北京オリンピック 女子シングルレビュー3

北京オリンピックの振り返り、女子シングル数値編の3回目。女子シングルも今回で最後となります。

 

○要素別のスコア

Pl Name Total PCS J Base J GOE Spin Step
1 SHCHERBAKOVA Anna 255.95 112.59 81.99 19.37 26.79 15.21
2 TRUSOVA Alexandra 251.73 106.45 102.20 4.88 24.88 14.32
3 SAKAMOTO Kaori 233.13 111.01 65.27 16.38 24.74 15.73
4 VALIEVA Kamila 224.09 108.27 85.02 -10.80 27.66 15.94
5 HIGUCHI Wakaba 214.44 103.24 72.41 0.85 23.68 15.26
6 YOU Young 213.09 102.13 68.86 3.15 24.50 14.45
7 LIU Alysa 208.95 100.15 65.64 4.72 24.26 14.18
8 HENDRICKX Loena 206.79 104.51 58.72 3.08 25.44 15.04
9 KIM Yelim 202.63 98.75 63.88 4.38 21.56 14.06
10 BELL Mariah 202.30 101.62 61.37 1.42 24.78 14.11
11 GUBANOVA Anastasiia 200.98 96.49 64.66 4.08 22.44 13.31
12 KURAKOVA Ekaterina 185.84 91.18 57.17 1.03 22.84 13.62
13 SAFONOVA Viktoriia 184.83 86.57 65.21 0.49 21.65 10.91
14 MIKUTINA Olga 182.20 88.54 60.86 -2.45 22.56 12.69
15 RYABOVA Ekaterina 179.97 87.96 61.94 -2.75 21.99 10.83
16 CHEN Karen 179.93 99.08 46.91 -2.14 24.19 13.89
17 SCHOTT Nicole 177.65 90.36 56.01 -1.20 21.83 12.65
18 van ZUNDERT Lindsay 175.81 81.95 58.33 0.94 22.63 11.96
19 SCHIZAS Madeline 175.56 93.27 53.68 -3.84 21.29 12.16
20 BREZINOVA Eliska 175.41 86.86 59.39 -1.68 21.89 10.95
21 KIIBUS Eva-Lotta 171.75 88.59 53.67 -2.49 21.39 12.59
22 PAGANINI Alexia 168.91 86.87 54.48 -3.35 19.58 11.33
23 KAWABE Mana 166.73 90.20 60.80 -11.80 20.55 11.98
24 FEIGIN Alexandra 159.31 78.06 55.86 -4.34 20.82 9.91
25 SAARINEN Jenni 153.04 83.29 48.00 -6.95 20.57 12.13

ジャンプの基礎点はトゥルソワ選手がただ一人100点を超えていて2番目のワリエワ選手よりも17点ほど高いです。これはもう圧倒的。トリプルアクセル2本の樋口新葉選手が4番目ですがトゥルソワ選手とは30点ほどの差があります。坂本選手は65.27でトゥルソワ選手と37点、シェルバコワ選手とでも16点の差があります。やはりジャンプ構成の差は大きい。

ジャンプの加点もシェルバコワ選手と坂本選手が突出しています。PCSと同じ上位2人。トゥルソワ選手は加点はそれほど稼げない選手です。樋口選手もコンビネーションがうまく入らなかったことでジャンプで加点を稼ぐことができませんでした。河辺選手はジャンプのマイナスが最大です。今回はうまくいかなかったですねいろいろと。これが標準な選手ではないはず。

スピンはワリエワ選手がトップ。いつもの28点台よりは少し低いスコアです。シェルバコワ選手はここも高いスコア。トゥルソワ選手、坂本選手はこの辺が24点台でまあまあいいですね、というくらいにとどまっています。

ステップ系要素もワリエワ選手がトップ。坂本選手が2位でした。樋口選手が3番目。ワリエワ選手はさすがですし、日本勢は伝統的に強い要素です。

 

以下、個別の要素を見ます

 

○4回転を含む要素

  Name   Elements    BaseValue   GOE Scores  
FS TRUSOVA 7 4Lz+3T   17.27 x 2.63 19.90 2.222
FS SHCHERBAKOVA 1 4F+3T   15.20   3.46 18.66 3.111
FS SHCHERBAKOVA 2 4F   11.00   3.77 14.77 3.333
FS TRUSOVA 1 4F! ! 11.00   2.20 13.20 2.000
FS TRUSOVA 2 4S   9.70   3.19 12.89 3.111
FS TRUSOVA 8 4Lzq q 12.65 x -0.99 11.66 -0.778
FS VALIEVA 1 4Sq q 9.70   -1.25 8.45 -1.222
FS TRUSOVA 3 4T   9.50   -2.44 7.06 -2.556
FS VALIEVA 7 4T   10.45 x -4.75 5.70 -4.889
FS VALIEVA 3 4T+SEQ+3S<<* * 7.60   -4.75 2.85 -5.000

