フィギュアスケート世界ランキングケーススタディ

前回、世界ランキングの決まり方について述べました

今回は、ケーススタディをします

 

まず、理論上の最高値はいくつになるのか?

 

これは簡単に計算できます

世界選手権orオリンピックで優勝 1200

グランプリファイナル優勝 800

グランプリシリーズ優勝 400

チャレンジャーシリーズ優勝×2 300×2

これで、一年間で3000ポイントが得られます。

2シーズン続ければ6000ポイント これが最大値です

世界ランキングの算出には3シーズン分の数字が考慮されますが、チャンピオンシップ大会から二つ、グランプリシリーズからは四つ、その他からは四つしか選べないので、上記が最大です

 

次に、過去三シーズンのシーズン終了時のランキング1位のポイントを見てみます

ここでは女子シングルを持ってきます

 

16-17 Evgenia MEDVEDEVA 5100

17-18 Kaetlyn OSMOND 5081

18-19 Alina ZAGITOVA 5320

 

いずれも、5000ポイントを超える高いスコアです。各シーズンとも2位は5000ポイントに届いていませんでした。

5000ポイントを超えるにはどうすればよいのでしょう?

まず、一つ言えることは、その他大会のポイントゼロでは5000ポイントには届かないということです。世界選手権連覇、グランプリファイナル連覇にグランプリシリーズ優勝のポイントを合わせても4800ポイントにしかなりません。チャレンジャーシリーズなどその他大会での1勝も求められます。

逆に、その他大会のポイントを、チャレンジャーシリーズ1勝、その他B級で1勝というのを二年分持っていれば、それだけで1100ポイントになります。そうすると、世界選手権が3位2回で972×2 さらにグランプリファイナル3位にシリーズ1勝を2年続けると(648+400)×2 となり、合計は5140ポイントにまでなります。

世界の中で力的には3番手くらいの選手でも、上二人がB級大会にあまり出ないスタンスの選手であれば、ランキング1位にはなれるわけです

 

ただ、世界ランキングは、トップ3に入るような選手にとっては、ほとんど飾り程度の意味しかありません。実質的に意味を持ってくるのは、もう少し下位の選手になります。

 

次に、ジュニアカテゴリー選手は最大で何ポイントとれるのかを見てみます。

世界ジュニア優勝、JGPファイナル優勝、JGP1勝で1100ポイント これを2年続けると2200ポイントになります。

2200ポイントは、何位に相当するかというと、18-19シーズン末なら23位 17-18シーズン末で21位 16-17シーズン末なら22位でした。ジュニアカテゴリーだけでは最高値でも20位代前半がいいところ、ということになります。実際、18-19シーズン末にトゥルソワ選手は2165ポイントでランキング24位でした

 

ここでトゥルソワ選手が出てきましたし、24位でしたし、ということで、ジュニアカテゴリーの選手がランキング24位にまで入ってくるにはどうしたらいいのか? を考えてみます。24位というのは、グランプリシリーズで1枠を優先的にもらうためのボーダーラインなためです。本当のトップジュニアは、世界ジュニア表彰台で1枠確定させられるので、あまりランキングを気にしなくてもよいのですが、それ以外のジュニアは、シニアに上がるタイミングで、理想的にはランキング24位にまで入って、グランプリシリーズの出場枠を確定的にしておきたいのです

 

世界ランキング24位というのは18-19シーズンは2165ポイント 17-18シーズンで2107ポイント 16-17シーズン2087ポイントです。2100ポイント付近にボーダーラインがあり、2200ポイントあれば基本的には24位までに入れるようです

