スケートアメリカ 世界チャンピオンの敗北

いよいよ今シーズンのグランプリシリーズが開幕しました。コロナは封じられたわけではないですが、今シーズンは中国がキャンセルされてトリノへ移った以外は、基本的には通常通り開催されます(観客とか各国変わってくるかもしれませんが)。ただ、カナダにロシア選手が入国できないかもなど、流動的な部分はありそうではあります。

そんなグランプリシリーズ初戦。まさかの、世界チャンピオンの敗北がありました。

 

○男子シングル

Pl Name Nation Total SP FS
1 Vincent ZHOU USA 295.56 97.43 198.13
2 Shoma UNO JPN 270.68 89.07 181.61
3 Nathan CHEN USA 269.37 82.89 186.48
4 Shun SATO JPN 247.05 80.52 166.53
5 Jimmy MA USA 228.12 84.52 143.60
6 Michal BREZINA CZE 227.47 75.43 152.04
7 Daniel GRASSL ITA 221.43 70.88 150.55
8 Nam NGUYEN CAN 219.60 74.32 145.28
9 Adam SIAO HIM FA FRA 217.52 67.60 149.92
10 Artur DANIELIAN RUS 214.93 68.74 146.19
  Kevin AYMOZ FRA 58.14 58.14  

ヴィンセントジョウ選手、グランプリシリーズ初優勝です。今シーズン3戦3勝。すべて280点を超えるスコアを出してきて今大会では295.56と、以前国別対抗戦で出した299.01に次ぐスコアを記録しました。

世界王者ネイサンチェン選手は3位。269.37というのはルールが変わる前も前、16年のNHK杯以来の低いスコアでした。ショートもフリーも1位になれず、スコア的には完敗です。

日本からは宇野昌磨選手が2位表彰台。本人比で270.68は平凡ですが、それでも3シーズンぶりのグランプリ表彰台となります。

もう一人佐藤駿選手は4位。現地についてからの練習でケガをしたようで出場も危ぶまれながらの4位。佐藤選手の次戦は5戦目のフランス杯。鍵山優真選手らに勝って優勝出来ればファイナルに出場できる、という芽を残しました。

 

○上位4選手のフリーの構成

  Vincent ZHOU Nathan CHEN Shoma UNO Shun SATO
1 4Lz 4Lo 4Lo 4Lz
2 4F! 2Lz 4S<< 4Fe
3 4Sq 4F+3T 4T+2T 4T+2T
4 4Tq 2S 3A FCCoSp4
5 ChSq1 CCSp4 FCSp4 4T
6 4Sq+3T StSq4 ChSq1 3A+2T
7 3A+1Eu+3S 3A 4F FSSp4
8 FCSp4 4T+1Eu+2F 4T+2T 3F+1Eu+3S
9 CSSp3 4T+3T 3A+1Eu+3Fq 3A
10 3A+2T CCoSp4 FCCoSp4V StSq3
11 StSq4 ChSq1 CCoSp4 ChSq1
12 CCoSp4 FCCoSp4 StSq4 CCoSp4
Base 97.50 83.05 88.99 87.04
GOE 12.69 13.45 4.26 -0.37

ネイサンチェン選手は四回転6本にトリプルアクセル1本構成。ヴィンセントジョウ選手と宇野昌磨選手は四回転5本にトリプルアクセル2本構成。佐藤駿選手は四回転4本にトリプルアクセル2本構成です。

その中でqや!を連発しながら基礎点満額取ったヴィンセントジョウ選手がトップ。抜けて2回転が2つあったネイサンチェン選手は基礎点がだいぶ下がったものの飛べたジャンプの質はよくGOEで稼いで得点はトップでした。宇野選手はサルコウがダウングレードになったほか、セカンド三回転無しとスピンでVがついたなどで基礎点を失いつつ、各要素の出来もそれほどでもなく加点も伸びず。佐藤駿選手もセカンド三回転無しとフリップのエッジエラーがあり基礎点は満額までは出ず、ジャンプは乱れの大きいものもあってGOEはトータルでマイナス側でした。

