スケートカナダ 世界記録の樹立

グランプリシリーズ第二戦、スケートカナダ。ロシア勢にビザが下りないとか、なかなかぐちゃぐちゃした状態で迎えた試合でしたが、結果的には落ち着くところに落ち着きました。世界最高スコアが出るところまで含めて、割と大方の予想通りの展開だったのではないかとも思われます。

 

○女子シングル

Pl Name Nation Total SP FS
1 Kamila VALIEVA RUS 265.08 84.19 180.89
2 Elizaveta TUKTAMYSHEVA RUS 232.88 81.24 151.64
3 Alena KOSTORNAIA RUS 214.54 75.58 138.96
4 Mai MIHARA JPN 210.01 67.89 142.12
5 Alysa LIU USA 206.53 73.63 132.90
6 Wakaba HIGUCHI JPN 205.27 69.41 135.86
7 Haein LEE KOR 190.00 62.63 127.37
8 Madeline SCHIZAS CAN 186.56 62.61 123.95
9 Mana KAWABE JPN 186.52 53.30 133.22
10 Karen CHEN USA 183.41 68.74 114.67
11 Emily BAUSBACK CAN 159.88 59.53 100.35
12 Alison SCHUMACHER CAN 151.19 55.47 95.72

ワリエワ選手の圧勝。世界最高得点。トリプルアクセルは成功率がそれほど高いわけではないのでショートがどうなるかはわからない部分もあったのですが、フリーでスコア伸ばして勝つんでしょ、というのはほとんどの人が予想していた通りのものだったのではないかと思われます。一つ心配なのは、この序盤からの調子のよさでしょうか。初戦のチャレンジャーシリーズのフリーで世界中の度肝を抜き、2戦目のスケートカナダで世界最高スコア、というのはトゥルソワ選手のシニアデビューシーズンと同じ展開です。トゥルソワ選手はその後調子を落とし、グランプリファイナルもヨーロッパ選手権も3位に終わるという展開をしています。ワリエワ選手がその轍を踏まないかどうか。1シーズン調子を保ち続けるのは難しい。

 

トゥクタミシェワ選手は2戦連続の230点台。スケートアメリカのトゥルソワ選手の232.37もわずかに上回り、全体のスコアランクで見ても2番目にいます。ワリエワ選手同様に序盤から調子が良すぎるのが心配ではありますがこのまま12月まで調子を保っていけるかどうか。グランプリ2戦目は、またワリエワ選手と被っての6戦目ロステレコム杯です。

 

コストルナヤ選手はショートで久しぶりにトリプルアクセルを成功。ただしqマーク付きでGOEはマイナス扱いでした。スピンステップもレベルの取りこぼしが目立ち、やはりどうしても全盛期との差は否めないです。同じトリプルアクセル組のトゥクタミシェワ選手の後塵を拝してしまうというのはちょっと苦しい。次戦フランス杯のメンバーがやや緩いのでファイナルに進める可能性はそれなりにありますが、ファイナル、ロシア選手権と続く12月に向けてどこまで調子を上げて行けるか?

 

ロシアに対抗できそうな非ロシア勢として必ず名前が上がるアリサリュウ選手。ショートではトリプルアクセルがもう少しのところまで来ました。フリーはダウングレードですし四回転も入らずというところでスコアが伸びず。トータル206.53は本人比で普通のスコア。安定してこのスコアを出せていれば3枠のアメリカなら代表にはなって来ると思われますが、グランプリではここで表彰台に乗れなかったことでおそらくファイナルの芽はなしです。次戦は4戦目、NHK杯で来日してくれます。

 

日本勢からは河辺愛菜選手は9位。ショートは散々でしたがフリーではq付ながらトリプルアクセルを着氷し130点台には乗せました。悪いながらも爪痕を残したことで、まだ全日本で一発逆転の芽を残したかな、という感じはします。惜しいのは8位まで0.04ポイント差だったこと。8位はランキングポイントを得られますが9位はゼロ。来期以降を考えるとポイントが少しでもほしいところでした。

樋口新葉選手は6位。トリプルアクセルは加点付き成功。演技終了後、今回は特に喜ぶでもなくむしろ不満そうなあたりが、町田樹さんに、アクセル決まって喜んでいるようじゃまだまだ、と言われた昨年NHK杯からの変化でしょうか。4年前はシーズン序盤の絶好調から12月に失速して代表を逃していますが、今シーズンはまずまず程度の序盤からこの先どうなっていくか? 次戦は5戦目フランス杯。メンバー的に混戦模様でノーミスなら表彰台チャンスもあるところなのでこの辺で上り調子なところを見せてもらえるかどうか?

