世界フィギュア19 女子シングル2

世界フィギュアのレビュー1ではジャッジ毎の採点のぶれ、のようなものを見ましたが、ここからはちゃんと、というべきでしょうか、ちゃんと、ジャッジではなく選手を主役にして、選手のそれぞれの点の取り方、というところを見ていきます。

  

ショートプログラム 要素別基礎点-GOE

 

Jump

基礎点

Jump

GOE

Spin

基礎点

Spin

GOE

Step

基礎点

Step

GOE

PCS 減点
Alina ZAGITOVA 19.93 5.77 9.40 3.94 3.90 1.78 37.36 0.00
Kaori SAKAMOTO 18.19 5.77 9.40 3.27 3.90 1.45 34.88 0.00
Elizabet TURSYNBAEVA 18.55 5.10 9.40 3.33 3.90 1.50 34.18 0.00
Evgenia MEDVEDEVA 17.14 2.74 9.10 3.10 3.90 1.62 36.63 0.00
Eunsoo LIM 19.03 4.68 9.40 2.98 3.30 1.04 32.48 0.00
Mariah BELL 19.23 2.78 9.20 2.77 3.90 1.23 32.15 0.00
Rika KIHIRA 15.99 3.42 9.20 3.07 3.90 1.34 33.98 0.00
Satoko MIYAHARA 17.74 0.91 9.40 2.92 3.90 1.50 34.23 0.00
Sofia SAMODUROVA 18.03 3.59 9.40 2.73 3.90 1.06 31.71 0.00
Bradie TENNELL 18.18 0.64 9.40 3.53 3.30 1.04 33.41 0.00

パッと目につくのは紀平選手のジャンプの基礎点が一番低いこと。トリプルアクセルをふかしてゼロなので、まあ、こうなりますね。基礎点の段階でザギトワ選手とは3.94の差が付きました。そこにGOEの差が2.35加わります。まあこの辺はジャンプが一つ少ないので、可能な加点量は減ってしまうわけで仕方ない部分はありますが、ザギトワ選手のルッツループがジャッジ平均で+4を超えるスコアを出してきていますので、一つ一つのジャンプの差も実際にあった、ということになります。さらにスピン、ステップでもGOEで差をつけられ、さらにPCSでは3.38の差。勝ってる要素が一つもない、となると、ショートプログラムから大きな差が付くことになります。

ザギトワ選手は紀平選手との比較、ということではなく、全体見てもどの部分でも1位でした。

坂本選手はジャンプの基礎点では5番目ながらGOEはザギトワ選手と並んでトップ。基礎点が低い方が加点の上限は低くなるので、GOEが同じということは質は坂本選手の方が勝った、ということになります。

宮原選手はジャンプで回転不足もあり基礎点から伸びませんでしたが、それでもメドベージェワ選手よりは高い基礎点を持ちました。しかしながらGOEが9番目で質的にもあまりいいジャンプではなく、そのあたりが響いてショートは出遅れた形です

上位10選手でスピンでレベル4を取りこぼしたのは一つもなし。ここには乗せてませんが、ショートプログラムでは19位のルカヴァリエ選手まではすべてスピンがレベル4で取りこぼしなしでした。今大会のレベルの高さがうかがわれます。また、上位選手に転倒なし。まあ、転倒してたら上位に出てこれない、という意味も含まれますが、転倒の少なさも、この大会のレベルの高さを表していたように思えます。

 

ショートプログラム 要素別 

  Jump Spin Step PCS
Alina ZAGITOVA 25.70 13.34 5.68 37.36
Kaori SAKAMOTO 23.96 12.67 5.35 34.88
Elizabet TURSYNBAEVA 23.65 12.73 5.40 34.18
Evgenia MEDVEDEVA 19.88 12.20 5.52 36.63
Eunsoo LIM 23.71 12.38 4.34 32.48
Mariah BELL 22.01 11.97 5.13 32.15
Rika KIHIRA 19.41 12.27 5.24 33.98
Satoko MIYAHARA 18.65 12.32 5.40 34.23
Sofia SAMODUROVA 21.62 12.13 4.96 31.71
Bradie TENNELL 18.82 12.93 4.34 33.41

 
基礎点とGOEを合わせるとこんな感じになります。上位10選手中宮原選手はジャンプの得点が最下位。ジャンプの矯正シーズンということでしたが、1シーズンで作り切れなかったでしょうか。全日本ではジャンプは伸びなかったものの、スピンステップPCSは誰にも負けません、という形でしたが、さすがに世界選手権ではそうはいかず、スピンでも6番目、ステップは3位タイ、PCSも4位ということで、上位進出ならず

