手は上位10選手の中で、ジャッジ毎の点差の幅が一番小さくなっています。四回転ジャンプの二度の明確な失敗、というのがそこに影響していそうです。逆にヴィンセントゾー選手はジャッジ間の点数の差が最大で20.09もありました。四回転を飛びまくったけれど、質的には評価が分かれる、ということで差が大きくなったようです。

  J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9
Nathan CHEN 1 1 1 1 1 1 1 1 1
Yuzuru HANYU 2 2 2 2 2 2 2 2 2
Vincent ZHOU 3 3 3 3 3 3 4 3 4
Shoma UNO 4 6 5 6 5 5 3 4 5
Boyang JIN 6 4 4 5 4 6 6 6 6
Mikhail KOLYADA 5 5 6 4 6 4 5 5 3
Alexander SAMARIN 8 7 7 7 9 10 7 7 7
Michal BREZINA 7 8 9 9 7 9 8 8 8
Andrei LAZUKIN 9 10 8 10 8 8 9 10 9
Matteo RIZZO 10 9 10 8 10 7 10 9 10

 フリーのジャッジ毎の順位はこんな感じ。

女子と違って男子は、そんなに混戦ではなく、上位3人は誰が付けてもほとんど変わらず、という形。ネイサンチェン選手は全ジャッジ一位。羽生選手は全ジャッジ二位。ヴィンセントゾー選手は7人が3位で2人4位です。宇野選手は4位になりましたが、5位につけたジャッジが4人で最多、6位も二人、ということで、この4~6位のあたりは混戦で評価が分かれている形でした。

 

  J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9
Nathan CHEN 6 5 2 3 8 1 7 4 9
Jason BROWN 7 5 9 1 6 2 3 4 8
Yuzuru HANYU 8 2 3 5 4 1 7 6 9
Vincent ZHOU 9 6 8 4 2 5 1 3 7
Matteo RIZZO 9 3 1 4 2 5 6 8 7
Shoma UNO 6 5 8 1 9 4 2 7 3
Kevin AYMOZ 7 1 3 4 9 6 2 8 5
Michal BREZINA 4 3 5 8 2 1 6 9 7
Boyang JIN 6 4 3 8 2 1 5 9 7
Mikhail KOLYADA 6 2 3 4 9 1 5 8 7

今度はジャッジ間順位。フリーはJ9が大分厳しめですが、宇野選手には甘かったようですね。J5は甘い選手と厳しい選手で二分しています。J3もそんな感じです。J6は比較的甘いでしょうか。J9やJ6のように、割と統一的に全員に厳しいとか甘いというのは、最終的な成績にあまり影響しませんが、J3や5のように、選手によって評価が甘かったり厳しかったりするジャッジは、成績に影響しやすくなりそうです。

 

  

  J1-4 J2-6 J3-9 J4-7 J9-5 最小 最大
Nathan CHEN 322.68 336.52 319.93 314.32 321.49 314.32 336.52 22.20
Yuzuru HANYU 307.39 305.27 296.55 301.59 299.25 296.55 307.39 10.84
Vincent ZHOU 279.92 289.03 272.15 274.05 281.75 272.15 289.03 16.88
Shoma UNO 269.64 269.16 270.70 274.41 273.40 269.16 274.41 5.25
Boyang JIN 265.76 261.70 254.84 259.44 265.97 254.84 265.97 11.13
Mikhail KOLYADA 267.23 265.47 266.85 256.34 256.40 256.34 267.23 10.89
Matteo RIZZO 256.72 268.75 256.53 249.96 250.49 249.96 268.75 18.79
Michal BREZINA 252.88 249.68 252.47 249.50 254.75 249.50 254.75 5.25
Jason BROWN 257.78 250.40 246.84 259.91 250.97 246.84 259.91 13.07
Andrei LAZUKIN 244.09 254.41 247.73 244.86 254.38 244.09 254.41 10.32

男子も9人中5人はショートとフリーで同じジャッジが入っていますので、この5人については、ショートとフリーを合計した総合得点を、総合上位10選手について出してみました。

たかだか5人しかいないのに採点にはだいぶ差がありまして、ネイサンチェン選手は最高と最低で22.20も差が出ました。まあ、女子と比べて点数自体が高いですので、差は当然大きくなりやすいはなりやすいのですけど。J2-6は336.52というお化けスコアが出ていたんですね。J2-6の採点で見ると、ネイサンチェン選手と羽生結弦選手の間には、31.25ポイントの大差がついていた、という見立てになっています。

羽生選手は5人中3人は300点台としていますが、2人は300点を下回る採点になっています。公式スコアも300.97でぎりぎり300点というところでしたので当然と言えば当然なのですが、ジャッジの顔ぶれが少し違えば、それだけで300点に乗っていない可能性もあったわけです

 

  J1-4 J2-6 J3-9 J4-7 J9-5
Nathan CHEN 1 1 1 1 1
Yuzuru HANYU 2 2 2 2 2
Vincent ZHOU 3 3 3 4 3
Shoma UNO 4 4 4 3 4
Boyang JIN 6 7 7 6 5
Mikhail KOLYADA 5 6 5 7 6
Matteo RIZZO 8 5 6 8 10
Michal BREZINA 9 10 8 9 7
Jason BROWN 7 9 10 5 9
Andrei LAZUKIN 10 8 9 10 8

5人のつけた点数から順位を見ると、ネイサンチェン選手は全員一位、羽生結弦選手も全員二位で、まぎれる要素はありませんでした。ヴィンセントゾー選手と宇野選手のところは一人のジャッジは順位が逆転しています。こうしてみると、結果的には三強の戦い、ではなくて、二強の戦いでネイサンチェン圧勝! という見立てだったんだな、ということになるでしょうか。四位の宇野選手の下にも一本線が引かれていて、そこから下はジャッジ次第でまたそれぞれ順位が入れ替わるよ、という風に見えます。

 

こうしてみると、男子も、10点くらいはジャッジによって簡単に違ってくるんだな、というのが感じられます。でも、誰がどう見てもネイサンチェン選手は強かった。羽生結弦選手はそれに続いた。この二人は誰がどう見ても抜けていた、というのもわかりました。

 

採点競技の宿命なのでしょうが、きわどい勝負になってくると、最後はジャッジ運による、ということでしょうか。

見ている方はそれも含めて楽しめばいい、ということではあるのですが、場合によってはやりきれない気分になること、というのもあるのかもしれません