 

そして三原舞依選手が4位。210.01と210点に乗せました。フリーは全要素プラス評価でqも<も!もeも何のマークもないクリーンシートで3位。今シーズンは順調に来ていて、これで日本勢の中でスコア2位です。グランプリでは4位が多い選手。割と運のない選手という印象で今回も4位でそういう見方もできるのですが、今シーズンはチャレンジャーシリーズで坂本選手が自爆して優勝して最高の形でオリンピック下見を完了。スケートカナダは代役が回って来るなど、運も少し向いてきた印象です。次戦は来週のトリノ。4週間で3試合。それも中国、カナダ、イタリアと世界を股にかけての連戦。厳しいスケジュールですがメンバー的に表彰台チャンスはありますし、フロミフ選手の上に出て2位まで行ければファイナルチャンスも残ります。

 

○カミラワリエワ選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores  
1 4S   9.70   3.33 13.03 3.556
2 3A   8.00   -1.49 6.51 -1.667
3 4T+3T   13.70   3.12 16.82 3.333
4 3Lo   4.90   1.26 6.16 2.556
5 FCSp4   3.20   1.55 4.75 4.778
6 ChSq1   3.00   1.86 4.86 3.667
7 4T+1Eu+3S   15.73 x 2.99 18.72 3.111
8 3F+3T   10.45 x 1.36 11.81 2.667
9 3Lz   6.49 x 1.43 7.92 2.444
10 StSq4   3.90   1.62 5.52 4.111
11 FCCoSp4   3.50   1.55 5.05 4.333
12 CCoSp4   3.50   1.50 5.00 4.222
  TES   86.07   20.08 106.15  

世界最高得点のフリーの構成。フリーのトリプルアクセルもついに降りました。GOEマイナスではありますがダブルアクセル比では十分おつりが来ます。

スピン三つはレベル4は当然として、GOEがすべて+4オーバー。そんなところまで含めてスキが見当たりません。強いて言えば、ルッツループがないです。個人的に、青木祐奈選手と雰囲気が似ているな、と思っているので、ルッツループも跳んでくれたら面白いな、と思いますが、まあ、スコア的には不要ですかね。

あとは、ボレロという選曲。後半に向かって盛り上がっていく曲というものなはずですが、冒頭から四回転サルコウを飛ぶ女子。まあ、最後のステップ、スピン2つの盛り上がりもあるので違和感とまではいいませんが、静かな入りではないよなあ、とは感じました。

それにしても、四回転トーループはかなり得意なんだなあ、と思わされる構成です。四回転トーループにはコンビネーションをどちらもつけている。3連続の方はルッツからつけてもスコアは変わらないわけで、そちらからつけてもよさそうなものですが四回転トーループからつける。そしてGOEが+3を超える。驚異的です。

 

○女子シングル要素別スコア

Pl Name Nation Total PCS Jump J GOE Spin Step
1 Kamila VALIEVA RUS 265.08 110.89 93.38 16.44 28.64 15.73
2 Elizaveta TUKTAMYSHEVA RUS 232.88 106.82 74.83 11.38 24.37 15.48
3 Alena KOSTORNAIA RUS 214.54 102.00 72.90 3.39 24.67 11.58
4 Mai MIHARA JPN 210.01 96.65 65.66 9.30 24.38 14.02
5 Alysa LIU USA 206.53 100.62 68.07 -0.82 25.86 13.80
6 Wakaba HIGUCHI JPN 205.27 100.68 62.02 2.44 24.56 15.57
7 Haein LEE KOR 190.00 95.20 63.12 -2.93 22.46 13.15
8 Madeline SCHIZAS CAN 186.56 89.30 57.26 5.03 23.57 11.40
9 Mana KAWABE JPN 186.52 92.20 66.90 -3.31 21.92 10.81
10 Karen CHEN USA 183.41 100.81 48.45 -4.07 25.69 14.53
11 Emily BAUSBACK CAN 159.88 81.32 49.91 -2.40 22.11 9.94
12 Alison SCHUMACHER CAN 151.19 77.54 46.05 -3.09 21.20 9.49