坂本選手がジャンプ2番目のみならず、スピン3位、ステップ5位にPCSも3位とバランスよく点を稼いでの2位スタートとなりました

メドベージェワ選手は今大会で復活をアピールしたわけですが、採点表を見るとショートの段階ではジャンプ7位、スピン2位、ステップ5位にPCSで2位。PCSでは大きく稼いでいますが、他はそれほどでもという形で、やはりかつての強さと比べるとまだまだ、という風に見えます。

ジャンプ、スピン、ステップ、PCS、すべてザギトワ選手が1位でした。

 

 

 

フリー 要素別基礎点-GOE

 

Jump

基礎点

Jump

GOE

Spin

基礎点

Spin

GOE

Step

基礎点

Step

GOE

PCS 減点
Alina ZAGITOVA 47.84 9.54 10.20 3.63 6.90 3.05 74.26 0.00
Rika KIHIRA 52.65 7.82 9.20 3.14 6.90 2.92 70.96 1.00
Evgenia MEDVEDEVA 44.71 9.26 10.20 2.98 6.90 2.55 72.97 0.00
Elizabet TURSYNBAEVA 47.69 7.19 10.20 3.70 6.90 3.29 69.83 0.00
Kaori SAKAMOTO 40.05 8.68 10.00 3.58 6.90 3.50 73.26 0.00
Satoko MIYAHARA 46.21 6.15 9.40 3.38 6.90 3.14 70.17 0.00
Bradie TENNELL 46.53 6.05 9.70 3.70 6.90 2.81 68.28 0.00
Sofia SAMODUROVA 44.29 7.25 9.20 2.31 6.90 1.92 66.29 0.00
Mariah BELL 44.41 4.84 8.08 1.95 6.90 2.97 67.66 0.00
Eunsoo LIM 45.89 2.02 9.10 2.05 6.30 2.35 65.95 1.00

フリーの「ステップ」の記述にはコレオシークエンスを含みます。

フリーではトリプルアクセル2本を回り切った紀平選手がジャンプの基礎点はトップです。ザギトワ選手との基礎点の差は4.81 意外と差が小さいなという印象です。これは基礎点なので、ジャンプは回りきっていれば転倒だろうと完ぺきだろうと同じ点数です。なので、この差の小ささは、トリプルアクセル以外のジャンプの構成の差により縮まったものです。ザギトワ選手は1.1倍ボーナスタイムにルッツループを入れるなど、トリプルアクセルなしでの限界にかなり近い構成をしてきているので、こういった差になっています。

ジャンプ基礎点が一番低いのが坂本選手。フリップが一本抜けたからなあ、というのは確かにあるのですが、仮にあのフリップが3回転できちっと入っていたとしても増える基礎点は5.28ポイントであり、ジャンプ基礎点合計は45.33にまでしかなりません。これだと上位10選手中で8番目。宮原選手より基礎点段階で低い、ということになります。ダイナミックなジャンプが売り、ということでジュニアのころからやってきた坂本選手、かと思いますが、現段階ではジャンプの構成は世界のトップの中では弱い方、という位置づけです。これは、ルッツが一本、という構成なためです。来シーズンにはトリプルアクセルを飛ぶ、ということになっていますが、トリプルアクセルが一本入っても、ルッツが一本だけだと、紀平選手の構成とはまだだいぶ差があります。

 

その坂本選手ですが、ステップ系要素の加点が3.50とトップでした。今大会の坂本選手の採点表は、彼女の従来のイメージと大分かけ離れたものになっています。PCSもメドベージェワ選手より上を行っての二位。73.26まで伸びるとは驚きでした。フリップが痛かった・・・

ジャンプ系要素のGOEは、1位坂本花織、2位トゥルシンバエワ、3位宮原知子。何とも意外な並び順になっています。こういうところで強そうなメドベージェワ選手が8番目。やっぱり今シーズンは、まだまだな出来、と見ていいと思います。

 

 フリー要素別

  Jump Spin Step PCS 減点
Alina ZAGITOVA 57.38 13.83 9.95 74.26 0.00
Rika KIHIRA 60.47 12.34 9.82 70.96 1.00
Evgenia MEDVEDEVA 53.97 13.18 9.45 72.97 0.00
Elizabet TURSYNBAEVA 54.88 13.90 10.19 69.83 0.00
Kaori SAKAMOTO 48.73 13.58 10.40 73.26 0.00
Satoko MIYAHARA 52.36 12.78 10.04 70.17 0.00
Bradie TENNELL 52.58 13.40 9.71 68.28 0.00
Sofia SAMODUROVA 51.54 11.51 8.82 66.29 0.00
Mariah BELL 49.25 10.03 9.87 67.66 0.00
Eunsoo LIM 47.91 11.15 8.65 65.95 1.00