こうしてみると、トータルスコアとしては圧勝だったヴィンセントジョウ選手も、回転やエッジのエラーをもう少し強く取られていればかなりスコアが下がってきていたはずで、ある種紙一重だったというのも見て取れます。一方、ネイサンチェン選手、やはり飛べたジャンプの質は高く、決まってくれば誰も勝てないんだな、というのが見て取れました。

四回転五種類六本と、四回転四種類五本+トリプルアクセル二本の差は、トリプルアクセルが四回転トーループになる差として見るならばたいした差ではないのですが、実は四回転五種類六本だと、トリプルトーループを2本使えるので、その、ダブルトーループとトリプルトーループの差が出てきます。そちらの部分が大きいです。

なお、この構成でネイサンチェン選手が基礎点満額(3連続の最後も3回転として)取れた場合、基礎点104.70となります。宇野選手の場合3つ目の要素のセカンドジャンプが3回転として98.16(スピンのVも外れて) 佐藤駿選手は3つ目の要素のセカンドジャンプが3回転として、またステップもレベル4が取れるとしても92.74(エッジエラーも外れて)までです。

 

有力選手の次戦は、ネイサンチェン選手は二週続けてのスケートカナダ、ヴィンセントジョウ選手と宇野昌磨選手は4戦目のNHK杯で羽生選手と対戦、佐藤駿選手は5戦目のフランスで鍵山優真選手やジェイソンブラウン選手との勝負となります。

 

○女子シングル

Pl Name Nation Total SP FS
1 Alexandra TRUSOVA RUS 232.37 77.69 154.68
2 Daria USACHEVA RUS 217.31 76.71 140.60
3 Young YOU KOR 216.97 70.73 146.24
4 Kaori SAKAMOTO JPN 215.93 71.16 144.77
5 Kseniia SINITSYNA RUS 205.76 71.51 134.25
6 Amber GLENN USA 201.02 67.57 133.45
7 Satoko MIYAHARA JPN 200.51 66.36 134.15
8 Yelim KIM KOR 199.34 70.56 128.78
9 Ekaterina KURAKOVA POL 188.60 61.36 127.24
10 Starr ANDREWS USA 177.63 61.94 115.69
11 Yuhana YOKOI JPN 174.07 54.77 119.30
12 Audrey SHIN USA 160.78 62.82 97.96

優勝はトゥルソワ選手。圧勝というよりは楽勝という表現の方が似合うでしょうか。ケガの影響で本人としては楽ではなかったのでしょうけれど、構成落としてこの点差、というところで楽勝という表現が似つかわしく感じます。

2位には大技なしのロシア勢としてウサチェワ選手。3位に久しぶりにトリプルアクセルを決めたユヨン選手が続きました。ウサチョワ選手は国際大会のシニアデビュー戦としてパーソナルベストではありますが、ロシアの代表争いの中ではこのスコアがベースだとちょっと苦しいです。ユヨン選手は復活の216点。これが出せれば韓国の代表にはなれそう。

坂本花織選手は僅差で4位。ショートのフリップ2回転とフリーのスピンが残念でした。ここで2位に入っておくとファイナルの芽があったのですが、4位だと苦しいでしょうか。ショートはノーミスなら今回も76点前後が出せた計算で、ダブルアクセル勢の中でなら相手がロシアでもショートは十分戦える、というのは見えました。

宮原選手は7位。3回転のジャンプで回転不足が合計5つあっても200点には乗せてきました。あの世界選手権以来初の国際大会なので結構心配していたのですが、スタンディングオベーションももらえましたし、国際的な評価が著しく落ちたということはなかったようです。代表争いの中心とは今回は言えませんが、十分に3枠を争う一人ですよ健在ですよ、というのは示してきたのかなと思います。

日本からのもう一人横井ゆは菜選手は11位。代表争いに名乗りを上げるにはある種最後のチャンスだったと思うのですが結果を残せませんでした。

 

