本田望結選手のスケーターとしての立ち位置

タレントとして有名な、あるいは本田真凛選手の妹として有名な、はたまた本田紗来選手の姉として有名な、本田望結選手。

今回は、彼女のスケーターとしての位置を見てみたいと思います。

 

18-19シーズン、彼女は地方のローカル大会を除いて、近畿-西日本-全日本ジュニアという三試合に、全日本中学を含めた四試合に出場しました。

 

Event Total SP SP TES SP PCS FS FS TES FS PCS
近畿ジュニア 157.11 52.21 28.15 24.06 104.90 53.70 51.20
西日本ジュニア 150.62 51.43 28.39 23.04 99.19 49.43 49.76
全日本ジュニア 147.17 53.29 28.17 25.12 93.88 47.20 47.68
全国中学校大会 141.09 53.24 29.18 24.06 87.85 42.45 46.40

4試合の成績です。ベストスコアは近畿ジュニアの157.11 この試合ではフリーで100点を超えてきました。ショートプログラムのベストスコアは全日本ジュニアの53.29 この試合は9位でショートプログラムを終え、フリーの出来次第では6位に入って全日本進出もある、という展開だったのですが、最終的に12位で終えました。

全日本ジュニアのフリーで近畿ジュニアの得点をとれていれば、トータル158.19に達し、3位表彰台もあった、という展開。たられば言っても仕方ない、とは言いますが、たらればレベルならそれくらいの可能性を計算できる、という実力であることは確かです。

一方で、一番狙っていた試合で、絶好の位置につけていたにもかかわらず、フリーでベストの演技が出来なかった、というあたりは、長く子役をやっていたので大舞台での強さは折り紙付き、というような理論は成り立ちませんね、ということを表していた、とも言えます。また、初戦の近畿ジュニア以降、全日本中学に至るまで、スコアを下げ続けたシーズンだった、というあたりも気になりました

 

さて、彼女のベストスコア157.11というのはどれくらいの位置になるでしょうか?

 

今シーズン、これに近いスコアをグランプリシリーズで見たことがあります。誰あろう、本田真凛選手。スケートアメリカでのスコアが158.04でした。シニアはジュニアと比べてコレオシークエンス一つ分要素が多い、ということを考えると、実質的にはジュニアの157.11の方が価値が高い、とも言えます。元世界ジュニア女王である姉のシーズン最低スコアを、自身の最高スコアでなら上回れた、ということになります。

 

ISUのシーズンベストスコアと比較すると、157.11というのは85位相当の位置になります。国際試合のスコアと比較しても仕方ない、という指摘もあるかと思いますが、国際試合未経験ですので、その辺は勘弁してください、というしかない。

ジュニアグランプリシリーズに出場していた日本のトップジュニアの中でも、この157.11を下回るスコアで終わってしまった選手は多数います。

 

国内の試合に目を戻すと、全日本選手権の予選に当たる西日本選手権では、12位のスコアが144.62で、この点数が全日本への通過ラインでした。本田望結選手は今シーズン、近畿ジュニア、西日本ジュニア、全日本ジュニアの三試合でこのスコアを上回っていました。したがって、理論上、彼女はジュニアではなくシニアであれば、全日本選手権に出場できていた、ということになります。ただ、実際には2004年6月1日生まれの彼女は、まだシニアに上がることはできませんでした。19-20シーズンはシニアに上がることは制度上可能です。

彼女はまだ中学3年生ですが、シニアカテゴリーに上がる選択をするかどうかは一つ注目です。全日本ジュニアという、日本のジュニアの最高峰の舞台に立つことをあきらめれば、かなりの高確率で全日本選手権に出場できるのではないかという風に見えます。

 

今シーズン4試合、ショートプログラムはすべて50点台で、最低でも51.43でした。このスコアは、全日本選手権のフリー進出ラインであった49.59を上回ります。全日本に出場していれば、フリー進出が可能な力はあります。トータルスコアはベストの157.11なら20位相当、ワーストの141.09だと24位相当になります。シニアにこのまま上がれば、全日本の常連でフリーの第一グループくらいによくいるね、というような選手になりそう、という位置にいます。

 

世界へもう一度目を移すと、世界ジュニアに出場するために必要な最低スコアは、ショートプログラムの技術点23.00 フリーの技術点38.00でした。このスコアは4試合ともはっきりと上回っていますので、国際大会に出れば、ミニマムスコアくらいは確保してきただろうことは想像されます。

なお、シニアカテゴリーですが、四大陸選手権はショート23.00、フリー40.00なので、これもクリアしています。世界選手権はショート29.00、フリー49.00ですので、ベストスコアとしてはクリアしています。ただ、一発クリアできるかどうかは怪しい、という水準です。

 

世界ジュニアを見てみると、157.11のスコアを出せれば13位相当でした。シーズンワーストの141.09でも20位相当です。出場できていれば問題なくショートは通過できていたはずです。国籍が日本、ロシア、アメリカ、韓国以外であれば、有力な代表候補になれるだけの力があります。

 

こうやって見るとかなり強い選手なのですが、幸か不幸か、彼女は日本人です。世界有数のレベルのメンバーの中で比べられてしまいます。その中で戦うには致命的な弱点があります。ジャンプです。

 

Event     Elements    BaseValue  
近畿ジュニア SP 1 3F<! ! 3.98 -2.400
近畿ジュニア FS 3 3F<! ! 3.98 -2.000
西日本ジュニア SP 1 3F! ! 5.30 -1.286
西日本ジュニア FS 3 3F! ! 5.30 -1.000
全日本ジュニア SP 1 3F<e e 3.18 -4.429
全日本ジュニア FS 3 3F<e e 3.18 -5.000
全国中学校大会 SP 1 3Fe e 3.98 -2.400
全国中学校大会 FS 3 3Fe e 3.98 -3.400