基礎点とGOEを合わせるとこんな感じ。トリプルアクセル一本失敗して転倒しても紀平選手がジャンプのスコアははっきりとトップです。四回転を飛んだトゥルシンバエワ選手は3番目。四回転を飛んでもコンビネーションが一つ入らないとこうなります。なお、コンビネーションジャンプをしっかり飛んだとしても、GOE満点近くないと紀平選手のジャンプのスコアには届きません。四回転一本が相手なら、トリプルアクセル二本で一本転倒しても十分戦える、という意味でもあります

スピンのトップスコアはトゥルシンバエワ選手。四回転飛んで二位、ということになってますが、あの僅差の勝負の中ではスピンで稼いだこの点数がしっかり意味を持ちました。世界一のレイバックスピンを持つ宮原選手なんですが、他のスピンでは点を伸ばしきれておらず、スピンの合計スコアだと全体の中でも平凡な位置になってしまっています。

ヨーロッパ選手権を勝ったサムドゥロワ選手、演技終了後にはガッツポーズも見せていましたが、こうして採点表を見ると上位陣と比べてどれも今一つです。PCSで66点台というのは、上位の選手とジャンプ一本分程度の差がついてしまっていますので、なかなか苦しいところ。普通は大陸選手権で優勝したりなんかするとPCSはもっと伸びそうなものですが、ちょっとフロック扱いされてしまっている部分があるかもしれません。

 

 

 ショートフリー合計 要素別基礎点+GOE

 

Jump

基礎点

Jump

GOE

Spin

基礎点

Spin

GOE

Step

基礎点

Step

GOE

PCS 減点
Alina ZAGITOVA 67.77 15.31 19.60 7.57 10.80 4.83 111.62 0.00
Elizabet TURSYNBAEVA 66.24 12.29 19.60 7.03 10.80 4.79 104.01 0.00
Evgenia MEDVEDEVA 61.85 12.00 19.30 6.08 10.80 4.17 109.60 0.00
Rika KIHIRA 68.64 11.24 18.40 6.21 10.80 4.26 104.94 -1.00
Kaori SAKAMOTO 58.24 14.45 19.40 6.85 10.80 4.95 108.14 0.00
Satoko MIYAHARA 63.95 7.06 18.80 6.30 10.80 4.64 104.40 0.00
Bradie TENNELL 64.71 6.69 19.10 7.23 10.20 3.85 101.69 0.00
Sofia SAMODUROVA 62.32 10.84 18.60 5.04 10.80 2.98 98.00 0.00
Mariah BELL 63.64 7.62 17.28 4.72 10.80 4.20 99.81 0.00
Eunsoo LIM 64.92 6.70 18.50 5.03 9.60 3.39 98.43 -1.00

紀平選手はショート冒頭のジャンプが抜けて零点スタートでしたが、フリーでトリプルアクセル二本を回りきったことで、ジャンプの基礎点はトップになりました。坂本選手が基礎点最下位。ショートフリー合わせてルッツが一本だけ、という構成がこの辺に効いてきます。紀平選手との基礎点の差は10.40  仮に坂本選手がフリーのフリップをちゃんと三回転できたとしても、紀平選手がショートでトリプルアクセルを回り切れば差がさらに広がります。ジャンプの基礎点段階で13点近い差があったら、ちょっと勝負はなかなか厳しいでしょうか。

四回転を飛んだトゥルシンバエワ選手を、ザギトワ選手はジャンプの基礎点で上回りました。四回転一本なら、コンビネーション一つ抜けてしまうとジャンプの基礎点段階から逆転ンされてしまう程度のアドバンテージしかないので、それほど怖くはない、ということを意味しますでしょうか。

スピンのGOEトップはザギトワ選手で二番目がテネル選手でした。テネル選手はスピンで稼いだ点とPCSの差でサムドゥロワ選手の上に入りました。

ステップのGOEトップが坂本選手。そしてPCSもザギトワ、メドベージェワに次ぐ3番目でした。ブノワ先生との長い練習がここにはっきり生きたように見えます。

日本人選手の中では圧倒的なPCSを誇っていた宮原選手ですが、今大会では坂本選手、紀平選手の後塵を拝す形となりました。パーフェクトなザギトワと勝負するレベルにはちょっと厳しいですが、今大会の2位~5位の団子の中に入るくらいの力は十分あったのですけど、ジャンプだけでなく、少しづつ他の要素でも、ベストな滑りではなく、少しづつ点を取りこぼしていたように見えます