○女子シングル 要素別スコア

Pl Name Nation Total PCS Jump J GOE Spin Step
1 Alexandra TRUSOVA RUS 232.37 104.48 75.62 14.40 24.64 13.23
2 Daria USACHEVA RUS 217.31 104.02 63.21 8.85 26.16 15.07
3 Young YOU KOR 216.97 101.86 76.08 1.74 23.72 14.57
4 Kaori SAKAMOTO JPN 215.93 104.87 61.42 12.61 22.54 14.49
5 Kseniia SINITSYNA RUS 205.76 96.17 66.65 6.60 23.73 12.61
6 Amber GLENN USA 201.02 97.07 59.33 9.14 22.14 13.34
7 Satoko MIYAHARA JPN 200.51 103.34 60.50 -3.54 24.65 15.56
8 Yelim KIM KOR 199.34 96.59 62.41 5.79 22.87 12.68
9 Ekaterina KURAKOVA POL 188.60 90.65 62.19 0.95 22.80 12.01
10 Starr ANDREWS USA 177.63 88.73 56.31 -1.03 22.75 10.87
11 Yuhana YOKOI JPN 174.07 88.16 58.07 -3.18 20.06 10.96
12 Audrey SHIN USA 160.78 88.70 45.62 -6.39 23.14 13.71

要素別にスコアを分けています。Jumpはジャンプの基礎点の合計、J GOEはジャンプ要素で稼いで加点減点を指します。すべてショートフリーの合計です。

PCSのトップは坂本花織選手。ただ僅差で宮原知子選手まで4人います。宮原選手は特にフリーでは滑走順の影響もあって少しPCSが出なかったでしょうか。

ジャンプの基礎点はトゥルソワ選手よりユヨン選手の方が上でした。トリプルアクセル2本は四回転1本に勝る。ただし、決めたのは1本だけなのでジャンプのGOEがユヨン選手は伸びていません。面白いのは、基礎点ベースでみると坂本選手と宮原選手が大差ないところ。宮原選手は回転不足5つあったのですが、トリプルフリップが2回転になった坂本選手と基礎点が1点も差がありません。得意なわけではないですが、ジャンプの構成自体が弱いわけではありません。

一方GOEはトゥルソワ選手に次いで坂本選手がかなり稼いでいます。出来栄え勝負の坂本選手。トゥルソワ選手はなんというか、ケガの功名な感じがあって、いつもあれくらいの構成にしておけば大崩れしないのではないかとも思うのですが、それはもうトゥルソワではない、とかトゥルソワ選手に言われてしまいそうでもあります。宮原選手はジャンプのGOEがマイナス。やはりここが著しい弱点です。

スピンのトップはウサチェワ選手。2番目は宮原選手がいてトゥルソワ選手が続きます。坂本花織選手が今回スピンの出来がなかなかひどい・・。フリップが2回転になったのもありますが、このスピンの出来が最終的に致命傷になって表彰台を逃した形です。元々スピンはあまり点が出ない選手ではありますが、高難度ジャンプ無し構成でショートフリーノーミスして完成度勝負で230点台前半までもっていって、落ちてきた誰かを食ってオリンピック表彰台へ、という戦略の中では、スピンの1点2点が結構大事なはずなので少なくとも24点台半ばが取れるくらいには持っていきたいところかと思います。

ステップ系要素は宮原選手がトップ。ウサチェワ選手が2位です。トゥルソワ選手は7番目。この辺がトゥルソワ選手の評価が分かれてしまう大きな原因になっているのではないかと思いますし、逆に宮原選手の人気が根強い理由であったりするのだろうと思います。

 

有力選手の次戦は、トゥルソワ選手、ウサチョワ選手、ユヨン選手、坂本花織選手、さらには6位のアンバーグレン選手と5人までが4戦目のNHK杯で再び共演します。シニツィナ選手は5戦目のフランス、宮原知子選手は3戦目のトリノでシェルバコワ選手やフロミフ選手と戦うことになります。

 

グランプリシリーズ、次戦はスケートカナダ紀平梨花選手が欠場したり、ロシア選手にビザが下りず入国できないかもという事態になったり、なかなかドタバタしていますが、果たしてどうなりますでしょうか?