昨シーズンとの立場の違い シニアデビューシーズンと2年目

紀平梨花選手が四大陸選手権を連覇しました

メンバー考えると予想された事柄ではあったかと思いますが、大方の予想通りに優勝。順調に来ていることがうかがわれます

 

今シーズンはチャレンジャーシリーズ以来の2勝目。グランプリ3戦はロシア勢に勝てず2位2位のファイナル4位でしたので、久しぶりの優勝でした。

スコアの232.34はシーズンベスト。ヨーロッパ選手権は優勝スコア240.81でしたので、やはりまだロシア勢には及ばないスコアですが、ヨーロッパ選手権3位のトゥルソワ選手の225.34でしたので、表彰台ラインは超えました。

 

今シーズンの紀平選手は、昨シーズンとはだいぶ違う流れで世界選手権前の主要大会を終えた形となりました。昨シーズンは国際試合全勝で世界選手権へ乗り込みましたが、今シーズンはロシア勢には勝てていない状態のまま世界選手権へ進みます

 

これは、昨シーズンと比べて悪い流れなのか? ということなのですが、実際にはそうではなく、昨シーズンと今シーズンの立場の違いが反映されたものなのではないか、という風に考えます。

昨シーズンは、大した実績のないまま迎えたシニア一年目、という立場でした。ジュニア時代から全日本選手権で表彰台に乗りましたし、トリプルアクセルも認定されたりしていましたが、世界ジュニアは一度しか出られておらず、その一度も8位。日本人最高位ですらないどころか3人中3番目の戦績でした。ジュニアグランプリファイナルは二回出ていますがどちらも4位で表彰台に乗れず。トリプルアクセルは飛べたことがあるらしい日本のジュニアの子、という程度の扱い、というのが現実、という中でのシニアデビューシーズン。

今シーズンで言えば、ユヨン選手くらいの立ち位置だったかと思われます。

ユヨン選手との違いは、紀平梨花選手は日本人であること。これが何を意味するかというと、グランプリシリーズに自国開催があり、自国枠をもらえること。紀平選手のグランプリデビューは、開催国枠のNHK杯でした。ここで優勝。快進撃が始まります。

 

ようは、最初から結果を出して周りを納得させないと自分の席がない。さらに、採点競技的に言えば、PCSが伸ばせない。というのが昨年の紀平梨花選手の立ち位置。シニアデビュー戦のオンドレイネペラ杯では、ショートフリーのPCS合計が97.44だったところから、勝ち続けてグランプリファイナルではPCS合計107.55まで持ってきます。とにかく、勝つことが必要だった昨シーズン。

 

今シーズンは立場が全く違います。彼女の実力を疑うレフリーはいません。世界選手権4位。ファイナルは優勝した選手です。さらにはシーズン中盤でザギトワ選手が離脱し、トゥルシンバエワ選手はケガの影響で姿が見えない。メドベージェワ選手も国内大会で勝てず、ということで、昨シーズンのワールド表彰台が消えた中、4位の紀平選手はシニア実績トップの立場。とにかく序盤から結果を出さないといけなかった昨シーズンと違い、今シーズンは、最後に勝てればそれでいい、という立場。相手がロシア三天才であろうと、受けて立つ立場になります。

 

一方、ロシアのエテリチルドレンたちは、なんだかんだ言ってもシニアデビューシーズン。この子たちはシニアでの滑りにきちんと対応できるのか? という色眼鏡を外させることがシーズン前半には必要でした。その結果、グランプリシリーズ3人6勝でファイナルも表彰台を占拠。ここまでは順調です。ただ、これは、昨シーズンの紀平梨花選手と同じ姿でもあります。

 

紀平梨花選手の昨シーズンのベストスコアは233.12 これは、グランプリファイナルで出したスコアです。四大陸選手権優勝、世界選手権は4位でしたが、どちらも220点台前半にとどまりました。

 

ロシアの三人。ファイナル優勝~ヨーロッパ選手権優勝のコストルナヤ選手が今は筆頭格になっていますが、コストルナヤ選手のシーズンベストはいまのところグランプリファイナルの247.59です。ファイナル2位、ロシア選手権優勝にヨーロッパ選手権2位と来ているシェルバコワ選手もベストはグランプリファイナルで出していて240.92です。トゥルソワ選手はさらに前、グランプリシリーズ初戦のスケートカナダの241.02がベストになっています。トゥルソワ選手が一番顕著に出ていますが、シーズン前半にいいスコアが出る、というのはビッグネームのシニアデビューシーズンによくある展開ではあります。

 

ザギトワ選手のシニアデビューシーズンは、序盤のグランプリシリーズはぎりぎり何とか逆転勝ちからのスタート。そこからメドベージェワ選手の一時離脱などもあり、勝ち続けて結局オリンピック制覇までいったものの、流石に最後の世界選手権は崩れて5位に終わっています。

ザギトワ選手に限らず、一シーズン勝ち続けるのは本当に難しい。トゥクタミシェワ選手もシニアデビューグランプリ2勝はしたもののファイナルは負け。浅田真央さんの時もグランプリファイナルで優勝しましたが、世界ジュニアで敗れるという流れでした。

強いて言えば、メドベージェワ選手が、グランプリシリーズで1つ負けたものの、あとは、ファイナル、ヨーロッパ選手権、世界選手権と勝ち切ったというのがあるでしょうか

 

今回の三人は、三人の中の闘い、というのが熾烈です。その分、グランプリシリーズはまだしも、ファイナル以降は毎試合息が抜けないぎりぎりの闘いになっています。その分、むしろ、過去の有力選手のシニアデビューシーズンよりも、一人一人は苦しいという部分はあるかもしれません

 

紀平梨花選手は尻上がりに調子を上げている、というか構成を上げる方向へ進めてきています。

チャレンジャーシリーズはオーソドックスなトリプルアクセル三本構成で、フリーは一つ目二つ目に入れて、二つ目が回転不足でした。

フリーのみのジャパンオープンで、トリプルアクセルと2つ目5つ目に入れる、という構成を試し二つともしっかり着氷しました。

グランプリ1戦目はオーソドックスなトリプルアクセル三本構成で、すべて回転十分の着氷。グランプリ2戦目はフリーでアクセルが2つめ5つめ、1stジャンプはトリプルサルコウという構成でアクセル三つはすべて加点の着氷です。

グランプリファイナルはフリーに四回転サルコウを投入。サルコウは回転十分で転倒、アクセルに回転不足が付きました

そして、四大陸ではショートフリーにルッツを投入。トリプルルッツは二つとも、平均評価+2.333とよい加点を得ました。

 

試すだけ試したので、あとは世界選手権で、すべての要素を並べるだけです。

シニアデビューシーズンにはできなかった、一つ一つ試しながらしり上がりに調子を上げていく、ということが、二シーズン目だからこそ試みることが出来て、かつ、しっかりと構成が上がってきています。

 

本当に強いシニアは、シーズンベストが世界選手権で出ます。これがシニアデビューシーズンの選手には難しい。どんなに強い選手でも、序盤から結果を出していかないといけないシニアデビューシーズンの選手には難しい。

 

シーズンベスト比較をすると、まだいくらか差はあるのですが、ここまでの流れからすると、世界選手権は、ロシア勢と紀平梨花選手は、実は、ほぼ互角、という形が出来上がってきているように感じています