 

ショートフリー合計 要素別

  Jump Spin Step PCS 減点 Total Scores
Alina ZAGITOVA 83.08 27.17 15.63 111.62 0.00 237.5
Elizabet TURSYNBAEVA 78.53 26.63 15.59 104.01 0.00 224.8
Evgenia MEDVEDEVA 73.85 25.38 14.97 109.60 0.00 223.8
Rika KIHIRA 79.88 24.61 15.06 104.94 1.00 223.5
Kaori SAKAMOTO 72.69 26.25 15.75 108.14 0.00 222.8
Satoko MIYAHARA 71.01 25.10 15.44 104.40 0.00 216.0
Bradie TENNELL 71.40 26.33 14.05 101.69 0.00 213.5
Sofia SAMODUROVA 73.16 23.64 13.78 98.00 0.00 208.6
Mariah BELL 71.26 22.00 15.00 99.81 0.00 208.1
Eunsoo LIM 71.62 23.53 12.99 98.43 1.00 205.6

基礎点とGOEをまとめるとこんな形です

トリプルアクセルを備えていても、一本抜けて一本転倒で一本成功、というくらいだと、ルッツループ後半、などの3回転の限界鬼構成のパーフェクトには負ける、という形になりました。

 

 

要素別順位

 

Jump

基礎点

Jump

GOE

Spin

基礎点

Spin

GOE

Step

基礎点

Step

GOE

PCS 減点 順位
Alina ZAGITOVA 2 1 1 1 1 2 1 1 1
Elizabet TURSYNBAEVA 3 3 1 3 1 3 6 1 2
Evgenia MEDVEDEVA 9 4 4 7 1 7 2 1 3
Rika KIHIRA 1 5 9 6 1 5 4 9 4
Kaori SAKAMOTO 10 2 3 4 1 1 3 1 5
Satoko MIYAHARA 6 8 6 5 1 4 5 1 6
Bradie TENNELL 5 10 5 2 9 8 7 1 7
Sofia SAMODUROVA 8 6 7 8 1 10 10 1 8
Mariah BELL 7 7 10 10 1 6 8 1 9
Eunsoo LIM 4 9 8 9 10 9 9 9 10

各要素を上位10人の中で順位付けするとこうなります

宮原選手は、やはりジャンプが足を引っ張っている形なんですが、他も伸ばしきれませんでした。

ジャンプが売りだった坂本選手は、ジャンプの順位がほかの要素の順位よりも低い、という従来のイメージから大分かけ離れた形です。

ザギトワ選手がステップだけは坂本選手に負けていますが、他はすべて1位でした。

紀平選手はジャンプだけじゃない、総合力があってトータルパッケージの選手だ、ということになっていて、それに異論も感じていなかったのですが、今大会の結果では、やはりジャンプの選手で他の部分は世界のトップの中ではまだトップではない、という形なようです

 

要素別点差

  Jump Spin Step PCS 減点  
Alina ZAGITOVA 12.07 5.17 2.64 13.62 1.00 34.50
Elizabet TURSYNBAEVA 7.52 4.63 2.60 6.01 1.00 21.76
Evgenia MEDVEDEVA 2.84 3.38 1.98 11.60 1.00 20.80
Rika KIHIRA 8.87 2.61 2.07 6.94 0.00 20.49
Kaori SAKAMOTO 1.68 4.25 2.76 10.14 1.00 19.83
Satoko MIYAHARA 0.00 3.10 2.45 6.40 1.00 12.95
Bradie TENNELL 0.39 4.33 1.06 3.69 1.00 10.47
Sofia SAMODUROVA 2.15 1.64 0.79 0.00 1.00 5.58
Mariah BELL 0.25 0.00 2.01 1.81 1.00 5.07
Eunsoo LIM 0.61 1.53 0.00 0.43 0.00 2.57

 

最後に、各要素で上位10選手中一番悪い選手の点数との差を現したのが上記の表です。一番右端は合計値です

これを見ると、どこで大きく稼いでいるのかがわかります。

ステップというのは要素数が少ないこともあって、決定的な差にはなりにくいんですね。スピンは要素数が6あるので、全部合わせると4点5点の差がついてきたりします。ただ、やはり、大きなところはジャンプとPCSで決まってくる、という構図でしょうか。