4回転は女子はフリーしか入れられないのですべてフリーで行われた要素です。3人が10件。シェルバコワ選手の4回転フリップはGOEが+3を2つとも超えています。この2本の成功が最終的に金メダルをもたらしました。トゥルソワ選手は5本着氷、3本加点です。割と成功率が低いと思われていたサルコウが最も評価が高く+3を超えてきました。

4回転の中では一番基礎点が低いのがトーループなわけですが、これは加点を得た選手がいません。ルッツ、フリップ、サルコウの3種類で女子でも加点の成功ジャンプが出ました。

 

トリプルアクセル

  Name   Elements    BaseValue   GOE Scores  
FS HIGUCHI 1 3A   8.00   1.83 9.83 2.222
SP HIGUCHI 1 3A   8.00   1.71 9.71 2.222
FS YOU Young 1 3A< < 6.40   -1.10 5.30 -1.556
SP VALIEVA 1 3A   8.00   -2.74 5.26 -3.333
FS VALIEVA 2 3A< < 6.40   -2.93 3.47 -4.444
SP TRUSOVA 1 3A< < 6.40   -3.20 3.20 -5.000
SP KAWABE 1 3A< < 6.40   -3.20 3.20 -5.000
SP SHABOTOVA 1 3A< < 6.40   -3.20 3.20 -5.000
SP YOU Young 1 3A<< << 3.30   -0.99 2.31 -3.000
FS LIU Alysa 1 3A<< << 3.30   -1.08 2.22 -3.333
FS KAWABE 1 3A<< << 3.30   -1.65 1.65 -4.889

トリプルアクセルは7人が11回試みましたがGOEプラスの成功ジャンプは樋口新葉選手の2回だけでした。オリンピック個人戦トリプルアクセルを決めたのは伊藤みどりさん、浅田真央さんに次いで3人目。オリンピックの個人戦で2本以上決めたのは浅田真央さん以来2人目です。団体戦入れると長洲未来さんが1本決めているのと、カウントできるかまだ微妙なワリエワ選手の2本があります。

他はワリエワ選手のショートで回転が足りたジャンプがあった以外は、回転不足かダウングレードとかなり厳しい評価でした。河辺愛菜選手も回転が足りずの転倒。残念でした。

 

○3連続ジャンプでGOEがプラス

  Name   Elements    BaseValue   GOE Scores  
FS YOU Young 6 3Lz+1Eu+3S   11.77 x 1.60 13.37 2.556
FS TRUSOVA 9 3Lz+1Eu+3S   11.77 x 1.43 13.20 2.333
FS LIU Alysa 7 3Lz+1Eu+3S   11.77 x 1.01 12.78 1.667
FS SHCHERBAKOVA 8 3F+1Eu+3S   11.11 x 1.59 12.70 2.889
FS SAKAMOTO 7 2A+3T+2T   9.68 x 1.26 10.94 3.111
FS CHEN Karen 7 3Lz+2T+2Lo   9.79 x 1.01 10.80 1.556
FS HENDRICKX 8 3F+2T+2Lo   9.13 x 0.91 10.04 1.778
FS HIGUCHI 7 3Lo+2T+2Lo   8.69 x 0.91 9.60 1.889
FS GUBANOVA 8 3F+2T+2T   8.69 x 0.38 9.07 0.667
FS KIM Yelim 7 3S+2T+2Lo   8.03 x 0.68 8.71 1.556
FS ZUNDERT 8 3S+2T+2Lo   8.03 x 0.25 8.28 0.667

3連続ジャンプは1.1倍ボーナスのところに入れる選手が多く加点が稼ぎにくいジャンプです。それでも今回はフリーの25選手中11人がプラス評価でした。最高評価はダブルアクセル起点で基礎点はやや低いですが坂本花織選手が+3.111を出しています。ルッツからの3連サルコウいう女子としては難易度の高い組み合わせではユヨン選手が最高評価。このタイプの3連は基本的にトリプルアクセル以上のジャンプが入っていない選手にとってはほぼ意味がないので高難度ジャンプが構成に入った4人がやはり名前を連ねている形です。

 

