18-19女子シングルショートプログラム

前回はトータルスコアについてみましたので、今回はショートプログラムについて見たいと思います。

 

対象とする大会はトータルスコアの時と同じです。

左から二番目のJ/Sはジュニアかシニアかの区分け。ショートプログラムのスコアはTSSの欄です。TESは技術点、PCSは演技構成点です。Deductionは減点。

 

  J/S Event Name Nation TSS TES PCS Deduction
1 S World Team Trophy Rika KIHIRA JPN 83.97 48.17 35.80 0.00
2 S Grand Prix Final Rika KIHIRA JPN 82.51 47.36 35.15 0.00
3 S World Championships Alina ZAGITOVA RUS 82.08 44.72 37.36 0.00
4 S Rostelecom Cup Alina ZAGITOVA RUS 80.78 43.53 37.25 0.00
5 S World Team Trophy Elizaveta TUKTAMYSHEVA RUS 80.54 45.86 34.68 0.00
6 S Nebelhorn Trophy Alina ZAGITOVA RUS 79.93 43.53 36.40 0.00
7 S Grand Prix Final Alina ZAGITOVA RUS 77.93 42.10 35.83 0.00
8 S World Team Trophy Kaori SAKAMOTO JPN 76.95 40.95 36.00 0.00
9 S World Championships Kaori SAKAMOTO JPN 76.86 41.98 34.88 0.00
10 J Junior Grand Prix Final Alena KOSTORNAIA RUS 76.32 43.43 32.89 0.00
11 S NHK Trophy Elizaveta TUKTAMYSHEVA RUS 76.17 43.18 32.99 0.00
12 S NHK Trophy Satoko MIYAHARA JPN 76.08 40.33 35.75 0.00
13 S World Championships Elizabet TURSYNBAEVA KAZ 75.96 41.78 34.18 0.00
14 S UNIVERSIADE Mai MIHARA JPN 75.92 41.64 34.28 0.00
15 S European Championship Alina ZAGITOVA RUS 75.00 38.60 36.40 0.00
16 S World Team Trophy Bradie TENNELL USA 74.81 40.10 34.71 0.00
17 J Amber Cup Alexandra TRUSOVA RUS 74.74 44.06 30.68 0.00
18 J Junior Grand Prix Final Alexandra TRUSOVA RUS 74.43 42.88 31.55 0.00
19 S World Championships Evgenia MEDVEDEVA RUS 74.23 37.60 36.63 0.00
20 S Skate Canada Elizaveta TUKTAMYSHEVA RUS 74.22 42.39 31.83 0.00
21 J JGP Armenia Cup Alexandra TRUSOVA RUS 74.19 44.18 30.01 0.00
22 S Four Continents Bradie TENNELL USA 73.91 40.59 33.32 0.00
23 S Skate America Satoko MIYAHARA JPN 73.86 39.42 34.44 0.00
24 S Finlandia Trophy Elizaveta TUKTAMYSHEVA RUS 73.83 42.03 31.80 0.00
25 S Four Continents Kaori SAKAMOTO JPN 73.36 39.98 33.38 0.00
26 J JGP Bratislava Anna SHCHERBAKOVA RUS 73.18 43.40 29.78 0.00
27 S World Championships Eunsoo LIM KOR 72.91 40.43 32.48 0.00
28 S European Championship Sofia SAMODUROVA RUS 72.88 39.25 33.63 0.00
29 J World Junior Championships Anna SHCHERBAKOVA RUS 72.86 41.53 31.33 0.00
30 J World Junior Championships Alexandra TRUSOVA RUS 72.49 41.15 31.34 0.00
31 S Nebelhorn Trophy Loena HENDRICKX BEL 71.50 39.94 31.56 0.00
32 S GOLDEN SPIN Bradie TENNELL USA 71.50 40.22 31.28 0.00
33 S Skate America Kaori SAKAMOTO JPN 71.29 37.92 33.37 0.00
34 S World Championships Mariah BELL USA 71.26 39.11 32.15 0.00
35 J JGP Cup of Austria Alena KOSTORNAIA RUS 71.08 41.05 30.03 0.00
36 S Autumn Classic Evgenia MEDVEDEVA RUS 70.98 36.78 34.20 0.00
37 S Finlandia Trophy Elizabet TURSYNBAEVA KAZ 70.95 38.65 32.30 0.00
38 S Nebelhorn Trophy Mai MIHARA JPN 70.94 39.06 31.88 0.00
39 S World Championships Rika KIHIRA JPN 70.90 36.92 33.98 0.00
40 S World Team Trophy Mariah BELL USA 70.89 37.23 33.66 0.00
41 S Ondrej Nepela Trophy Rika KIHIRA JPN 70.79 40.67 31.12 1.00
42 S Grand Prix Final Elizaveta TUKTAMYSHEVA RUS 70.65 38.25 32.40 0.00
43 S World Championships Satoko MIYAHARA JPN 70.60 36.37 34.23 0.00
44 S World Championships Sofia SAMODUROVA RUS 70.42 38.71 31.71 0.00
45 S NHK Trophy Mai MIHARA JPN 70.38 37.70 32.68 0.00
46 S Tallinn Trophy Serafima SAKHANOVICH RUS 70.33 39.49 30.84 0.00
47 S Challenge Cup Amber GLENN USA 70.25 38.89 31.36 0.00
48 S UNIVERSIADE Stanislava KONSTANTINOVA RUS 70.25 37.93 32.32 0.00
49 J JGP Czech Alena KOSTORNAIA RUS 70.24 39.47 30.77 0.00
50 S Grand Prix Final Kaori SAKAMOTO JPN 70.23 37.23 33.00 0.00
51 J JGP Czech Ting CUI USA 70.20 40.43 29.77 0.00
52 S Nebelhorn Trophy Mariah BELL USA 70.02 39.18 30.84 0.00
53 S Four Continents Mariah BELL USA 70.02 38.47 31.55 0.00

