グランプリシリーズ19 女子シングル 全体感

今回は今シーズンのグランプリシリーズの全体感を眺めてみます。

 

f:id:yumegenjitsu:20191201224913j:plain

まずは、技術点と演技構成点の取り方です。ショートとフリー合計しての値になります。

高得点領域にはほとんど日米露しかいないんだな、というのが見て取れます。韓国の紫でTES100点以上にある二つはトリプルアクセル持ちで表彰台にも乗ったユヨン選手です。

 

パッと見て、二つのクラスターに分けられる感じがしますね。それも、TES、PCSどちらも高い右上クラスターと、どちらも低い左下クラスターという分類です。右上に入るのはロシアから6人、アメリカから2人、日本から3人、韓国から1人といったところ。この12人が表彰台を争った、と言ってよいでしょうか。12人のうち坂本花織選手は4位が2回で表彰台に乗ってませんが、争っていた、には含めてよいでしょう。

名前で並べると、トゥルソワ、コストルナヤ、シェルバコワ、ザギトワ、メドベージェワ、トゥクタミシェワ、紀平梨花宮原知子、坂本花織、マライアベル、ブレイディテネル、ユヨンで12選手です。いま世界選手権やれば、ロシアから3人として9位まではこの中で争う、という形になります。グランプリシリーズ欠場のトゥルシンバエワ選手が加われたとして上位10人はほぼ確定という感じがします。ただ、日米韓は、自国のナショナル選手権で下位の選手に負けて、ここに名前を連ねた選手が代表になれない、という線はあるので、その場合はまた少し違う展開になるとは思いますけれど

 

四か国以外は全員左下クラスターになります。四か国以外の最高点はアゼルバイジャンのリャボワ選手で187.77 ロステレコム杯で5位でした。各大会で上位6位までに入れた日露米韓以外のはリャボワ選手のみです。日露米韓の寡占状態がちょっと極端すぎる感じになってきています

 

f:id:yumegenjitsu:20191201234815j:plain

ショートとフリーの得点比較です。ショート×2=フリー、というラインに近いところに来る選手が比較的多いです。

そこから外れるのは、トリプルアクセル装備組は、ショートで70点後半から80点台まで出すけれど、フリーでその2倍はなかなか出ませんね、という形です。紀平選手の2回と、ユヨン選手、コストルナヤ選手の、ショートで成功した回はこれに当たります。

また、ロシア勢はフリーに寄る選手が多めです。この辺はファイナル進出者だけ並べた時の話と同様です

一方で、ショートで60点台に乗せてくるのだけど、フリーで120点に届かない、という選手の一群がいます。ジャンプ三つまで、というかジャンプ二つとダブルアクセルまで、ならそれなりにこなしてくるけれど、ジャンプ要素7回はこなしきれない、というあたりの力量と見るのがいいのでしょうか。このあたりの選手の一群がいるので、グランプリシリーズでは、上位選手もちょっとショートで失敗すると、フリーには意外と早い順番で滑らないといけない、という事態になったりします。

 

 

f:id:yumegenjitsu:20191201225248j:plain

延べ71選手のスコアをヒストグラムで表したものがこれです。

240.00のように、ぴたりの数値は上(240~250)に分類されます。

160点台がピークになっているスコアが低い側と、210点台にピークがあるスコアが高い側と二分されているように見えます。

 

f:id:yumegenjitsu:20191201225410j:plain

ショートフリー合わせての技術点がどの程度のところに各選手いるのか、というものです

技術点は80点台がピークです。トップ選手はフリーだけでも技術点を80点近く、トリプルアクセル以上があれば80点以上出してきますので、ショートフリー合計で80点台だと、上位では勝負できない感じです。

合計100点以上は延べ23例。120点以上が9例。120点というのは、ショート40点フリー80点で届く点数なので、トリプルアクセル以上がないとかなり苦しいです。ルッツループプラス加点もりもりでザギトワ選手が届かせることもありますが、本シリーズではそこまではとどかず、ジュニア上がりのエテリ三人衆と紀平梨花選手にユヨン選手の1回を足して9例でした。

