アレクサンドラトゥルソワ 技術点98.34の衝撃

トゥルソワ選手のシニアデビュー戦、ネペラメモリアル。優勝、までは予想される展開ではありますが、そんな予想を超える、とんでもないスコアでの優勝となりました。

ショートは74.91。シニアデビュー戦としては好スコアではありますが、まだ、常識の範囲内で収まった、というくらいなものでした。それがフリーは163.78の史上最高スコア。それも、技術点98.34というお化けスコアでの優勝となりました。

 

この、98.34という技術点は今シーズンのここまでの最高点です。

女子シングルの、ではありません。男子シングルまで含めても最高点です。羽生結弦選手のオータムクラシックでのフリー技術点は90.97でした。これが男子の最高点。それをはるかに上回るスコアとなりました。

 

昨シーズン、男子シングルで98.34を上回る技術点を出した選手は四人しかいません。

ネイサンチェン、羽生結弦、ビンセントジョー、宇野昌磨、以上四人です。

女子の昨シーズンの最高点は紀平梨花選手が持っていました。NHK杯フリーで出した87.17 これを11点以上上回るスーパースコアです。

 

こんなスコアの人と、誰か、まともに勝負できる人いるんでしょうか?

少し見てみようと思います。

 

トリプルアクセル以上のジャンプ無しで好スコアを出している選手。まず、メドベージェワ選手を見てみます。

今シーズン、オータムクラシックに出場しました。回転不足やレベルの取りこぼしが実際にはありましたが、実際にやりたかった要素構成としては以下のものであったと思われます

  Elements Base   GOE
1 3Lz+2T+2T 8.50   2.95
2 3S+3Lo 9.20   2.45
3 3Lz 5.90   2.95
4 FCSp4 3.20   1.60
5 ChSq1 3.00   2.50
6 2A 3.30   1.65
7 2A+3T 8.25 x 2.10
8 3F 5.83 x 2.65
9 3Lo 5.39 x 2.45
10 FCCoSp4 3.50   1.75
11 StSq4 3.90   1.95
12 CCoSp4 3.50   1.75
  TES 63.47   26.75

トリプルルッツ二本にトリプルループ二本、セカンドループをサルコウからつけ、セカンドトーループはダブルアクセルから、といった工夫を何とか入れて、基礎点は63.47

もし、全要素でGOE満点を取れば、26.75の加点を得ることができます。この時、技術点はトータルで90.22  つまり、メドベージェワ選手は全要素GOE満点でも、トゥルソワ選手の技術点に8.12ポイント足りない、ということになります。メドベージェワ選手の場合、高いPCSがありますので、まだ、今の段階でのトゥルソワ選手と比べてPCSの高さで勝負できないこともないですが、それでも、GOE満点でやっと勝負になる、というくらいの差があります

 

次に、上位の常連、宮原知子選手。今回のUSインターナショナルの構成です。3Lz-3Tはおそらく本当は二つ目の要素に入れたいんだろうと思いますが、今回の計算では、甘めに、リカバリーで入れた後半の2Tのところを3Tにしたかった、という仮定で計算させます。

  Elements Base   GOE
1 2A 3.30   1.65
2 3Lz 5.90   2.95
3 3Lo 4.90   2.45
4 FCSp4 3.20   1.60
5 3S 4.30   2.15
6 StSq4 3.90   1.95
7 3F+2T+2Lo 9.13 x 2.65
8 CCoSp4 3.50   1.75
9 3Lz+3T 11.11 x 2.95
10 2A+3T 8.25 x 2.10
11 ChSq1 3.00   2.50
12 LSp4 2.70   1.35
    63.19   26.05

ルッツ2本にトーループ2本で、スピンも基礎点低めなレイバックスピンが入ることもあり、トータル基礎点は63.19となります。GOEは全要素満点で26.05  トータル89.24となり、満点でも90点に届かない計算です。こうなると、満点でもトゥルソワ選手と9.10の差があるという状態。まだトゥルソワ選手のPCSは65点台ということですが、シーズン終盤に70点に乗るようになってきたら、技術点のGOE満点かつPCS満点で勝負になる、というくらいの水準になってきます。