ワリエワ選手は何見てもトップです。スピンステップの配点を増やそう、みたいなルール変更があったとしても、はいそうですか特に問題ないですやることもかわりません、というのがワリエワ選手。圧倒的な強さです。

トゥクタミシェワ選手はPCSで2位ですし、ジャンプ関係も2番手ですが、スピンは7番手です。スピンも穴というほど沈んでいませんがもう1,2点は伸びしろがあります。

コストルナヤ選手はなんだかんだでジャンプの基礎点は全体3番目。ただ、他が今一つでした。

日本勢では河辺愛菜さんがジャンプの基礎点が一番上で全体で5番目。トリプルアクセルをしっかり決めた樋口新葉選手は逆にジャンプの基礎点が日本人で一番下ですし、全体の中でも8番目。アクセル決めても・・、という本人の表情がここにつながっていそうです。三原選手はジャンプの加点が上位二人に次ぐ3番目、この出来の良さが210点に届いた要因でした。ただ三原選手はPCSが出ない。しばらく国際舞台に出ていなかったというところもありますのでもう少し伸びてくるでしょうか。技術点では全体3位でした。

スピンを見るとワリエワ選手が別格なのは置くとして、アリサリュウ選手、カレンチェン選手と言ったアメリカ勢が強いです。

ステップは樋口新葉選手が全体2番目。ステップ系要素の評価がもともと高い選手。こういうところは安定して稼げています。

 

○男子シングル

Pl Name Nation Total SP FS
1 Nathan CHEN USA 307.18 106.72 200.46
2 Jason BROWN USA 259.55 94.00 165.55
3 Evgeni SEMENENKO RUS 256.01 87.71 168.30
4 Makar IGNATOV RUS 244.17 89.79 154.38
5 Keegan MESSING CAN 238.34 93.28 145.06
6 Morisi KVITELASHVILI GEO 232.87 71.60 161.27
7 Sota YAMAMOTO JPN 225.74 78.78 146.96
8 Alexander SAMARIN RUS 224.20 78.55 145.65
9 Conrad ORZEL CAN 222.75 73.19 149.56
10 Keiji TANAKA JPN 222.20 78.83 143.37
11 Tomoki HIWATASHI USA 221.77 72.92 148.85
12 Roman SADOVSKY CAN 217.73 72.94 144.79

流石にネイサンチェン選手が戻してきて優勝。オリンピックで勝てればいい、という立ち位置の選手なので、シーズン序盤からそんなに調子が上がってなくてもよいのではないかと思います。世界選手権3連覇からオリンピックシーズンに入る、というのはソチシーズンのパトリックチャン選手と同じ流れ。あの時はグランプリ2戦目のフランス杯が結局シーズンベストでファイナル、オリンピックとスコアが少しづつ落ちて、逆に伸ばしていった羽生選手に負けた、という形でした。グランプリ2戦でいいスコアを出さないといけない、というのはオリンピックに出られるかどうか、という位置の選手や、上にプレッシャーを掛けたい位置の選手であって、ネイサンチェン選手はそういう位置でもないので、今はこんなもので十分なのではないかと思います。

 

ジェイソンブラウン選手がさすがの滑り。ショートのトリプルアクセルでqが付きましたがそれでも94.00 PCSはネイサンチェン選手の上へ行き、今シーズンの全選手の中での最高PCSを出します。フリーは四回転に挑むもダウングレード、次のトリプルアクセルは転倒と苦しい出だしでした。最後のスピンでもそんなミスするんだ? という珍しいミスでレベル3にされていたりしましたが、途中のコレオシークエンスでは驚異の満点評価(

9人のジャッジのうち8人が満点で獲得スコアは5.50の満点相当)など、その他の要素は高いレベルでまとめて2位に残りました。次戦は5戦目のフランス杯にエントリーで、メンバー的にはファイナルが十分狙えそうに見えます。四回転ジャンプはありませんが、オリンピックには必要な選手だと思いますのでシーズンうまく乗り切ってもらえたらと思います。