70点以上のスコアを並べると20人で53例ありました。

 

80点以上は3人で5回。ショートプログラムスコアは紀平選手がワンツーを占めました。ショートプログラムが苦手な印象の紀平選手ですが、ノーミス演技をした場合は誰も勝てない点数が出ます。アクセルジャンプがトリプルで、3F-3Tが入り、単独ジャンプは3Lzという構成。これを上回るには現行ルール上ではセカンド3Loを入れて1.1倍ボーナスタイムをコンビネーションにする、というもの以外にありません。ほぼ限界に近い構成です。(現行ルールではショートプログラムに四回転を入れることは出来ません)

かつて浅田真央選手が15-16シーズンに、3A、3F-3Lo,3Lzというほぼ究極構成に挑んだのが、紀平選手を上回る過去の唯一の例です。ただし、浅田選手はこの構成でノーミス演技を完成させることは出来ませんでした。

というわけで、技術点TESのワンツーも紀平選手です。48.17というショートプログラムの技術点は、3Aなしではどんな構成でもGOEオール+5を出しても届かない、という点数になっています。したがって、ノーミス紀平梨花ショートプログラムの技術点で勝てる選手は基本的にいません。

ノーミス紀平梨花に技術点で唯一勝てる可能性があるのは、3Aを構成に入れているトゥクタミシェワ選手です。国別対抗戦ではノーミス演技で80点を上回ってきました。ただ、トゥクタミシェワ選手はショートプログラムではコンビネーションジャンプが3T-3Tという難度低めなものになっています。基礎点でいえば紀平選手と比べて1.1低くなります。したがって、GOEで上回っていかないと紀平選手に並ぶことは出来ません。また、トゥクタミシェワ選手は意外とPCSが伸びない選手です。PCSのベストは国別対抗戦の34.68ですが、同じ試合で紀平選手は35.80を出しています。

トゥクタミシェワ選手を上回ってショートのスコアで3位4位に入っているのはザギトワ選手です。ザギトワ選手はPCSが高く、37点を超えるスコアを出しているのは彼女だけです。世界選手権で出した技術点44.72も、トリプルアクセルなしの選手の最高点でした。ザギトワ選手のジャンプ構成は、3Lz-3Lo,2A,3Fです。3Aなしでこれより基礎点を挙げるには3Lz-3Loを1.1倍のところに持ってくる、以外にありません。3Aなしのほぼ最高難度です。スピンステップすべてレベル4前提で基礎点が33.23 GOEオール満点の時の技術点は47.13です。 紀平選手の48.17という国別対抗戦の時のスコアに、GOE満点でも1点ほど足りません。PCSの差で補えるのは1.5~2点ほどという状態なので、ノーミス紀平梨花と五分に戦うには、GOEが満点近い水準が求められるのですが、世界選手権では7つの要素の平均GOEが4.127という驚異的な数字を出して、ショートプログラムスコア82.08を叩き出し、ノーミス紀平梨花とだってそんなに遜色なく戦える、ということを示しました。

 