 

では、トリプルアクセル無しの最高水準として、ザギトワ選手に出てきてもらいます。今シーズンはまだ登場がないので、昨シーズンの世界選手権の構成を見てみます。

 

  Elements Base   GOE
1 2A 3.30   1.65
2 3Lz+3T 10.10   2.95
3 3S 4.30   2.15
4 2A 3.30   1.65
5 FCSp4 3.20   1.60
6 ChSq1 3.00   2.50
7 3Lz+3Lo 11.88 x 2.95
8 3F+2T+2Lo 9.13 x 2.65
9 3F 5.83 x 2.65
10 CCoSp4 3.50   1.75
11 StSq4 3.90   1.95
12 FCCoSp4 3.50   1.75
  TES 64.94   26.20

 

ルッツ二本、フリップ二本、スピンも最高難度構成で技術点は64.94までありますが、2A単独やセカンドループがルッツに隠れるなどにより、満点GOEはメドベージェワ選手より低くなり26.20 合わせると91.14までは出ます。これでも、トゥルソワ選手の今回のスコアと比べると7.20の差があります。

昨シーズンのザギトワ選手の最高技術点は、ネーベルホルン杯の83.54 これもすごいスコアであり、全要素の平均GOE+4くらいまでは出しかねない選手ですが、さすがにオール満点は理論上の世界であって、現実的にはなかなか難しい。

 

このザギトワ選手の構成を多少いじって、2つめの要素のルッツトーループを9番目と入れ替えるなどすれば、まだいくらか基礎点を挙げていくことはできなくはないですが、7.20の差を埋めるには遠く至りません。

 

というわけで、もはや、トリプルアクセル無しでは勝負できない、という世界が、出来上がってしまいました。

 

 

では、トリプルアクセル持ちならどうなるか?

まず、トゥクタミシェワ選手。昨シーズンまではフリーでは一本のみが基本でしたが、今シーズン、ロンバルディア杯ではフリーで二本のトリプルアクセルを入れてきました。その構成ではこうなります。

  Elements Base   GOE
1 3A+2T 9.30   4.00
2 3A 8.00   4.00
3 3Lz+2A+SEQ 7.36   2.95
4 3F 5.30   2.65
5 FSSp4 3.00   1.50
6 LSp4 2.70   1.35
7 StSq4 3.90   1.95
8 2A+3T+2T 9.68 x 2.10
9 3Lz 6.49 x 2.95
10 3Lo 5.39 x 2.45
11 ChSq1 3.00   2.50
12 CCoSp4 3.50   1.75
  TES 67.62   30.15


トリプルアクセル二本、トリプルルッツ二本、これで十分鬼構成なのですが、この時の基礎点は67.62 GOE満点は30点を超えて30.15付くのですが、合わせて97.77  トリプルアクセル二本構成でGOE満点でも、今回のトゥルソワ選手のスコアには届きません。この構成は、ルッツがダブルアクセルとのシークエンスになって基礎点0.8倍になっているのが痛いところです。

 

ではもう一人、トリプルアクセルといえば、現代では紀平梨花選手。

今シーズンのオータムクラシック、回転不足などもありましたが、全要素しっかりこなせた場合はこうなるはずでした

  Elements Base   GOE
1 3A+2T 9.30   4.00
2 3A 8.00   4.00
3 3F 5.30   2.65
4 FCSp4 3.20   1.60
5 3S 4.30   2.15
6 StSq4 3.90   1.95
7 3F+3T 10.45 x 2.65
8 3Lz+2T+2Lo 9.79 x 2.95
9 CCoSp4 3.50   1.75
10 ChSq1 3.00   2.50
11 3Lo 5.39 x 2.45
12 LSp4 2.70   1.35
  TES 68.83   30.00

 

トリプルアクセル二本に今シーズンはフリップが二本。コンビネーションを二つ後半に入れて基礎点が68.83 GOE満点なら30.00付いて、合計は98.83になります。これでなんとか、満点取れればトゥルソワ選手を超えられる、という計算になりました。

 