今シーズン、ジュニアの課題ジャンプはフリップでした。今シーズン4試合で、彼女はショートだけでなくフリーも含めて8回トリプルフリップをプログラムに組み入れていました。そのうち成功したのはゼロ。8回飛んで転倒こそ1回だけですが、回転不足は4回もあります。また、 ! がついたのが4回、eがついたのは4回。すなわち、8回中8回、エッジ不正をとられています。基礎点が満額ついたのが8回中2回しかありません。この結果から見るに、本田望結選手にとってトリプルフリップというのは、ミスにより減点された、というような表現は見合っておらず、現実としては、飛ぶことのできないジャンプである、と言わざるを得ません。

じゃあルッツなら飛べるのか? というと、今シーズンフリーで1回づつ合計4回飛んで、転倒1、回転不足1で、成功ジャンプは2回、確率5割でした。

Event     Elements    BaseValue  
近畿ジュニア FS 1 3Lz< 4.43 0.400
西日本ジュニア FS 1 3Lz   5.90 1.429
全日本ジュニア FS 1 3Lz   5.90 0.143
全国中学校大会 FS 1 3Lz   5.90 -4.800

また、コンビネーションジャンプの難度も低めです。

ショートで飛ぶコンビネーションは3Lo-2Tが基本で、近畿ジュニアでは3S-2Tでした。3回転-3回転はなく、ルッツも組み込めていません(フリップは単独ジャンプ強制ルール)。フリーで飛ぶ3連続は、ほぼ毎回異なりますが、一番難しい組み合わせで3Lo-1Eu-2Sでした。3連続は4回中3回で回転不足が出ています

Event     Elements    BaseValue  
近畿ジュニア FS 6 2A+2Lo+2Lo< 6.28 -0.200
西日本ジュニア FS 8 3S<+1Eu+2S 5.53 -2.000
全日本ジュニア FS 8 3S+1Eu+2S   6.71 0.714
全国中学校大会 FS 7 3Lo<+1Eu+2S 6.03 -1.200

 

つまり、ジャンプとしては、ショートプログラムにルッツがない、フリーで2回飛ぶジャンプはループとサルコウ、3回転-3回転がプログラムに入っていない、フリップジャンプのエッジ不正率100% 日本の上位ジュニアの中ではかなり見劣りしてしまう、という現実があります。

 

スピンはレベル4が割としっかりとれています。今シーズン24回のうち21回でレベル4です。全日本ジュニアでも6人しかいなかった、スピンすべてレベル4をとった中の一人です。

ステップはレベル2と3が4回づつ。決して良くはないですが、ジュニアとしては十分かな、というくらいはあります。実際、全日本ジュニアではステップでレベル4をとった選手がゼロでしたし、レベル3の中でGOEは川畑和愛選手と並んでトップの+2.714をショートプログラムで出していました。

PCSは全体の中で必ずトータル順位より上の順位がついていますから悪くない。

昨年の全日本ジュニアショートプログラム、ジャンプ以外の四要素、スピン三つとステップで得た点数15.47は、実は全選手中トップでした。15点台あったのは他には優勝した横井ゆは菜選手(15.16)しかいません。

 

結局、ジャンプが課題なわけです。

そして、課題がジャンプであるということが今のフィギュアスケートの世界では致命傷になってしまいます

現在、日本のジュニアでは、ジュニアグランプリシリーズに派遣してもらうための必須条件として、三回転-三回転のコンビネーションを飛ぶことができること、というのがある、という話を聞きます。本当なのか確認できていませんが、これが本当だとすると、本田望結選手はその時点でジュニアグランプリシリーズに派遣してもらうことができません。

来シーズン、強化指定選手には、ジュニアからは全日本ジュニアで8位の松生理乃選手までが選ばれました。全日本ジュニアで12位の本田望結選手は8位の松生選手まで3.45ポイント差、ほんのそれだけの差でした。11位までの選手のうち、ショートプログラムで3回転-3回転を入れられていないのは、転倒した選手のみであとの10選手は回転不足がついたりはしていますが、3回転-3回転がプログラムに入ります。フリーでは3回転-3回転がない選手もいましたが、そういう選手でも2A-3Tという形でセカンド3回転はプログラムに含まれます。

ジュニアの上位選手でセカンド三回転が構成にないのは本田望結選手だけです。これを克服しない限り国際大会に出ていく選手にはなれません。

 

今のままでも、全日本の常連くらいにはなれます。しかしながら、これより上には、国際大会の水準には、ジャンプの難度を上げる、難度の高いジャンプの確率を上げる、ということをしないとたどり着けません。

まずは2A-3T、次に3回転-3回転、そのうえでフリップを飛べるようにする、ルッツの成功率を上げる、ということが求められます。

 

ジャンプだけがフィギュアスケートではない。私もそういいたいのですが、ジャンプが飛べないと点が出ない、という現実がある。今のままでも全日本常連レベルにはなれる。ジャンプが飛べれば国際舞台へ出ていける。それが、今の彼女の立ち位置です。

 

タレントであったり、姉が有名人であったり、妹が有名人であったり、一人のスケーターとして以外に背負うものがあまりにも大きい本田望結さん

6月1日に15歳になる彼女の今後のスケート人生が、幸福なものであればと願います