75~80点を出したのは7人で10例あります。複数回だしているのはザギトワ選手が3回、坂本選手が2回です。ザギトワ選手のショートプログラムスコアは、自身の5番目のスコアでも75.00、4番目だと77.93 悪い時でも恐ろしく高いスコアになってます。

3A持ちとセカンドループのザギトワ選手に次ぐ、ベストスコア4番目は坂本花織選手でした。3Aなしでセカンドループなしの選手の中の最高点なのですが、これを3Lzもなしで出しているのはちょっと興味深い現象です。坂本選手のジャンプ構成は、3F-3T,2A,3Loになっていて、基礎点31.49しかありません。現在の、世界の上位で戦う選手の中ではたいしたことない、というよりはっきり言うと見劣りする、と言ってしまえるような構成です。それでも、世界選手権では技術点41.98 これより高いスコアは今シーズンのシニア選手としては、紀平選手、トゥクタミシェワ選手、ザギトワ選手の三人しか出しておらず4番目のスコアです。また、国別対抗戦ではPCS36.00を出していて、今シーズンこれより高いPCSはザギトワ選手とメドベージェワ選手しか出しておらず3番手になりました。豪快なジャンプ、というのを持ち味としてジュニアからシニアに上がってきた選手、というはずだったような気がしますが、今シーズンは出来栄えの良さと演技構成点という総合力で上位に入ってくる選手だった、という形になっています。

坂本選手の下に、ジュニアの最高位としてジュニアグランプリファイナルのコストルナヤ選手、76.32が入ります。ジャンプの構成は2A,3F,3Lz-3T 3Aとセカンドループなしでの最高構成で基礎点が33.01あります。それによって出した技術点43.43というのは確かに高い点数なのですが、PCSが32.89となっていました。これが、シニア選手と比べると見劣りしてしまうのは確かなのですが、ジュニアの中ではトップ。ただ一人、平均8点台を意味する32点を上回るスコアを出しました。世界ジュニアに出ていたらどうなっていたか見てみたかったのですが、ケガでの欠場は残念でした。

その次の位置に、宮原選手、トゥルシンバエワ選手と三原選手が続きます。ジャンプの構成が宮原選手は3Lz-3T,2A,3Fで基礎点32.53 トゥルシンバエワ選手は、3Lz,2A,3S-3Tで基礎点31.85 三原選手は3Lz-3T,2A,3Fで32.33 宮原選手と三原選手で同じジャンプ構成なのに基礎点が違うのは、スピンの構成の差です。三人ともベストな演技をすると技術点が40点台に乗ってきています。ただ、ベストな演技があまりできていない、というべきかベストでないと40点に乗れないというべきか、75点を超えるスコアを出せたのは1回だけでした。宮原選手は6試合中4試合でコンビネーションジャンプが回転不足、三原選手も5試合中3試合でコンビネーションジャンプの回転不足です。安定して75点以上を出すには、コンビネーションジャンプの安定化が求められそうです。また、三原選手はベストスコアのユニバーシアードこそPCS34.28でしたが、他の試合では33点以下に抑えられていて、ここが上位との差になっています。

 

73,74点台が7人で11例ありました。

ここでようやく、日露+エテリ以外で、北米からブレイディテネル選手が入ってきます。国別対抗戦の74.81だけでなく、四大陸選手権の73.91というスコアもあります。

メドベージェワ選手もここにいます。世界選手権の74.23が今シーズンのベストスコアです。ジャンプの構成が3F-3T,2A,3Loでルッツなしの坂本選手と同じ構成でした。世界選手権がベストスコアですがコンビネーションジャンプが回転不足扱いで基礎点が30.14しかなく技術点が37.60とそれほど高くありませんでした。一方PCSが36.63 今シーズンこれを超えるPCSはザギトワ選手しか出していません。技術点が伸びない中で高いPCSにより上位に粘って入ってきた、というのが現実で、まだまだ本調子ではない、というように見えます。

エテリジュニア三人衆のうち、トゥルソワ選手とシェルバコワ選手の二人はここに入ってきます。トゥルソワ選手は74点台が3回。75点を超えるスコアは出せませんでしたが、安定感は高かったです。ジャンプ構成が2A,3F,3Lz-3Lo 後半ルッツループで3A抜きの理論上最高難度。基礎点33.78はザギトワ選手のそれを0.55上回り、3Aなし選手の中では最高値です。この最高難度構成をジャンプミスなしで今シーズンの国際大会3試合でこなしたのですが、世界ジュニアだけはコンビネーションが3Lz-3Tに難度を下げていました。1.1倍ジャンプを3Lz-3Tにするのが安全策って、なにがんだか・・・。