 

f:id:yumegenjitsu:20191201225625j:plain

PCSはやや二分傾向はありますでしょうか。

PCSは上限があり、ショート40点フリー80点合計120点が満点です。

100点超えるところには19例とそれなりの数ありました。6大会で19例ですから表彰台に乗るにはこれくらいほしい、という水準です。

110点に達しているのはロステレコム杯のメドベージェワ選手ただ1例だけでした。

105点を超えているのは、紀平選手、ザギトワ選手、メドベージェワ選手の各2回づつと、宮原選手、コストルナヤ選手が1回づつありました。105点は、35+70まで出ないと取れませんので、表現面で定評のある選手しか届かない水準になっています

 

f:id:yumegenjitsu:20191201225657j:plain

ジャンプの基礎点とGOEの関係を見たもの

ちょっと意外な部分もあったのですが、ジャンプの基礎点が高い選手の方がGOEも高くなる、という傾向があります。基礎点とGOEに相関がある。これ、全部成功した場合は確かにそうで、基礎点の高いジャンプの方が同じGOEでも得られる加点が大きいというルールになっているわけですから。ただ、高難易度ジャンプは確率が低く、GOE-5の転倒が生じやすい、というのがあるはずなのですが、女子シングルの場合はそんなの関係なく、単純に、基礎点の高いジャンプを飛ぶ選手の方が加点をよく稼ぐ、という風になってきています。

高難易度ジャンプを飛ぶ選手の失敗待ち、という戦略は通用しにくいと言えそうです

基礎点70点以上の構成が入るとGOEは+5以上稼ぐんですね・・・。

まあ、回転不足が入ると基礎点から下がる、というのもあるので、そういう意味では基礎点が高い選手は加点も稼げている、というのはある種正しいのかもしれませんが、強いものはより強く、のような、なんというか一抹の寂しさも感じたりはします

 

f:id:yumegenjitsu:20191201225725j:plain

スピンは、上位四か国以外でもレベル4を並べて基礎点19点を超える選手はいます。ただ、加点が少ない。加点が取れるのはやはり上位国なのですが、日本勢は米露と比べて加点があまり伸びていませんね。唯一基礎点19点をスピンで超えた日本人選手は意外にも横井ゆは菜選手だったりしますが、加点は2.96しか入らず、合計点はあまり伸びていません。スピンで6点を超える加点を得ている日本人選手は、紀平選手と宮原選手の二人です。

 

f:id:yumegenjitsu:20191201225800j:plain

ステップはコレオシークエンスを含みますが、基礎点の満点は10.8です。GOE満点は6.3になります。

ステップショートフリー共にレベル4で基礎点合計10.8を取っているのは日米露参加国の選手だけで延べ16例です。レベル4を二つ揃えるのはグランプリレベルの選手でも全体で2割ちょっとにしかなりません。スピンでショートフリー6つレベル4をそろえるよりもハードルは高くなっているようです。

加点最高はメドベージェワ選手の4.87で宮原知子選手の4.83が続きます。

上位四か国以外の選手は、基本的にステップレベル4が取れません。レベル3二つだと基礎点は9.6になります。

日米の選手は、少なくともレベル3二つまでは取ってくる感じですが、ロシアの選手はレベル2が入ってくる選手も目立ちます。ステップは、ジャンプはもちろんスピンよりも得点比率は低いのですが、とにかく勝つことを目指す、というスタイルが目立つロシア勢からすると、全体の中で力の掛け方が下がる要素になっている、ということがあったりするのでしょうか。それでも、本当のトップ選手はしっかりレベル4をもちろんとってきていますけれど。

 

 

今回は、グランプリシリーズの全体感を散布図とヒストグラムで記してみました。

日米露ばかりが目立つなあ、というのが、各散布図を見ていると、強く感じられる全体感でした。