世界ジュニアに出られないレベルの選手の場合、ジュニアグランプリシリーズで勝つのも難しいでしょうから、仮に3位表彰台を二年続けて4回乗ったとします。そうすると203×4=812ポイント取れます。その他大会で2年で1300~1400ポイント欲しいのですが、チャレンジャーシリーズ以外では4試合で最大1000ポイント、チャレンジャーシリーズでも1200ポイントしかないので実質的にはランキング24位に入ってくるのは不可能です。ただ、ロシアみたいな国で、世界ジュニアに出られないけれど、JGPなら二勝できる、というような選手がいれば、JGPファイナルで2位にでも入ると、2年で1130ポイント入ります。そうすれば、その他シニアカテゴリー大会で2試合優勝を2年続ければ2130ポイントになり、24位程度になることができます

 

世界ジュニアに出られる選手であれば、仮に8位であっても239ポイントが入ります。JGPシリーズは3位が2回とすると203×2=406ポイント。合わせると645ポイントになります。その他シニア大会で2勝すれば500ポイント入り1145ポイント。2年続くと2290ポイントになって、ランキング24位は十分にクリアできます。ジュニアカテゴリーの中で、やや上位くらいの位置の選手であっても、シニアカテゴリーのB級試合で、メンバーの弱いところで勝ってランキングポイントを稼ぐことができれば、シニアに上がるときに確実にグランプリシリーズの出場権を1枠手に入れられる立場にいられるわけです。したがって、シニアのB級大会でポイントを稼ぐ、というのは、ジュニアカテゴリーの中でもトップの少し下くらいの上位選手にとっては非常に重要なことになるように見えます。

 

実は、横井ゆは菜選手、というのが、ある意味では昨シーズン終わりの時期にはそういう位置にいる選手でした。世界ジュニアには2年続けて出て6位と9位。ジュニアグランプリシリーズのポイントも持っています。2年分合わせて1025ポイント。一方で、その他大会のポイントは3年間でゼロです。その他大会で2年続けて2勝しても、取れるポイントは1000ポイントなので、トータルで2025ポイントにしかならず、結果的には24位にまでは入ることはできません。そういう意味ではどっちにしても足りないは足りないのですが、世界ジュニアで9位ではなく4位あたりにまで入って、もう150ポイントあれば、24位まで入ってくるチャンスがあったわけです。

彼女の場合は、そういった、ランキング上位でグランプリの枠をもらうコースではなく、世界ジュニア表彰台で枠をもらうコース、という方がわかりやすい目標としてありましたし、3月頭に世界ジュニアのある選手に、いつ、シニア(プログラムの組み換えが必要)のB級大会に出てもらえるんだ? という問題もあるので、簡単なことではないのです。ただ、ジュニアからシニアに上がる際に、どうやってグランプリシリーズの枠をもらうチャンスを広げていくのか、ということを考えた場合、ジュニア選手のシニアB級大会への派遣をどうしていくか、というのは重要な問題になります

 

そういった、ランキング24位の周辺で、残念だったのが本田真凛選手でした。昨シーズン終了時の本田選手のポイントは1947 24位のトゥルソワ選手との差は218ポイントです。

本田選手はその他大会は、17-18シーズンに2試合、18-19シーズンに1試合がカウントされていて、合計4試合には1試合分余っています。残りもう一試合で優勝250ポイント、あるいは2位の225ポイントでもトゥルソワ選手の上に行って24位になれるはずでした。

本田選手は昨シーズン、全日本選手権を最後に試合に出ていません。横井選手のようにジュニアなわけでもないので、シニアB級大会に出るのにプログラムの組み換えなども特に必要はなく、普通に出ればいいだけです。2月3月にB級大会はいくつもありました。紀平選手や宮原選手と被ってしまうと、優勝はかなり難しい話になってしまいますが、世界選手権直前のクープドプランタンあたりなら、優勝スコアも140点台で、本田選手の実力なら問題なく勝って250ポイント得られたはずです。