○セカンド3回転で平均GOEが+2.000を超えるジャンプ

  Name   Elements    BaseValue   GOE Scores  
FS TRUSOVA 7 4Lz+3T   17.27 x 2.63 19.90 2.222
FS SHCHERBAKOVA 1 4F+3T   15.20   3.46 18.66 3.111
FS SHCHERBAKOVA 7 3Lz+3Lo   11.88 x 1.94 13.82 3.333
SP SHCHERBAKOVA 4 3Lz+3T   11.11 x 1.85 12.96 3.111
SP TRUSOVA 4 3Lz+3T   11.11 x 1.77 12.88 2.889
SP VALIEVA 4 3Lz+3T   11.11 x 1.69 12.80 2.889
SP SAKAMOTO 4 3F+3T   10.45 x 2.04 12.49 3.778
FS SAKAMOTO 6 3F+3T   10.45 x 2.04 12.49 3.778
FS VALIEVA 8 3F+3T   10.45 x 1.59 12.04 3.111
SP YOU Young 2 3Lz+3T   10.10   1.60 11.70 2.667
FS SCHIZAS 1 3Lz+3T   10.10   1.52 11.62 2.556
FS GUBANOVA 1 3Lz+3T   10.10   1.43 11.53 2.444
SP KAWABE 2 3Lz+3T   10.10   1.18 11.28 2.000
FS SAKAMOTO 7 2A+3T+2T   9.68 x 1.26 10.94 3.111
SP KIIBUS 1 3T+3T   8.40   1.14 9.54 2.667

コンビネーションジャンプのセカンドジャンプで3回転をしっかり入れられるか? そのジャンプで加点を取れるか? というのがまず女子では上位進出していくための関門になります。

これも坂本花織選手がショートフリーそれぞれのフリップ-トーループで平均GOE3.778という高い評価を得ました。どちらも1.1倍ボーナスタイムでこの評価。高難度ジャンプの無い坂本選手ですが、裏を返すと、坂本花織に勝つには高難度ジャンプが必須、みたいな構図でもあります。

シェルバコワ選手は4回転フリップからのコンビネーションやセカンドループで平均GOE+3を超える高い評価を得ました。これもすごいです。

中位以下の選手ではカナダのシーザス選手、エストニアエヴァロッタキーバス選手に河辺愛菜選手も名前があります。

 

○平均GOE+4.000以上の要素

  Name   Elements    BaseValue   GOE Scores  
SP SHCHERBAKOVA 5 CCoSp4   3.50   1.60 5.10 4.556
SP SAKAMOTO 1 2A   3.30   1.51 4.81 4.556
FS HENDRICKX 10 LSp4   2.70   1.23 3.93 4.556
SP VALIEVA 5 StSq4   3.90   1.73 5.63 4.444
SP VALIEVA 3 CCoSp4   3.50   1.55 5.05 4.444
FS SAKAMOTO 1 2A   3.30   1.46 4.76 4.444
SP VALIEVA 7 LSp4   2.70   1.16 3.86 4.333
FS VALIEVA 6 ChSq1   3.00   2.07 5.07 4.222
FS VALIEVA 11 FCCoSp4   3.50   1.50 5.00 4.222
SP VALIEVA 6 FCSp4   3.20   1.37 4.57 4.222
FS VALIEVA 5 FCSp4   3.20   1.33 4.53 4.222
FS SAKAMOTO 11 3Lo   5.39 x 2.03 7.42 4.111
FS HENDRICKX 11 ChSq1   3.00   2.07 5.07 4.111
SP SHCHERBAKOVA 7 LSp4   2.70   1.12 3.82 4.111
SP LIU Alysa 7 LSp4   2.70   1.08 3.78 4.000

こうやって並べると、ワリエワ選手の名前が目立つことがわかります。ショートからはジャンプ以外のすべての要素にあたる4つ、フリーからでも3つあります。明らかに力はあります。

スピンがほとんどを占め、そうでなければコレオやステップが高い評価を得ることが多い中異質なのが坂本花織選手。ここにある3つはすべてジャンプです。ショートフリーそれぞれ冒頭のダブルアクセルが高評価。またフリーの最後のジャンプであるトリプルループでも平均GOE4.111の評価を得ています。非常に特徴的です。高難度ジャンプはありませんが、ジャンプが苦手な選手ではまったくありません。

 

女子シングルは異常な状況で行われました。この問題は今も解決していません。これよりさらに大きな問題が起きてしまっているので、このままずるずるとうやむやになっていってしまいそうな感じもします。女子はコロナ欠場が団体戦からなくそういう点ではよかったのですけどね。コロナで試合に出られない人がどうとかこうとか、そんなことを言っていたころは平和でよかったんだな、と今になって思います。

女子シングルで金メダルを取って、次のオリンピックシーズンまで現役を続けたのは過去20年さかのぼってもキムヨナさん1人だけ。シェルバコワ選手も早くもコーチに転身なんて話も出ています。他にもオリンピックを終えて去就が注目される選手はいろいろといます。マライアベル選手とか続けてくれるかな。また、出場できなかった選手にも去就が注目される時期の選手も当然います。

祭りは終わりました。世界はそれどころではない状態になっていますが、それはそれとして、祭りの終わり、いくばくかの虚脱感というか寂しさがあります。残念な出来事が多かったですが、ワリエワ選手も含め、選手たちの今後の幸福を願います。