シェルバコワ選手も2A,3F,3Lz-3Loが基本構成なのですが、すべての試合でステップがレベル3しか取れておらず、基礎点は33.18に留まり、トゥルソワ選手とは差があります。また、世界ジュニアではコンビネーションのセカンドをトーループにしていました。セカンドループはそれまでの国際試合3試合でショートでは1度しか決めることができていませんでしたので、シェルバコワ選手にとっては安定して飛べるジャンプではない、ということかもしれません。このあたりの安定度でトゥルソワ選手と差が見られます。

 

71,72点台は9人で9例です。ここがベストスコアになる選手はイムウンス選手、サムドゥロワ選手、ルナヘンドリックス選手、マライアベル選手の四人。ようやく日露以外の選手が普通に何人も入ってくるようになりました。

アルトゥニアンコーチのところにいるイムウンス選手とマライアベル選手が、世界選手権のショートプログラムでベストスコアを出して、仲良く最終グループに入っていた時のスコアがこの71,72点台に入っています。二人ともコンビネーションは3Lz-3Tで単独3Fという上位選手の比較的オーソドックスなジャンプ構成ですが、イムウンス選手は1.1倍が2A、マライアベル選手は3Fが入るところが違います。このあたりの選手はなかなかパーフェクトな滑りができていなくて、イムウンス選手はスピンステップすべてレベル4という試合がなく、ベストスコアの時もステップはレベル3、ベル選手はレベルをどこかで取りこぼすかオールレベル4の時は回転不足が出るか、という形なのですが、世界選手権だけはオールレベル4の回転不足なしで上位に入ってきました。来シーズンはどっちが上に行きますかねこの二人。

サムドゥロワ選手のヨーロッパ選手権で優勝した時のショートが72.88で、今シーズン上から28番目のスコアでした。ロシア選手中ショートのベストスコアは7番目。技術点が40点に乗っておらず、PCSも最高で33.63となると、ちょっとこのままではロシアの上位として来年戦うのは苦しい、という水準になってしまいます。

 

70~71点のところに18例あります。ここがベストスコアなのはサハノビッチ選手、アンバーグレン選手、コンスタンティノワ選手、ティンクイ選手の4人です。

ロシア二人アメリカ二人。アメリカの方の二人はあまり知名度のない選手が70点台のスコアを出しています。

アンバーグレン選手は今シーズン、チャレンジャーシリーズ1試合とその他B級大会としてチャレンジカップに出ていました。チャレンジカップで70.25のベストスコアを出し、紀平選手を抑えてのまさかの首位スタート。フリーは回転不足三つなどで沈み、総合でも表彰台に乗れず仕舞いでしたが、総合180点台に乗せたので、来シーズンはグランプリシリーズに出てくるかもしれません。全米選手権は7位に入った選手です。

ティンクイ選手は、読み方これでいいのか怪しいですが、ジュニアカテゴリーではエテリ三人衆の次、4番目のスコアである70.20を出しています。実際、世界ジュニアも3位表彰台。2002年9月生まれの16歳ですので、来シーズンはシニアに上がってくるのではないかと思われます。グランプリシリーズも2戦もらえるでしょう。アメリカの女子は、現在は日露に少し遅れを取っている感じがありますが、この辺の層の選手は流石に次々と出てきますね。

そして、この中に転倒したのに入っている選手がただ一人います。紀平梨花選手が、オンドレイネペラ杯で転倒があったにもかかわらず70.79のスコアを出しています。多くの選手にとっては、ノーミスで滑ってやっと70点台、というスコアであるのに、彼女はそれが転倒しても出せてしまうことがある、という基礎点の高さ、トリプルアクセル以外の要素の加点の大きさを持っています。

 

70点以上のスコアを出したのは全部で20選手。ロシア9人、日本4人、米国4人、カザフスタン、韓国、ベルギーが1人づつ。

回数で見るとロシア25回、日本15回、米国9回、カザフスタン2回、韓国とベルギーは1回づつ

 

ロシアがやっぱり強いですね・・・。日本が4人しかいない、というのはやや意外な感じはします。世界のトップで戦えていたのは三原選手まで、という形になるでしょうか。

ショートプログラムで差がついてしまうと、紀平選手くらいの爆発力がある場合以外は、もうほとんどそこで勝負あり、となってしまうので、世界のトップで戦うには最低でも70点は欲しいところ。さらに世界の表彰台を争うには75点レベルは欲しくて、そうなると、技術点40点演技構成点35点、というのが一つの基準になってきそうです。