 

3位はロシアからセメネンコ選手。ジャンプで稼いで256.01まで出してきました。今シーズンのロシア勢では3番目のスコアです。ロシア男子の3枠は近い水準の選手が多数いて厳しい戦いです。

その近い水準の一人が4位のイグナトフ選手。今回はフリーで4回転を3種類4本構成で臨みましたが、ループは回転不足で転倒。もう一つスコアが伸びませんでしたが260点近いところで勝負は出来る選手です。

カナダのキーガンメッシング選手は5位。ショートは良かったのですがフリーはクリーンなジャンプが今一つ入らずスコアが伸びませんでした。順当にいけばカナダの2枠に入るはずの選手なのですが、シーズン序盤にその力を見せきることは出来ず、といったところです。

 

田中刑事選手、山本草太選手はともにショートで四回転を決めた後のトリプルアクセルがダブルになるというもったいないミス。田中刑事選手はコンビネーションでもセカンドが2回転とスコアが伸ばせず、フリーでは二人とも冒頭の四回転は2回転に、2つ目の四回転は転倒、ということでやはりスコアを伸ばせず。北京オリンピックの代表争いという観点では、二人とも存在感を示すことができませんでした。山本草太選手はグランプリは1戦のみで、次は11月3週目のチャレンジャーシリーズのワルシャワ杯にエントリー。田中刑事選手はグランプリ6戦目、ロステレコム杯にエントリーです。

 

○男子シングル 要素別(ショートフリー合計)

Pl Name Nation Total PCS Jump J GOE Spin Step
1 Nathan CHEN USA 307.18 139.21 107.78 18.82 25.83 15.54
2 Jason BROWN USA 259.55 136.41 75.66 5.40 26.22 16.86
3 Evgeni SEMENENKO RUS 256.01 117.38 100.43 1.32 23.35 13.53
4 Makar IGNATOV RUS 244.17 113.95 94.83 5.03 20.08 11.28
5 Keegan MESSING CAN 238.34 125.47 79.54 -1.72 23.80 13.25
6 Morisi KVITELASHVILI GEO 232.87 113.39 86.57 -2.76 22.83 12.84
7 Sota YAMAMOTO JPN 225.74 112.85 78.61 -0.93 23.97 12.24
8 Alexander SAMARIN RUS 224.20 114.75 83.34 -7.84 23.06 11.89
9 Conrad ORZEL CAN 222.75 105.95 92.82 -4.87 19.02 10.83
10 Keiji TANAKA JPN 222.20 119.06 64.66 1.96 22.99 14.53
11 Tomoki HIWATASHI USA 221.77 111.68 80.34 -3.13 20.18 12.70
12 Roman SADOVSKY CAN 217.73 117.57 76.27 -8.05 22.77 12.17

要素別を見るとジェイソンブラウン選手の特徴がよく見えます。PCSは全体2位。スピンステップはネイサンチェン選手も上回ってのトップです。一方、ジャンプの基礎点は全体11番目。四回転をチャレンジジャンプとして入れていることもあってジャンプのGOEも思ったよりは伸びていませんが、それでも全体で2番目です。

ジャンプで稼ぐのがロシア勢。セメネンコ選手はジャンプの基礎点が2位。イグナトフ選手はジャンプの基礎点が3位でGOEも3いですが、スピンは11番手、ステップも11番手と極端なスコアになっています。

本草太選手はスピンで全体3番手、田中刑事選手もステップ系要素で3番手と得意な分野ではある程度点が稼げて世界のトップと遜色ないのですがジャンプが二人とも点が出ませんでした。

 

次週はグランプリ3戦目、トリノとなります。男子は日本から鍵山優真選手がシード選手であり優勝候補として登場。もう一人友野一希選手もエントリーです。海外勢ではボーヤンジン選手、ミヒャルコリアダ選手あたりがいます。

女子は日本からは連戦となる三原舞依選手とやはり2戦目の宮原知子選手。ある種、3枠目争いの直接対決な部分があります。ロシアからは世界チャンピオンのシェルバコワ選手が登場。他にフロミフ選手とサムドゥロワ選手です。ベルギーのヘンドリックス選手など他の強豪もいますが、顔触れ的には日本勢にも表彰台チャンスがある試合だと思えます。