紀平選手は昨シーズンはトリプルアクセル二本にトリプルルッツ二本でしたので、実はジャンプ構成はやや弱くなっていますが、コンビネーションを1.1倍ボーナスタイムに二つにしたことなどにより、昨シーズンより基礎点は上がりました。

紀平選手はこの構成に四回転を入れる、という話がありますが、ここでは四回転は横に置いて、トリプルアクセル以下の構成だけでこれより基礎点を上げる構成を考えると、①フリップではなくルッツを二本にする。②三連続をオイラーからのトリプルサルコウにして、余る単独ジャンプにダブルアクセルを入れる。➂スピンを基礎点の高い構成に入れ替える(レイバックスピンを外す)。といった手があり満点なら100点を超える、という構成に持っていくことは可能です。さらに言えば、セカンドループの導入、トリプルアクセルの後半化、などという手も理論的にはあり得ます。

 

また、トリプルアクセル持ちは、現在のトゥルソワ選手の構成からすると、ショートプログラムでリードすることが理論上可能です。四回転はショートプログラムに入れられない。これは、ルール上の規制のため、少なくとも今シーズンは変わりません。現在の段階ではトゥルソワ選手はトリプルアクセルがない。つまり、ショートプログラムトリプルアクセル持ちの選手の方が優位です。大ざっぱには、ダブルアクセルトリプルアクセルの基礎点差、4.7程度の優位がありますし、実績値として基礎点で3.3程度、紀平選手のノーミス構成が今回のトゥルソワ選手の構成より上になります(ルッツループがあるなどの理由で、アクセルの基礎点差より小さくなる)

 

したがって、ショートフリーでトリプルアクセルを三本跳べる選手は、ノーミス演技をして演技構成点のいくらかの優位もあれば、四回転三本構成のトゥルソワ選手と勝負することは、まだ、可能、ということになります。

 

逆に言うと、ショートフリーでトリプルアクセル三本をそろえること、というのが、トゥルソワ選手と真っ向勝負することができる最低線、とも言えます。

 

ちなみに、下記が、トゥルソワ選手の今回のスコアです

  Elements Base   GOE
1 4Lz 11.50   3.22
2 4T+3T 13.70   2.66
3 4T 9.50   3.23
4 2A 3.30   0.99
5 CCoSp4 3.50   1.05
6 ChSq1 3.00   1.30
7 3Lz+2Lo 8.36 x -0.83
8 3Lz+1Eu+3S 11.77 x 1.53
9 3F 5.83 x 1.59
10 FCSp4 3.20   0.77
11 StSq4 3.90   0.86
12 FCCoSp4 3.50   0.91
  TES 81.06   17.28


ルッツループのループが2回転になってるのはミスです。なので、ノーミスでこの点数を出したわけではない、という恐ろしい現実があります。ノーミスなら技術点100点超えます。

 

なお、この構成で全要素GOE満点を出すと、+35.00というスコアが入り、技術点合計116.06というとてつもない点数が出ます。

 

トゥルソワ選手と勝負するには、フリーで技術点を90点台に乗せて、演技構成点で3~5点くらいは上に行き、フリーの点差を数点に抑える力がある選手が、ショートプログラムトリプルアクセルの優位を生かして、演技構成点のリードも含めて5点以上上に行っておく。

そこまでできることが求められます。現段階で、四回転持ちのエテリチルドレン以外で、この条件を満たすのは、紀平梨花選手、あるいはトゥクタミシェワ選手くらいです。

その紀平選手が四回転サルコウを装備できれば。フリーの基礎点を単純には5.4ほど高くすることができ、ノーミスなら90点台後半まで技術点を出せるのは、ベースラインがトゥルソワ選手より上、とすることができます。四回転三本には、トリプルアクセル三本と四回転一本なら互角、そこに演技構成点で優位性があれば勝てる、という計算です。

 

ただ、トゥルソワ選手がトリプルアクセルを装備したら・・・

もう、まるで手の届かない世界へ行ってしまいます

トゥルソワ選手のトリプルアクセル装備が先か、紀平梨花選手の四回転装備プラスノーミスが先か

 

トゥルソワ選手が、新しい時代の幕を切ったことは間違いなさそうです