世界ランキング24位に入っても、グランプリシリーズで優先的に与えられるのは1枠だけですが、それでも1枠確保したうえで、もう1枠回ってこないか、と待つのと、優先枠何もない中で1つか2つかこないかな、と待つのはだいぶ違ってきます。結果的に1枠しかもらえなかった本田選手。先々のことを考えると、こういうところで、悪あがき、というのでしょうか、なんとかもう一枠もらえる可能性を増やす! みたいなことが必要だったように感じられます。

 

一方、そこがうまくいったのは白岩優奈選手だったかと思います。白岩選手は全日本選手権が終わった段階で、ランキングポイントは2107ポイントでした。その他大会ポイントは18-19シーズンですでに2試合持っていて低い方のポイントでも198あるので、伸び代は52ポイントしかありません。結果的に、B級大会でポイントを確保する方向に進んで、優勝250ポイントを得たとしても、トータルポイントは2159ポイントで、トゥルソワ選手に届かず25位で終わるところでした

ところが、世界ジュニアに回ったことで、チャンピオンシップ大会のポイントとして328ポイントを得て、ランキングは最終的に18位にまで上昇しました。その結果かどうか、グランプリシリーズの枠は2つ得ています。チャンピオンシップ大会のポイントを得る、というのは、世界ランキングで上位に行くためには重要です。これがあるので、ランキングの上位が日露の寡占にはなってしまう部分があっても、10位台後半から20位代前半には、ヨーロッパの中堅クラスの選手も入ってくることができるわけです

 

ここで、18-19シーズン最終段階での日本人女子選手の世界ランキングを並べます

 

2位 宮原知子 4342

5位 坂本花織 3886

6位 三原舞依 3672

7位 樋口新葉 3601

11位 紀平梨花 3344

18位 白岩優奈 2435

28位 本田真凛 1947

29位 山下真瑚 1892

30位 本郷理華 1848

67位 横井ゆは菜 1025

79位 松田悠良 912

91位 荒木菜那 735

97位 新田谷凜 697

113位 青木祐奈 600

128位 滝野莉子 500

132位 川畑和愛 485

146位 住吉りをん 385

160位 吉岡詩果 351

169位 松岡あかり 315

170位 岩野桃亜 312

196位 笠掛梨乃 203

222位 中塩美悠 153

224位 松原星 148

231位 木原万莉子 139

237位 村上佳菜子 125

243位 岩元こころ 115

 

世界ランカーは合計26人います。引退済みの選手も何人かいますが、制度上、引退したから消して、というような申請がないと、そのまま残るようですね。

 

一見して感じたのは、24位まであと少し、という選手が3人もいたんだな、ということ。実際には、山下真瑚選手は、ベストスコアの高さなどによりグランプリシリーズの枠を二つ確保しましたが、後の二人、本田選手は枠一つ、本郷選手はゼロになりました。

また、その下の選手がだいぶ遠く離れています。横井選手で67位。ランキングポイントも1000ポイント余りで、24位にまで届かせるには二倍ほど必要でした

日本女子は19年のグランプリシリーズの枠はNHK杯地元枠を含めて17でした。Maxは18 1枠余っているわけです。シーズンベストスコアは選手自身の力でどうにかするしかありませんが、ランキングの方は、B級大会への派遣の仕方などにより、組織として、上位の選手を生み出すための工夫ができます。

トップ選手より少し下の位置のランキングの選手を増やす。シニアに上がっていく予定の選手にジュニア時代からランキングポイントを稼げるようにして、シニアに上がる時点でグランプリ枠を確実に取りやすくする。そういったことが、組織として求められます

 

B級大会へもう少し選手を多く派遣していくだけのお金は、明らかに連盟にはあります。スケジュール的な難しさ、というのはあると思いますが、なんなら4月頭に国内でB級大会作るくらいなことしてでも、選手たちのチャンスを拡げられたら、と思います。

今回は、女子でこういった話をしていますが、実際には男子シングルの方がそういったことが強く求められるかもしれませんし、ランキングよりもっとほかの課題も大きいですが、ペアやアイスダンスも、こういった観点からの強化も求められるように感じます